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第1章 ラスラ領 アミット編
39 ガーネットお嬢様
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頭部が破裂しただと……?
目の前で行われた衝撃的な光景に僕たちは言葉を失っていた。
「……と、とにかく本部に知らせましょう! セブさんは説明をお願いできますか?」
「ああ、任せろ」
「僕たちはこの娘を落ち着ける場所まで連れて行きます」
◇◇◇
本部の天幕には休憩スペースがあり、そこで少女から事情を聴くことにした。
「お怪我は有りませんでしたか?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっぴり怖かったけれど……う、うう……」
緊張の糸が切れたのか、少女は涙を流した。
「(しばらくはそっとしておいてあげましょう)」
「(ああ、しかしあの男、一体誰の名前を言おうとしたんだ? あの様子だと、口封じに殺されたと見てまず間違いはないだろうが……)」
「(何らかの魔術が掛けられていたのでしょうか。自白をトリガーにした呪縛の類かもしれません)」
「(ちっ、一気に食欲が失せちまったぜ……)」
しばらく僕たちは思い思いに思考を巡らせていた。
最後に男が言っていた言葉の意味するところを僕は考えていた。
『___首謀者は、あんた達のよく知る人物だよ……』
誰の名前を出そうとしていたんだ?
この団員の誰かなのか?
このラスラ騎士団の中に、この少女の拉致を企てた本人がいるってことなのか?
いや、所詮は犯罪者のたわ言。
鵜呑みにすべきではないのかもしれない。
組織の転覆を企てる輩なら、誤情報を流し込むこと自体、戦略としては有効だろう。
疑心暗鬼に陥った僕たちを内部から崩壊させるのにはうってつけだ。
しかしだ。
その企ては果たせなかった。
そう、実行犯は死んでしまったのだ。
シルビアさんの言うとおり口封じに殺されたのだろうけど。
だとしたらだ、このラスラ騎士団の内部に首謀者がいるという考察が現実味を帯びてきたのではないだろうか。
少女はと言うと、さっきまで静かに泣いていたが、今は医療班の女性団員が淹れた温かい飲み物を両手で持ちながら、それに映った自分の顔を眺めていた。
「兵士のお兄さん」
少女が僕を呼んだ。
「さっきは助けてくれてありがとう。私はガーネット。ガーネット・ミリシオン・ラスラよ」
「無事で何よりだよ。僕はペリドット・アーガイルだ。よろしくガーネッ……ト……んん? ラ……スラ?」
「ええ。ラスラ領のラスラ。つまりは領主の娘ってわけね。要するにこのラスラ領で一番偉いのが私のお父さん」
領主様のご令嬢!?
「そそそうだったんでございましょうか!!?」
「ふふふ。なんだか言葉が可笑しくってよ。緊張しないでくれると嬉しいわ。私はただの女の子よ」
「そ、それならばお屋敷までお送りいたしましょう。こんな狭いところは何ですし……。てっきり観光客の娘だとばかり……」
「いやよ! お屋敷には帰りたくないわ!」
「……なぜです? さっきの男と何か関係があるのでしょうか?」
少女は口をつぐんだ。
言いにくいことでもあるのだろうか。
そんな会話の途中で、シルビアさんが部屋に入ってきた。
ガーネットはシルビアさんをじっと見つめる。
シルビアさんもそれに応えるように幼気な少女に視線を送った。
目つきが悪いせいでガンを飛ばしているようにしか見えない。
「ちょ、ちょっとシルビアさん! そんなに睨みつけて……」
僕の言葉を遮るようにガーネットが立ち上がり、シルビアさんを指差しながら言った。
「あっ!! やっぱり見覚えがあると思ってたわ! あなたトレモンド家の不良息子じゃない!」
「はあ? 俺はお前なんか知らねえぞ? ていうか人に指を差してんじゃねえよ」
どうやらガーネットはシルビアさんのことを知っているらしい。
シルビアさんは勘当されたとはいえ、上級貴族の出だ。
知られていてもおかしくはない。
「失礼しちゃうわ! さすがは放蕩バカ息子ね! 許嫁の顔を忘れるだなんて!! 最低! あんたなんか死んじゃえ!!」
「許嫁って……お前まさかガーネットか!? おいおい何年ぶりだ? お前デカくなったな!」
「フィ、許嫁ェェェェェッ!!??」
「なんだようるせえな」
「そうよ。6年ぶりかしら。あのとき私は6歳だったわ。あなたがトレモンド家を出たと知って驚いた! 一体いままで何してたのよ?」
「お前こそ、なんで誘拐されてんだよ! 侍女や執事は何してる!」
「わ、私は……ジェンキンスに売られたのよ! もう信じられる人なんて、一人もいないわ……」
ガーネットは力なく椅子に沈むように腰かけた。
ジェンキンスと言うのは、ラスラ領を統治するミリシオン家に長年仕えている執事長の名だ。
執事長といってもただの従業員ではない。
先祖代々ミリシオン家に仕えてきたこともあり、政治面においても口を出すことが許されている。
特にジェンキンスは領主様が幼少期から長年執事業に従事していることから、ミリシオン家では絶対的な地位を築いていた。
___ガーネット本人が語るところによると、ここ数か月の間、父親である領主様を始めミリシオン家の者はどこか様子がおかしいのだそうだ。
ひょっとすると何か悪いことが始まっているのではないのかと、ガーネットは警戒していた。
そんな矢先の事件である。
感謝祭の混乱に乗じての犯行。
ミリシオンん家が騒いでいないのも考えれば不自然だ。
”もう信じられる人なんて、一人もいないわ……”
ガーネットは一族の犯行だと思っている。
一族からの裏切り。
この12歳の少女の肩に乗せるには、あまりに残酷な現状だ。
どれだけの恐怖と悲しみと不安を、彼女は突き出されているのだろう。
「___そうね」
意を決したように、はたまた自分に言い聞かせるように、ガーネットは立ち上がってこう言った。
「シルビア! 私を匿って頂戴!」
目の前で行われた衝撃的な光景に僕たちは言葉を失っていた。
「……と、とにかく本部に知らせましょう! セブさんは説明をお願いできますか?」
「ああ、任せろ」
「僕たちはこの娘を落ち着ける場所まで連れて行きます」
◇◇◇
本部の天幕には休憩スペースがあり、そこで少女から事情を聴くことにした。
「お怪我は有りませんでしたか?」
「ええ、大丈夫よ。ちょっぴり怖かったけれど……う、うう……」
緊張の糸が切れたのか、少女は涙を流した。
「(しばらくはそっとしておいてあげましょう)」
「(ああ、しかしあの男、一体誰の名前を言おうとしたんだ? あの様子だと、口封じに殺されたと見てまず間違いはないだろうが……)」
「(何らかの魔術が掛けられていたのでしょうか。自白をトリガーにした呪縛の類かもしれません)」
「(ちっ、一気に食欲が失せちまったぜ……)」
しばらく僕たちは思い思いに思考を巡らせていた。
最後に男が言っていた言葉の意味するところを僕は考えていた。
『___首謀者は、あんた達のよく知る人物だよ……』
誰の名前を出そうとしていたんだ?
この団員の誰かなのか?
このラスラ騎士団の中に、この少女の拉致を企てた本人がいるってことなのか?
いや、所詮は犯罪者のたわ言。
鵜呑みにすべきではないのかもしれない。
組織の転覆を企てる輩なら、誤情報を流し込むこと自体、戦略としては有効だろう。
疑心暗鬼に陥った僕たちを内部から崩壊させるのにはうってつけだ。
しかしだ。
その企ては果たせなかった。
そう、実行犯は死んでしまったのだ。
シルビアさんの言うとおり口封じに殺されたのだろうけど。
だとしたらだ、このラスラ騎士団の内部に首謀者がいるという考察が現実味を帯びてきたのではないだろうか。
少女はと言うと、さっきまで静かに泣いていたが、今は医療班の女性団員が淹れた温かい飲み物を両手で持ちながら、それに映った自分の顔を眺めていた。
「兵士のお兄さん」
少女が僕を呼んだ。
「さっきは助けてくれてありがとう。私はガーネット。ガーネット・ミリシオン・ラスラよ」
「無事で何よりだよ。僕はペリドット・アーガイルだ。よろしくガーネッ……ト……んん? ラ……スラ?」
「ええ。ラスラ領のラスラ。つまりは領主の娘ってわけね。要するにこのラスラ領で一番偉いのが私のお父さん」
領主様のご令嬢!?
「そそそうだったんでございましょうか!!?」
「ふふふ。なんだか言葉が可笑しくってよ。緊張しないでくれると嬉しいわ。私はただの女の子よ」
「そ、それならばお屋敷までお送りいたしましょう。こんな狭いところは何ですし……。てっきり観光客の娘だとばかり……」
「いやよ! お屋敷には帰りたくないわ!」
「……なぜです? さっきの男と何か関係があるのでしょうか?」
少女は口をつぐんだ。
言いにくいことでもあるのだろうか。
そんな会話の途中で、シルビアさんが部屋に入ってきた。
ガーネットはシルビアさんをじっと見つめる。
シルビアさんもそれに応えるように幼気な少女に視線を送った。
目つきが悪いせいでガンを飛ばしているようにしか見えない。
「ちょ、ちょっとシルビアさん! そんなに睨みつけて……」
僕の言葉を遮るようにガーネットが立ち上がり、シルビアさんを指差しながら言った。
「あっ!! やっぱり見覚えがあると思ってたわ! あなたトレモンド家の不良息子じゃない!」
「はあ? 俺はお前なんか知らねえぞ? ていうか人に指を差してんじゃねえよ」
どうやらガーネットはシルビアさんのことを知っているらしい。
シルビアさんは勘当されたとはいえ、上級貴族の出だ。
知られていてもおかしくはない。
「失礼しちゃうわ! さすがは放蕩バカ息子ね! 許嫁の顔を忘れるだなんて!! 最低! あんたなんか死んじゃえ!!」
「許嫁って……お前まさかガーネットか!? おいおい何年ぶりだ? お前デカくなったな!」
「フィ、許嫁ェェェェェッ!!??」
「なんだようるせえな」
「そうよ。6年ぶりかしら。あのとき私は6歳だったわ。あなたがトレモンド家を出たと知って驚いた! 一体いままで何してたのよ?」
「お前こそ、なんで誘拐されてんだよ! 侍女や執事は何してる!」
「わ、私は……ジェンキンスに売られたのよ! もう信じられる人なんて、一人もいないわ……」
ガーネットは力なく椅子に沈むように腰かけた。
ジェンキンスと言うのは、ラスラ領を統治するミリシオン家に長年仕えている執事長の名だ。
執事長といってもただの従業員ではない。
先祖代々ミリシオン家に仕えてきたこともあり、政治面においても口を出すことが許されている。
特にジェンキンスは領主様が幼少期から長年執事業に従事していることから、ミリシオン家では絶対的な地位を築いていた。
___ガーネット本人が語るところによると、ここ数か月の間、父親である領主様を始めミリシオン家の者はどこか様子がおかしいのだそうだ。
ひょっとすると何か悪いことが始まっているのではないのかと、ガーネットは警戒していた。
そんな矢先の事件である。
感謝祭の混乱に乗じての犯行。
ミリシオンん家が騒いでいないのも考えれば不自然だ。
”もう信じられる人なんて、一人もいないわ……”
ガーネットは一族の犯行だと思っている。
一族からの裏切り。
この12歳の少女の肩に乗せるには、あまりに残酷な現状だ。
どれだけの恐怖と悲しみと不安を、彼女は突き出されているのだろう。
「___そうね」
意を決したように、はたまた自分に言い聞かせるように、ガーネットは立ち上がってこう言った。
「シルビア! 私を匿って頂戴!」
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