闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

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第1章 ラスラ領 アミット編

11 守護精霊

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「そうか、お主の元にも神が現れたか。それはいつ頃じゃ?」

 11年前の晩、夢枕に立っていたおじいさんの話をすると、アイリーンも同じ経験をしたと驚いていた。
 どうやら僕らの枕元の人物は、同じ神と名乗る者のようだ。

 現実味がなく、どこか夢だと思っていた神の言葉。
 神は、呪いの存在を明らかにし、生き方について助言をしたと言う。

『頑張って魔術を覚えなさい』

 それが神からアイリーンへと与えられた助言だった。

 なんだってそんな在り来たりなことを……
 だが、その頑張りが今の大魔術師の地位を築いているのだと考えると、無下にもできない。

『平凡に過ごしなさい』

 それが僕に与えられた助言だったのだが、平凡に生きたところで結局僕は平凡な人生を送るだけなのだ。
 この違いは何なんだ?
 そういえば〝選ばれし呪われた子供〟とも言ってたっけ。
 選んだのなら少しは優遇してほしいものだ……


「そうじゃ青年よ。いやペリドットよ。
 わしのことは遠慮せずアイリーンと呼ぶのじゃよ」
「そんな、恐れ多い! アイリーン様と呼ばせて下さい」
「何を言っておる。命の恩人にそんな失礼なことは出来ん。
 お主とわしは今日からソウルメイトじゃ。
 遠慮など必要ない! さあ、アイリーンと呼べ!」
「無理です!」
「嫌じゃ! アイリーンと呼ぶのじゃ!」
「無理ですって!」

 アイリーンは頬を膨らませて駄々をこね始めた。

「ヤダヤダヤダ! アイリーンと呼んで欲しいのじゃ!」
「だから、無理ですって言ってるでしょ!?」
「呼んでってばー! アイリーンて呼び捨てにして欲しいのじゃー!」

 終わりそうにない押し問答を繰り広げていると、ある男性が声を挟んだ。

「いい加減にして下さい。先生(マスター)はワガママが過ぎますよ。ほら客人はお困りです」

 現れたのは金髪を後ろに撫でつけ、長身で眼鏡を掛けた弟子の一人だった。
 名前は確か……

「わたしの名はロベルト。
 先生(マスター)の一番弟子にして秘書を担当しております。
 この度は大変ご感謝申し上げます」

 その神経質そうにロベルトと名乗る男性は、うやうやしく頭を下げた。

「本来ならば、わたしが身を挺してでもお守りせねばならぬところ、見ず知らずの青年にお助けいただくとは、痛恨の極みでございます。
 偶然、上質な回復薬を持つ者がいたから良かったものの、今や失われた回復魔術の知識もなく、危うく命の恩人を死に至らしめるところでありました。
 犯人は先生(マスター)が一瞬のうちに灰にしてしまい、目的も解らぬまま……
 どこぞやの勢力の差し金かもしれません。
 先生(マスター)は有名過ぎるが故に敵も多いのです」

 などと物騒なことを平然と語るその口調は、悪に対しての潔癖さの現れに感じる。

「そ、そんなに危険な状態だったんですね……」

 上質な回復薬が無ければ僕は死んでいたのか。

 〝回復魔術〟は失われた魔術らしい。
 知らなかった。
 怪我人は回復魔術であっという間に元通り、だとか思っていたのだけど、そんなに甘いものじゃないみたいだ。
 つまり、どうやら僕は奇跡的に助かったということになる。

「ううむ。で手打ちじゃ。
 だが、約束するのじゃペリドットよ。
 お主が危険な時は必ずわしを頼るのじゃぞ! 
 そうじゃ、ちょっとだけ目を閉じるのじゃ」

 どうやら納得してくれたみたいだ。
 そして僕は言われるがままに目を閉じる。

 目の前に暗闇が広がる。
 すると、違和感を覚えるほどにあたりが静寂していく。

「『___幽玄なる楔よ 深淵の守人よ 汝の身は我が元に サロゲート』」

 温かく、柔らかい。
 何かが首元を撫でた気がした。


「一体何を? ……何だか心が安らぐような気がします」
「お主に守護精霊を授けたのじゃ。なにか危険が迫ったときにわしに知らせが来るようにな」

 守護精霊……?
 実感は無いと言っていい。

「安らぎを感じるとは、精霊との相性が良い証拠じゃな。
 可愛らしい女の子の精霊じゃからなー! 大切にするんじゃぞ。はは!」
「えっ? 女の子? てことは僕はずっとその女の子と一緒に生活しなくちゃいけないってこと?」
「なんじゃ。嫌なのか? せっかくの守護精霊に失礼じゃな」
「そ、そういう訳じゃないんです! ただ恥ずかしいなって……」 
「恥ずかしい? あ! ペリドットは一人でエッチなことができないのを心配しておるのじゃな!? ははは! そうか、それは悪かったな! はは!」
「ち、違いますよ!」
「……本当に違うのかなー? お年頃じゃもんなー」

 やられた。
 完全にイジられ始めた。
 まずいぞ。
 このままじゃアイリーンのペースだ。

「ほ、ほら。その女の子にも失礼じゃないですか!」
「それは心配ない。この娘もペリドットを気に入ったようじゃからな。はは!」

 そうなのか……?
 ならば良いのだけれど。
 いや、いくらアイリーンさんの魔術だといっても、無理やりに僕なんかとペアリングさせるのは可哀想だと思うのだ。

「ところで、守護精霊でしたっけ? 僕には何も見えないんですけど……」
「うーむ。ペリドットには魔力がないからじゃな! そればっかりはしょうがないことじゃ。なーに、心配するな。
 ペリドットが想い続ければ、じきに見えるようになるわい! はは!」
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