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しおりを挟む「PG12417、ここはいいからフードコートへまわってくれ」
「承知しました」
掃除ロボットはフロアを移動した。平日ということもあり、ショッピングモールは落ち着いていた。
きょうはきていないのだろか。
掃除ロボットの視線が、無意識にモール内を探る。
あれからも、あの人の姿を何度か見かけることがあった。あの人はカフェの片隅で文庫本を片手にコーヒーを一杯飲み終えると、すぐにいなくなってしまう。掃除ロボットとは会話をすることはもちろん、視線が合うこともなかった。当たり前だ、使役ロボットと人間の間に接点などあるはずがない。
実は遙か昔、掃除ロボットはあの人と会ったことがあった。掃除ロボットが個人の屋敷に仕えていたときの住人で、あの人はいまよりもずっと若く、まだ子どもといってもいい年齢だった。ほんの一言か二言、言葉を交わしただけだが、ただの使役ロボットにすぎない自分に対して、初めて優しい言葉をかけてくれた人間だった。向こうは覚えていなかったけれど、久しぶりにあの人の声を聞いた。
胸のライトがぴろぴろと点滅する。
……?
身体の奥が不具合を起こした気がして、掃除ロボットは首を傾げた。メンテナンスのときに異常は見られなかったが、やはりどこかおかしいのだろうか。
そのとき、カフェの片隅で、四十代くらいの男と一緒にコーヒーを飲む一人の少年の姿が目に入った。美しい少年だった。まるでそこだけスポットライトを浴びたみたいに、人々の視線が自然と少年に集まる。
歳の頃は16~18くらい。淡い金色の髪が小さくて形のよい頭部をふわりと包み込んでいる。雪花石膏のような肌は内側から輝くようで、何よりも人々の目を引くのは、その澄んだ紫水晶の瞳だった。小柄でしなやかな肉体は見た目も機能においても何一つ人間と変わらないのに、少年は誰よりもその場にいる人の目を引いた。彼は特別な用途のために作られた最新型アンドロイド――つまりはセクサロイドだ。美しい容姿も、見た目の年齢にはそぐわない妖艶さも、すべては人々を魅了するためにある。一緒にいるのは彼の客だろうか。高級そうな服を身につけ、穏やかな瞳で向かいの席に座る少年を眺めている。おそらく客は、一般の人間には到底手が届かないほどの高額な金を払って、少年と一緒に過ごす時間を買っているのだろう。
じっと見ているつもりはなかったが、いつの間にか凝視していたらしい。掃除ロボットの視線に気がついた少年が、咎めるような眼差しを向けてきた。
掃除ロボットは視線を外した。フロアの片隅で待機する。何気なく視線を向けた先に、薄汚れた自分のボディが目に入った。掃除ロボットはアームのついた手で汚れを擦った。食べ物の汚れはすぐに落ちたが、白いボディについた細かい傷はそのままだ。
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