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第149話 「ずれゆく歯車」
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ロッカールームで擦り傷に消毒液を塗ると、強い痛みが走った。
我慢できないことはないが、それでも思わず蓮司は顔に皺を寄せる。
「ッ~てぇ……っくっくっく」
傷を拭った脱脂綿に、血の赤と芝の緑が滲む。転倒時にできた傷なのでさほど深くはないが、範囲が広い。擦過傷がもつ独特の火傷のような熱を、膝から脛にかけて感じる。殺菌の痛みは一瞬で、引いていくと同時にくすぐられたみたいな笑いが思わず零れてしまう。
「三回戦突破、次勝てばベスト8だ。くっくっく」
金俣のヒッティング・パートナーとして、蓮司はイギリスを訪れていた。しばらく日本を離れることになるが、海外遠征の経験を積むまたとない機会だ。とはいえ、体面的には金俣の練習相手としてだが、実際は雑用係。要するに都合の良い使いっ走り要員だ。金俣ほどの実績を出せている選手なら、わざわざ未成年の学生を選ばずとも人員には事欠かない。それを敢えて選んでくれたのは、金俣なりに後進の育成を考えてのことだろう。或いは、自分の将来性に期待してか。そんなことを考えながら、蓮司は降って湧いた機会を逃すまいと二つ返事で了承し、意気揚々と金俣に同行した。
「なにをニヤニヤしてやがる、気持ち悪ぃ」
「あ、金俣さん! お疲れ様です!」
「今日でベスト16か。順調だな」
「マジで金俣さんのお陰です。ありがとうございます!」
得意げな表情を浮かべて蓮司が感謝の言葉を口にする。海外で、しかもテニスの本場であるイギリスの大会で勝利できたことは、蓮司にとってこの上ない幸福だ。そもそも、この遠征では自分が試合に出ることなど想定していなかった。しかし、出国前の段階から必死に金俣の供回りをこなす蓮司に、金俣が伝手を使って大会出場の機会を与えてくれた。ウインブルドンからさほど遠くない、リッチモンドという都市で行われるチャレンジャーズ大会に出場し、蓮司は順調に勝ち上がっていた。
「次の相手は?」
「地元出身で、ベテランのキーファって選手です」
「アイツか。若い頃は割と上にいってたな」
「戦ったことあるんですか?」
「ない。良くも悪くも、目立たない選手だった」
ふーん、と相槌をうちながら、蓮司は傷の手当を続ける。その様子からは、どこか上機嫌さが伺えた。試合に勝利した直後ゆえ、それも無理からぬことだろう。そんな蓮司の様子を見ながら、金俣が露骨に圧をかけた。
「アウェイとはいえ、三十代後半で下部大会にしがみついているようなヤツだ。若手のオマエが遅れをとるなよ。そもそも、この程度の大会でコケるようじゃ、わざわざ手を回してやったオレの顔に泥を塗ることになるんだからな。それに、いい加減それなりの結果を出さないと、せっかくついたスポンサーが良い顔をしないだろう」
今回蓮司が出場しているのは、優勝して当たり前の大会かというと全くそんなことはない。現に、最前線を退いているとはいえ、キーファのような元上位選手は他にも参加している。だが、優勝してもおかしくないレベル、ではある。金俣の真意がどこにあるにせよ、厚意で出場させて貰っている立場の蓮司としては、ここでしっかり結果を出さねば恩を仇で返すことになってしまう。
「うっす。絶対、優勝してみせますよ」
「あぁ、期待してるぞ」
宿泊先へ戻ると、蓮司は入念に翌日の準備へと取り掛かった。
★
天然芝コートの存在は、テニスの歴史を語る上で切り離せない。テニス発祥から現代まで、およそ千年。長い歴史を経るなかで道具やルールは目まぐるしく変化したが、そのなかで唯一、天然芝コートの存在は今も変わることなく存在する。当然ながら、維持管理の問題で徐々にその数は減っているが、テニスというスポーツのある種シンボルともいえる天然芝コートが消えてなくなることは、恐らくないだろう。
ハード、クレー、オムニといったサーフェスのなかで、最も球足が速い天然芝コート。加えてイレギュラーの起こり易さはクレーに匹敵し、大会を通じて番狂わせが生じる確率も高く、最も難しいサーフェスといえるだろう。コート数の多いハードやクレーで育った選手たちは、その青々とした美しい芝の舞台で、地力と対応力を求められることになる。
(クッソ、マジかよこの人……!)
第一セットを落とした蓮司は、対戦相手であるキーファの鮮やか過ぎるプレーに苦戦を強いられていた。年齢差は蓮司からみてちょうど倍。今年三十五歳のキーファは、まるで年齢を感じさせない驚異的なパフォーマンスをみせ、十七歳の蓮司を圧倒していた。
(球際の処理がメチャクチャうめぇ。ポジショニングも的確で隙がねぇし、こっちが様子見しようとした瞬間、一気に攻めて来る。何より、アプローチの精度がえげつない。ちょっとでも視線が切れたら即スニークインしてきやがる。っつーか、基本的なフィジカルが強すぎだろ。三十五歳の動きじゃねぇぞ。同世代でも、ここまで動けるヤツはそういねぇ……!)
ほぼ何もさせて貰えず、先行された蓮司。打開策を考えるが、頭のなかで行うシミュレーションは何をしても成功のイメージがわいてこない。せめて自分のサービスゲームだけは確実にキープしようと作戦を組み立てるが、それを考えている時点で完全に後手へと回っている証拠だ。
(クソ、何かないのか)
コートチェンジでベンチに座りながら、蓮司はヒントを求めてキーファの方を盗み見る。だが、タオルを頭から被っているキーファの表情は窺い知れない。仮に顔が見えたところで、何が分かるわけでもない。蓮司は焦りと苛立ちから唇を噛み、忌々し気に横目で睨みつける。そしてふと、ある違和感に気付く。キーファの右膝の周辺に、僅かだが皮膚の色が違う部分があった。日焼けをしていないのだ。それを見て蓮司はピンとくる。キーファは恐らく最近まで、膝にサポーターを取り付けていたのだろう。
(いや、待て。そういえば)
対戦相手に関する記憶を手繰る蓮司。そしてキーファが、右膝の怪我で一時期戦線を離脱していたことを思い出す。だがキーファはもう一年以上前に戦線復帰しており、既にリハビリは終わっているはずだ。練習の際、予防のためにサポーターをつけているのだろう。ただ或いはもしかすると、まだ不安を抱えている可能性もあるかもしれない。
(……やってみるか)
小さな可能性に賭け、蓮司は作戦を練り直す。
狙うは、キーファの非利き手側。
それも、なるべく負担がかかるような配球で。
キーファのバックハンドは、最近では珍しくなった片腕一本。その為、バック側に集めると精度の高いスライスが返ってくることが多い。天然芝コートでは低い軌道で滑るスライスが非常に有効で、打たれるだけでもかなり厄介だ。他のサーフェスであればディフェンシブなショットとなるスライスだが、こと天然芝コートにおいては、強力なオフェンシブショットになり得る。だからこそ、蓮司は試合序盤キーファにバックを打たせまいとしてきていた。
(けど、回り込まれるともっとヤバい。順クロスを混ぜて、球威より角度重視!)
蓮司はまず、ポイントを奪うことより、イメージ通りの展開作りを優先する。既に先行され苦しい状況であるがゆえに、本音を言えばいち早く突破口を掴みたい。だが、相手のプレーが想定を超えていた以上、ことを焦って攻め急げば自滅を起こしかねない。ここは辛抱強く耐える場面だと、自分に言い聞かせた。
「Game、Kiefer. 3-0」
しかし、蓮司の我慢はなかなか実らない。
第一セットの時よりもラリー数は増えているが、それだけだ。
(無駄か? いや、絶対効くはずだ……!)
蓮司の採った作戦は、言うなれば長期戦。恐らくは右膝に不安があるであろうキーファに対し、負担が蓄積するよう仕掛け続ける。ボクシングでいうならば、一発逆転のカウンター狙いではなく、堅実にボディブローを入れ続ける戦い方だ。もちろん、無駄骨に終わる可能性は充分にある。キーファがさらにギアを上げ、仕留めに掛かってきたら、いよいよまずい。とはいえ、現状勝利に繋がりそうな作戦は、これ以外に見当たらない。
(っくしょう、まだかよ!)
一向に手応えを感じられぬまま、試合が進行する。いっそ我慢などせず、フルパワーで攻撃に転じた方が状況を変えられるのではないかと、そんな誘惑に駆られそうになる。恐らくキーファも、蓮司の狙いに気付いているはずだ。一気に仕留めに来ないのは、相手の意図を看破した状態で戦う方が、向こうとしては戦い易いからなのではないか。右膝に負担などなく、最近までサポーターをしていたのは、あくまで予防のために過ぎなかったのではないか。徐々に高まる、自分が選んだ作戦への疑心。それは雨雲のように黒く重く、、蓮司の心に広がっていく。だが、雨粒よりも先に光が見えた。思わぬところで、キーファが転倒したのだ。
「ッ!」
蓮司は一度、キーファのフォア側へボールを打っていた。難なく反応するキーファの返球を、切り返す形でバック側へ。これまでと同様、あっさりと処理されるかに思われたそれは、しかしキーファの転倒によって蓮司のポイントとなり、チャンスを掴んだ。
(きた!)
思わず叫びそうになるのを、蓮司は辛うじて堪える。転倒したキーファが苦しそうに座り込んでいたお陰で、どうにか自制心を保つことができた。蓮司の作戦は功を奏し、欲しかった成果を得ることができた。ただその一方で、相手の怪我に付け込んだ罪悪感がジワリと心の中に染みを作る。喜びと不安の狭間で、蓮司は対戦相手の姿に視線を向けた。
「大丈夫、問題ないさ」
状態を尋ねる主審に落ち着いた様子でそう答え、キーファは間もなく立ち上がった。肘や膝を多少擦りむいたようだが、特に足を捻ったり痙攣が起こっている様子はない。タイムアウトを取るでもなく、試合はすぐに再開される。それが分かると、蓮司は胸を撫で下ろすと共に、内心で小さく舌打ちする。怪我をされるのは同じ選手として不本意だが、痙攣ぐらいは起こっていて欲しかったと、身勝手な気持ちになる。
(関係ねぇ、っていうか、効いてる。狙い通りだ!)
再びネット越しに相対する両者。果敢にファイトするキーファへ、観客たちが声援と拍手を送る。地元出身の選手ということもあり、試合開始からずっと会場の応援はキーファ一色だったが、その気配は先ほどのポイントでより強まった。
(アウェイ上等! ワリィけど、手は抜かねぇし容赦もしねぇ!)
作戦への手応えと周囲の状況が、蓮司の反骨心に火を点ける。一気に攻めたい気持ちを堪えながら我慢し続け、遂に蓮司が逆転で第二セットを奪い返した。セットカウントが並び、状況は振り出しに戻る。流れという点で見れば、形勢は蓮司に傾きつつあるといってもいいかもしれない。
(っし、こっから! 絶対勝つ!)
我慢して戦った分、身体の疲労は感じるが、それを闘争心で塗り潰す蓮司。
自らを鼓舞し、手繰り寄せた勝機を離すまいと強く決意する。
一方、相手のキーファは先ほどと同じようにタオルで顔を覆っている。静かに、深く深呼吸をしながら、集中力を高めてゆく。声援に反応することもなく、己の世界へ沈み込むように。身体の熱と外気の差によって、肩から湯気が薄っすらと、幽かに立ち上る。その様子は、さながら座禅を組んで精神統一を行う修行僧だ。やがて、タオルを顔からとってベンチにかけ、ゆっくりした足取りでコートへ向かった。その際に一瞬だけ、蓮司はキーファと目が合った。
(……なんだ?)
キーファと視線が交わった瞬間、蓮司は違和感を覚える。それはとても小さなものだったが、しかし確実に感じ取った。普段の蓮司なら、気のせいだと一顧だにせず流していたかもしれない。試合への集中が、その僅かな異変の兆しを見逃さなかった。しかしとはいえ、蓮司は何故そう感じたのか、すぐには分からない。メディカルタイムアウトを要求しなかったのはやや意外だったものの、そういうことではない。少し考えて、引っ掛かったのはキーファの表情だと思い当たる。一瞬だけ交わった彼の瞳に、見過ごせない何かが映っているように思えたのだ。否、より正確には、何も映っていなかったのだ。
虚無。
言い表すなら、そんな言葉。虚ろで何も無い、ぽっかりと空いた穴。勝利を目指し、出来ることは全てやり尽くそうと覚悟を決めている蓮司とは、あまりにもかけ離れている。セットを奪われ気落ちしたとか、怪我に不安を覚えているとか、勝ちきれなかったことに怒りを覚えているとか、そういう負の感情さえ無い。勝敗を懸けて戦っている、という感情そのものが欠落している。勝負の最中、優勢にせよ劣勢にせよ、戦う者は何かしら感情が宿っているものだ。しかし先ほど目にしたキーファの瞳には、何も無い。そんな風に見えたことで、蓮司はキーファと自分の間に、何か決定的なズレのようなものを感じとった。
(関、係ねぇ。このままいく)
その異常さに、気付けば呑まれかけている。そう自覚した蓮司は、違和感をハッキリと感じてなお、無視することにした。そもそも、相手が試合中にどのような精神状態であるかなど、関係ない。いや、強気か弱気かといった相手の心理状態を把握することが重要なのは、充分承知している。ただ、その情報を元に戦術の参考にすることはあっても、それはあくまで一つの情報に過ぎない。異変は確かに嗅ぎ取ったが、現状で勢いに乗っているのは蓮司の方だ。留意すべき要素であることは確かだが、作戦の変更を決断するほどではない。そう結論付けた。
(油断はしねぇぞ。オレが勝つんだ)
克己心を高め違和感を振り払い、蓮司は最終セットに挑む。
★
日本を出発してから、乗り換え時間を含めておよそ17時間近い空の旅を経て、雪咲雅はようやくイギリスのヒースロー空港へと到着した。海外遠征自体はそれなりに経験しているが、日本からヨーロッパとなるとさすがに疲労を感じる。飛行機のなかでは比較的長く眠れるタチなので、幸い時差ボケは無い。とはいえ、それでも言い知れぬ身体の倦怠感に不快さを感じてしまう。大会の開始まで数日あるので、それまでに身体をしっかり整えなければならない。
(ここからバーミンガムまで、バスで三時間か。節約の為とはいえ……)
荷物を受け取りながら、溜息を吐く。顔見知りではあるが、友人とまではいかない他の女子選手たちに混じって、ミヤビは高速バスへと乗り込んだ。売店でオレンジジュースだけを買い、座席でひとくち飲む。日本のものより、だいぶ味が濃い。宿に着いたら、すぐにでも持参した日本のインスタント食品を食べようと心に決めた。
長時間の移動を終え、十六時過ぎにホテルへ到着した。道中で一緒だった選手と練習することになっているが、約束までは多少時間が空いている。バーミンガムは初めてなので、宿の周辺をぶらっとしようかとロビーに降りると、意外な人物と遭遇して声をかけられた。もともと所属していたATCの、金俣だった。
「ほぅ、もうそこまでランキングを上げているのか」
「枠ギリギリでしたけど、まぁなんとか」
「それでもWTA250にダイレクトインは大したモンだ。彼氏とはひと味違うな」
「えっと、レンとは別に、そういうんじゃないですけど」
苦笑いを浮かべて、ミヤビは己の感情を誤魔化す。本音をいえば、挨拶だけしてさっさと切り上げたかった。しかし、以前世話になっていたアカデミーの大先輩で、昨年は団体戦の監督を務めていた男だ。正直いって好感を持つことは難しいが、かといって邪険に扱うわけにもいかない。なにより、今は蓮司が金俣の帯同スタッフとして傍にいる。諸々の条件を鑑みて、ミヤビは出来得る限り自分の感情を切り離して接することにしていた。
「同棲しておいてそれはないだろ。まぁ、そんなことはどうでもいい。茶化す気もない。だが、少なくともオマエが能条よりも優れた選手だってことは、揺るぎない事実だろう。アイツを悪く言うつもりもないさ。アイツはアイツで頑張ってる。この前も惜しかったんだ」
蓮司は先日、イギリスの大会に出場して惜しくも地元選手に敗れた。そのことは既に本人から連絡を受けていたので、ミヤビも知っている。負けたことは残念だが、それ自体は問題ではない。ただ、問題が無いわけではなかった。
「スポンサーってのは、どこまでも冷淡だよな。いやまぁ、慈善事業じゃないんだから当たり前の話ではあるがな。しかし、能条はまだついこの間プロになったばかりの新人だ。まだまだこれから伸びていく選手だ。だっていうのに、まさかもう契約打ち切りとはなぁ」
テニス選手はその活動において、多くの資金を必要とする。海外を転戦する以上、それは避けられない。そしてその資金を賞金だけで賄えるのは、一部のトップ層だけだ。そのトップ層でさえ、企業からの資金援助を受けている。スポーツ・バブルでかなり景気のよくなっているテニス界だが、それでも中堅以下のプロが満足に活動するには、スポンサーの力は必要不可欠だ。
「蓮司なら、きっと自力で結果を出して、新たなスポンサーを獲得しますよ」
願いを込めて、ミヤビが言い切る。それまでは私が支える、とは言わなかった。
「もちろん、そうだろう。オレもそう思う。だが、アイツが今より伸びるには、環境の改善が必要だ。平たく言えば、練習環境だな。才能はあるのに、ATCを退所しちまったことで満足な指導を受けられていないだろう。もっと早い段階でオレに相談してくれりゃあ、沙粧代表に口利きできたってのに。若気の至りで早まった判断しやがって」
蓮司がATCを去ったのは、所属中に充分な結果が出せなかったからだ。選手としてのスポーツ奨学金を得るには、定期的な審査をパスしなければならない。とはいえその頃はまだプロではなかったし、未成年ということである程度のお目こぼしは受けていた。しかしそれも、ずっとどうにかなるものではない。プライドの高い蓮司は、打ち切りを宣告されるよりも、自らの意志でATCを飛び出すことを選んだ。そのことについては、ミヤビも蓮司と散々話をした。結果、ミヤビも蓮司に付き合う形でATCを退所し、知り合いから借家を貸してもらい、現在に至る。
「二人で仲睦まじく頑張るのも悪くない。だがあまりに効率が悪い」
言われるまでもない、とミヤビは内心で思うが、口には出さない。この男は昔から、自分より弱い立場におかれている人間を見下す傾向がある。どうせ、自分が気持ちよくなるためだけの説教を、年若い女のミヤビに聞かせて悦に浸りたいだけだろう、そう思っていた。
「そこで提案なんだが、オマエさえよければ、アイツをATCに戻してやっても良い」
「えっ」
なるべく自然な形で金俣と視線を合わせないようにしていたミヤビだったが、思わぬ提案に顔を上げ、うっかり目が合ってしまう。思考の奥底で警報が鳴っていた気もするが、金俣の力強い視線に射竦められ身動きが取れなくなる。
「なに、難しい話じゃない」
金俣が口角を上げると、舐めずるように、舌が顔をのぞかせた。
続く
我慢できないことはないが、それでも思わず蓮司は顔に皺を寄せる。
「ッ~てぇ……っくっくっく」
傷を拭った脱脂綿に、血の赤と芝の緑が滲む。転倒時にできた傷なのでさほど深くはないが、範囲が広い。擦過傷がもつ独特の火傷のような熱を、膝から脛にかけて感じる。殺菌の痛みは一瞬で、引いていくと同時にくすぐられたみたいな笑いが思わず零れてしまう。
「三回戦突破、次勝てばベスト8だ。くっくっく」
金俣のヒッティング・パートナーとして、蓮司はイギリスを訪れていた。しばらく日本を離れることになるが、海外遠征の経験を積むまたとない機会だ。とはいえ、体面的には金俣の練習相手としてだが、実際は雑用係。要するに都合の良い使いっ走り要員だ。金俣ほどの実績を出せている選手なら、わざわざ未成年の学生を選ばずとも人員には事欠かない。それを敢えて選んでくれたのは、金俣なりに後進の育成を考えてのことだろう。或いは、自分の将来性に期待してか。そんなことを考えながら、蓮司は降って湧いた機会を逃すまいと二つ返事で了承し、意気揚々と金俣に同行した。
「なにをニヤニヤしてやがる、気持ち悪ぃ」
「あ、金俣さん! お疲れ様です!」
「今日でベスト16か。順調だな」
「マジで金俣さんのお陰です。ありがとうございます!」
得意げな表情を浮かべて蓮司が感謝の言葉を口にする。海外で、しかもテニスの本場であるイギリスの大会で勝利できたことは、蓮司にとってこの上ない幸福だ。そもそも、この遠征では自分が試合に出ることなど想定していなかった。しかし、出国前の段階から必死に金俣の供回りをこなす蓮司に、金俣が伝手を使って大会出場の機会を与えてくれた。ウインブルドンからさほど遠くない、リッチモンドという都市で行われるチャレンジャーズ大会に出場し、蓮司は順調に勝ち上がっていた。
「次の相手は?」
「地元出身で、ベテランのキーファって選手です」
「アイツか。若い頃は割と上にいってたな」
「戦ったことあるんですか?」
「ない。良くも悪くも、目立たない選手だった」
ふーん、と相槌をうちながら、蓮司は傷の手当を続ける。その様子からは、どこか上機嫌さが伺えた。試合に勝利した直後ゆえ、それも無理からぬことだろう。そんな蓮司の様子を見ながら、金俣が露骨に圧をかけた。
「アウェイとはいえ、三十代後半で下部大会にしがみついているようなヤツだ。若手のオマエが遅れをとるなよ。そもそも、この程度の大会でコケるようじゃ、わざわざ手を回してやったオレの顔に泥を塗ることになるんだからな。それに、いい加減それなりの結果を出さないと、せっかくついたスポンサーが良い顔をしないだろう」
今回蓮司が出場しているのは、優勝して当たり前の大会かというと全くそんなことはない。現に、最前線を退いているとはいえ、キーファのような元上位選手は他にも参加している。だが、優勝してもおかしくないレベル、ではある。金俣の真意がどこにあるにせよ、厚意で出場させて貰っている立場の蓮司としては、ここでしっかり結果を出さねば恩を仇で返すことになってしまう。
「うっす。絶対、優勝してみせますよ」
「あぁ、期待してるぞ」
宿泊先へ戻ると、蓮司は入念に翌日の準備へと取り掛かった。
★
天然芝コートの存在は、テニスの歴史を語る上で切り離せない。テニス発祥から現代まで、およそ千年。長い歴史を経るなかで道具やルールは目まぐるしく変化したが、そのなかで唯一、天然芝コートの存在は今も変わることなく存在する。当然ながら、維持管理の問題で徐々にその数は減っているが、テニスというスポーツのある種シンボルともいえる天然芝コートが消えてなくなることは、恐らくないだろう。
ハード、クレー、オムニといったサーフェスのなかで、最も球足が速い天然芝コート。加えてイレギュラーの起こり易さはクレーに匹敵し、大会を通じて番狂わせが生じる確率も高く、最も難しいサーフェスといえるだろう。コート数の多いハードやクレーで育った選手たちは、その青々とした美しい芝の舞台で、地力と対応力を求められることになる。
(クッソ、マジかよこの人……!)
第一セットを落とした蓮司は、対戦相手であるキーファの鮮やか過ぎるプレーに苦戦を強いられていた。年齢差は蓮司からみてちょうど倍。今年三十五歳のキーファは、まるで年齢を感じさせない驚異的なパフォーマンスをみせ、十七歳の蓮司を圧倒していた。
(球際の処理がメチャクチャうめぇ。ポジショニングも的確で隙がねぇし、こっちが様子見しようとした瞬間、一気に攻めて来る。何より、アプローチの精度がえげつない。ちょっとでも視線が切れたら即スニークインしてきやがる。っつーか、基本的なフィジカルが強すぎだろ。三十五歳の動きじゃねぇぞ。同世代でも、ここまで動けるヤツはそういねぇ……!)
ほぼ何もさせて貰えず、先行された蓮司。打開策を考えるが、頭のなかで行うシミュレーションは何をしても成功のイメージがわいてこない。せめて自分のサービスゲームだけは確実にキープしようと作戦を組み立てるが、それを考えている時点で完全に後手へと回っている証拠だ。
(クソ、何かないのか)
コートチェンジでベンチに座りながら、蓮司はヒントを求めてキーファの方を盗み見る。だが、タオルを頭から被っているキーファの表情は窺い知れない。仮に顔が見えたところで、何が分かるわけでもない。蓮司は焦りと苛立ちから唇を噛み、忌々し気に横目で睨みつける。そしてふと、ある違和感に気付く。キーファの右膝の周辺に、僅かだが皮膚の色が違う部分があった。日焼けをしていないのだ。それを見て蓮司はピンとくる。キーファは恐らく最近まで、膝にサポーターを取り付けていたのだろう。
(いや、待て。そういえば)
対戦相手に関する記憶を手繰る蓮司。そしてキーファが、右膝の怪我で一時期戦線を離脱していたことを思い出す。だがキーファはもう一年以上前に戦線復帰しており、既にリハビリは終わっているはずだ。練習の際、予防のためにサポーターをつけているのだろう。ただ或いはもしかすると、まだ不安を抱えている可能性もあるかもしれない。
(……やってみるか)
小さな可能性に賭け、蓮司は作戦を練り直す。
狙うは、キーファの非利き手側。
それも、なるべく負担がかかるような配球で。
キーファのバックハンドは、最近では珍しくなった片腕一本。その為、バック側に集めると精度の高いスライスが返ってくることが多い。天然芝コートでは低い軌道で滑るスライスが非常に有効で、打たれるだけでもかなり厄介だ。他のサーフェスであればディフェンシブなショットとなるスライスだが、こと天然芝コートにおいては、強力なオフェンシブショットになり得る。だからこそ、蓮司は試合序盤キーファにバックを打たせまいとしてきていた。
(けど、回り込まれるともっとヤバい。順クロスを混ぜて、球威より角度重視!)
蓮司はまず、ポイントを奪うことより、イメージ通りの展開作りを優先する。既に先行され苦しい状況であるがゆえに、本音を言えばいち早く突破口を掴みたい。だが、相手のプレーが想定を超えていた以上、ことを焦って攻め急げば自滅を起こしかねない。ここは辛抱強く耐える場面だと、自分に言い聞かせた。
「Game、Kiefer. 3-0」
しかし、蓮司の我慢はなかなか実らない。
第一セットの時よりもラリー数は増えているが、それだけだ。
(無駄か? いや、絶対効くはずだ……!)
蓮司の採った作戦は、言うなれば長期戦。恐らくは右膝に不安があるであろうキーファに対し、負担が蓄積するよう仕掛け続ける。ボクシングでいうならば、一発逆転のカウンター狙いではなく、堅実にボディブローを入れ続ける戦い方だ。もちろん、無駄骨に終わる可能性は充分にある。キーファがさらにギアを上げ、仕留めに掛かってきたら、いよいよまずい。とはいえ、現状勝利に繋がりそうな作戦は、これ以外に見当たらない。
(っくしょう、まだかよ!)
一向に手応えを感じられぬまま、試合が進行する。いっそ我慢などせず、フルパワーで攻撃に転じた方が状況を変えられるのではないかと、そんな誘惑に駆られそうになる。恐らくキーファも、蓮司の狙いに気付いているはずだ。一気に仕留めに来ないのは、相手の意図を看破した状態で戦う方が、向こうとしては戦い易いからなのではないか。右膝に負担などなく、最近までサポーターをしていたのは、あくまで予防のために過ぎなかったのではないか。徐々に高まる、自分が選んだ作戦への疑心。それは雨雲のように黒く重く、、蓮司の心に広がっていく。だが、雨粒よりも先に光が見えた。思わぬところで、キーファが転倒したのだ。
「ッ!」
蓮司は一度、キーファのフォア側へボールを打っていた。難なく反応するキーファの返球を、切り返す形でバック側へ。これまでと同様、あっさりと処理されるかに思われたそれは、しかしキーファの転倒によって蓮司のポイントとなり、チャンスを掴んだ。
(きた!)
思わず叫びそうになるのを、蓮司は辛うじて堪える。転倒したキーファが苦しそうに座り込んでいたお陰で、どうにか自制心を保つことができた。蓮司の作戦は功を奏し、欲しかった成果を得ることができた。ただその一方で、相手の怪我に付け込んだ罪悪感がジワリと心の中に染みを作る。喜びと不安の狭間で、蓮司は対戦相手の姿に視線を向けた。
「大丈夫、問題ないさ」
状態を尋ねる主審に落ち着いた様子でそう答え、キーファは間もなく立ち上がった。肘や膝を多少擦りむいたようだが、特に足を捻ったり痙攣が起こっている様子はない。タイムアウトを取るでもなく、試合はすぐに再開される。それが分かると、蓮司は胸を撫で下ろすと共に、内心で小さく舌打ちする。怪我をされるのは同じ選手として不本意だが、痙攣ぐらいは起こっていて欲しかったと、身勝手な気持ちになる。
(関係ねぇ、っていうか、効いてる。狙い通りだ!)
再びネット越しに相対する両者。果敢にファイトするキーファへ、観客たちが声援と拍手を送る。地元出身の選手ということもあり、試合開始からずっと会場の応援はキーファ一色だったが、その気配は先ほどのポイントでより強まった。
(アウェイ上等! ワリィけど、手は抜かねぇし容赦もしねぇ!)
作戦への手応えと周囲の状況が、蓮司の反骨心に火を点ける。一気に攻めたい気持ちを堪えながら我慢し続け、遂に蓮司が逆転で第二セットを奪い返した。セットカウントが並び、状況は振り出しに戻る。流れという点で見れば、形勢は蓮司に傾きつつあるといってもいいかもしれない。
(っし、こっから! 絶対勝つ!)
我慢して戦った分、身体の疲労は感じるが、それを闘争心で塗り潰す蓮司。
自らを鼓舞し、手繰り寄せた勝機を離すまいと強く決意する。
一方、相手のキーファは先ほどと同じようにタオルで顔を覆っている。静かに、深く深呼吸をしながら、集中力を高めてゆく。声援に反応することもなく、己の世界へ沈み込むように。身体の熱と外気の差によって、肩から湯気が薄っすらと、幽かに立ち上る。その様子は、さながら座禅を組んで精神統一を行う修行僧だ。やがて、タオルを顔からとってベンチにかけ、ゆっくりした足取りでコートへ向かった。その際に一瞬だけ、蓮司はキーファと目が合った。
(……なんだ?)
キーファと視線が交わった瞬間、蓮司は違和感を覚える。それはとても小さなものだったが、しかし確実に感じ取った。普段の蓮司なら、気のせいだと一顧だにせず流していたかもしれない。試合への集中が、その僅かな異変の兆しを見逃さなかった。しかしとはいえ、蓮司は何故そう感じたのか、すぐには分からない。メディカルタイムアウトを要求しなかったのはやや意外だったものの、そういうことではない。少し考えて、引っ掛かったのはキーファの表情だと思い当たる。一瞬だけ交わった彼の瞳に、見過ごせない何かが映っているように思えたのだ。否、より正確には、何も映っていなかったのだ。
虚無。
言い表すなら、そんな言葉。虚ろで何も無い、ぽっかりと空いた穴。勝利を目指し、出来ることは全てやり尽くそうと覚悟を決めている蓮司とは、あまりにもかけ離れている。セットを奪われ気落ちしたとか、怪我に不安を覚えているとか、勝ちきれなかったことに怒りを覚えているとか、そういう負の感情さえ無い。勝敗を懸けて戦っている、という感情そのものが欠落している。勝負の最中、優勢にせよ劣勢にせよ、戦う者は何かしら感情が宿っているものだ。しかし先ほど目にしたキーファの瞳には、何も無い。そんな風に見えたことで、蓮司はキーファと自分の間に、何か決定的なズレのようなものを感じとった。
(関、係ねぇ。このままいく)
その異常さに、気付けば呑まれかけている。そう自覚した蓮司は、違和感をハッキリと感じてなお、無視することにした。そもそも、相手が試合中にどのような精神状態であるかなど、関係ない。いや、強気か弱気かといった相手の心理状態を把握することが重要なのは、充分承知している。ただ、その情報を元に戦術の参考にすることはあっても、それはあくまで一つの情報に過ぎない。異変は確かに嗅ぎ取ったが、現状で勢いに乗っているのは蓮司の方だ。留意すべき要素であることは確かだが、作戦の変更を決断するほどではない。そう結論付けた。
(油断はしねぇぞ。オレが勝つんだ)
克己心を高め違和感を振り払い、蓮司は最終セットに挑む。
★
日本を出発してから、乗り換え時間を含めておよそ17時間近い空の旅を経て、雪咲雅はようやくイギリスのヒースロー空港へと到着した。海外遠征自体はそれなりに経験しているが、日本からヨーロッパとなるとさすがに疲労を感じる。飛行機のなかでは比較的長く眠れるタチなので、幸い時差ボケは無い。とはいえ、それでも言い知れぬ身体の倦怠感に不快さを感じてしまう。大会の開始まで数日あるので、それまでに身体をしっかり整えなければならない。
(ここからバーミンガムまで、バスで三時間か。節約の為とはいえ……)
荷物を受け取りながら、溜息を吐く。顔見知りではあるが、友人とまではいかない他の女子選手たちに混じって、ミヤビは高速バスへと乗り込んだ。売店でオレンジジュースだけを買い、座席でひとくち飲む。日本のものより、だいぶ味が濃い。宿に着いたら、すぐにでも持参した日本のインスタント食品を食べようと心に決めた。
長時間の移動を終え、十六時過ぎにホテルへ到着した。道中で一緒だった選手と練習することになっているが、約束までは多少時間が空いている。バーミンガムは初めてなので、宿の周辺をぶらっとしようかとロビーに降りると、意外な人物と遭遇して声をかけられた。もともと所属していたATCの、金俣だった。
「ほぅ、もうそこまでランキングを上げているのか」
「枠ギリギリでしたけど、まぁなんとか」
「それでもWTA250にダイレクトインは大したモンだ。彼氏とはひと味違うな」
「えっと、レンとは別に、そういうんじゃないですけど」
苦笑いを浮かべて、ミヤビは己の感情を誤魔化す。本音をいえば、挨拶だけしてさっさと切り上げたかった。しかし、以前世話になっていたアカデミーの大先輩で、昨年は団体戦の監督を務めていた男だ。正直いって好感を持つことは難しいが、かといって邪険に扱うわけにもいかない。なにより、今は蓮司が金俣の帯同スタッフとして傍にいる。諸々の条件を鑑みて、ミヤビは出来得る限り自分の感情を切り離して接することにしていた。
「同棲しておいてそれはないだろ。まぁ、そんなことはどうでもいい。茶化す気もない。だが、少なくともオマエが能条よりも優れた選手だってことは、揺るぎない事実だろう。アイツを悪く言うつもりもないさ。アイツはアイツで頑張ってる。この前も惜しかったんだ」
蓮司は先日、イギリスの大会に出場して惜しくも地元選手に敗れた。そのことは既に本人から連絡を受けていたので、ミヤビも知っている。負けたことは残念だが、それ自体は問題ではない。ただ、問題が無いわけではなかった。
「スポンサーってのは、どこまでも冷淡だよな。いやまぁ、慈善事業じゃないんだから当たり前の話ではあるがな。しかし、能条はまだついこの間プロになったばかりの新人だ。まだまだこれから伸びていく選手だ。だっていうのに、まさかもう契約打ち切りとはなぁ」
テニス選手はその活動において、多くの資金を必要とする。海外を転戦する以上、それは避けられない。そしてその資金を賞金だけで賄えるのは、一部のトップ層だけだ。そのトップ層でさえ、企業からの資金援助を受けている。スポーツ・バブルでかなり景気のよくなっているテニス界だが、それでも中堅以下のプロが満足に活動するには、スポンサーの力は必要不可欠だ。
「蓮司なら、きっと自力で結果を出して、新たなスポンサーを獲得しますよ」
願いを込めて、ミヤビが言い切る。それまでは私が支える、とは言わなかった。
「もちろん、そうだろう。オレもそう思う。だが、アイツが今より伸びるには、環境の改善が必要だ。平たく言えば、練習環境だな。才能はあるのに、ATCを退所しちまったことで満足な指導を受けられていないだろう。もっと早い段階でオレに相談してくれりゃあ、沙粧代表に口利きできたってのに。若気の至りで早まった判断しやがって」
蓮司がATCを去ったのは、所属中に充分な結果が出せなかったからだ。選手としてのスポーツ奨学金を得るには、定期的な審査をパスしなければならない。とはいえその頃はまだプロではなかったし、未成年ということである程度のお目こぼしは受けていた。しかしそれも、ずっとどうにかなるものではない。プライドの高い蓮司は、打ち切りを宣告されるよりも、自らの意志でATCを飛び出すことを選んだ。そのことについては、ミヤビも蓮司と散々話をした。結果、ミヤビも蓮司に付き合う形でATCを退所し、知り合いから借家を貸してもらい、現在に至る。
「二人で仲睦まじく頑張るのも悪くない。だがあまりに効率が悪い」
言われるまでもない、とミヤビは内心で思うが、口には出さない。この男は昔から、自分より弱い立場におかれている人間を見下す傾向がある。どうせ、自分が気持ちよくなるためだけの説教を、年若い女のミヤビに聞かせて悦に浸りたいだけだろう、そう思っていた。
「そこで提案なんだが、オマエさえよければ、アイツをATCに戻してやっても良い」
「えっ」
なるべく自然な形で金俣と視線を合わせないようにしていたミヤビだったが、思わぬ提案に顔を上げ、うっかり目が合ってしまう。思考の奥底で警報が鳴っていた気もするが、金俣の力強い視線に射竦められ身動きが取れなくなる。
「なに、難しい話じゃない」
金俣が口角を上げると、舐めずるように、舌が顔をのぞかせた。
続く
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思わず引き込まれる語りがとても素晴らしいですね。テニスを題材にした小説を読むのは初めてですが、少しずつですけど楽しみにしながら読んでいきたいと思います。
誤字報告です。
・1話の冒頭始めに「聖ひじり」となっている箇所がありました。
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・これは私が知らないだけなので誤字ではないかもしれませんが、春菜の「プロデュー」は「プロデビュー」(或いは「プロデュース」?)とは異なるのでしょうか(そのような言い方があったらごめんなさい)。
白バリン様
感想ありがとうございます!
不慣れなもので長くなりがちなのですが、少しでもお楽しみ頂ければ幸いです!
テニスを知らない方には分からない表現などあったら、遠慮なく御指摘ください!
誤字報告もありがとうございます!自分ではなかなか見つけられないので助かります!
アイデアも良いし文章も上手いし、スポーツなんて難しいジャンルに挑戦するのは凄い。今後に期待してます。
読専マン様
ありがとうございます!
勿体ないお言葉、大変恐縮です!
頑張って完結させますので、応援よろしくお願いします!
花雨様
ありがとうございます!
まだ駆け出しの拙い作品ではありますが、
何卒よろしくお願い致します!