新世界

午後野つばな

文字の大きさ
5 / 47

しおりを挟む

「PG12417、ここはいいからフードコートへまわってくれ」
「承知しました」
 掃除ロボットはフロアを移動した。平日ということもあり、ショッピングモールは落ち着いていた。
 きょうはきていないのだろか。
 掃除ロボットの視線が、無意識にモール内を探る。
 あれからも、あの人の姿を何度か見かけることがあった。あの人はカフェの片隅で文庫本を片手にコーヒーを一杯飲み終えると、すぐにいなくなってしまう。掃除ロボットとは会話をすることはもちろん、視線が合うこともなかった。当たり前だ、使役ロボットと人間の間に接点などあるはずがない。
 実は遙か昔、掃除ロボットはあの人と会ったことがあった。掃除ロボットが個人の屋敷に仕えていたときの住人で、あの人はいまよりもずっと若く、まだ子どもといってもいい年齢だった。ほんの一言か二言、言葉を交わしただけだが、ただの使役ロボットにすぎない自分に対して、初めて優しい言葉をかけてくれた人間だった。向こうは覚えていなかったけれど、久しぶりにあの人の声を聞いた。
 胸のライトがぴろぴろと点滅する。
 ……?
 身体の奥が不具合を起こした気がして、掃除ロボットは首を傾げた。メンテナンスのときに異常は見られなかったが、やはりどこかおかしいのだろうか。
 そのとき、カフェの片隅で、四十代くらいの男と一緒にコーヒーを飲む一人の少年の姿が目に入った。美しい少年だった。まるでそこだけスポットライトを浴びたみたいに、人々の視線が自然と少年に集まる。
 歳の頃は16~18くらい。淡い金色の髪が小さくて形のよい頭部をふわりと包み込んでいる。雪花石膏のような肌は内側から輝くようで、何よりも人々の目を引くのは、その澄んだ紫水晶の瞳だった。小柄でしなやかな肉体は見た目も機能においても何一つ人間と変わらないのに、少年は誰よりもその場にいる人の目を引いた。彼は特別な用途のために作られた最新型アンドロイド――つまりはセクサロイドだ。美しい容姿も、見た目の年齢にはそぐわない妖艶さも、すべては人々を魅了するためにある。一緒にいるのは彼の客だろうか。高級そうな服を身につけ、穏やかな瞳で向かいの席に座る少年を眺めている。おそらく客は、一般の人間には到底手が届かないほどの高額な金を払って、少年と一緒に過ごす時間を買っているのだろう。
 じっと見ているつもりはなかったが、いつの間にか凝視していたらしい。掃除ロボットの視線に気がついた少年が、咎めるような眼差しを向けてきた。
 掃除ロボットは視線を外した。フロアの片隅で待機する。何気なく視線を向けた先に、薄汚れた自分のボディが目に入った。掃除ロボットはアームのついた手で汚れを擦った。食べ物の汚れはすぐに落ちたが、白いボディについた細かい傷はそのままだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜

トマトふぁ之助
BL
 某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。  そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。  聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。

処理中です...