闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

文字の大きさ
24 / 53
第1章 ラスラ領 アミット編

23 強欲の悪魔マモーン

しおりを挟む
 「そもそもサンドサーモンはデカいだけの大したことのない魔獣じゃ。

 その肉は美味くて有名じゃったし、それを食えるのならばと、アルベルトやわしらも随分と気合いが入っておった。

 ちゃちゃっと討伐して今晩のおつまみだ、だなんて軽い気持ちで挑んだのがそもそもの間違いじゃったんじゃ……」
「まさか、アルベルトさんはその戦闘で還らぬ人に……」
「ちょっとお兄ちゃん!」
「いいや。死んでおらんぞ」
「あ、そ、そうなんだ……」
「120歳まで生きたぞ」
「ご長寿だね……」

 なんでこの人の周りは皆、異常に長生きなんだよ……

「ごほん。話を続けるぞ。
 王都リカリスから徒歩ですぐの場所に、ムング砂漠が広がっておる。
 砂漠というのは知っておるじゃろ? 
 そこでわしらは砂の海に釣り糸を垂らした___」
「砂漠に釣り糸?」
「なんだか違う世界のお話みたいだね」
「サンドサーモンは砂の中を自由に泳ぐ。物理的に考えると無理な話じゃが、魔獣は世の理からは反した行動を取るものじゃ。サンドサーモンも例外ではない。

 わしらが並んで釣り糸を垂らして数分経った頃かのう、既にわしはフィッシングには飽きてしまって、ミリヤとのんびりしておった。

 ミリヤも適当に魔術で日陰を作ってアルベルトを応援しておったわい。
 思い起こせば、あの時が一番幸せな時間じゃったかもしれないな……

 その時じゃ、アルベルトの竿が獲物とエンカウントしたのじゃ!
 わしらは大喜び!
 釣り上げるとまさしくサンドサーモンじゃった!
 なんせ巨体じゃから攻撃は浴びせ放題のダメージ負わせ放題。
 イージー中のイージー。
 だが、忘れちゃならんのが、それを今夜は食べるということ。
 わしらはそのサンドサーモン今夜のおつまみの身が痛むことのないように丁寧に丁寧に急所を狙った」
「それで酒場で一杯?」
「いーや。そうは問屋が卸さなかった」
「???」
「突如として空が暗くなり、ただならぬ気配が辺りを覆った。それはわしらが経験したことのないような重圧じゃった。
 すると、あろうことかサンドサーモンが喋りだしたのじゃ。

『ケケケ! かかったな強欲なる人間よ。ケケケ!』。

 な、なんじゃ!? わしらは慌てふためいた。
 釣り竿も放り投げる始末じゃ。
 甲高い声と共に、サンドサーモンの口から真っ黒い煙が漏れ出した。
 もっくもくと!」

 魔獣が喋るの?

「え? 何が起こったんですか?」
「喋るサンドサーモン……ま、まさか、そのサーモンの口から魔獣が!?」
「勘がいいの。
 そのまさかじゃ。なんとサンドサーモンの体内に悪魔が棲み着いていたのじゃ。
 その名は〝マモーン〟。鳥の頭に人間の身体を持つ七悪魔の1人じゃ。
 マモーンは力こそ弱いが狡猾こうかつで、悪魔の元締めであるルシファーの部下じゃった。

 奴は弱い。
 弱いからこそ戦闘を好まん代わりに、見境なく呪いを付与する厄介な悪魔じゃ。
 呪いを掛けるのには驚異的な魔力を要する。
 呪いの付与が悪魔の専売特許であるのもそういった理由からじゃ。
 そして、その呪いの犠牲になったのが___」
「アルベルトさん……?」
「うむ。アルベルトは呪われた。指先一つで簡単に呪われたのじゃ。
 マモーンは不敵な笑みでアルベルトを指差して叫んだ。
 無論わしらの言葉とは違う言語じゃ。
 あれは悪魔語と言われる物じゃな……まともに聞くと呪われると言われるあれじゃ。
 わしらは耳を塞いだ、そして一心不乱に逃げ出した。

 そりゃあもう死ぬ気で走った。
 力をつけてきたフィリシアでも、さすがに相手が悪魔ともなると戦って勝とうだなんて発想はなかった。
 わしとミリヤは最大限に魔術を行使して、ありとあらゆる手段で逃げた。
 既にアルベルトの様子はおかしかったんじゃが、構ってやれる余裕もなかった。

 そして、マモーンを巻いたとき、あの屈強で物怖じしないアルベルトが、ガタガタと震えているのに気が付いた。
 わしらは心配した。だが身体にはなんの影響もない。
 じゃが、アルベルトはある声を聞いていたのじゃ。
 自分にかけられた呪いの正体を……」
「結局のところ、その呪いの正体はなんだったんですか!?」

 サラが興奮気味に問いただす。
 すっかりアイリーンの話に夢中だ。

「その呪いとは___」
「呪いとは___?」
「___〝生モノ嫌いマストベイクド〟。一生、生モノが食べられなくなる」
「え???」

 生もの……?

「マグロもレバーもミルクも。そしてサーモンも」
「呪いって、それ……だけ……?」
「うむ。それだけじゃ。
 でも想像してみよ。お主たちが火を起こすことのできない環境で遭難したら? やっとのことで捕えた獲物に火を通すことができなかったら? ましてやアルベルトは冒険者じゃ。そんな不遇は有ってはならん。致命的じゃ。
 あ、ちなみに生野菜は大丈夫じゃった。安心せい」

 ちょっと待てよ。

 どうしてアイリーンはいま、この時にそんな話をしたんだ?
 僕と同じ呪いを持っていた奴を一人知っている。
 そう言って回想を始めたんじゃなかったか?

 と言うことは……まさか僕のって……

「ペリドット。お主に付与された呪いの正体は〝生モノ嫌いマストベイクド〟じゃ!!!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...