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第1章 ラスラ領 アミット編
40 ようこそ我が家へ
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ガーネットお嬢様は身を隠すことにした。
やはり身内に敵がいるというのは恐ろしいことで、12歳の少女にとってそれは世界の終わりと同じように不安だった。
幸いにも、シルビアさんとガーネットお嬢様は旧知の仲で、なんと許嫁同士だった。
その再開はやはりガーネットお嬢様にとっても喜ばしいことだった。
初対面で許嫁だと気が付かないシルビアさんに一抹の不安を抱えながらも、僕たちは出来る限りの支援をしようと決めた。
それからお嬢様はシルビアの部屋で暮らすことに。
……とはならなかった。
「______で、なんでうちなんですか……?」
「しょうがねえだろ? 男一人の部屋に泊めるって言うのか? お前んちはサラちゃんやおばさんもいるし、その点は安心だろ?」
「まあ、父さんもしばらく任務で出てるし、全然かまわないんですけど」
「いらっしゃい! ガーネットちゃん! 私、ずっと妹が欲しかったのー!」
「よろしくお願いします……うわぁ、お人形さんみたいに綺麗……」
ガーネットお嬢様はサラの美しさに見惚れていた。
そうでしょうそうでしょう。
彼女は天使なのですよ。
お嬢様もそのご年齢にしては落ち着いていて可愛らしいですが。
とは、思っただけで言わない。
「(領主様の娘だってのは伏せとけよ)」
「(わかってますよ。知ったらみんな普通じゃいられません)」
「お兄ちゃんも人助けができるようになったんだねっ。お疲れ様っ!」
「サラ。まあ仲良くしてあげてよ」
「妹君に続いて、またしてもわしの前にかわい子ちゃんじゃ! ペリドットよ感謝するぞ!」
「師匠、なんでいるんだよ……」
アイリーンはたびたびうちに遊びに来るようになった。
特に呼んでもいないのにやってきてはサラや母さんとお茶をしていたりする。
父さんとも懇意にしていて、二人ともお酒が入ると僕に対するダメ出しで盛り上がっていたりする。
恐らく僕よりも父さんと仲がいい。
嫉妬しているわけではないけれど、僕が父さんとの間に感じている気まずさのようなものをアイリーンが感じることは無い。
その、僕が解消できないでいるわだかまりとも言えない小さなものが、それは僕にしか感じることのできないものなのだろうけれども、それが無いことは素直に羨ましいと感じるのだった。
「今日はサラちゃんを独占しておったのじゃ! ペリドットが構ってくれぬからじゃぞ!」
サラを独占?
何という甘美な響きか。
一度は味わってみたいものだ。
「そうだよお兄ちゃん。アイリーンさんのこと構ってあげなきゃダメじゃない! そうだ、私いいこと思いついちゃったー! 今夜はリディアさんも呼んで、ガーネットちゃんの歓迎会を開こうよ!」
「いいの!? 嬉しい! シルビアあなたも来なさいよ!」
「しょうがねーなー」
シルビアさんは仕方なさそうに返事をしていたが、やはりお嬢様との再会を喜んでいるのだろうか、表情がいつもより優しい。
「もしかして、あんたがあの有名な幻想の魔術師か? ペリドットと知り合いだったとは驚いたぜ」
「そうじゃ! ペリドットとは魂で結ばれておるぞ」
『フィーナもペリドットと精神で結ばれてるんだからっ!』
耳元で可愛らしい声が聞こえたが、いつもよりも尖って聞こえる。
ひょっとしてフィーナは嫉妬をしているのだろうか。
何にせよ、フィーナの声は僕を優しい気持ちにさせる。
「それにしてもよ、幻想の魔術師がこんな子供だったとは驚いたぜ」
「ピチピチじゃと言ってくれ。偉大な魔術師は年齢さえも超越するのじゃよ」
「てことはその見た目も魔術で作ってんのか?」
失礼な質問だがシルビアさんに悪気はない。
こういう質問を平気でしてしまう人なのだ。
その割に女性にはモテる。
粗暴な態度と、意外に面倒見がいいところとのギャップが原因だろうか、一体どういうカラクリなんだ。
是非とも教えてもらいたいのだが。
「だいたいわしは15のお年の頃から見た目は変わっておらぬのう。と言っても年相応の見た目になる事もできるし、成長過程の全盛期にもなれる。まあ時魔術の面白いところじゃな」
「へえー。じゃあ今よりももっと大人にもなれるってのか?」
大人バージョンのアイリーンか……
うまく想像ができないな……
「もちろんじゃ。時魔術はすごいのじゃよ。
してトレモンド家の放蕩息子よ、曲者だと聞いておったが案外優しい目をしておるようじゃな。
ラスラ騎士団に入団するとは改心でもしたのか?」
「どうして俺のことを知ってるんだ?」
「わしは何でも知っておるんじゃっ!」
エッヘン、と言わんばかりのアイリーンだった。
「そんなことよりペリドット。俺よ……誰か忘れてるような気がするんだよな……誰だっけ?」
「え? 誰のことです?___」
確かに誰か……もう一人いたような……
「「…………あ!!」」
◇◇◇
___ここはアミットのとある路地裏。
新人団員のセブは一人たたずんでいた。
「______へっくしゅん!
風邪でも引いたかな……あいつらも帰って来ないし、どうなってるんだよ……
ったく今日は嫌なものを見てしまった。
鑑識班の連中も気持ち悪そうにしていたな。
あの匂い、鼻腔に残ってしょうがない」
獣人の血が流れるセブにとって、血の匂いは野生を呼び覚ますようで不快そのものだ。
「……ふー寒い。そろそろ帰るとするか」
その頃、ペリドット達はパーティの買い出しに出掛けていた、なんてことは彼は知る由もないのであった。
「やれやれ、しばらくトマトは食えないな……」
やはり身内に敵がいるというのは恐ろしいことで、12歳の少女にとってそれは世界の終わりと同じように不安だった。
幸いにも、シルビアさんとガーネットお嬢様は旧知の仲で、なんと許嫁同士だった。
その再開はやはりガーネットお嬢様にとっても喜ばしいことだった。
初対面で許嫁だと気が付かないシルビアさんに一抹の不安を抱えながらも、僕たちは出来る限りの支援をしようと決めた。
それからお嬢様はシルビアの部屋で暮らすことに。
……とはならなかった。
「______で、なんでうちなんですか……?」
「しょうがねえだろ? 男一人の部屋に泊めるって言うのか? お前んちはサラちゃんやおばさんもいるし、その点は安心だろ?」
「まあ、父さんもしばらく任務で出てるし、全然かまわないんですけど」
「いらっしゃい! ガーネットちゃん! 私、ずっと妹が欲しかったのー!」
「よろしくお願いします……うわぁ、お人形さんみたいに綺麗……」
ガーネットお嬢様はサラの美しさに見惚れていた。
そうでしょうそうでしょう。
彼女は天使なのですよ。
お嬢様もそのご年齢にしては落ち着いていて可愛らしいですが。
とは、思っただけで言わない。
「(領主様の娘だってのは伏せとけよ)」
「(わかってますよ。知ったらみんな普通じゃいられません)」
「お兄ちゃんも人助けができるようになったんだねっ。お疲れ様っ!」
「サラ。まあ仲良くしてあげてよ」
「妹君に続いて、またしてもわしの前にかわい子ちゃんじゃ! ペリドットよ感謝するぞ!」
「師匠、なんでいるんだよ……」
アイリーンはたびたびうちに遊びに来るようになった。
特に呼んでもいないのにやってきてはサラや母さんとお茶をしていたりする。
父さんとも懇意にしていて、二人ともお酒が入ると僕に対するダメ出しで盛り上がっていたりする。
恐らく僕よりも父さんと仲がいい。
嫉妬しているわけではないけれど、僕が父さんとの間に感じている気まずさのようなものをアイリーンが感じることは無い。
その、僕が解消できないでいるわだかまりとも言えない小さなものが、それは僕にしか感じることのできないものなのだろうけれども、それが無いことは素直に羨ましいと感じるのだった。
「今日はサラちゃんを独占しておったのじゃ! ペリドットが構ってくれぬからじゃぞ!」
サラを独占?
何という甘美な響きか。
一度は味わってみたいものだ。
「そうだよお兄ちゃん。アイリーンさんのこと構ってあげなきゃダメじゃない! そうだ、私いいこと思いついちゃったー! 今夜はリディアさんも呼んで、ガーネットちゃんの歓迎会を開こうよ!」
「いいの!? 嬉しい! シルビアあなたも来なさいよ!」
「しょうがねーなー」
シルビアさんは仕方なさそうに返事をしていたが、やはりお嬢様との再会を喜んでいるのだろうか、表情がいつもより優しい。
「もしかして、あんたがあの有名な幻想の魔術師か? ペリドットと知り合いだったとは驚いたぜ」
「そうじゃ! ペリドットとは魂で結ばれておるぞ」
『フィーナもペリドットと精神で結ばれてるんだからっ!』
耳元で可愛らしい声が聞こえたが、いつもよりも尖って聞こえる。
ひょっとしてフィーナは嫉妬をしているのだろうか。
何にせよ、フィーナの声は僕を優しい気持ちにさせる。
「それにしてもよ、幻想の魔術師がこんな子供だったとは驚いたぜ」
「ピチピチじゃと言ってくれ。偉大な魔術師は年齢さえも超越するのじゃよ」
「てことはその見た目も魔術で作ってんのか?」
失礼な質問だがシルビアさんに悪気はない。
こういう質問を平気でしてしまう人なのだ。
その割に女性にはモテる。
粗暴な態度と、意外に面倒見がいいところとのギャップが原因だろうか、一体どういうカラクリなんだ。
是非とも教えてもらいたいのだが。
「だいたいわしは15のお年の頃から見た目は変わっておらぬのう。と言っても年相応の見た目になる事もできるし、成長過程の全盛期にもなれる。まあ時魔術の面白いところじゃな」
「へえー。じゃあ今よりももっと大人にもなれるってのか?」
大人バージョンのアイリーンか……
うまく想像ができないな……
「もちろんじゃ。時魔術はすごいのじゃよ。
してトレモンド家の放蕩息子よ、曲者だと聞いておったが案外優しい目をしておるようじゃな。
ラスラ騎士団に入団するとは改心でもしたのか?」
「どうして俺のことを知ってるんだ?」
「わしは何でも知っておるんじゃっ!」
エッヘン、と言わんばかりのアイリーンだった。
「そんなことよりペリドット。俺よ……誰か忘れてるような気がするんだよな……誰だっけ?」
「え? 誰のことです?___」
確かに誰か……もう一人いたような……
「「…………あ!!」」
◇◇◇
___ここはアミットのとある路地裏。
新人団員のセブは一人たたずんでいた。
「______へっくしゅん!
風邪でも引いたかな……あいつらも帰って来ないし、どうなってるんだよ……
ったく今日は嫌なものを見てしまった。
鑑識班の連中も気持ち悪そうにしていたな。
あの匂い、鼻腔に残ってしょうがない」
獣人の血が流れるセブにとって、血の匂いは野生を呼び覚ますようで不快そのものだ。
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その頃、ペリドット達はパーティの買い出しに出掛けていた、なんてことは彼は知る由もないのであった。
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