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流されるな(5)
しおりを挟むなんだったんだろう、あの1週間。
口からぽろっとこぼれるように出たそれに、千秋はげんなりした。俺、普段独り言とか言わないタイプなのに。
そんな千秋は翌日、正真正銘、自分の部屋に戻ってきていた。早朝とはいかなかったが、少し遅めの朝ごはんを食べてから帰ってきたのだ。
拓也に迷惑かけてまで、本当何やってたんだ俺。隣人トラブルとか言って新しい家が見つかるまでと拓也の家に逃げ込んだくせに、当の隣人と拓也を会わせてしまったし。
洗濯してない衣服を取り出して洗濯機に放り込む。そういえば、隣から人の気配はしなかった。水曜日の今日は、まだ13時。まだ帰ってくるには早いのか。
いや、別に帰ってきても会うわけじゃないけど……。
一人で苦笑いしながら洗濯機のボタンを押した。拓也の家の洗濯機は一人暮らしをする際両親にプレゼントされたらしいドラム式だったが、千秋のは縦型である。なんだろう、洗濯機が回ってるのを見るのって落ち着く。
ずっとそうしているわけにもいかないので、出る前一応きれいにはしたが1週間も経っているので掃除を始める。綺麗好きっていうわけではないけど、もういつものクセみたいなものである。ある程度は綺麗を保たないといけない気がする。いや、それってすでに綺麗好きなのか。わからない、まあでも汚いより綺麗の方がいいじゃないか。
……と、現実逃避するようにどうでもいいことを考え続けてはいるが、実は千秋には決めなければいけないことがある。
──昨日の夜。英司が帰った後、千秋が拓也に「そろそろ自分の家に戻る」ということ告げた時のことである。
「じゃあ、もう新しい家見つかったのか?」
「いや、見つかってないけど……。これ以上はさすがに迷惑だし」
「それは別にいいけど……。でも実はさっきコンビニの帰りにアパートの大家に会ってさ!友達が部屋探してるって言ったら、もう少しで空く部屋があるらしくて、お前に優先で貸してくれるって言ってるんだよ」
「え?」
俺、大家さんに信頼されてるからな~と少し自慢げな拓也。
「ほら、これ物件資料。まあ間取りはこの部屋とあんま変わらねーけどな。まだ退去済んでないから、それからになるらしいけど」
ちらっと見てみると、間取りは本当に拓也の部屋と同じだ。違うことといえば、また角部屋ってことだ。家賃も千秋の予算以内。正直言って、条件はこれ以上ないほどいい。
英司とは明日家に帰ることを約束はしたが、引っ越ししないとは言ってない。というか、引っ越しを考えてることすら言ってなかった。だから、俺は不義理にはならないはずだ。となれば、すぐにでも決めて、拓也にしつこいほど感謝して、早めにその大家さんに連絡して……。
でも………。
なぜか、さっきの路地でのことが思い出される。……なんで急に、あの人のことが。
悩ましげに寄せられた眉間、切実な声が千秋を呼ぶ。
いや、ただあんな感じの英司が珍しいから、だから気にしてしまうだけなんだ。本当、最近の俺は全然俺らしくない。俺の意志はそんなに弱くなかったはずだ。
だから、意志の強い俺は、最初から望みに望みまくっていたこのチャンスを逃すわけがない。よし。
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