新世界

午後野つばな

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 つんと澄ました顔のヴィオラが、マルに身体を撫でられてうっとりとしそうになり、慌てて体裁を取り繕う。
「言えません。崇嗣さんはきっと、私に知られることを望んではいません」
 なぜなら彼はやさしいから。ロボットである自分に、同じくロボットが虐げられている現場を見せることを、彼はきっと望まない。
 人間社会において、ロボットは便利な道具でしかない。たとえ人間からひどい扱いを受け、その結果破損したとしても、代わりとなる新しいロボットがくるだけだ。それはたとえ機能や身体において、人間とほとんど変わらないアンドロイドであっても同じだろう。
 崇嗣さんは覚えていないが、遠い昔、マルは人間の楽しみのために、虐げられていたことがあった。崇嗣さんはそんな状況から救ってくれただけではなく、修理して、初めてやさしい言葉をかけてくれた人間でもあった。そんな人間がいることを、マルは崇嗣さんに会って初めて知った。
 モールで崇嗣さんと再会したとき、マルは崇嗣さんがあのときの人間だとすぐにわかった。以前とは違い、どこか他人を寄せ付けない雰囲気をしていることは気になったが、白いパンツの男に絡まれたとき、前とは変わらないやさしさを持つ崇嗣さんを知って、マルはうれしかった。ヴィオラとして、助けてもらったときもそうだ。
 いまでもまだ信じられない気持ちがする。ずっと遠くから見ることしか叶わなかった、あの人のそばにいられるなんて。それだけじゃない、話をして、笑い合うことができる。
 崇嗣さんに優しくされるほど、自分はここにていいのだろうかという思いがマルの胸に陰を落とした。そばにいられるのはうれしいのに、同じくらい悲しい。崇嗣さんが助けてくれたのは薄汚れた使役ロボットである自分などではなく、誰よりも美しいアンドロイド、ヴィオラだ。自分はやさしいあの人を騙しているだという思いは日に日にマルを苦しめた。
「私は、これ以上あの人のそばにいてはいけないのではないでしょうか……」
『ばかじゃないの。他にどこにいくってのさ。あんたが罪悪感にかられるのは勝手だけど、僕は二度と元の生活に戻る気はないよ』
 ヴィオラはマルの膝から飛び降りると、どこかへ姿を消したまま、夕食の時間まで戻らなかった。
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