8 / 53
第1章 ラスラ領 アミット編
07 酒場にて、魔術師の登場
しおりを挟む
さあ、寝ようかと思ったときに来客があった。
リディアだ。
就職祝いだと言って僕を酒場へと誘ってくれたのだ。
解雇になったことを告げると「じゃあ退職祝いだ」と大笑いした。
僕達の住むアミットの街では15歳から飲酒が認められている。
15歳になると成人なので結婚もできる。
そしてその分の責任も伴ってくる。
多くの学友たちはこの街で何らかの仕事に就いたし、何人かは結婚して夫婦になったりもした。
単純にすごいなと思ったし、僕にはそんな甲斐性も無い。
文字通り無職だし。それに相手も居ないしね。
アミットの街はラスラの領主様の生家であるミリシオン家があることもあり、近隣ではかなり大きな街だ。
医療施設や学校、裁判所などもあるし市場の規模はこの国随一だと言われるほどだ。
と言っても僕はこの街から出たことが無い。
近隣の街へ行くにも馬車で数日かかることもあり、行商人や貴族、そして冒険者たちでない限り街を行き来することは無い。
ローズレットという隣街には〝冒険者ギルド〟というものが存在するらしい。
父さんもローズレット出身だ。
冒険者ギルドには戦士やナイト等の前衛職や、ヒーラーや魔術師などの後衛職があるのだという。
父さんも魔術師になりたくて冒険者になったらしいのだが、適性が無くて諦めざるをえなかった。
話によると魔術師に成れる者はほんの一握り。
生まれ持った才能がものを言うらしい。
その代わり剣士の適性が高かった父さんは前衛で奮闘した。
と、そんな話は今度の機会にするとしよう。
所謂、大都会の部類に入るアミットには酒場もたくさんある。
地元民や冒険者が通う庶民的な酒場から、王族や貴族しか入れない上品なレストランまで様々なお店があった。
僕もいつかはそんなレストランで食事がしたいし、何なら冒険者になって世界中を旅してみたいと思ったこともあった。
けれどそれは〝平凡〟なことではないだろう。
僕はこの街で平凡に暮らすのだ。
リディアと僕は、いたって庶民派の酒場に入った。
「剣と自由に!」
ラスラ流の掛け声で僕らはジョッキを打ち合わせた。
名物の鶏肉揚げをつまみに酒を酌み交わす。
一日分のお給料が入った封筒は少し頼りないけれど、二人で飲み明かすことくらいはできそうだ。
「それであんたはまた殴っちゃったのか? 学習しないなー!」
そう言うと転がりそうなほど豪快に笑った。
「リディア、お前はどうなんだよ? 騎士団では上手くやってるのか?」
「ペリドット、あたしを誰だと思ってんの? 人たらしと呼ばれたあたしに渡れない社会は無い」
「順調そうで羨ましい限りだ」
「期待の新人リディアちゃんとはあたしのことよ!」
「その強さは僕だって認めるところではある」
「へへーん。でも、そんな所を見て欲しいわけじゃないんだけどなー」
「え? 何か言ったか?」
酒場の客がうるさくて聞こえなかった。
「別にー。自分に自信を持ちなさいって言ってんの」
そう軽口を叩きあったあとリディアは一気にグラスを空けた。
そしてお代わりを注文すると僕に向き直った。
リディアの表情は真剣みを帯びていた。
「どうしたんだ? そんな真剣な顔は似合わないぞ」
「ペリドット、あんたに大事な話があるんだ」
「何だよ改まって」
真剣な顔は似合わない。
普段のリディアは底なしに明るい。
だけど、それは周りを盛り上げるためのリディアならではの気遣いだ。
本当のリディアは真面目で少し臆病なやつ。
幼馴染の僕が言うんだから間違いない。
「あんたもラスラ騎士団に入ってよ」
「なんだよいきなり。それなら前にも断ったじゃないか」
___〝ラスラ騎士団〟
ラスラ領でその名を知らない者は居ない。
ラスラ最強の組織も始まりはごく小さな団体だった。
〝アミット自警団〟
それが今のラスラ騎士団の母体となった組織だ。
それこそ只の治安維持組織の域を超えなかったのだが、ときの領主サドバ・ラックスは熱心な軍事意識を持っていた。
軍を保有することは領土の発展に重要な意味をなす。
領主サドバは国中から著名な顧問を招き、軍事力の強化を行った。
それから約50年、アミット自警団は〝ラスラ騎士団〟と名を変えて、ラスラ領直轄の軍隊へと成長を遂げたのである。
僕の父さんセイラムは団長の任を受けている。
リディアは精鋭の斥候部隊に所属していた。
「ペリ。騎士団に入ってくれないか? あんたの実力はあたしが一番知っている。きっと団長も認めてくれる!」
「だから僕は___」
その時、酒場の客たちがどよめいた。。
客たちは一様にある人物に気を取られていた。
酒場へとやってきたのは、真っ赤なローブに身を包む三人組。
その中でも先頭を闊歩するのひと際身長の小さな女性。
その小ささは女性というより少女だと形容できる。
顔は幼く、耳には円盤を思わせる大きなアクセサリーを下げている。
暗い紫の髪は肩の辺りで切り揃えられていた。
ぶかぶかと大きな服装は、体の線を隠しているようにも見える。
その少女の背後には、同じ真っ赤なローブの二人組が歩く。
誰もがすぐに理解した。
その三人組は〝魔術師〟だと。
リディアだ。
就職祝いだと言って僕を酒場へと誘ってくれたのだ。
解雇になったことを告げると「じゃあ退職祝いだ」と大笑いした。
僕達の住むアミットの街では15歳から飲酒が認められている。
15歳になると成人なので結婚もできる。
そしてその分の責任も伴ってくる。
多くの学友たちはこの街で何らかの仕事に就いたし、何人かは結婚して夫婦になったりもした。
単純にすごいなと思ったし、僕にはそんな甲斐性も無い。
文字通り無職だし。それに相手も居ないしね。
アミットの街はラスラの領主様の生家であるミリシオン家があることもあり、近隣ではかなり大きな街だ。
医療施設や学校、裁判所などもあるし市場の規模はこの国随一だと言われるほどだ。
と言っても僕はこの街から出たことが無い。
近隣の街へ行くにも馬車で数日かかることもあり、行商人や貴族、そして冒険者たちでない限り街を行き来することは無い。
ローズレットという隣街には〝冒険者ギルド〟というものが存在するらしい。
父さんもローズレット出身だ。
冒険者ギルドには戦士やナイト等の前衛職や、ヒーラーや魔術師などの後衛職があるのだという。
父さんも魔術師になりたくて冒険者になったらしいのだが、適性が無くて諦めざるをえなかった。
話によると魔術師に成れる者はほんの一握り。
生まれ持った才能がものを言うらしい。
その代わり剣士の適性が高かった父さんは前衛で奮闘した。
と、そんな話は今度の機会にするとしよう。
所謂、大都会の部類に入るアミットには酒場もたくさんある。
地元民や冒険者が通う庶民的な酒場から、王族や貴族しか入れない上品なレストランまで様々なお店があった。
僕もいつかはそんなレストランで食事がしたいし、何なら冒険者になって世界中を旅してみたいと思ったこともあった。
けれどそれは〝平凡〟なことではないだろう。
僕はこの街で平凡に暮らすのだ。
リディアと僕は、いたって庶民派の酒場に入った。
「剣と自由に!」
ラスラ流の掛け声で僕らはジョッキを打ち合わせた。
名物の鶏肉揚げをつまみに酒を酌み交わす。
一日分のお給料が入った封筒は少し頼りないけれど、二人で飲み明かすことくらいはできそうだ。
「それであんたはまた殴っちゃったのか? 学習しないなー!」
そう言うと転がりそうなほど豪快に笑った。
「リディア、お前はどうなんだよ? 騎士団では上手くやってるのか?」
「ペリドット、あたしを誰だと思ってんの? 人たらしと呼ばれたあたしに渡れない社会は無い」
「順調そうで羨ましい限りだ」
「期待の新人リディアちゃんとはあたしのことよ!」
「その強さは僕だって認めるところではある」
「へへーん。でも、そんな所を見て欲しいわけじゃないんだけどなー」
「え? 何か言ったか?」
酒場の客がうるさくて聞こえなかった。
「別にー。自分に自信を持ちなさいって言ってんの」
そう軽口を叩きあったあとリディアは一気にグラスを空けた。
そしてお代わりを注文すると僕に向き直った。
リディアの表情は真剣みを帯びていた。
「どうしたんだ? そんな真剣な顔は似合わないぞ」
「ペリドット、あんたに大事な話があるんだ」
「何だよ改まって」
真剣な顔は似合わない。
普段のリディアは底なしに明るい。
だけど、それは周りを盛り上げるためのリディアならではの気遣いだ。
本当のリディアは真面目で少し臆病なやつ。
幼馴染の僕が言うんだから間違いない。
「あんたもラスラ騎士団に入ってよ」
「なんだよいきなり。それなら前にも断ったじゃないか」
___〝ラスラ騎士団〟
ラスラ領でその名を知らない者は居ない。
ラスラ最強の組織も始まりはごく小さな団体だった。
〝アミット自警団〟
それが今のラスラ騎士団の母体となった組織だ。
それこそ只の治安維持組織の域を超えなかったのだが、ときの領主サドバ・ラックスは熱心な軍事意識を持っていた。
軍を保有することは領土の発展に重要な意味をなす。
領主サドバは国中から著名な顧問を招き、軍事力の強化を行った。
それから約50年、アミット自警団は〝ラスラ騎士団〟と名を変えて、ラスラ領直轄の軍隊へと成長を遂げたのである。
僕の父さんセイラムは団長の任を受けている。
リディアは精鋭の斥候部隊に所属していた。
「ペリ。騎士団に入ってくれないか? あんたの実力はあたしが一番知っている。きっと団長も認めてくれる!」
「だから僕は___」
その時、酒場の客たちがどよめいた。。
客たちは一様にある人物に気を取られていた。
酒場へとやってきたのは、真っ赤なローブに身を包む三人組。
その中でも先頭を闊歩するのひと際身長の小さな女性。
その小ささは女性というより少女だと形容できる。
顔は幼く、耳には円盤を思わせる大きなアクセサリーを下げている。
暗い紫の髪は肩の辺りで切り揃えられていた。
ぶかぶかと大きな服装は、体の線を隠しているようにも見える。
その少女の背後には、同じ真っ赤なローブの二人組が歩く。
誰もがすぐに理解した。
その三人組は〝魔術師〟だと。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。
剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。
彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。
「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。
これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。
【カクヨムでも掲載しています】
表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる