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第1章 ラスラ領 アミット編
25 新米魔術師
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___明くる朝。
アミットの街の外れの丘の上にある、直視できない程に眩しく白いお屋敷に僕は来ていた。
大きなドアを叩くと、いつぞやのメイドが迎えてくれた。
笑顔の可愛らしい女性だ。
名前はティナさんと言う。
この館の主は、大都市アミットでも目を引くほどの豪邸に住み、なおかつ使用人を雇っている。
貴族か、それとも権力者か。
どちらかと言うと主は後者だが、その権力を振りかざしたりはしない。
それが自由の象徴とも言え、自由そのものとも言える。
「先日は大変お世話になりました。実は、本日伺ったのは______」
簡単な挨拶を済ませるとティナさんは屋敷の裏手に案内してくれた。
一面緑色の芝生が敷かれ、中央には控え目だが立派な噴水がある。
ちょっとした水泳大会なら開けてしまうような迫力。
一般市民にはこんなものがどうして自宅に必要なのか理解ができない。
少々浮世離れしたこの屋敷には、代々フィリスの国賓が住むことになっていた。
この館の現在の主人、つまり僕が今日訪ねて来た相手は、なんと宙に浮いていた。
胡坐をかいてゆらゆらと風に身を任せているように見える。
そしてそのままの姿勢で瞑想していたが、僕の存在に気が付くと振り返って手を振った。
「はは! 誰かと思えばペリドットではないか! どうした? 昨日会ったばかりなのに、もう寂しくなってしまったのか?」
「訓練中に邪魔したね。今日はアイリーンにお願いがあって来たんだ」
「なんじゃなんじゃ改まって……そ、そうか! サラちゃんを嫁がせたいというのなら大歓迎じゃ! 今すぐ式の準備を。
ティナ! ウェディングドレスの準備じゃ!!」
「はーい。お色はどうなさいますかー?」
「サラちゃんは純白じゃ! これでもかと言うほどの純白じゃ! わしは紫がいい! ラッキーカラーじゃからな!」
「あげるかー!! ていうかティナさんまで!!」
そうツッコミながらもサラのウェディングドレス姿を想像し、鼻血が出そうになる。
「相変わらず妹のこととなると、急に声が大きくなるやつじゃ。気持ちが悪いぞ。はは!」
「ふふ。ごめんなさい。お愉しくてつい」
ティナさんは口元を隠して笑った。
どうやらこの人も只者じゃない……
「ペリドット? 鼻血が出ておるぞ、大丈夫か?」
鼻を触ると鼻血が本当に出ていた。
気を取り直して話を進める。
「アイリーン。最近の僕には、何度も死にかけた呪いが発動したりと、平凡ではいられないことが起こっっている。これから僕はもっと平凡ではなくなっていくだろう。
だから僕は、変わらなければいけないと思ったんだ」
「それに関してはわしも勘づいておったわ。ペリドットの周囲には何かある……もしかして、神に会ったか?」
「そうだ。神は僕に言ったんだ。『青い瞳の女性を助けろ』。それが誰なのか、何をすればいいのか僕には見当がつかないでいる」
「ふむ……わしにも分らんが、青い瞳を持つと言えばリノア王国の民かもしれんのう。少なくともここフィリスからは陸路で1年はかかるぞ」
「1年か……遠いな」
もし、僕がリノア王国を目指すとして、果たして1年で到達できるだろうか……この街から出たことすら無い僕が。
無理だ。
町の外には魔獣もいるし、東大陸にはここよりもっと強力な魔獣もいるだろう。
ここ中央大陸は安全な大陸なのだ。
だからだ。
僕は強くならなければいけない。
受け身の人生には別れを告げなければいけない。
僕は、僕の運命に立ち向かうと決めた。
「アイリーン」
「む、何じゃ?」
「僕を、弟子にしてくれないか?」
アイリーンは風を集めて芝生にゆっくりと降り立った。
音も無く、色も光も無く。
そして僕の方へ歩みを進める。
歩くたびに紫の髪が揺れ、寄り添うようにイヤリングも揺れた。
そして、ニヤリと口角を上げると嬉しそうに言った。
「ははは! なんじゃ考えることは一緒か。
わしもちょうどペリドットを勧誘しようと考えておったところじゃ。
魔術師の世界にな!」
◇◇◇
こうして僕はアイリーンの弟子になった。
魔術師の世界に足を踏み入れたということになる。
早速、僕はアイリーンの指導を……ということにはならなかった。
というのもアイリーンはフィリス国お抱えの魔術師で、意外なことにも多忙だった。
そういう理由もあり、僕はロベルトさんから師事を乞うこととなった。
ロベルトさんは鬼畜だ。
アイリーンの弟子で、つまりは僕の兄弟子にあたるロベルトさんは、とてつもなく恐ろしい人だった。
長身で金髪オールバック。
眼鏡をかけ、神経質で真面目。
〝英明の魔術師〟の異名を持つ、吸血鬼殺しのスペシャリスト。
そして超が付くほどのドS……いやスパルタ。
アイリーン師匠に弟子入りしてからの一週間、僕はほとんどの時間をロベルトさんと過ごした。
所謂、魔術のイロハを叩き込まれたのだが、僕には難し過ぎてなかなか理解が追いつかなかった。
ロベルトさんは「とにかくやれ」と突き放すような指導方針をとり、僕は応えようと毎日魔力を枯らした。
魔力の無かった僕に、ロベルトさんが初めて施したのが〝魔開〟という方法だった。
魔力の蓄積していない身体に、直接的に魔力の種を植え付けるのがこれにあたる。
植え付けられた魔力を体内にキープさせて、次第に馴染ませることによって、はじめて魔術を操作することができるようだ。
〝魔開〟
断言しよう。
僕はこの苦しみを一生忘れることはないだろう。
アミットの街の外れの丘の上にある、直視できない程に眩しく白いお屋敷に僕は来ていた。
大きなドアを叩くと、いつぞやのメイドが迎えてくれた。
笑顔の可愛らしい女性だ。
名前はティナさんと言う。
この館の主は、大都市アミットでも目を引くほどの豪邸に住み、なおかつ使用人を雇っている。
貴族か、それとも権力者か。
どちらかと言うと主は後者だが、その権力を振りかざしたりはしない。
それが自由の象徴とも言え、自由そのものとも言える。
「先日は大変お世話になりました。実は、本日伺ったのは______」
簡単な挨拶を済ませるとティナさんは屋敷の裏手に案内してくれた。
一面緑色の芝生が敷かれ、中央には控え目だが立派な噴水がある。
ちょっとした水泳大会なら開けてしまうような迫力。
一般市民にはこんなものがどうして自宅に必要なのか理解ができない。
少々浮世離れしたこの屋敷には、代々フィリスの国賓が住むことになっていた。
この館の現在の主人、つまり僕が今日訪ねて来た相手は、なんと宙に浮いていた。
胡坐をかいてゆらゆらと風に身を任せているように見える。
そしてそのままの姿勢で瞑想していたが、僕の存在に気が付くと振り返って手を振った。
「はは! 誰かと思えばペリドットではないか! どうした? 昨日会ったばかりなのに、もう寂しくなってしまったのか?」
「訓練中に邪魔したね。今日はアイリーンにお願いがあって来たんだ」
「なんじゃなんじゃ改まって……そ、そうか! サラちゃんを嫁がせたいというのなら大歓迎じゃ! 今すぐ式の準備を。
ティナ! ウェディングドレスの準備じゃ!!」
「はーい。お色はどうなさいますかー?」
「サラちゃんは純白じゃ! これでもかと言うほどの純白じゃ! わしは紫がいい! ラッキーカラーじゃからな!」
「あげるかー!! ていうかティナさんまで!!」
そうツッコミながらもサラのウェディングドレス姿を想像し、鼻血が出そうになる。
「相変わらず妹のこととなると、急に声が大きくなるやつじゃ。気持ちが悪いぞ。はは!」
「ふふ。ごめんなさい。お愉しくてつい」
ティナさんは口元を隠して笑った。
どうやらこの人も只者じゃない……
「ペリドット? 鼻血が出ておるぞ、大丈夫か?」
鼻を触ると鼻血が本当に出ていた。
気を取り直して話を進める。
「アイリーン。最近の僕には、何度も死にかけた呪いが発動したりと、平凡ではいられないことが起こっっている。これから僕はもっと平凡ではなくなっていくだろう。
だから僕は、変わらなければいけないと思ったんだ」
「それに関してはわしも勘づいておったわ。ペリドットの周囲には何かある……もしかして、神に会ったか?」
「そうだ。神は僕に言ったんだ。『青い瞳の女性を助けろ』。それが誰なのか、何をすればいいのか僕には見当がつかないでいる」
「ふむ……わしにも分らんが、青い瞳を持つと言えばリノア王国の民かもしれんのう。少なくともここフィリスからは陸路で1年はかかるぞ」
「1年か……遠いな」
もし、僕がリノア王国を目指すとして、果たして1年で到達できるだろうか……この街から出たことすら無い僕が。
無理だ。
町の外には魔獣もいるし、東大陸にはここよりもっと強力な魔獣もいるだろう。
ここ中央大陸は安全な大陸なのだ。
だからだ。
僕は強くならなければいけない。
受け身の人生には別れを告げなければいけない。
僕は、僕の運命に立ち向かうと決めた。
「アイリーン」
「む、何じゃ?」
「僕を、弟子にしてくれないか?」
アイリーンは風を集めて芝生にゆっくりと降り立った。
音も無く、色も光も無く。
そして僕の方へ歩みを進める。
歩くたびに紫の髪が揺れ、寄り添うようにイヤリングも揺れた。
そして、ニヤリと口角を上げると嬉しそうに言った。
「ははは! なんじゃ考えることは一緒か。
わしもちょうどペリドットを勧誘しようと考えておったところじゃ。
魔術師の世界にな!」
◇◇◇
こうして僕はアイリーンの弟子になった。
魔術師の世界に足を踏み入れたということになる。
早速、僕はアイリーンの指導を……ということにはならなかった。
というのもアイリーンはフィリス国お抱えの魔術師で、意外なことにも多忙だった。
そういう理由もあり、僕はロベルトさんから師事を乞うこととなった。
ロベルトさんは鬼畜だ。
アイリーンの弟子で、つまりは僕の兄弟子にあたるロベルトさんは、とてつもなく恐ろしい人だった。
長身で金髪オールバック。
眼鏡をかけ、神経質で真面目。
〝英明の魔術師〟の異名を持つ、吸血鬼殺しのスペシャリスト。
そして超が付くほどのドS……いやスパルタ。
アイリーン師匠に弟子入りしてからの一週間、僕はほとんどの時間をロベルトさんと過ごした。
所謂、魔術のイロハを叩き込まれたのだが、僕には難し過ぎてなかなか理解が追いつかなかった。
ロベルトさんは「とにかくやれ」と突き放すような指導方針をとり、僕は応えようと毎日魔力を枯らした。
魔力の無かった僕に、ロベルトさんが初めて施したのが〝魔開〟という方法だった。
魔力の蓄積していない身体に、直接的に魔力の種を植え付けるのがこれにあたる。
植え付けられた魔力を体内にキープさせて、次第に馴染ませることによって、はじめて魔術を操作することができるようだ。
〝魔開〟
断言しよう。
僕はこの苦しみを一生忘れることはないだろう。
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