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少年は微かに首を傾げると、崇嗣を見てうれしそうに笑った。何の疑いもなくグラスに口をつける。次の瞬間、驚いたように大きく目を見開いた。
「大丈夫か」
苦しそうに咳き込む少年の背中を撫でながら、崇嗣は先ほどから少年が具合が悪そうにしている訳に気がつき、思わず手を止めた。開いた襟元から透き通るような肌が誘うように覗き、色香は匂い立つほどだ。けぶるような瞳は艶やかに色めき、涙に潤んでいる。そう、少年は発情しているのだ。
「お前それ……」
少年のズボンの前立ては膨らみ、勃起しているのが服の上からもわかった。頬は熱を帯びたように薔薇色に上気し、額にはうっすらと汗が滲んでいる。
セクサロイドは一度官能のスイッチが入れば、なかなか治まることができない。それは相手が誰であれ、たとえそこに本人の意思が伴わなくても、セックスができなくてはならないからだ。そういうものとして初めから作られている。おそらくこの少年にとっては、ほんの些細な刺激、たとえば風が肌に触れるだけでも、何十倍の刺激になって苛められているに違いない。
「……さっさと出してすっきりしてしまえ」
必要以上に乱暴な物言いになってしまったのは、不快に感じたからではなかった。実のところ少年の生々しい性を目にして、若干の気まずさを感じただけなのだが、崇嗣の言葉を少年が誤解したのは間違いなかった。
「わ、私は大丈夫です。あの、助けていただきありがとうございました」
少年は青ざめた顔で、気丈にも微笑もうとした。傷ついた瞳から、透明な涙が一粒零れ落ちる。
「……っ!」
少年は身を翻すと、ドアのほうへと駆けた。華奢な肩から、崇嗣のコートが床に落ちる。
そうだ、そのままいかせればいい。いまならまだ遅くない。このまま少年を突き放すことができる。
部屋に入ってからずっと、崇嗣は少年が食い入るような眼差しで、自分の一挙一動を追っていることに気がついていた。そこに宿る好意的な感情にも。
もちろん崇嗣は自分が特別だと自惚れてはいない。この少年は元々人間の愛玩具として作られたものだ。相手から好意を持たれるのは当然のこととして、相手にも自分が好意を持たれているのだと錯覚させなければならない。もし仮に少年が自分に対して特別な感情を抱いていたとしても、それは自分が彼の危機を救ったからだと崇嗣は考えた。
少年はガチャガチャとドアノブを回すが、指先が震えてうまく鍵を外すことができない。その背中は痛々しいほどに怯え、崇嗣の言葉に傷ついているのがわかった。
このまま少年をいかせれば、二度と関わることはない。自分にはこれまでの平凡な日常が戻ってくるだろう。くそみたいな人生だが、崇嗣にとっては何よりも必要な日常が。
ドアが開く。この部屋を一歩出たら最後、見るからに金の匂いがする少年が一人でいて無事でいるとは考えられない。そのとき、崇嗣の貸したコートに、大切そうに顔を埋める少年の姿が目に浮かんだ。差し出したグラスに、うれしそうに笑った顔も。
崇嗣は舌打ちした。いまにもこの部屋から出ていこうとしている少年に、数歩で近づく。
「……悪かった。お前は何も悪くない」
「大丈夫か」
苦しそうに咳き込む少年の背中を撫でながら、崇嗣は先ほどから少年が具合が悪そうにしている訳に気がつき、思わず手を止めた。開いた襟元から透き通るような肌が誘うように覗き、色香は匂い立つほどだ。けぶるような瞳は艶やかに色めき、涙に潤んでいる。そう、少年は発情しているのだ。
「お前それ……」
少年のズボンの前立ては膨らみ、勃起しているのが服の上からもわかった。頬は熱を帯びたように薔薇色に上気し、額にはうっすらと汗が滲んでいる。
セクサロイドは一度官能のスイッチが入れば、なかなか治まることができない。それは相手が誰であれ、たとえそこに本人の意思が伴わなくても、セックスができなくてはならないからだ。そういうものとして初めから作られている。おそらくこの少年にとっては、ほんの些細な刺激、たとえば風が肌に触れるだけでも、何十倍の刺激になって苛められているに違いない。
「……さっさと出してすっきりしてしまえ」
必要以上に乱暴な物言いになってしまったのは、不快に感じたからではなかった。実のところ少年の生々しい性を目にして、若干の気まずさを感じただけなのだが、崇嗣の言葉を少年が誤解したのは間違いなかった。
「わ、私は大丈夫です。あの、助けていただきありがとうございました」
少年は青ざめた顔で、気丈にも微笑もうとした。傷ついた瞳から、透明な涙が一粒零れ落ちる。
「……っ!」
少年は身を翻すと、ドアのほうへと駆けた。華奢な肩から、崇嗣のコートが床に落ちる。
そうだ、そのままいかせればいい。いまならまだ遅くない。このまま少年を突き放すことができる。
部屋に入ってからずっと、崇嗣は少年が食い入るような眼差しで、自分の一挙一動を追っていることに気がついていた。そこに宿る好意的な感情にも。
もちろん崇嗣は自分が特別だと自惚れてはいない。この少年は元々人間の愛玩具として作られたものだ。相手から好意を持たれるのは当然のこととして、相手にも自分が好意を持たれているのだと錯覚させなければならない。もし仮に少年が自分に対して特別な感情を抱いていたとしても、それは自分が彼の危機を救ったからだと崇嗣は考えた。
少年はガチャガチャとドアノブを回すが、指先が震えてうまく鍵を外すことができない。その背中は痛々しいほどに怯え、崇嗣の言葉に傷ついているのがわかった。
このまま少年をいかせれば、二度と関わることはない。自分にはこれまでの平凡な日常が戻ってくるだろう。くそみたいな人生だが、崇嗣にとっては何よりも必要な日常が。
ドアが開く。この部屋を一歩出たら最後、見るからに金の匂いがする少年が一人でいて無事でいるとは考えられない。そのとき、崇嗣の貸したコートに、大切そうに顔を埋める少年の姿が目に浮かんだ。差し出したグラスに、うれしそうに笑った顔も。
崇嗣は舌打ちした。いまにもこの部屋から出ていこうとしている少年に、数歩で近づく。
「……悪かった。お前は何も悪くない」
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