闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

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第1章 ラスラ領 アミット編

26 恐怖の魔開

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魔開まかい
 それはとてつもない苦しみだった。

 殆どの人々のように魔力の無い者、もしくは魔力の乏しい者の体内に強制的に〝魔力の種〟を流し込み、それを体内に留める。
 それが成功すれば、その魔力の種を培養する。
 次第にその魔力は自身に馴染む。

 太古から使われているこの方法は、魔力を持たない一般人にとっては最もポピュラーだった。
 もちろんそれを施術する者は、それなりの魔術師でなければならない。
 魔力のコントロールは繊細で、誤ると対象者は死に至ることもあるという。

「小僧。今から『魔開まかい』を行う。恐いのならば帰って結構」

 ロベルトさんは僕のことを〝小僧〟と呼んだ。
 以前、屋敷で会ったときは客人として丁寧に扱ってくれたのだが、今は身内になったということで容赦がない。
 殺気立った目付きは、いちいち僕を緊張させた。

「恐くなどありません。よろしくおねがいします」

 上半身は裸になる。
 ロベルトさんに背を向けて座り、心を無にする。

 何も考えない。
 何も考えない。

 落ち着いて、そよ風でも感じていよう。
 いや、それじゃあ考えていることになるな。

 何も考えないことなんて出来るのか?

 僕は寝る時だって何か考えているし、夢は毎日見ている気がする。
 ということは考えていることになるよな……

 やっぱり無理なんじゃないのか?

 いやいやそんなこと言ってられない。
 とにかく今は何も考えてはいけないのだ。

 何も考えない……
 何も考えない……
 何も考えない……
 というのを考えない。

 無心___





 ___ガンっ!!!


 激痛が走る。
 僕は声をあげた。

「うがっ!!!!」

 声と共に口から何かが出て行ってしまった気がした。

「小僧。情けない声をあげるんじゃねえ。もう一度やり直しだ」

 今のをもう一度!?
 それよりも気になるのはロベルトさんの声色だ。
 火傷しそうなほどに冷たい。
 冷たすぎる。
 一体僕が何をしたというのだろう?


 次は声を出さずに我慢をした。
 体の中心に何かが流される感覚があった。
 それを保つように集中するが、留まらずに指先から全て漏れ出した。
 あまりの痛みで集中ができないのだ。

 もう一回。
 もう一回。
 もう一回。

 そんなことを繰り返して数十回。
 僕の肉体は内面からボロボロだ。

 ロベルトさんのイライラが手に取るように感じる。
 しかし、不思議なことに回数をこなすにつれ、段々とイメージが湧くようになっていた。


 そして94回目、僕は魔力を取り込むことに成功した。
 激痛を94回。
 僕の意識は朦朧もうろうとし、顔の筋肉までもが痙攣けいれんをしている。
 もう無理だ。
 帰りたい。
 そう言いそうになって言葉を飲み込んだ。

 今、無理をしないで、いつ無理をする?
 僕は意外な自分の一面を見た気がした。


「小僧。そのまま魔力を体内で練ろ。粘土遊びのイメージだ。丸、三角、四角、丸。魔力でかたどれ」

 む、難しい……。
 肉体の中の魔力の存在は認識できても、それを変形させるなんてできない。

 そうこうしているうちに、僕は気絶をした。



 ___三日目。

 30回目の魔開で魔力を取り組むことに成功。
 その魔力を、あくまでもイメージだが、体内で丸く型どることにも成功する。

 ところどころ不格好だが、丸は丸だ。
 絶対に無理だと思っていたことができる。
 それは僕の自信に繋がっていった。

 僕は毎日の訓練で動けなくなるまで魔力を使った。
 どうやら魔力は使えば使う程に限界値が増えるようだ。
 微微たるものだが成長している。
 少しづつ魔術師に近づいている。

「小僧。過大評価も大概にしろ。貴様の魔力は一般人の粋を超えてはいない。
 言うなれば『魔力っぽい匂いがする』。ただそれだけだ。
 残念だが、そういうやつが一番魔獣から襲われ易い。
 美味そうな匂いだからな」

 ゴクリ……
 なんて恐ろしいことを……


 その日は、体内で魔力を三角形にする途中で魔力が枯渇。
 僕は顔から芝生に倒れ込み気絶した。


 ___五日目。

 ようやく三角形を型どることに成功。
 三角形が作れたのなら四角形は簡単だった。
 この頃から、魔力が枯渇して気絶することもなくなった。

 四六時中、魔力の形を変えて訓練した。
 じっと座ったまま集中している僕を見て、リディアがちょっかいをかける。
 おいおい集中してるんだ。
 邪魔してくれるなよ相棒。

「おーい。何ぼーっとしてんのさ? もしもーし。えいっ」

 リディアが頬を突っつく。

 加減を知らない強めの頬突き。
 正直鬱陶うっとうしい……

「なに無視してんのさー。ていっ」

 チョップ。
 これでもリディアはいっぱしの剣士だ。
 そこそこ痛い。

「サラちゃんも、ほら」
「お兄ちゃん。てやっ!」

 サラのデコピン。
 心地良い。
 普段ならばどさくさ紛れに胸の一つでも触ってやる僕だが、今日は違う。
 生まれ変わったお兄ちゃんを見るがいい。

 と、女子二人の攻撃を無視し続けていると、いじけたようにリディアが言った。

「ちぇっ。可愛い妹と幼馴染みが構ってやってんのになー」
「でも、こんなに何かに打ち込んでいるお兄ちゃん見たことないかも」
「それはそれで残念な話だよな……」
「リディアさん。心配なんだよね?」
「ま、まあ心配って言えば心配だけど……。 まあすぐに妥協して元のペリドットに戻るさ! つまんねーから行こうぜサラちゃん」

 リディアはそう言ったが、今回の僕は一味違うと言っておこう。

「(お兄ちゃん。頑張って!)」

 拗ねるリディアと励ますサラ。
 魔術の習得に励む僕は非現実的な毎日に浸かりきっていた。
 どこか余裕を無くしていたのかもしれない。
 けれど二人との日常によって、明らかに僕の精神は健全さを取り戻していった。

 このとき、僕に必要だったのは彼女たちという存在だったのだ。
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