リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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つながりを求めた(7)

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「俺、つながりが欲しくて、でも柳瀬さんに言っちゃったらなくなるから、言っちゃってショックで、もう終わったって思ったんです。でもそれ以前に柳瀬さん怒らせちゃって、もう無理かもって、今度こそ嫌われたって。嫌われてもおかしくない態度いままでずっととってきたのに、本当にそうなったら、おれ……っ」

 ほろほろと涙が思いと一緒に溢れてくる。

 ずっと考えていたからか、熱のせいかわからない。

 熱なんかなくても、英司を目の前にすれば同じようなことになる気もする。でも、やっぱり熱のせいにしたいと思った。

 きっと、考えていたことの半分も言えていないし、文脈も絶対おかしいことになっている。

「千秋……大丈夫だ。俺はずっとお前が好きだよ。ごめん」

 その言葉を聞いて安心する。嘘でも本当でもいい、そう思えるほどだった。嫌われてないなら、いい。

「千秋、興奮したら悪化する。今は寝た方がいい」

 英司が千秋の涙を拭きつつ布団を整えると、諭すように言う。

 そして立ち上がると、どこかに行こうとする。

「お……どうした?なんかいるか?」

 とっさに服を掴み、クンと引かれた英司が振り返った。

「いや、なにもいらないけど……」

 引き止めてどうするつもりだったのか、自分でもわからなかったので、そのまま黙りこくってしまう。

 すると、「あーもう」と英司がいきなり言うのでびっくりした。そしてまた同じところにしゃがみ込むと、

「……けど、俺がいる?」

 と期待してるような、不安なような、そんな表情で聞いてきた。

 なんだその、バカップルみたいな……

 いつもの俺だったら「いらない」って言うぞとは思ったけど、今俺は熱に浮かされてるせいで、頭がうまく回ってない。だから、その会話に乗ってやることにした。

「柳瀬さんは、いる……」

 英司が嬉しそうに微笑む。

 そして、ここにいるからな、と低くて心地いい声。

 それにほっとした千秋は、だんだん、ゆっくりと眠りに入っていった。






 目が覚めると、窓から朝日が差し込んでいた。

 時計の針は8時を指している。今日が休みの日でよかった。

 ふと部屋を見回したが、英司はいないようだ。

 ……あれ。

 ベッドから降りようとしたら、床に毛布が落ちているのが目に入る。もしかして、ここで寝てたのだろうか。

 シャワーを浴びて、ベッドに腰を落ち着かせると、

「あ、起きたか?」

 ガチャリと玄関から音がして、入ってきた英司が部屋に顔を見せた。

「あ、はい……おはようございます」

「おはよ。結構回復したっぽいな。熱は?」

「おかげさまで、測ったら平熱でした」

 ベッドに座っている千秋のところまで寄ると、おでこに触れられる。

「今日なんもない日?」

「はい」

「なら、とりあえず今日までは安静にしとけ。朝飯買ってきたけど食べるか?」

「え、いいんですか」

 もう熱も下がって元気なのに、そこまで面倒を見てくれるらしい。

「当たり前だろ。お前のために買ってきたんだから」

 淡々と言う英司に、頬がじんわり熱くなる。

 こういうことを平気で言うのだから、悔しくて、俺は顔をそらした。



 テーブルに向かい合うように座ると、英司の買ってきた朝食を食べ始める。

 千秋は何も話さない英司をちらりと伺う。何を考えているのかわからない表情だ。

 一方で千秋は、非常に落ち着かない気持ちだった。それは、さっき昨日のことを思い出した時、叫び出したいほど恥ずかしくなってしまったからだ。

 ああ、俺本当意味わからないこと言ってたよな。英司が何も言わないので、どう捉えたのか余計気になってしまう。
 
 いや、触れるつもりがないなら一生触れられず、どうかこのまま墓場まで持っていかせてほしい。

「高梨」

「はいっ!」

 まずい、無駄に元気な返事をしてしまった。

「昨日」

 ぎくりとする千秋とは英司は真剣な顔つきで千秋を見据え、はっきりと口にした。

「回復したら聞くって言ってたやつ」

「え?……ああ」
 
 一瞬何のことかわからなかったが、そういえばそんなことを言っていた。

 しかし、心当たりが多すぎて、実際何を聞かれるかわからない。

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