闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

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第1章 ラスラ領 アミット編

10 アイリーンの呪い

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 アリステラさんは「きゃっ」と微笑むと両手で目を覆った。
 と言っても実際には覆うことはなく、指の間から大きな目が覗いている。

 そして彼女はどこからか出した小ぶりのロッドをしなやかに振りかざした。

 フワッッ

 窓の閉め切った無風状態の部屋の中で、心地良く暖かい風が舞う。

 風はうねるように室内を飛び、ベッドでクシャクシャになっていたシーツをふわりと浮き上がらせた
 次の瞬間、シーツは僕の全身を優しく包み込む。
 露わになっていた股間もシーツに包まれる要領で、おおかたスカートを履いているかのような格好となった。


 これが魔術___!


 僕は初めて目にするそれに、心を奪われずにはいられなかった。



「アリスでいいのよ?」

 アリスさんは優しい笑顔の綺麗な女性だ。
 それに、異常なほどの巨乳。
 多分リディアよりも大きい。
 多分ね。
 形容するならば女神を象った彫刻のような人だ。

 そして彼女は高名な魔術師らしい。
 やはり三人は魔術師だったのだ。
 アリスさんは昨晩のことを説明してくれた。

 どうやら僕の読みは間違っていなかった。
 僕は暗殺者からの魔の手から身代わりとなって、矢に射られてしまったのだ。
 アリスさんは嬉々とした表情で語ってくれた。



 暗殺者のターゲットは、あの少女のような魔術師だった。
 彼女の名前はアイリーン。

 人は彼女を〝幻想の魔術師〟と呼ぶ。

 齢15歳にして全系統の上級魔術をマスターし、数々の偉業を成し遂げた生ける伝説。
 転移魔術研究の第一人者であり、世界にも類を見ない時魔術の使い手である。

 〝幻想〟の二つ名は、時魔術の功績により、当時の国王フィリス3世から授かったものだそうだ。

 因みに、今の国王様はフィリス5世だ……。
 要するに少なくとも100年以上は生きている事になる……。
 どう見てもあの見た目は12歳くらいの少女と言ったところだ。
 そんな容姿の中に100年以上もの知識や経験が詰まっているのか……。

 ということは魔術師ってのは歳を取らないのだろうか?
 いや、アリスさんや、もう一人の魔術師はそれなりの年齢のようだしな。
 歳を取らないというか、衰えないと言ったところか。
 魔力が影響しているのかな?
 それとも時魔術ってやつの影響なのかな?
 不思議がいっぱいだ。
 アリスさんに聞いてみるか。
 いや、初対面の女性に年齢のことを聞くのはさすがに失礼だ。


 大魔術師アイリーンは、五大魔術天に数えられていた。
 つまり世界で5本の指に入る魔術師だということらしい。

 それを聞いて僕はこう思った。
 そんなに強いのならば暗殺者の矢の一本ぐらいどうってことないのかも。

「わざわざ身代わりにならなくても、良かったんじゃ……」
「そんなことないのよ! あなたが居なければ、先生マスターは絶対に死んでいたわ!」
「ぜ、絶対にですか?」
「ええ絶対に。詳しい話は御本人から直接聞いてちょうだい。きっと驚くわよ」



 ◇◇◇


 アリスさんが部屋を出て行ったあと、メイドと思しき女性の案内で僕は応接室に立ち寄った。

 部屋の中央の大きなソファには大魔術師アイリーンが鎮座し、朝っぱらから赤ワインを嗜んでいた。

「失礼します。ペリドット・アーガイルです。昨日はお助けいただきありがとうございます」

 一応、丁寧なご挨拶をする。
 貴族的な挨拶の方がよかったかな。
 でも僕はそんな作法は知らない。

「おお! 青年よ! 昨晩は大義であった! 助けて貰ったのはわしの方じゃ! 
 命の恩人よ! わしはアイリーン・ロクスじゃ! どうぞよろしく!」

 大魔術師は立ち上がって無理やりに僕の手を取って握手をした。
 小さな両手が千切れそうな程に、ブンブンと振る。
 アイリーンはソファから立ち上がってもなお、身長は僕の腹部ほどだ。
 小さい。
 長い間お兄ちゃんをしている身としては、このぐらいの少女に弱かったりする。
 お菓子でも買ってあげたくなる。
 圧倒的に僕なんかよりもお金は持ってそうだけれど。

「命の恩人だなんて大袈裟ですよ。ような矢がたまたま僕に当たっただけですので……」
「いいや違うのじゃ。ものなどないのじゃよ。
 わしに向けられた物質は、必ずこの心臓を目掛けてやってくるのじゃからな! 
 ははは! そういう呪いなのじゃ!」

 

「の、呪いですか?」
「そうじゃ。だから暑苦しいスカーフで呪いを無効化させておったのじゃが、なんせわしは暑がりじゃ。
 昨日は油断してたのじゃよ……うっかりってやつじゃ。はは!」

 なんだか特徴的な笑い方だな。

「そんなのうっかりで済まされませんよ……」
「ははは! まあまあ済んだことじゃて。ん? おろろろろ?」


 不自然な笑い方が止み、アイリーンは真剣な顔つきで僕の目をじっと覗き込んだ。
 その大きなヘーゼル色の瞳は、闇を見つめる猫のように光を捉えた。
 数秒間、いやもっと短い時間だったのかもしれない。
 その目は僕の精神を釘で打ち付けたかのように怯ませつつも不思議な温もりを持っていた。
 それでいて、目を逸らすことすら許さない威圧感を伴っている。

 そしてアイリーンは口を開く。

「青年よ。お主、呪われておるのか……?」

 ど、どうしてそれを…………!?
 幼少期の記憶の片隅にしつこく居座った不可解な思い出。
 僕のこれまでの人生を形作っていた、文字通りの呪い。
 ある神と名乗る者の言葉。
 その存在を見抜いたのはアイリーンが初めてだった。
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