慣れない恋のはじめかた

午後野つばな

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 犬飼の言葉に桜井さんは納得すると、「瀬戸さんだけじゃなくて、犬飼さんもあまり無理をしないでくださいね」と自分のデスクへと戻って行った。
 犬飼は小さく息を吐いた。AOCの件で瀬戸がいままで以上に忙しいのは事実だが、実はそれ以外にも犬飼には思い当たることがあった。
 先日、瀬戸と少しだけおかしな雰囲気になって以来、犬飼はなんとなく瀬戸を避けていた。何度か今夜いってもいいですか、という瀬戸からの誘いも、なんだかんだと理由をつけては断っている。いまは自分となんか飲んでいる暇はないだろうというのが大きな理由だが、それが単なる言い訳にすぎないことは、犬飼自身が一番よくわかっていた。
 自分がこんな態度を取っていてはいけない。そう思うのに、どうしても瀬戸とふたりきりになるのが怖い。いや、もしかしたら一番怖いのは瀬戸本人ではなく、瀬戸と一緒にいることでどうしようもなく揺れ動く自分の心なのかもしれなかった。
 明らかに怪しい自分の態度を訝しんで、ときどき、瀬戸が何か物言いたげな眼差しでこちらを見ている。挙動不審な自分の態度を怪しんでいるのだとわかったが、そんな瀬戸にも何も気づかないふりをして、へらへらと誤魔化し笑いを浮かべてしまう。そのあとは、決まって深い自己嫌悪に襲われた。
 いかん、いかん。仕事だ、仕事をしないと。
 瀬戸にも、もっと自然な態度を取るようにしないとと言い聞かせ、くるりと振り返ったときだった。すぐ目の前に当の瀬戸が立っていて、犬飼はぎょっとなった。
「犬飼さん。ちょっといいですか?」
「せ、瀬戸っ! どうしたんだ!? 何かあったのか!?」
 たった今、瀬戸に自然な態度を取らなければと思ったことも忘れて、犬飼は動揺のあまりどもってしまう。
「AOCの件ですが……」
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