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act1 Faust
1-2 Tokyo Attack
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トーキョーアタック、と云う言葉が有る。元々、トーキョーアタックとは1945年3月、WW2の最中に発生したアメリカ軍による東京大空襲を指す。
そして、トーキョーサリンアタックと云う言葉も有る。1995年3月、カルト教団によって発生した地下鉄サリン事件を指す。日本転覆を狙った宗教団体が、有機リン化合物の神経ガスであるサリンを自前の施設で生産し、東京の地下鉄車内で散布した。
名前を出すのも憚られる、あのドイツの独裁者でさえも使用を認めなかったドイツ生まれの化学兵器を使用した、大都市圏での無差別テロ。それは世界的に見ても類が無く、日本の安全神話を根底から覆す事件として、世界中でニュースになった。
それから30年近くが経った2023年8月、後に改めてトーキョーアタックと呼ばれる東京同時多発テロ事件が発生した。同時、とは2箇所で発生したからだ。一つは、東京中央国際空港の爆発及び銃撃事件を指す。
東京都と神奈川県のほぼ県境に位置する日本最大の空港、東京中央国際空港の国際線ターミナルビル地階、鉄道への乗換の動線上で起きたそれは、バッグに隠した爆発物を爆発させ、また機銃掃射を行った。その結果、1ヶ月以上も空港の乗換機能を低下させただけでなく、43人の死者と300人超の負傷者を出した。
しかし、これでも未だ小さい方だった。
日本有数の繁華街、渋谷。8月最後の週末は、相変わらずの賑わいを見せていた。超高層ビルの屋上からは、東京都心が一望できる。普段と何も変わらない風景だった。
昼下がり、渋谷駅前のスクランブル交差点に差し掛かる、1台のアドトラック。荷室の外面に、来月デビュー予定のアイドルグループの広告がラッピングされている。このエリアを走るのは、頻度は低いが珍しいことでもない。
交差点をゆっくり曲がり、歩道に寄せて停める。そこは駐停車禁止の場所で、警官が2人、トラックに近寄る。その瞬間、サングラスを掛けた運転席の男の口角が上がった。
その1秒後、荷台が爆ぜ、歪な球状の炎が膨張し、仕組まれていた高い粘土の燃料が火の玉となって周囲に飛散する。轟音が鼓膜を破壊し、そのインパクトで建物のガラスは悉く割れ、駅前に止まっていたタクシーやバスだけでなく、すぐ近くの高架線路を走っていた電車も吹き飛ばされて横転した。アドトラックは金属のボディが水飴のように溶け、男は爆発で蒸発したようだった。
一瞬で悲鳴と怒号が飛び交う地獄絵図と化した、日本有数の繁華街。無数の破片に引火して更に飛散した火の玉が幾多もの人体に燃え移り、火だるまになって倒れた。それであればまだマシで、人体としての原形を留めていないのも多く、燃えなくても吹き飛ばされたり、破片が刺さったりと、戦争でも起きたかのような光景が広がる。
23の特別区内の消防と救急、そして自衛隊を総動員して消火や救出、救急搬送が続けられたが、死者は368人、負傷者も7千人以上に及んだ。
トーキョーアタックによって、都心の都市機能の脆弱さ、そして性善説に基づく治安の脆弱性が露呈した。そして、それに対抗すべく社会が大きく変わることになる。
事件当日、政府は国家非常事態宣言を発令した。それは3年前に世界中でパンデミックを起こした感染症の時とはワケが違い、国の安全そのものに関するものとして、連日国会では様々な対策が検討されることになった。
その中の一つが、緊急措置としての銃刀法改正だった。具体的には、テロ対策として護身用途に限定した上で、高校生以上の銃の所持と使用を登録制で認めると云うものだ。
銃社会として知られる、日本が安全保障上最も依存しているアメリカでも、銃規制の動きが活発化しているが、それに反する流れだった。それは与野党の枠組みを超え、超党派の賛成派と反対派に分かれ、連日国会が紛糾した。
更には、複数の市民団体も巻き込む形で連日、暴動寸前のデモが霞ヶ関前で繰り広げられた。
トーキョーアタック以前も、銃を使った事件は起きていた。それでも年間10件ほどで、世界一銃と銃犯罪に厳しい国としての地位は確立していた。何しろ、2年前の五輪の射撃種目でさえ、銃刀法が競技で使用する銃弾の管理の足枷になったと言われたほどだ。
しかし、1日で都内2箇所で多数の犠牲者を出した事件を経て、流石に対処しなければならないとして、政府が動き出したのだ。
それは、テロや暴動に対する新たな特殊武装隊の編成と全国的な配備が間に合わない現状での、苦肉の策だった。
3年前、先ずは自助努力に努め、次に隣人や地域で互いに助け合う共助に努め、それでもどうしようもなくなった時に公助に頼れ、と政府は言った。ただ、自助と共助で乗り切ることを常に国民に求め、手遅れになって初めて公助が検討され、結局は検討されただけで振り出しに戻る、その繰り返しだった。
だから、究極の自衛手段として銃の所持は、避けられないと云うのが正しかった。
結局、最終的には国会内での暴動騒ぎを起こしながら、衆参両院で賛成多数により可決、成立された。国家非常事態宣言の発令から1ヶ月と云う、スピード成立だ。党議拘束も掛かっていたが、それに離反した議員も多く、離党や議員辞職が相次ぎ、一時的な政情不安に陥った。
そしてその3日後の10月1日、銃の所持が解禁となり、同時に大量の銃が海外から空輸された。トーキョーアタックとは無関係に、最初から銃の所持ありきの法案だったのではないか、との批判は治安維持と云う言葉に掻き消された。
そして施行から4ヶ月が経った時点で、日本人の2人に1人が銃を所持している計算となっている。
そして、トーキョーサリンアタックと云う言葉も有る。1995年3月、カルト教団によって発生した地下鉄サリン事件を指す。日本転覆を狙った宗教団体が、有機リン化合物の神経ガスであるサリンを自前の施設で生産し、東京の地下鉄車内で散布した。
名前を出すのも憚られる、あのドイツの独裁者でさえも使用を認めなかったドイツ生まれの化学兵器を使用した、大都市圏での無差別テロ。それは世界的に見ても類が無く、日本の安全神話を根底から覆す事件として、世界中でニュースになった。
それから30年近くが経った2023年8月、後に改めてトーキョーアタックと呼ばれる東京同時多発テロ事件が発生した。同時、とは2箇所で発生したからだ。一つは、東京中央国際空港の爆発及び銃撃事件を指す。
東京都と神奈川県のほぼ県境に位置する日本最大の空港、東京中央国際空港の国際線ターミナルビル地階、鉄道への乗換の動線上で起きたそれは、バッグに隠した爆発物を爆発させ、また機銃掃射を行った。その結果、1ヶ月以上も空港の乗換機能を低下させただけでなく、43人の死者と300人超の負傷者を出した。
しかし、これでも未だ小さい方だった。
日本有数の繁華街、渋谷。8月最後の週末は、相変わらずの賑わいを見せていた。超高層ビルの屋上からは、東京都心が一望できる。普段と何も変わらない風景だった。
昼下がり、渋谷駅前のスクランブル交差点に差し掛かる、1台のアドトラック。荷室の外面に、来月デビュー予定のアイドルグループの広告がラッピングされている。このエリアを走るのは、頻度は低いが珍しいことでもない。
交差点をゆっくり曲がり、歩道に寄せて停める。そこは駐停車禁止の場所で、警官が2人、トラックに近寄る。その瞬間、サングラスを掛けた運転席の男の口角が上がった。
その1秒後、荷台が爆ぜ、歪な球状の炎が膨張し、仕組まれていた高い粘土の燃料が火の玉となって周囲に飛散する。轟音が鼓膜を破壊し、そのインパクトで建物のガラスは悉く割れ、駅前に止まっていたタクシーやバスだけでなく、すぐ近くの高架線路を走っていた電車も吹き飛ばされて横転した。アドトラックは金属のボディが水飴のように溶け、男は爆発で蒸発したようだった。
一瞬で悲鳴と怒号が飛び交う地獄絵図と化した、日本有数の繁華街。無数の破片に引火して更に飛散した火の玉が幾多もの人体に燃え移り、火だるまになって倒れた。それであればまだマシで、人体としての原形を留めていないのも多く、燃えなくても吹き飛ばされたり、破片が刺さったりと、戦争でも起きたかのような光景が広がる。
23の特別区内の消防と救急、そして自衛隊を総動員して消火や救出、救急搬送が続けられたが、死者は368人、負傷者も7千人以上に及んだ。
トーキョーアタックによって、都心の都市機能の脆弱さ、そして性善説に基づく治安の脆弱性が露呈した。そして、それに対抗すべく社会が大きく変わることになる。
事件当日、政府は国家非常事態宣言を発令した。それは3年前に世界中でパンデミックを起こした感染症の時とはワケが違い、国の安全そのものに関するものとして、連日国会では様々な対策が検討されることになった。
その中の一つが、緊急措置としての銃刀法改正だった。具体的には、テロ対策として護身用途に限定した上で、高校生以上の銃の所持と使用を登録制で認めると云うものだ。
銃社会として知られる、日本が安全保障上最も依存しているアメリカでも、銃規制の動きが活発化しているが、それに反する流れだった。それは与野党の枠組みを超え、超党派の賛成派と反対派に分かれ、連日国会が紛糾した。
更には、複数の市民団体も巻き込む形で連日、暴動寸前のデモが霞ヶ関前で繰り広げられた。
トーキョーアタック以前も、銃を使った事件は起きていた。それでも年間10件ほどで、世界一銃と銃犯罪に厳しい国としての地位は確立していた。何しろ、2年前の五輪の射撃種目でさえ、銃刀法が競技で使用する銃弾の管理の足枷になったと言われたほどだ。
しかし、1日で都内2箇所で多数の犠牲者を出した事件を経て、流石に対処しなければならないとして、政府が動き出したのだ。
それは、テロや暴動に対する新たな特殊武装隊の編成と全国的な配備が間に合わない現状での、苦肉の策だった。
3年前、先ずは自助努力に努め、次に隣人や地域で互いに助け合う共助に努め、それでもどうしようもなくなった時に公助に頼れ、と政府は言った。ただ、自助と共助で乗り切ることを常に国民に求め、手遅れになって初めて公助が検討され、結局は検討されただけで振り出しに戻る、その繰り返しだった。
だから、究極の自衛手段として銃の所持は、避けられないと云うのが正しかった。
結局、最終的には国会内での暴動騒ぎを起こしながら、衆参両院で賛成多数により可決、成立された。国家非常事態宣言の発令から1ヶ月と云う、スピード成立だ。党議拘束も掛かっていたが、それに離反した議員も多く、離党や議員辞職が相次ぎ、一時的な政情不安に陥った。
そしてその3日後の10月1日、銃の所持が解禁となり、同時に大量の銃が海外から空輸された。トーキョーアタックとは無関係に、最初から銃の所持ありきの法案だったのではないか、との批判は治安維持と云う言葉に掻き消された。
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