18 / 85
1
13
しおりを挟む
そうすけが仕事にいったあと、さとりはひとり残された部屋の中で、なにか自分にもできることはないかと考えた。それで思いついたのは、ここ数日忙しくて片付けができなかったというそうすけのために、この部屋をさとりが片付けるというものだった。
まずさとりはたまっていた洗濯物を洗おうとした。「洗濯機」というものが、人間が衣類などを洗う際に使うものだということはかろうじて知っていた。この中に汚れた衣類を入れれば、あとは「洗濯機」がすべてやってくれるという優れものだ。
昨夜、そうすけがさとりの髪を洗ってくれたときに使用したぬるぬるの液体がとてもいい匂いだったので、それも一緒に入れてスイッチを押した。「洗濯機」が無事に動き出したのにほっとして、リビングへと戻る。台所のシンクに溜まっていた食器を洗おうとして、スポンジを手に取り、近くにあった洗剤らしきもののチューブをぎゅっと手で絞った。
そうすけが帰ってきたら、ピカピカの部屋を見て喜んでくれるだろうか。
想像したらうれしい気持ちがこみ上げてきて、さとりの口元はゆるんでしまう。
そのとき、洗面所の方から、ぼごぼごぼご……とおかしな音がした。慌ててようすを見にいこうとして、手元が滑り、持っていたグラスを落としてしまった。ガシャン、とグラスが割れ、とっさに伸ばした手からまたつるりと滑って、今度は皿を割ってしまう。その間にも、ぼごぼごぼご……という音は続いていて、さとりはひとまず音のする洗面所へと向かう。そこでさとりの目に入ってきたのは、振動しながらぶくぶくと泡を床に吐き出している洗濯機だった。
「な、なんで~?」
急いで洗濯機の動作を止めようとするが、押す場所が違うのか、洗濯機はガゴン、ガゴンと振動しながら、いまだに泡を吐き出し続けている。足元がずるりと滑り、さとりは泡だらけの床の上にすっ転んだ。
「った!」
洗濯機の端に頭を打ちつけ、涙が滲んだ。立ち上がり、コードを根本から引っこ抜くと、洗濯機はようやく振動を止めた。
「と、止まったあ~」
さとりはその場にへたり込んだ。あらためてその惨状が目に映り、泣きたい気持ちになる。
「そうすけが帰ってくる前に何とかしないと」
さとりは焦った。何か拭くものはないかと周囲を見回し、視界に入ったタオルを手に取った。這いつくばってごしごしと床を拭くが、タオルはすぐに泡と水を含んで、ぽたぽたと滴を垂らしてしまう。それでも根気よく同じ動作を繰り返すと、ようやく床に溜まった水と泡はふき取れた。けれど洗濯機には、まだ泡がこんもりと盛り上がっていて、どうしたらこの水がなくなるのか、洗濯物がきちんときれいな状態になるのか、さとりにはわからなかった。
「……割っちゃった食器を何とかしないと」
時間がたてば少しはましな考えが浮かぶような気がして、ひとまずリビングへと戻る。リビングの真ん中では白いふわふわの妖怪が数匹飛び跳ねていて、そうすけの本をびりびりに破いていた。
「わーわーわー!」
さとりの声にびくりとして、白いふわふわの妖怪はぴゅーっと部屋のどこかへ逃げていった。さとりはびりびりになった本を手に取り、茫然となった。
白いふわふわの妖怪は、普段は人間の前に姿を現すことはないし、臆病なのかイタズラをすることもほとんどない。それがどうしてかと理由を考えれば、この部屋にさとりがいるからに他ならなかった。部屋の中を見渡せば、そうすけが家を出たとき以上の惨状が広がっている。
本当は仕事から帰ってきたそうすけに、喜んでもらいたかったのだ。それがどうしてこんなことになってしまったのかと、さとりは途方に暮れた。
さっき逃げたはずの白い妖怪がひょっこりと姿を現して、さとりの足元でぴょんぴょんと跳ねる。さとりは部屋の隅で膝を抱え、ぐずぐずと泣き出した。
まずさとりはたまっていた洗濯物を洗おうとした。「洗濯機」というものが、人間が衣類などを洗う際に使うものだということはかろうじて知っていた。この中に汚れた衣類を入れれば、あとは「洗濯機」がすべてやってくれるという優れものだ。
昨夜、そうすけがさとりの髪を洗ってくれたときに使用したぬるぬるの液体がとてもいい匂いだったので、それも一緒に入れてスイッチを押した。「洗濯機」が無事に動き出したのにほっとして、リビングへと戻る。台所のシンクに溜まっていた食器を洗おうとして、スポンジを手に取り、近くにあった洗剤らしきもののチューブをぎゅっと手で絞った。
そうすけが帰ってきたら、ピカピカの部屋を見て喜んでくれるだろうか。
想像したらうれしい気持ちがこみ上げてきて、さとりの口元はゆるんでしまう。
そのとき、洗面所の方から、ぼごぼごぼご……とおかしな音がした。慌ててようすを見にいこうとして、手元が滑り、持っていたグラスを落としてしまった。ガシャン、とグラスが割れ、とっさに伸ばした手からまたつるりと滑って、今度は皿を割ってしまう。その間にも、ぼごぼごぼご……という音は続いていて、さとりはひとまず音のする洗面所へと向かう。そこでさとりの目に入ってきたのは、振動しながらぶくぶくと泡を床に吐き出している洗濯機だった。
「な、なんで~?」
急いで洗濯機の動作を止めようとするが、押す場所が違うのか、洗濯機はガゴン、ガゴンと振動しながら、いまだに泡を吐き出し続けている。足元がずるりと滑り、さとりは泡だらけの床の上にすっ転んだ。
「った!」
洗濯機の端に頭を打ちつけ、涙が滲んだ。立ち上がり、コードを根本から引っこ抜くと、洗濯機はようやく振動を止めた。
「と、止まったあ~」
さとりはその場にへたり込んだ。あらためてその惨状が目に映り、泣きたい気持ちになる。
「そうすけが帰ってくる前に何とかしないと」
さとりは焦った。何か拭くものはないかと周囲を見回し、視界に入ったタオルを手に取った。這いつくばってごしごしと床を拭くが、タオルはすぐに泡と水を含んで、ぽたぽたと滴を垂らしてしまう。それでも根気よく同じ動作を繰り返すと、ようやく床に溜まった水と泡はふき取れた。けれど洗濯機には、まだ泡がこんもりと盛り上がっていて、どうしたらこの水がなくなるのか、洗濯物がきちんときれいな状態になるのか、さとりにはわからなかった。
「……割っちゃった食器を何とかしないと」
時間がたてば少しはましな考えが浮かぶような気がして、ひとまずリビングへと戻る。リビングの真ん中では白いふわふわの妖怪が数匹飛び跳ねていて、そうすけの本をびりびりに破いていた。
「わーわーわー!」
さとりの声にびくりとして、白いふわふわの妖怪はぴゅーっと部屋のどこかへ逃げていった。さとりはびりびりになった本を手に取り、茫然となった。
白いふわふわの妖怪は、普段は人間の前に姿を現すことはないし、臆病なのかイタズラをすることもほとんどない。それがどうしてかと理由を考えれば、この部屋にさとりがいるからに他ならなかった。部屋の中を見渡せば、そうすけが家を出たとき以上の惨状が広がっている。
本当は仕事から帰ってきたそうすけに、喜んでもらいたかったのだ。それがどうしてこんなことになってしまったのかと、さとりは途方に暮れた。
さっき逃げたはずの白い妖怪がひょっこりと姿を現して、さとりの足元でぴょんぴょんと跳ねる。さとりは部屋の隅で膝を抱え、ぐずぐずと泣き出した。
3
あなたにおすすめの小説
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話
日向汐
BL
「好きです」
「…手離せよ」
「いやだ、」
じっと見つめてくる眼力に気圧される。
ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26)
閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、
一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕
・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・:
📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨
短期でサクッと読める完結作です♡
ぜひぜひ
ゆるりとお楽しみください☻*
・───────────・
🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧
❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21
・───────────・
応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪)
なにとぞ、よしなに♡
・───────────・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる