闇堕ちヒロインと呪われた吸血鬼は至極平凡な夢を見る〜吸血鬼になった僕が彼女を食べるまで〜

手塚ブラボー

文字の大きさ
39 / 53
第1章 ラスラ領 アミット編

38 不穏の始まり

しおりを挟む
「おいそこの男!! 止まれ!!」

 シルビアさんが叫んだが、止まれと言われて止まる奴がいるわけもなく、男はこちらに気が付いてスピードを上げた。
 その反応で男が何らかの悪事を働いていることが明白になった。

「先回りします! フィーナ!」
『OK! 行くよ! ウインド!』

 フィーナの魔術に合わせて僕は地面を強く蹴り、飛び上がった。
 全身に風を浴びてふわりと浮くと、周囲の建物の壁を蹴り上げて屋根の上へと着地した。

 タタンッ

「へぇ、やるじゃねえかペリドット! 俺だって」

 シルビアさんは両足を魔力で強化して一気に地面を踏み込んだ。
 ドンッッ
 恐るべきスピード。
 瞬く間に男の数歩手前まで跳躍し、伸ばした手は、男の背中に今にも触れそうだ。

 だが男も黙って捕まってはくれない。
 近くに並んでいたゴミ箱や看板なんかを見栄えなく倒しては、シルビアさん達の行く手を拒む。

 ガシャガシャっっ

「うわっ! 危ねぇ!」

 そんな中セブさんは、近くに転がっていた空き瓶を拾うと、男に向かって全力で投球した?
 空き瓶は目にも止まらぬ速さで回転し、シルビアさんの肩をかすめて更に突き進むと、男の後頭部に直撃した。

「グへっ」

 男はヒキガエルのような声を上げると、派手に地面に顔から倒れた。
 大きな袋が傍らに転がる。
 袋は内容物と共に転がっては止まった。

 僕は男の進行方向に降り立つと、挟み撃ちの要領で行く手を阻み、わざとらしく凄んで見せる。

「……大人しくするんだ。僕の闇魔術を食らいたくなければね」
(目くらましのスモークしか出せませんが)

 男は焦って逃げようとしたが、僕たち三人から囲まれて、今や逃げ場はない。

「ち、違うんだ! 俺は言われたとおりにやっただけなんだ!」

 何やら弁解を始めた男を横目に、セブさんは男の傍らにある大きな袋に駆け寄ると、中身を開けて確かめようとした。
 固く結ばれた縄をナイフで切ると、袋の中には小さな女の子の姿があった。
 生きている女の子だ。

 その女の子は口に猿ぐつわを噛まされ、両手両足共にロープで縛られている。
 少女の柔らかな肉体には到底似つかわしくないロープが、その体に痛々しく食い込んでいる。
 僕は一瞬目を背けたくなった。
 綺麗な身なりと高価そうな髪飾りから、少女がただの町娘ではないことが誰にでもわかった。

「んー! んー!」

 少女の猿ぐつわを外してやると、その少女は大声で喚いた。

「あんたただじゃ置かないんだからね!! パパが何者かわかってやってるんでしょうね!?」
「……う、ぐう…違うんだ」

 ……よかった。
 こんなに危険な目にあっても喚き散らす元気があるだなんて……僕は少し感心してしまった。

「誘拐か!? てめぇ! こんな少女を袋に詰め込んで、何が違うだ!?」
 シルビアさんは剣を抜いて男に構えた。
 演技めいたものを感じたが、初対面の男に対してはこのぐらいの態度が効果的なのかもしれない。

「ま、待ってくれ!! 俺は、から頼まれて!」

 セブさんが男の前に立つ。

「待つんだシルビア。おいお前、とは誰のことだ? 返答次第じゃ命は無いと思え」

 今度はセブさんが凄む。
 迫真だ。
 さすがは獣人とのハーフ、威圧感は半端じゃない。 

「か、勘弁してくれ! 俺が消されちまう!」

 男の顔色はすっかりと蒼白していた。

「分かった。ならば本部に連行だ。あそこには拷問好きのイカレたやつらが多い。まあ、俺たちはお前がどうなったって構いはしないがな」
「分かった! 言うよ! だから逃がしてくれないか?」
「おいおい、貴様は自分の立場がまだよく理解できていないようだな。まさか、自分がまだ捕まらないだなんて思ってるんじゃないか?」

 なんてことだ。
 セブさんは演技派だった。

 というかなんというか、この状況をセブさんは楽しんでいるようにも見える。
 そう思ってシルビアさんの方を見るとやっぱり彼もニヤニヤしていた。
 目の前の男と僕との温度差は果てしない。

「言うよ……だが死にたくはねぇ。だから約束してくれ! 俺を誰も来れないような独房に入れてくれ! しくじったと知られたら間違いなく消されちまう!」

 この男の必死さ、ただ事ではない。

「わかりました。約束しましょう。だけどに対する誘拐行為は重罪です。数年は出て来れないことは覚悟してください」
「おいペリドット、こんな奴の要望を聞いてやる必要はねえんだぜ?」
「こんなに怯えて、何かおかしいと思いませんか? 身の安全は約束します。その代わり、首謀者の名前を言うんです」

「ああ、感謝するぜ……首謀者はあんた達のよく知る人物だよ……名前は___」

 男が名前を口にしようとしたその瞬間、異様な音が聞こえてきた。
 バキバキバキ……
 その頭部は一瞬にして異常なまでに膨れ上がると、次の瞬間逆に小さく縮んだ。

「!!!」

 ___まずい。
 僕は反射的に少女の目を手で塞いだ。

 そして、縮みきった頭部は、熟したトマトのように音もなく破裂してしまった。

 破裂……しただと……?
 何が起こった?
 誰の仕業なんだ?
 ここには僕たちと男、そして少女しか居ないはずだろ

 僕たちは、予測できなかった事態の発生に、しばらくの間その場に立ち尽くした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

処理中です...