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「モールで客と一緒にいるお前を見たときもそうだ。俺は何も感じなかったんだ。だけどお前が暴漢に襲われているのを見て、最初は面倒だと思いながら、そのまま立ち去ることができなかった。家を飛び出してから、ずっと面倒は避けていたのに、どうしてもお前にはそれができなかった。それがなぜだろうと考えていた」
崇嗣さんはヴァンショーを飲み干すと、カップを握り潰した。
「なぜだろうな、お前を見ていると、あのときのロボットを思い出す。自分が何もできず、たった一体のロボットを助けることもできなかった苦い気持ちを思い出す。だからというわけじゃないんだろうが、俺はお前が傷つく姿は見たくないと思う。自分でもこんなふうになるとは思ってなかったんだが、俺はお前に惚れているのかもな。マル……?」
驚いたように大きく見開かれた崇嗣さんの瞳に、自分の姿が映っているのが見えた。
「……ずっと、私はあなたに嘘をついていました」
胸が苦しくてたまらなかった。あふれる涙を止めることができない。マルは驚きで目を瞠る崇嗣さんを見つめた。
「あなたが何もできなかったなんてことはありません。そのロボットが、あなたの存在にどれほど助けられたか……。たくさんいる人間の中で、あなただけがただ一人、やさしくしてくれた。そんな人間がいることを、私はあなたに出会うまで知りませんでした。たとえそばにいることができなくても、あなたにかけてもらった言葉のひとつひとつが、どれだけ心の中を明るく支えてくれたか……」
ちゃんと話さなければと思うのに、うまく言葉にすることができない。
「マル……?」
崇嗣さんの瞳に明らかな疑念の色が浮かんでいる。だめだ、しっかり話さなければと、マルはいまにも崩れ落ちそうな自分の心を奮い立たせる。
「私があのときのロボットです。あなたに会いたくて、ヴィオラと身体を交換してもらいました。黙っていて申し訳ありませんでした」
マルは事実だけを述べると、頭を下げた。マルたちの横を、楽しそうな人間のカップルが通り過ぎる。マル、と自分の名を呼ぶ崇嗣さんの声に、マルはびくりとした。
「顔を上げろ」
マルは口をきゅっと結ぶと、覚悟して顔を上げた。てっきりいままで騙していたのかと、崇嗣さんに罵倒されると思ったのに、そこにマルを責める色は微塵もなかった。ただ、マルがよく知る崇嗣さんの顔があった。
「謝らなくていい。……お前は何も悪くない」
崇嗣さんの手がマルの頬に触れる。その顔を、瞳を、もっと見たいと思うのに、涙に滲んでよく見ることができない。跡がつくほどきつく噛みしめた唇をほどくように、崇嗣さんの指が触れた。
「お前が好きだ」
「――……っ」
涙があふれる。しゃくりあげて息もできず、声を詰まらせて苦しげに泣く身体を、力強い腕が抱きしめてくれる。マルの手元からほとんど中身の減らないカップが足元に落ちた。マルは崇嗣さんの胸元にしがみついた。
「頼むからもう泣くな……」
やがて頭上から、困り果てたようなやさしい声が聞こえた。マルは泣きながら、どこよりも安心できる温かなこの場所で、初めて自分の居場所を見つけた気がした。
崇嗣さんはヴァンショーを飲み干すと、カップを握り潰した。
「なぜだろうな、お前を見ていると、あのときのロボットを思い出す。自分が何もできず、たった一体のロボットを助けることもできなかった苦い気持ちを思い出す。だからというわけじゃないんだろうが、俺はお前が傷つく姿は見たくないと思う。自分でもこんなふうになるとは思ってなかったんだが、俺はお前に惚れているのかもな。マル……?」
驚いたように大きく見開かれた崇嗣さんの瞳に、自分の姿が映っているのが見えた。
「……ずっと、私はあなたに嘘をついていました」
胸が苦しくてたまらなかった。あふれる涙を止めることができない。マルは驚きで目を瞠る崇嗣さんを見つめた。
「あなたが何もできなかったなんてことはありません。そのロボットが、あなたの存在にどれほど助けられたか……。たくさんいる人間の中で、あなただけがただ一人、やさしくしてくれた。そんな人間がいることを、私はあなたに出会うまで知りませんでした。たとえそばにいることができなくても、あなたにかけてもらった言葉のひとつひとつが、どれだけ心の中を明るく支えてくれたか……」
ちゃんと話さなければと思うのに、うまく言葉にすることができない。
「マル……?」
崇嗣さんの瞳に明らかな疑念の色が浮かんでいる。だめだ、しっかり話さなければと、マルはいまにも崩れ落ちそうな自分の心を奮い立たせる。
「私があのときのロボットです。あなたに会いたくて、ヴィオラと身体を交換してもらいました。黙っていて申し訳ありませんでした」
マルは事実だけを述べると、頭を下げた。マルたちの横を、楽しそうな人間のカップルが通り過ぎる。マル、と自分の名を呼ぶ崇嗣さんの声に、マルはびくりとした。
「顔を上げろ」
マルは口をきゅっと結ぶと、覚悟して顔を上げた。てっきりいままで騙していたのかと、崇嗣さんに罵倒されると思ったのに、そこにマルを責める色は微塵もなかった。ただ、マルがよく知る崇嗣さんの顔があった。
「謝らなくていい。……お前は何も悪くない」
崇嗣さんの手がマルの頬に触れる。その顔を、瞳を、もっと見たいと思うのに、涙に滲んでよく見ることができない。跡がつくほどきつく噛みしめた唇をほどくように、崇嗣さんの指が触れた。
「お前が好きだ」
「――……っ」
涙があふれる。しゃくりあげて息もできず、声を詰まらせて苦しげに泣く身体を、力強い腕が抱きしめてくれる。マルの手元からほとんど中身の減らないカップが足元に落ちた。マルは崇嗣さんの胸元にしがみついた。
「頼むからもう泣くな……」
やがて頭上から、困り果てたようなやさしい声が聞こえた。マルは泣きながら、どこよりも安心できる温かなこの場所で、初めて自分の居場所を見つけた気がした。
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