その声が聞きたい

午後野つばな

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 さとりがドキドキしながら横目で見ていると、視線を感じたのか、そうすけが振り返った。ニヤリと笑ったそうすけに、飲むか? と訊かれ、さとりは慌ててぷるぷると頭を振った。そうすけは、ふはっ、と吹き出した。何がおかしいのか、口元を右手の甲で押さえ、クックと笑っている。なぜか笑われている気がしたけれど、そうすけがうれしいなら、さとりもうれしい。
 にこにこしながらさとりが色のついたおいしいお水を飲んでいると、そうすけはふっと動きを止めた。急に真面目な顔でじっと見つめられて、さとりはどきっとした。
 こいつはどこからきたんだろうな。いままでどうやって暮らしてきたんだろう? いったいどうやって……。
 隣から伝わってくるそうすけの思念に答えることができず、さとりはうつむく。
 いつのまにか、窓の外は夕暮れだった。どこからかおいしそうな匂いが漂ってくる。くう~っ、とさとりのお腹の虫がなった。さとりはお腹を押さえた。すりすりと手でお腹のあたりをさする。お腹の音を聞かれて、恥ずかしいという感覚がさとりにはない。
 さとりは妖怪だから、食べなくても死んだりはしない。でも、人間と同じようにちゃんとお腹が空くから、不思議だなあと思う。
 再び、さとりのお腹の虫が、くううう~~~っと鳴った。今度はものすごい大音量だ。
 さとりは首をかしげると、再びすりすりとお腹を撫でた。
 そのとき、ぶっ、と隣で吹き出す音がした。何だろうと思ってさとりが振り向くと、そうすけが苦しそうにお腹を抱えて笑いをこらえていた。
「……おまえ、腹の虫が盛大に抗議しているぞ。メシ寄越せって」
 そうすけは目尻に滲んだ涙を指でこすった。
「とりあえず何か食べにいくか」
 そう言って、そうすけはソファから立ち上がった。
 いままでさとりが着ていた服は洗濯してしまったので、さとりはそうすけの洋服を借りることになった。クローゼットの前でそうすけは、うーん……と難しそうな顔でうなると、ごくシンプルな白いTシャツとデニムをさとりの前に出した。
「これ着てみな」
 夕べパジャマ代わりに借りていた洋服を脱いで、そうすけが用意してくれた服を手にとる。頭からすっぽりとTシャツをかぶって、デニムを穿いた。
「……うーん。やっぱでかいけど、まあいっか。いまが夏でよかったな」
 そうすけはぶつぶつと何かを呟きながら、さとりのズボンの裾をぐるぐるに巻き上げてくれた。
「……次の休みはまず買い物だな。こいつが着られる服を何枚か買わないと……」
 さとりは首をかしげた。そうすけが何を言っているのかはわからないけれど、そうすけと一緒に何かできることがうれしくてたまらなかった。いま、さとりはあんなにも会いたかったそうすけの側にいる。
 さとりが黙ってにこにこしていると、そうすけは小さく呼吸を吐いた。それから、何か困っていることがあるかのように、くしゃりと頭の後ろをかいた。
「いくぞ」
 しばらくして、ラーメンでいいかな、というそうすけの心の声が聞こえてきた。
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