その声が聞きたい

午後野つばな

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 そうすけの休みの日、さとりはそうすけと一緒に駅前の大型複合施設「ショッピングセンター」へと出かけた。なんでも、さとりには「着替え」というものが必要ならしい。
 さとりはそうすけから借りたTシャツの裾を指で摘んだ。そうすけの洋服は、さとりのものよりもサイズが大きい。肩からずり下がりそうになる襟元を直しながら、さとりは内心「これでもいいのになあ……」と思っていた。サイズの合わない洋服は、そうすけの存在を感じられてなんだかうれしくなる。でも、洋服が身体のサイズに合っていないのは、「みっともない」ことらしいのだ。さとりは、首から下げていたペンダント・トップにそっと指で触れた。紫水晶のペンダントは、さとり大事な宝物だ。
 日曜日ともあって、駅前は人であふれていた。友だちと待ち合わせをしているらしい若者。小さな子ども連れの家族や、デート中のカップルたち。
 こんなに多くの人間たちがいったいどこから沸いてくるんだろうと思うくらいに、街は大勢の人の思考が渦巻いている。
『あー、せっかくの休みに家族サービスなんて面倒くさいなあ……。なんでわざわざ人混みに出なきゃいけないだよ……。いいだろ、家でのんびり休んでいれば……。あ~、昼にゴルフが見たかったんだよな~』
『きょうの初デート、めっちゃ緊張する~! あー、どうしよう、どうしよう。もう一回トイレいってこようかな~。メイク落ちてたらどうしよう……』
『すっげー人だなあ。みんないったいどっから沸いてくるんだよ。って、俺もか。昼飯混んでっかな~。何か買ってうちで食べようか……』
 人間たちの考えていることを聞かないようにしようと思っていても、意思とは関係なく、心の声はさとりの耳に聞こえてきてしまう。
『あ~っ、暑いなあ~。なんか最近の気温、おかしくないか? ゲリラ豪雨とかってさ、何だよ、ゲリラって。ゴリラの仲間かよ。台風とかめっちゃ多いしさー、なんでこんなに暑いの? これが温暖化ってやつ? あー、早く秋にならないかな~』
『カラオケにマキも呼んじゃったけど、あの子空気読めないからうざいんだよねえ~。なんか変にマジメだしさ~。あー、なんか面倒くさくなってきちゃったな~。なんで休みにまであの子の顔見てなきゃなんないんだろう。ばっくれちゃおうかなあ……』
 さとりの額を、冷や汗が伝い落ちる。さとりはうつむいた。
 まるでよどんだ空気が、風船になって大きく膨らんでいくようだった。人々のさまざまな悪意や感情を呑み込んで、風船はどんどん膨らんでいく。大きく大きく、限界まで膨らんだらいったいどうなるのだろうーー。
 さとりは何度も生唾を飲み込みながら、こみ上げる吐き気を必死で抑えていた。くらりと目眩がしたのは、そのときだった。
「ーー……さと」
 パン……ッ、弾けるように、突然目の前の空気が割れた。そんなもの見えるはずはないのに、さとりはそのとき清冽な空気の粒子が、きらきらと自分たちを包み込むような気がした。
『……いったいどうしたんだ?』
「さと? どうした? 大丈夫か?」
「そーすけ……」
 そうすけの顔が視界に入ってきたとたん、さとりはふっと呼吸が楽になった。さとりの身体から力が抜け、その場に崩れ落ちそうになるのを、とっさにそうすけが支えてくれた。
『とりあえず座るところ……どこか……』
「おいで」
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