19 / 37
19
しおりを挟む
「――……さん。……衛さん」
せっかく気持ちよくなっていたのにと、日下は重たい瞼を開けた。
「こんなところで寝ないで、寝るならちゃんとベッドで寝な」
揺り起こそうとした徹に小さく腹を立て、避けようとしたつもりが反対にそのまま徹にもたれかかる格好になった。
「衛さん、大丈夫?」
徹の内面を映し出したようだと、いつも好ましく感じていた彼の男らしい顔が目の前にあって、日下はにこっとした。
「え、衛さん……っ? どうしたの……っ?」
なぜか焦ったように徹がおたおたする。普段はあまり見ることのない徹の動揺した姿さえ、日下の目にはかわいく映った。
「やだ。お前が連れていって」
驚いたように目を瞠る徹の首に腕を回し、引き寄せるようにキスをした。徹の舌に触れたとたん、じわりと熱い幸福な何かがあふれた。そうだ、ずっとこうしたかったのだと、パズルの最後のピースがはまるようにぴったりとくる。
顔を背けた徹の目元が朱く染まっている。その頬を挟み込むように引き寄せ、キスをした。
「あ……っ、衛さん……っ」
戸惑うように、濡れた瞳で自分を見る徹にぞくぞくするほど興奮した。
「……嫌?」
次の瞬間、波に浚われるほどに強く、徹に抱きしめられていた。体勢がくるりと変わり、日下が徹を見下ろす格好になる。
「衛さん……」
「暑い……」
アルコールを飲んでいたせいで、身体が燃えるように暑かった。日下は徹の腹に手をつくと、身体を離し、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。頭がふわふわして気持ちがいい。目を閉じて鼻歌を口ずさみながら、ダンスをするみたいにゆらゆらと腰を揺らす。
「衛さん、好きだ」
徹の手が大切なものに触れるみたいに、そっと日下の頬に触れた。まるで一時も目が離せないように、ぼうっとのぼせたような瞳をしている。日下は猫が甘えるような仕草で頬を擦りつけると、徹の手のひらにくちづけ、甘噛みした。
「衛さん……」
徹が切なげに目を細める。
舌を絡めるようにキスをする。口蓋をくすぐられ、甘い声が出た。そのときだ。
「あっ」
「衛さん……っ」
体勢を崩し、ソファから落ち掛けた日下を、とっさに徹が支える。その必死な顔に、日下の胸に愛しさにも似た感情が沸いた。
「お前かわいいのな。――んっ、あん……っ」
徹の手が日下の髪に触れ、かき乱すように口づけた。うなじに触れた唇の感触が、火傷するように熱い。
「あ……っ、衛さん……っ」
あとでこのときの自分を思い出したら、自分で自分を殺してやりたいほど後悔したに違いない。しかし多くの酔っぱらいの例に漏れず、日下は通常の判断力を失っていた。そんな状態でまともな思考などできるはずがない。
徹の胸に倒れ込み、くすくす笑った。なんだかものすごく楽しい。徹とするキスはとろけるほどに甘くて、いつまでもしていたくなる。
「気持ちいー……」
「え、衛さん……?」
徹の胸に頭を預けたまま、日下はうっとりと目を閉じた。自分を受け止めてくれるこの腕は、たとえ何があっても大丈夫だという絶対的な安心感を日下に与えてくれた。
せっかく気持ちよくなっていたのにと、日下は重たい瞼を開けた。
「こんなところで寝ないで、寝るならちゃんとベッドで寝な」
揺り起こそうとした徹に小さく腹を立て、避けようとしたつもりが反対にそのまま徹にもたれかかる格好になった。
「衛さん、大丈夫?」
徹の内面を映し出したようだと、いつも好ましく感じていた彼の男らしい顔が目の前にあって、日下はにこっとした。
「え、衛さん……っ? どうしたの……っ?」
なぜか焦ったように徹がおたおたする。普段はあまり見ることのない徹の動揺した姿さえ、日下の目にはかわいく映った。
「やだ。お前が連れていって」
驚いたように目を瞠る徹の首に腕を回し、引き寄せるようにキスをした。徹の舌に触れたとたん、じわりと熱い幸福な何かがあふれた。そうだ、ずっとこうしたかったのだと、パズルの最後のピースがはまるようにぴったりとくる。
顔を背けた徹の目元が朱く染まっている。その頬を挟み込むように引き寄せ、キスをした。
「あ……っ、衛さん……っ」
戸惑うように、濡れた瞳で自分を見る徹にぞくぞくするほど興奮した。
「……嫌?」
次の瞬間、波に浚われるほどに強く、徹に抱きしめられていた。体勢がくるりと変わり、日下が徹を見下ろす格好になる。
「衛さん……」
「暑い……」
アルコールを飲んでいたせいで、身体が燃えるように暑かった。日下は徹の腹に手をつくと、身体を離し、着ていたTシャツを脱ぎ捨てた。頭がふわふわして気持ちがいい。目を閉じて鼻歌を口ずさみながら、ダンスをするみたいにゆらゆらと腰を揺らす。
「衛さん、好きだ」
徹の手が大切なものに触れるみたいに、そっと日下の頬に触れた。まるで一時も目が離せないように、ぼうっとのぼせたような瞳をしている。日下は猫が甘えるような仕草で頬を擦りつけると、徹の手のひらにくちづけ、甘噛みした。
「衛さん……」
徹が切なげに目を細める。
舌を絡めるようにキスをする。口蓋をくすぐられ、甘い声が出た。そのときだ。
「あっ」
「衛さん……っ」
体勢を崩し、ソファから落ち掛けた日下を、とっさに徹が支える。その必死な顔に、日下の胸に愛しさにも似た感情が沸いた。
「お前かわいいのな。――んっ、あん……っ」
徹の手が日下の髪に触れ、かき乱すように口づけた。うなじに触れた唇の感触が、火傷するように熱い。
「あ……っ、衛さん……っ」
あとでこのときの自分を思い出したら、自分で自分を殺してやりたいほど後悔したに違いない。しかし多くの酔っぱらいの例に漏れず、日下は通常の判断力を失っていた。そんな状態でまともな思考などできるはずがない。
徹の胸に倒れ込み、くすくす笑った。なんだかものすごく楽しい。徹とするキスはとろけるほどに甘くて、いつまでもしていたくなる。
「気持ちいー……」
「え、衛さん……?」
徹の胸に頭を預けたまま、日下はうっとりと目を閉じた。自分を受け止めてくれるこの腕は、たとえ何があっても大丈夫だという絶対的な安心感を日下に与えてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
完結|好きから一番遠いはずだった
七角@書籍化進行中!
BL
大学生の石田陽は、石ころみたいな自分に自信がない。酒の力を借りて恋愛のきっかけをつかもうと意気込む。
しかしサークル歴代最高イケメン・星川叶斗が邪魔してくる。恋愛なんて簡単そうなこの後輩、ずるいし、好きじゃない。
なのにあれこれ世話を焼かれる。いや利用されてるだけだ。恋愛相手として最も遠い後輩に、勘違いしない。
…はずだった。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
菜の花は五分咲き
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
BL
28歳の大学講師・桜庭 茂(さくらば しげる)。
ある日、駅で突然突撃してきた男子高校生に告白されてしまう。
空条 菜月(くうじょう なつき)と名乗った彼は、茂を電車で見ていたのだという。
高校生なんてとその場で断った茂だが水曜日、一緒に過ごす約束を強引にさせられてしまう。
半ば流されるように菜月との時間を過ごすようになったが、茂には菜月に話すのがためらわれる秘密があって……。
想う気持ちと家族の間で揺れる、ちょっと切ない歳の差BL。
※全年齢です
【完結】トワイライト
古都まとい
BL
競泳のスポーツ推薦で大学へ入学したばかりの十束旭陽(とつかあさひ)は、入学前のある出来事をきっかけに自身の才能のなさを実感し、競泳の世界から身を引きたいと考えていた。
しかし進学のために一人暮らしをはじめたアパートで、旭陽は夜中に突然叫び出す奇妙な隣人、小野碧(おのみどり)と出会う。碧は旭陽の通う大学の三年生で、在学中に小説家としてデビューするも、二作目のオファーがない「売れない作家」だった。
「勝負をしよう、十束くん。僕が二作目を出すのが先か、君が競泳の大会で入賞するのが先か」
碧から気の乗らない勝負を持ちかけられた旭陽は、六月の大会に出た時点で部活を辞めようとするが――。
才能を呪い、すべてを諦めようとしている旭陽。天才の背中を追い続け、這いずり回る碧。
二人の青年が、夢と恋の先でなにかを見つける青春BL。
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体は関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる