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チャミスルとビール
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ソウル市江南区、行きつけの居酒屋
そのひとは気まぐれに現れる
「こんばんは」
『あ、こんばんは』
私が座ってるテーブルの向かい
すらっと高い背を丸めてぺこり、と会釈して
座ってもいいですか、と椅子に手をかける。
どうぞ、って声をかけると
どうも、って席に着いた。
『何飲みます?』
「えっと、ビールを」
『ご飯は』
「食べてきたので、大丈夫です」
食べてきたのに居酒屋に来たのか
変なひとだな、と思ったのも最初だけでもう慣れて
手渡したメニューを立てかける
その横顔を相変わらず愛らしく思った。
「久しぶりですね」
『そうですね。1ヶ月ぶり?』
「もうそんなに経ちますか」
『忙しい?』
「まぁ、それなりには」
そんな会話をしていると、
あっという間にビールは届いて
それじゃあ、乾杯、と
私のチャミスルの瓶とそのひとのビールが音を立ててぶつかる。
「おいしいですね」
『うん、おいしいですね』
.
水曜日、22時30分
時々、ふらりと現れる
いつも、シンプルだけど高そうな服を着て
マスクをつけて
優しい雰囲気を纏った
きまぐれな、そのひと
私はこのひとのことを何も知らない。
このひとも、私のことを何も知らない。
友人でも恋人でもない2人
今日も、貸切みたいにガラガラの居酒屋で
店が閉まるまでの1時間
くだらない話をして過ごす。
私はこのひとのことを、「ビールさん」と呼ぶ。
そしてこのひとは私のことを、「チャミスルさん」と呼ぶ。
理由は簡単、お互いに名前を知らないし、
彼はビールが好きで、私はチャミスルをよく飲んでるから
私たちは、お互いに詮索しない。
だから名前も知らない。
そうしようって決めたわけじゃないけど、
深く関わらないほうが気楽だし
きっと彼も今の関係を快適に思ってる。
興味がないわけじゃない。
気楽だから、ただそれだけ。
彼との時間は楽しくて
仕事は何をしてるの、とか
恋人はいるの、とか
そんなことを話さなくても
1時間なんてあっという間に過ぎる。
『そろそろ出ましょうか』
「あ、もうそんな時間か」
『あっという間ですね』
「一緒にいると楽しいから、ですかね」
あ、でた。
このひとの言葉は、こうやって時々私の胸をくすぐる。
それも慣れてない感じで、ちょっと照れながら言ってくる。
そして照れ隠しをする、そんな仕草にも可愛いなんて、思ったり。
店を出ると2人、大通りに向かって歩き出す。
大通りまでは徒歩5分。少し入り組んだ路地を進む。
ここでもくだらない話をしていると
あっという間にたどり着いて、2人、ぼうっとタクシーを待つのも恒例行事と化している。
『今日、ご馳走様でした』
「いえいえ、楽しかったですね」
『はい。楽しかったです』
「………。」
急に無言になるから、ちらりとそのひとを見れば何か満足そうに微笑んでいて、
その笑顔があまりにも可愛いから、じっと見ていたら
そのひとの耳を赤くさせてしまった。
また、可愛いな、なんて思ってしまう私がいた。
あ、タクシー来ましたよ、
そう言って伸びる長い腕。
それを目印に、タクシーが目の前に止まる。
どうぞ、と促され私はタクシーに乗り込んだ。
『それじゃ、おやすみなさい。ビールさん』
「おやすみなさい。チャミスルさん」
『また会えたら』
「はい、また会えたら」
手を振ると、振り返された大きな手。
その手で扉を閉めて、私が去るのを見送ってくれる。
タクシーが進み始めて
その姿が小さくなった頃、
彼はようやく踵を返して、闇の中へと帰って行った。
ある日の事。
私はいつも通りに、いつもの席に座る。
前までは1人で飲むのが日課だったから、誰かを待つなんて事は考えなかったけど、
いや別に待ち合わせしてるわけじゃないけど
今日はビールさん、来るかな。
なんて考えながら飲むチャミスルはより一層美味しく感じる。
どこからか、ビールの匂いがふわっとした。
思わず振り返ると、ビールさんが2個後ろのテーブルで座っていた。
『あ、ビールさ、、、』
私は反射で目の前に広がった状況に言葉を飲み込んだ。
あのひとの向かいの席には私の知らない女の人が座っていた。
少し動揺しながらも
誰だろう、と私は聞き耳をたてた。
そうしたら、じきに
女の人の声が入ってきた。
《久しぶり!》
「ああ、久しぶり」
《もー、つれないなぁ》
「別に」
彼は驚くほど冷静だった。
あんな彼は見たことが無かった。
だから私は安心していた。
あの女の人とはそれほどの関係でないと思った。
そんな時、女の人の声が私の耳に届いた。
《何でそんなに冷たいのよ~?
……私の彼氏なのに》
ガシャン。
私の手から瓶が落ちていた。
力が入らなくなってしまったから。
瓶から液体が流れ出る。
流れてきた焼酎は私の靴を濡らしていった。
瓶が割れたのと同時に、私を保っていた何かが壊れ、
液体が流れてきたのと同時に、私の大切な何かがこぼれてしまった気がした。
音に気がついた周りの人はチラチラと私を見る。
やがてあの2人も気がつき、ビールさんは何も知らないような顔で近づいてくる。
「チャミスルさん?大丈夫ですか?」
『ビールさん、彼女さんいたんですね』
「え?……あぁ、あれは」『良かったですね』
彼の言葉を遮ってしまった。でも私の口はもう止まらなくなってしまった。
『もう私なんかと飲まなくてもいいじゃないですか。』
「チャミスルさん聞いてください」
『結局私なんて』
「チャミスルさん」
『どうせいなくなってもいい存在じゃないですか!!』
「聞いて!!」
私の手を握って私の目を見つめてくる。
でも私はもう耐えられず、手を振り払ってその場から走り出した。
私は自分でも気がつかないうちに
この22時30分という時間は特別になっていた。
そして私は初めて自分の正直な気持ちに気づいた。
私は、あのひとが大好き。
でもそれは私の一方通行だったみたいで。
でも彼に彼女がいてもおかしくないし、裏切られたわけでもないから。
だって私たちは一緒にお酒を呑むだけの関係だから。
どこにぶつけたらいいかわからないこの気持ち。
私の頬に涙がつたう。
こんな夜は初めてだった。
私はもう、あの居酒屋には行かなかった。
- 3年後-
私はあの後転勤があって、江南区からは遠く離れた職場で働いていた。
だからもちろん、私があの居酒屋へ行く事は無かったのだけど、
それが現在、また江南区の方に転勤することになった。
私には新しい日課が出来ていた。
それは仕事終わりにコンビニでチャミスルを買って帰ること。
今日も変わらず、コンビニへ向かう。
『あれ、今日は品切れか』
珍しく切らしていたみたいで、少ししょんぼりしながら、とぼとぼ歩く。
ぼうっとしながら歩く。
家の方向じゃないのに、何か行かないといけない場所がある気がして
大通りをはずれて、少し入り組んだ路地に入っていった。
何かに誘われるように、導かれるように。
辿り着いたのは、あの居酒屋だった。
踵を返そうとしたけど、チャミスルが飲みたかったところだったし、せっかく来たんだから、まぁいっかと思って席につく。
『………ぷはっ、うま』
一気に流し込んだ。
私はここでの思い出に浸っていた。
あのひとは今、何をしているだろうか。
あのひとは今、どこにいるだろうか。
あのひとは今、結婚しているのだろうか。
もしかして、あの女の人と?
ごめんなさい、最後のお別れがあんな形になって。
もう会えないの?
もし会えたらごめんなさいって言うから。
大好きって言うから。
視界が歪んできて
涙が流れた。
もう忘れていると思っていた、あの時の気持ちを私はまだ引きずっていた。
『………ビールさん。会いたいです。』
ふいに、後ろからビールの匂いがふわっとした。
思わず振り返ると、誰もいない。
あ、やっぱり私のかんちが、「座ってもいいですか」
この低くて癒される声。
染みついたビールの匂い。
あの頃の空気。
前を見たら
ビールさんが立っていた。
『………っ!!』
驚きのあまり言葉が詰まってしまった。
「チャミスルさん、3年ぶりですね」
『……そう…ですね』
まさか本当に会えるなんて。
緊張と気まずさで一気にチャミスルを流し込む。
「ビールを」
店員さんに声を掛けるビールさん。
「あの、」
『何ですか?』
「実は3年前のあの女の人、彼女じゃないんです。今更ですけどねㅋㅋ」
『本当ですかっっ??!』
あ、思わず………
『すみません……』
「誤解が解けたようで良かったです」
『あの節は本当にすみません……』
深々とお辞儀する私。
「いえいえ、あれは女の人が一方的に彼女だ、と言い張ってきたんです」
……どういう事だろう?
「お金目当てで俺に近づいてきたんですよ」
『え?ひどい、こんなに素敵な人なのに………』
「今何て?」
『いや、何も言ってません』
とっさに否定する私。
「嘘、聞こえてたけど」
うわ恥ずかし、、
いや、恥ずかしがってる場合じゃないのよ自分。
大好きって言うってさっき誓ったばっかなのに。
言わなきゃ。
彼氏疑惑は解けたことだし。
今、言うんだ。
「『あのっ!!』」
………
「あ、レディーファーストで」
『いえ、お先にどうぞ』
「それじゃあ、」
ビールさんはビールをひと口含んでから、
真剣な目で私を見つめた。
あの夜もこんな目で私を見つめていた。
「俺にとってチャミスルさんは、ただの呑み仲間だと思っていました」
「だけど、俺はチャミスルさんに誤解させてしまって、拒まれたあの時、胸が張り裂けそうだったんです」
『う、すみません……』
「……そして、それだけかけがえのない大切な存在になってる事にあの夜、気づいたんです」
え、それってもしかして、
「俺の隣にずっといて、ずっと一緒にお酒を飲みましょう。大好きなんです」
夢かと思った。
私は空を仰いだ。
星屑が煌めいていた。
ここは私がつくった想像の世界なのではないかと思った。
思い切り自分の頬を自分で叩いた。
………現実だわ
「え??大丈夫?嫌だったら断ってくれても構わないから」
『嫌いなわけないじゃないですか!!大好きですけど!!』
「え」
『あ』
言っちゃった……
彼は嬉しそうに、くしゃっと笑った。
私も釣られて笑う。
一筋、ほうき星が横切った。
口に含んだチャミスルは、
甘くて、きらきらして、幸せな味がした。
𝑓𝑖𝑛
そのひとは気まぐれに現れる
「こんばんは」
『あ、こんばんは』
私が座ってるテーブルの向かい
すらっと高い背を丸めてぺこり、と会釈して
座ってもいいですか、と椅子に手をかける。
どうぞ、って声をかけると
どうも、って席に着いた。
『何飲みます?』
「えっと、ビールを」
『ご飯は』
「食べてきたので、大丈夫です」
食べてきたのに居酒屋に来たのか
変なひとだな、と思ったのも最初だけでもう慣れて
手渡したメニューを立てかける
その横顔を相変わらず愛らしく思った。
「久しぶりですね」
『そうですね。1ヶ月ぶり?』
「もうそんなに経ちますか」
『忙しい?』
「まぁ、それなりには」
そんな会話をしていると、
あっという間にビールは届いて
それじゃあ、乾杯、と
私のチャミスルの瓶とそのひとのビールが音を立ててぶつかる。
「おいしいですね」
『うん、おいしいですね』
.
水曜日、22時30分
時々、ふらりと現れる
いつも、シンプルだけど高そうな服を着て
マスクをつけて
優しい雰囲気を纏った
きまぐれな、そのひと
私はこのひとのことを何も知らない。
このひとも、私のことを何も知らない。
友人でも恋人でもない2人
今日も、貸切みたいにガラガラの居酒屋で
店が閉まるまでの1時間
くだらない話をして過ごす。
私はこのひとのことを、「ビールさん」と呼ぶ。
そしてこのひとは私のことを、「チャミスルさん」と呼ぶ。
理由は簡単、お互いに名前を知らないし、
彼はビールが好きで、私はチャミスルをよく飲んでるから
私たちは、お互いに詮索しない。
だから名前も知らない。
そうしようって決めたわけじゃないけど、
深く関わらないほうが気楽だし
きっと彼も今の関係を快適に思ってる。
興味がないわけじゃない。
気楽だから、ただそれだけ。
彼との時間は楽しくて
仕事は何をしてるの、とか
恋人はいるの、とか
そんなことを話さなくても
1時間なんてあっという間に過ぎる。
『そろそろ出ましょうか』
「あ、もうそんな時間か」
『あっという間ですね』
「一緒にいると楽しいから、ですかね」
あ、でた。
このひとの言葉は、こうやって時々私の胸をくすぐる。
それも慣れてない感じで、ちょっと照れながら言ってくる。
そして照れ隠しをする、そんな仕草にも可愛いなんて、思ったり。
店を出ると2人、大通りに向かって歩き出す。
大通りまでは徒歩5分。少し入り組んだ路地を進む。
ここでもくだらない話をしていると
あっという間にたどり着いて、2人、ぼうっとタクシーを待つのも恒例行事と化している。
『今日、ご馳走様でした』
「いえいえ、楽しかったですね」
『はい。楽しかったです』
「………。」
急に無言になるから、ちらりとそのひとを見れば何か満足そうに微笑んでいて、
その笑顔があまりにも可愛いから、じっと見ていたら
そのひとの耳を赤くさせてしまった。
また、可愛いな、なんて思ってしまう私がいた。
あ、タクシー来ましたよ、
そう言って伸びる長い腕。
それを目印に、タクシーが目の前に止まる。
どうぞ、と促され私はタクシーに乗り込んだ。
『それじゃ、おやすみなさい。ビールさん』
「おやすみなさい。チャミスルさん」
『また会えたら』
「はい、また会えたら」
手を振ると、振り返された大きな手。
その手で扉を閉めて、私が去るのを見送ってくれる。
タクシーが進み始めて
その姿が小さくなった頃、
彼はようやく踵を返して、闇の中へと帰って行った。
ある日の事。
私はいつも通りに、いつもの席に座る。
前までは1人で飲むのが日課だったから、誰かを待つなんて事は考えなかったけど、
いや別に待ち合わせしてるわけじゃないけど
今日はビールさん、来るかな。
なんて考えながら飲むチャミスルはより一層美味しく感じる。
どこからか、ビールの匂いがふわっとした。
思わず振り返ると、ビールさんが2個後ろのテーブルで座っていた。
『あ、ビールさ、、、』
私は反射で目の前に広がった状況に言葉を飲み込んだ。
あのひとの向かいの席には私の知らない女の人が座っていた。
少し動揺しながらも
誰だろう、と私は聞き耳をたてた。
そうしたら、じきに
女の人の声が入ってきた。
《久しぶり!》
「ああ、久しぶり」
《もー、つれないなぁ》
「別に」
彼は驚くほど冷静だった。
あんな彼は見たことが無かった。
だから私は安心していた。
あの女の人とはそれほどの関係でないと思った。
そんな時、女の人の声が私の耳に届いた。
《何でそんなに冷たいのよ~?
……私の彼氏なのに》
ガシャン。
私の手から瓶が落ちていた。
力が入らなくなってしまったから。
瓶から液体が流れ出る。
流れてきた焼酎は私の靴を濡らしていった。
瓶が割れたのと同時に、私を保っていた何かが壊れ、
液体が流れてきたのと同時に、私の大切な何かがこぼれてしまった気がした。
音に気がついた周りの人はチラチラと私を見る。
やがてあの2人も気がつき、ビールさんは何も知らないような顔で近づいてくる。
「チャミスルさん?大丈夫ですか?」
『ビールさん、彼女さんいたんですね』
「え?……あぁ、あれは」『良かったですね』
彼の言葉を遮ってしまった。でも私の口はもう止まらなくなってしまった。
『もう私なんかと飲まなくてもいいじゃないですか。』
「チャミスルさん聞いてください」
『結局私なんて』
「チャミスルさん」
『どうせいなくなってもいい存在じゃないですか!!』
「聞いて!!」
私の手を握って私の目を見つめてくる。
でも私はもう耐えられず、手を振り払ってその場から走り出した。
私は自分でも気がつかないうちに
この22時30分という時間は特別になっていた。
そして私は初めて自分の正直な気持ちに気づいた。
私は、あのひとが大好き。
でもそれは私の一方通行だったみたいで。
でも彼に彼女がいてもおかしくないし、裏切られたわけでもないから。
だって私たちは一緒にお酒を呑むだけの関係だから。
どこにぶつけたらいいかわからないこの気持ち。
私の頬に涙がつたう。
こんな夜は初めてだった。
私はもう、あの居酒屋には行かなかった。
- 3年後-
私はあの後転勤があって、江南区からは遠く離れた職場で働いていた。
だからもちろん、私があの居酒屋へ行く事は無かったのだけど、
それが現在、また江南区の方に転勤することになった。
私には新しい日課が出来ていた。
それは仕事終わりにコンビニでチャミスルを買って帰ること。
今日も変わらず、コンビニへ向かう。
『あれ、今日は品切れか』
珍しく切らしていたみたいで、少ししょんぼりしながら、とぼとぼ歩く。
ぼうっとしながら歩く。
家の方向じゃないのに、何か行かないといけない場所がある気がして
大通りをはずれて、少し入り組んだ路地に入っていった。
何かに誘われるように、導かれるように。
辿り着いたのは、あの居酒屋だった。
踵を返そうとしたけど、チャミスルが飲みたかったところだったし、せっかく来たんだから、まぁいっかと思って席につく。
『………ぷはっ、うま』
一気に流し込んだ。
私はここでの思い出に浸っていた。
あのひとは今、何をしているだろうか。
あのひとは今、どこにいるだろうか。
あのひとは今、結婚しているのだろうか。
もしかして、あの女の人と?
ごめんなさい、最後のお別れがあんな形になって。
もう会えないの?
もし会えたらごめんなさいって言うから。
大好きって言うから。
視界が歪んできて
涙が流れた。
もう忘れていると思っていた、あの時の気持ちを私はまだ引きずっていた。
『………ビールさん。会いたいです。』
ふいに、後ろからビールの匂いがふわっとした。
思わず振り返ると、誰もいない。
あ、やっぱり私のかんちが、「座ってもいいですか」
この低くて癒される声。
染みついたビールの匂い。
あの頃の空気。
前を見たら
ビールさんが立っていた。
『………っ!!』
驚きのあまり言葉が詰まってしまった。
「チャミスルさん、3年ぶりですね」
『……そう…ですね』
まさか本当に会えるなんて。
緊張と気まずさで一気にチャミスルを流し込む。
「ビールを」
店員さんに声を掛けるビールさん。
「あの、」
『何ですか?』
「実は3年前のあの女の人、彼女じゃないんです。今更ですけどねㅋㅋ」
『本当ですかっっ??!』
あ、思わず………
『すみません……』
「誤解が解けたようで良かったです」
『あの節は本当にすみません……』
深々とお辞儀する私。
「いえいえ、あれは女の人が一方的に彼女だ、と言い張ってきたんです」
……どういう事だろう?
「お金目当てで俺に近づいてきたんですよ」
『え?ひどい、こんなに素敵な人なのに………』
「今何て?」
『いや、何も言ってません』
とっさに否定する私。
「嘘、聞こえてたけど」
うわ恥ずかし、、
いや、恥ずかしがってる場合じゃないのよ自分。
大好きって言うってさっき誓ったばっかなのに。
言わなきゃ。
彼氏疑惑は解けたことだし。
今、言うんだ。
「『あのっ!!』」
………
「あ、レディーファーストで」
『いえ、お先にどうぞ』
「それじゃあ、」
ビールさんはビールをひと口含んでから、
真剣な目で私を見つめた。
あの夜もこんな目で私を見つめていた。
「俺にとってチャミスルさんは、ただの呑み仲間だと思っていました」
「だけど、俺はチャミスルさんに誤解させてしまって、拒まれたあの時、胸が張り裂けそうだったんです」
『う、すみません……』
「……そして、それだけかけがえのない大切な存在になってる事にあの夜、気づいたんです」
え、それってもしかして、
「俺の隣にずっといて、ずっと一緒にお酒を飲みましょう。大好きなんです」
夢かと思った。
私は空を仰いだ。
星屑が煌めいていた。
ここは私がつくった想像の世界なのではないかと思った。
思い切り自分の頬を自分で叩いた。
………現実だわ
「え??大丈夫?嫌だったら断ってくれても構わないから」
『嫌いなわけないじゃないですか!!大好きですけど!!』
「え」
『あ』
言っちゃった……
彼は嬉しそうに、くしゃっと笑った。
私も釣られて笑う。
一筋、ほうき星が横切った。
口に含んだチャミスルは、
甘くて、きらきらして、幸せな味がした。
𝑓𝑖𝑛
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