闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

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第1章 ラスラ領 アミット編

06 潤んだ瞳、クロスのペンダント

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 まさか出勤初日でクビになってしまうとは……

 反省だ……
 僕は日当の入った封筒を手に帰路につく。

 つい感情的になって人を殴ってしまった……
 社会人としても人間としても失格だよな……
 あー、サラに何て説明しよう……


 憂鬱な帰り道。
 あたりは暗く、街明かりだけが優しく感じる。

 帰ったら父さん達にどう話そうか。
 それを考えると気が重い……

 サラを守りたいだけの突発的な行動だったんだけど、よくよく考えると、僕は状況を悪化させてしまっただけなのかもしれない。
 というのも、根に持った副社長が、腹いせに行動を起こさないとも言いきれない。
 サラのことを考えると、僕はあんな行動を取るべきではなかった。
 今となっては後の祭りなのかもしれないのだけれど……


 けれども社長は親切だった。

「うちのやつの前科もあるしな、今回の件は大事おおごとにはせんよ。
 けれど勘違いするなよ。
 家族を守る為だったんだろうが、お前のやったことは決して許されることじゃないんだ。
 弟のことはよく監視しておくから安心しろ。
 悪かったな、こんなことになっちまってよ」

 最終的には謝られる形で今回の件は水に流された。
 あのあと、副社長がどうなったのかは知らない。

 思い出せば腹が立ってきた。
 あの男は、ずっとサラを追っていたのだろうか。
 そう思うと落ちつかない。
 どうして、何の否のないサラが危険な目に遭わなければいけないのだろうか。
 美人は幸せになれないのだろうか。



 家に帰り着くと、母さんとサラはご馳走の準備をしていた。
 いつもは帰りの遅い父さんも、既に食卓について、僕の就職祝いに備えていたようだ。

「あ、お兄ちゃん! お帰りなさい! 今日はお兄ちゃんの大好物ばかりだよ……って、あれ……どうしての? 酷い顔をしてるけど……」

 そんなに酷い顔をしているように見えるのだろうか。
 少なくとも僕は食欲を無くしてはいたのだが……



 ◇◇◇



「お兄ちゃん。まだ起きてる?」

 葬式のような夕食のあと、部屋に籠もってうなだれている僕の元に、サラが訪ねて来た。

「ああ。起きてるよ」
「お兄ちゃん。今日は大変だったね」
「はは。情けないよ。サラにも心配かけちゃったね」
「ううん……」

 まったくもって情けない。
 こんな僕が、サラを守ってあげることなどできるのだろうか。
 そして気を遣われる始末……

「……お兄ちゃん。もしかして今回も私をかばってくれたんじゃないのかな?
 隠さずに教えてくれない?」

 今回も。

 そうだ。
 僕は今までに何度も、サラに関することでトラブルを起こしては、就職先からも3度の解雇を言い渡されていた。


 けれどもそれは僕の勝手による結果だった。
 それによってサラはいつも僕に対して気を遣った。

 サラは僕のベッドに腰を落とした。
 いつの間にか女性らしくなった太ももが眩しい。
 いつもなら触ってしまう僕だけれど、今夜はそういう気分にはなれないみたいだ。

 仕方がない。

 僕は今日のことを包み隠さずに話した。
 いつかの中年男のこと。
 その男が副社長で、まだサラのことを諦めていなかったこと。

 僕はなるべく直接的な言葉を避けて話した。
 サラの心の傷口を開くようで心苦しい。
 トラウマを植え付けた1件だ。
 できれば黙っておきたかった。

 その時、サラが僕に首元に寄りかかった。
 甘酸っぱい柑橘系の匂いがした。
 不覚にも、いや正直言って僕の心臓はドキドキと脈打った。

 しばらく二人は黙っていた。
 それからサラが小刻みに震えているのに気が付いた。
 サラはどうやら泣いているようだ。
 僕は心が張り裂けそうになる。

「……ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんがいつも私のことを守ってくれるているの本当に嬉しいんだよ。
 ありがとう。ちゃんとお礼言えなくてごめんなさい。
 今回のことも……悔しいな。
 私、お兄ちゃんの足手まといになっているのかな?」

「違うんだ。それは違うよ。僕はサラを守りたいだけなんだ!
 それがどんな結果を招いたとしても大したことじゃない。
 サラを守ることができないことこそが怖いんだ。
 それができなくなった時が僕の終わりなんだ。
 今回のことも僕はラッキーだったって思ってる。
 何かが起きる前に対処ができたんだ。
 僕は僕の行動に誇りをもっているよ」

「お兄ちゃん……」

 サラは僕の胸に顔をうずめた。
 僕は何だか無敵になった気がした。
 サラも、自分がどうすればいいのか分からないんだろう。
 サラを悲しめる世界を僕は呪いたい。

「お兄ちゃんは私の英雄だね」

 サラの潤んだ瞳と世界一美しい笑顔が、解雇で傷んだ僕の心を癒やしていくのがわかった。


 サラが自室に帰ったあと、プレゼントを開封した。

 その小さな木の箱を開くと、中からペンダントが出てきた。
 銀色のチェーンの先に小さな十字架がついたそれは、控えめだけどとても格好良くて僕はすぐに気に入った。

 どうやら街のマーケットの露天商から買ったらしい。
 なけなしのお小遣いをはたいて買ってくれたのだろう。
 選んでいるサラを想像するだけで、幸せな気持ちでいっぱいになっていく。

 握ると温かくなった気がする。
 ひょっとすると、魔力を孕んでいるのかもしれない。
 そんな風に思わせる何かを感じたのだった。

 その日からそのクロスは僕の体の一部になった。
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