7 / 53
第1章 ラスラ領 アミット編
06 潤んだ瞳、クロスのペンダント
しおりを挟む
まさか出勤初日でクビになってしまうとは……
反省だ……
僕は日当の入った封筒を手に帰路につく。
つい感情的になって人を殴ってしまった……
社会人としても人間としても失格だよな……
あー、サラに何て説明しよう……
憂鬱な帰り道。
あたりは暗く、街明かりだけが優しく感じる。
帰ったら父さん達にどう話そうか。
それを考えると気が重い……
サラを守りたいだけの突発的な行動だったんだけど、よくよく考えると、僕は状況を悪化させてしまっただけなのかもしれない。
というのも、根に持った副社長が、腹いせに行動を起こさないとも言いきれない。
サラのことを考えると、僕はあんな行動を取るべきではなかった。
今となっては後の祭りなのかもしれないのだけれど……
けれども社長は親切だった。
「うちのやつの前科もあるしな、今回の件は大事にはせんよ。
けれど勘違いするなよ。
家族を守る為だったんだろうが、お前のやったことは決して許されることじゃないんだ。
弟のことはよく監視しておくから安心しろ。
悪かったな、こんなことになっちまってよ」
最終的には謝られる形で今回の件は水に流された。
あのあと、副社長がどうなったのかは知らない。
思い出せば腹が立ってきた。
あの男は、ずっとサラを追っていたのだろうか。
そう思うと落ちつかない。
どうして、何の否のないサラが危険な目に遭わなければいけないのだろうか。
美人は幸せになれないのだろうか。
家に帰り着くと、母さんとサラはご馳走の準備をしていた。
いつもは帰りの遅い父さんも、既に食卓について、僕の就職祝いに備えていたようだ。
「あ、お兄ちゃん! お帰りなさい! 今日はお兄ちゃんの大好物ばかりだよ……って、あれ……どうしての? 酷い顔をしてるけど……」
そんなに酷い顔をしているように見えるのだろうか。
少なくとも僕は食欲を無くしてはいたのだが……
◇◇◇
「お兄ちゃん。まだ起きてる?」
葬式のような夕食のあと、部屋に籠もってうなだれている僕の元に、サラが訪ねて来た。
「ああ。起きてるよ」
「お兄ちゃん。今日は大変だったね」
「はは。情けないよ。サラにも心配かけちゃったね」
「ううん……」
まったくもって情けない。
こんな僕が、サラを守ってあげることなどできるのだろうか。
そして気を遣われる始末……
「……お兄ちゃん。もしかして今回も私を庇ってくれたんじゃないのかな?
隠さずに教えてくれない?」
今回も。
そうだ。
僕は今までに何度も、サラに関することでトラブルを起こしては、就職先からも3度の解雇を言い渡されていた。
けれどもそれは僕の勝手による結果だった。
それによってサラはいつも僕に対して気を遣った。
サラは僕のベッドに腰を落とした。
いつの間にか女性らしくなった太ももが眩しい。
いつもなら触ってしまう僕だけれど、今夜はそういう気分にはなれないみたいだ。
仕方がない。
僕は今日のことを包み隠さずに話した。
いつかの中年男のこと。
その男が副社長で、まだサラのことを諦めていなかったこと。
僕はなるべく直接的な言葉を避けて話した。
サラの心の傷口を開くようで心苦しい。
トラウマを植え付けた1件だ。
できれば黙っておきたかった。
その時、サラが僕に首元に寄りかかった。
甘酸っぱい柑橘系の匂いがした。
不覚にも、いや正直言って僕の心臓はドキドキと脈打った。
しばらく二人は黙っていた。
それからサラが小刻みに震えているのに気が付いた。
サラはどうやら泣いているようだ。
僕は心が張り裂けそうになる。
「……ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんがいつも私のことを守ってくれるているの本当に嬉しいんだよ。
ありがとう。ちゃんとお礼言えなくてごめんなさい。
今回のことも……悔しいな。
私、お兄ちゃんの足手まといになっているのかな?」
「違うんだ。それは違うよ。僕はサラを守りたいだけなんだ!
それがどんな結果を招いたとしても大したことじゃない。
サラを守ることができないことこそが怖いんだ。
それができなくなった時が僕の終わりなんだ。
今回のことも僕はラッキーだったって思ってる。
何かが起きる前に対処ができたんだ。
僕は僕の行動に誇りをもっているよ」
「お兄ちゃん……」
サラは僕の胸に顔をうずめた。
僕は何だか無敵になった気がした。
サラも、自分がどうすればいいのか分からないんだろう。
サラを悲しめる世界を僕は呪いたい。
「お兄ちゃんは私の英雄だね」
サラの潤んだ瞳と世界一美しい笑顔が、解雇で傷んだ僕の心を癒やしていくのがわかった。
サラが自室に帰ったあと、プレゼントを開封した。
その小さな木の箱を開くと、中からペンダントが出てきた。
銀色のチェーンの先に小さな十字架がついたそれは、控えめだけどとても格好良くて僕はすぐに気に入った。
どうやら街のマーケットの露天商から買ったらしい。
なけなしのお小遣いをはたいて買ってくれたのだろう。
選んでいるサラを想像するだけで、幸せな気持ちでいっぱいになっていく。
握ると温かくなった気がする。
ひょっとすると、魔力を孕んでいるのかもしれない。
そんな風に思わせる何かを感じたのだった。
その日からそのクロスは僕の体の一部になった。
反省だ……
僕は日当の入った封筒を手に帰路につく。
つい感情的になって人を殴ってしまった……
社会人としても人間としても失格だよな……
あー、サラに何て説明しよう……
憂鬱な帰り道。
あたりは暗く、街明かりだけが優しく感じる。
帰ったら父さん達にどう話そうか。
それを考えると気が重い……
サラを守りたいだけの突発的な行動だったんだけど、よくよく考えると、僕は状況を悪化させてしまっただけなのかもしれない。
というのも、根に持った副社長が、腹いせに行動を起こさないとも言いきれない。
サラのことを考えると、僕はあんな行動を取るべきではなかった。
今となっては後の祭りなのかもしれないのだけれど……
けれども社長は親切だった。
「うちのやつの前科もあるしな、今回の件は大事にはせんよ。
けれど勘違いするなよ。
家族を守る為だったんだろうが、お前のやったことは決して許されることじゃないんだ。
弟のことはよく監視しておくから安心しろ。
悪かったな、こんなことになっちまってよ」
最終的には謝られる形で今回の件は水に流された。
あのあと、副社長がどうなったのかは知らない。
思い出せば腹が立ってきた。
あの男は、ずっとサラを追っていたのだろうか。
そう思うと落ちつかない。
どうして、何の否のないサラが危険な目に遭わなければいけないのだろうか。
美人は幸せになれないのだろうか。
家に帰り着くと、母さんとサラはご馳走の準備をしていた。
いつもは帰りの遅い父さんも、既に食卓について、僕の就職祝いに備えていたようだ。
「あ、お兄ちゃん! お帰りなさい! 今日はお兄ちゃんの大好物ばかりだよ……って、あれ……どうしての? 酷い顔をしてるけど……」
そんなに酷い顔をしているように見えるのだろうか。
少なくとも僕は食欲を無くしてはいたのだが……
◇◇◇
「お兄ちゃん。まだ起きてる?」
葬式のような夕食のあと、部屋に籠もってうなだれている僕の元に、サラが訪ねて来た。
「ああ。起きてるよ」
「お兄ちゃん。今日は大変だったね」
「はは。情けないよ。サラにも心配かけちゃったね」
「ううん……」
まったくもって情けない。
こんな僕が、サラを守ってあげることなどできるのだろうか。
そして気を遣われる始末……
「……お兄ちゃん。もしかして今回も私を庇ってくれたんじゃないのかな?
隠さずに教えてくれない?」
今回も。
そうだ。
僕は今までに何度も、サラに関することでトラブルを起こしては、就職先からも3度の解雇を言い渡されていた。
けれどもそれは僕の勝手による結果だった。
それによってサラはいつも僕に対して気を遣った。
サラは僕のベッドに腰を落とした。
いつの間にか女性らしくなった太ももが眩しい。
いつもなら触ってしまう僕だけれど、今夜はそういう気分にはなれないみたいだ。
仕方がない。
僕は今日のことを包み隠さずに話した。
いつかの中年男のこと。
その男が副社長で、まだサラのことを諦めていなかったこと。
僕はなるべく直接的な言葉を避けて話した。
サラの心の傷口を開くようで心苦しい。
トラウマを植え付けた1件だ。
できれば黙っておきたかった。
その時、サラが僕に首元に寄りかかった。
甘酸っぱい柑橘系の匂いがした。
不覚にも、いや正直言って僕の心臓はドキドキと脈打った。
しばらく二人は黙っていた。
それからサラが小刻みに震えているのに気が付いた。
サラはどうやら泣いているようだ。
僕は心が張り裂けそうになる。
「……ねえお兄ちゃん。お兄ちゃんがいつも私のことを守ってくれるているの本当に嬉しいんだよ。
ありがとう。ちゃんとお礼言えなくてごめんなさい。
今回のことも……悔しいな。
私、お兄ちゃんの足手まといになっているのかな?」
「違うんだ。それは違うよ。僕はサラを守りたいだけなんだ!
それがどんな結果を招いたとしても大したことじゃない。
サラを守ることができないことこそが怖いんだ。
それができなくなった時が僕の終わりなんだ。
今回のことも僕はラッキーだったって思ってる。
何かが起きる前に対処ができたんだ。
僕は僕の行動に誇りをもっているよ」
「お兄ちゃん……」
サラは僕の胸に顔をうずめた。
僕は何だか無敵になった気がした。
サラも、自分がどうすればいいのか分からないんだろう。
サラを悲しめる世界を僕は呪いたい。
「お兄ちゃんは私の英雄だね」
サラの潤んだ瞳と世界一美しい笑顔が、解雇で傷んだ僕の心を癒やしていくのがわかった。
サラが自室に帰ったあと、プレゼントを開封した。
その小さな木の箱を開くと、中からペンダントが出てきた。
銀色のチェーンの先に小さな十字架がついたそれは、控えめだけどとても格好良くて僕はすぐに気に入った。
どうやら街のマーケットの露天商から買ったらしい。
なけなしのお小遣いをはたいて買ってくれたのだろう。
選んでいるサラを想像するだけで、幸せな気持ちでいっぱいになっていく。
握ると温かくなった気がする。
ひょっとすると、魔力を孕んでいるのかもしれない。
そんな風に思わせる何かを感じたのだった。
その日からそのクロスは僕の体の一部になった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。
剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。
彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。
「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。
これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。
【カクヨムでも掲載しています】
表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる