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第1章 ラスラ領 アミット編
22 冒険者アイリーン
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あの日のように暫く僕の瞳を覗き込んだアイリーンは、何かを読み取ると瞳を閉じた。
他人の能力を探るのはそれなりに魔力を使うらしい。
膨大な魔力の持ち主であるアイリーンでも、目を閉じて呼吸を整える時間は必要なようだ。
そうして少しだけ時間が経った。
こうしてアイリーンと見つめ合う時間は、僕に安らぎとも興奮とも言えない複雑な感情を抱かせた。
生まれたばかりの子供のように曇りの無い瞳は、心の奥を見透かすばかりか、落ちつきのない僕を操るかのような説得力を持っていた。
そうしたアイリーンの口から発せられた言葉は、僕の予想していた答えそのものだった。
「……残念じゃが、ペリドットの呪いはどうやら覚醒したようじゃ」
「そ、そっか……そうなのか」
残念ながらという言葉に底知れぬ諦めのようなものを感じる。
「基本的に呪いというものは、負の、要するに枷となるデメリットじゃ。
それは自身にとって致命的なこともあるだろう。呪いというのは総じて恐ろしい。
わしが言うんじゃ、間違いない」
アイリーンの呪いは〝防御力0〟。
自身に向けられた脅威は必ずアイリーンの心臓へと向かう。
恐ろしいという言葉では片付けられないほどに、それ自体が絶大な呪いだ。
「じゃが、呪いには別の側面もある。それが副反応じゃ。
呪いのメリットじゃな。
薄々勘付いていたじゃろうが、わしへの副反応は〝魔力ブースト〟。
魔力量なら悪魔にも匹敵する」
悪魔に……?
悪魔といえば神に対抗する勢力。
この世界の圧倒的な悪。
甚大な力を持ち、人間をはじめ地上に住む生物の敵。
元は、神の使いだった者が己の欲望に負け、堕落したのが発生理由だとされている。
世界上に蔓延る魔獣の始祖とも呼ばれているが、その存在の詳細は明らかになっていない。
にわかには信じられないのだが確かに実在する。
それが悪魔だ。
一般的に悪魔は絶大な魔力を保有しているとされている。
中でも〝傲慢の大悪魔ルシファー〟は、その底なしとまで言われた魔力量で悪魔の頂点に立っていた。
世界各地に〝魔王の卵〟を分散させ、人々の恐怖心を煽った。
その「恐怖心」がルシファーの力の源になっていたということを当時の人々は知りもしなかったらしい。
ルシファーは世界を支配した。
そして数百年の支配の末、突如として存在を消した。
既に世界各地に勢力を伸ばしていた魔王ともども。
学校の歴史の授業でそう習った。
僕達生徒には、もはやルシファーに対する「恐怖心」すらないのだった。
そんな悪魔のような力を得たアイリーン。
対して僕には、どんな能力が、いや呪いが覚醒したのだろうか。
副反応というものにはおおよその見当はついていた。
あのベヒモスとの戦いのときに自身に起こった不思議な能力だ。
「今回、ペリドットに発動した呪いじゃが、過去にわしの旧友が同じ呪いを持っておった。
それは非常に残酷なものじゃった……」
「残酷な……? く、詳しく教えてくれないか?」
「いいじゃろう」
アイリーンは立ち上がると一度首を鳴らした。
そしてお茶をお代わりすると、一口啜って「熱っ」と呟いた。
話は長くなりそうだ。
「この呪いを持つ者をわしは一人だけ知っておる。あれはまだわしが駆け出しの魔術師だったころの話じゃ___」
神妙な面持ちで始まった回想を、僕とサラは固唾を呑んで待った。
大丈夫だ。
心の準備はできている。
「当時のわしは、この国の王都リカリスで冒険者をしておった。
___そのころから呪いは発動しておったからの、魔力量は存分にあったが、何せ経験が少なかった。
冒険者として経験を積み、魔術師として成長しようとしたんじゃ。
パーティ名は『フィリシア』。
フィルス国を代表する冒険者になる。
そう意気込んで付けた。
当時はパーティ全員が駆け出しで、弱小パーティと揶揄されたもんじゃ。
リーダーは剣士の男。
それに神官の女と、魔術師のわしの3人じゃった。
剣士のアルベルトは気の良い大男。
神官のミリヤは大人しくて優しい娘じゃった。
強くなることが目的じゃったが、奴らとの冒険の日々はそれ自体がとても楽しかった。
毎日ボロボロになるまで戦って、素材を回収しては防具や武器を強化。
毎晩のように酒場でバカ騒ぎじゃ。
アルベルトは大飯食らいで、とにかく新鮮な魚や生のレバーなんかが好きじゃった。
わしとミリヤには生食の良さは理解できなかったが、満足そうなアルベルトの笑顔を見るとそれだけで楽しかった。
二人の笑顔はいまでも忘れられん。
わしの大切な青春の思い出じゃ。
アルベルトは「美味い食事と酒の為に俺は戦っている」と息巻いていたが、その気持ちはわしらにも良く分かったもんじゃ」
「すごーい! アイリーンさんって冒険者だったんですね!」
サラの羨望の眼差しが僕を不安にさせる。
「リカリスで順調に名を上げ始めたわしらは、少しだけ背伸びをするつもりである依頼に挑んだ。
砂漠の大魚〝サンドサーモン〟の討伐じゃ。危険度は7。
当時のわしらの適正危険度は5。やれないことはないだろう。そう全員が思っておった。
そう信じておったのじゃ______」
他人の能力を探るのはそれなりに魔力を使うらしい。
膨大な魔力の持ち主であるアイリーンでも、目を閉じて呼吸を整える時間は必要なようだ。
そうして少しだけ時間が経った。
こうしてアイリーンと見つめ合う時間は、僕に安らぎとも興奮とも言えない複雑な感情を抱かせた。
生まれたばかりの子供のように曇りの無い瞳は、心の奥を見透かすばかりか、落ちつきのない僕を操るかのような説得力を持っていた。
そうしたアイリーンの口から発せられた言葉は、僕の予想していた答えそのものだった。
「……残念じゃが、ペリドットの呪いはどうやら覚醒したようじゃ」
「そ、そっか……そうなのか」
残念ながらという言葉に底知れぬ諦めのようなものを感じる。
「基本的に呪いというものは、負の、要するに枷となるデメリットじゃ。
それは自身にとって致命的なこともあるだろう。呪いというのは総じて恐ろしい。
わしが言うんじゃ、間違いない」
アイリーンの呪いは〝防御力0〟。
自身に向けられた脅威は必ずアイリーンの心臓へと向かう。
恐ろしいという言葉では片付けられないほどに、それ自体が絶大な呪いだ。
「じゃが、呪いには別の側面もある。それが副反応じゃ。
呪いのメリットじゃな。
薄々勘付いていたじゃろうが、わしへの副反応は〝魔力ブースト〟。
魔力量なら悪魔にも匹敵する」
悪魔に……?
悪魔といえば神に対抗する勢力。
この世界の圧倒的な悪。
甚大な力を持ち、人間をはじめ地上に住む生物の敵。
元は、神の使いだった者が己の欲望に負け、堕落したのが発生理由だとされている。
世界上に蔓延る魔獣の始祖とも呼ばれているが、その存在の詳細は明らかになっていない。
にわかには信じられないのだが確かに実在する。
それが悪魔だ。
一般的に悪魔は絶大な魔力を保有しているとされている。
中でも〝傲慢の大悪魔ルシファー〟は、その底なしとまで言われた魔力量で悪魔の頂点に立っていた。
世界各地に〝魔王の卵〟を分散させ、人々の恐怖心を煽った。
その「恐怖心」がルシファーの力の源になっていたということを当時の人々は知りもしなかったらしい。
ルシファーは世界を支配した。
そして数百年の支配の末、突如として存在を消した。
既に世界各地に勢力を伸ばしていた魔王ともども。
学校の歴史の授業でそう習った。
僕達生徒には、もはやルシファーに対する「恐怖心」すらないのだった。
そんな悪魔のような力を得たアイリーン。
対して僕には、どんな能力が、いや呪いが覚醒したのだろうか。
副反応というものにはおおよその見当はついていた。
あのベヒモスとの戦いのときに自身に起こった不思議な能力だ。
「今回、ペリドットに発動した呪いじゃが、過去にわしの旧友が同じ呪いを持っておった。
それは非常に残酷なものじゃった……」
「残酷な……? く、詳しく教えてくれないか?」
「いいじゃろう」
アイリーンは立ち上がると一度首を鳴らした。
そしてお茶をお代わりすると、一口啜って「熱っ」と呟いた。
話は長くなりそうだ。
「この呪いを持つ者をわしは一人だけ知っておる。あれはまだわしが駆け出しの魔術師だったころの話じゃ___」
神妙な面持ちで始まった回想を、僕とサラは固唾を呑んで待った。
大丈夫だ。
心の準備はできている。
「当時のわしは、この国の王都リカリスで冒険者をしておった。
___そのころから呪いは発動しておったからの、魔力量は存分にあったが、何せ経験が少なかった。
冒険者として経験を積み、魔術師として成長しようとしたんじゃ。
パーティ名は『フィリシア』。
フィルス国を代表する冒険者になる。
そう意気込んで付けた。
当時はパーティ全員が駆け出しで、弱小パーティと揶揄されたもんじゃ。
リーダーは剣士の男。
それに神官の女と、魔術師のわしの3人じゃった。
剣士のアルベルトは気の良い大男。
神官のミリヤは大人しくて優しい娘じゃった。
強くなることが目的じゃったが、奴らとの冒険の日々はそれ自体がとても楽しかった。
毎日ボロボロになるまで戦って、素材を回収しては防具や武器を強化。
毎晩のように酒場でバカ騒ぎじゃ。
アルベルトは大飯食らいで、とにかく新鮮な魚や生のレバーなんかが好きじゃった。
わしとミリヤには生食の良さは理解できなかったが、満足そうなアルベルトの笑顔を見るとそれだけで楽しかった。
二人の笑顔はいまでも忘れられん。
わしの大切な青春の思い出じゃ。
アルベルトは「美味い食事と酒の為に俺は戦っている」と息巻いていたが、その気持ちはわしらにも良く分かったもんじゃ」
「すごーい! アイリーンさんって冒険者だったんですね!」
サラの羨望の眼差しが僕を不安にさせる。
「リカリスで順調に名を上げ始めたわしらは、少しだけ背伸びをするつもりである依頼に挑んだ。
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当時のわしらの適正危険度は5。やれないことはないだろう。そう全員が思っておった。
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