リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

文字の大きさ
41 / 75

それは単純で特別な(7)

しおりを挟む

「……で、柳瀬さんはどうお考えですか」

「どうお考えですかって」

「う、うるさい……」

「でもお前マジでかわいいな」

「バカにしてんですか!?」

 いっそ涙目で前のめりになって言うと、英司が「ごめんごめん」と頭を撫でた。完全にペースに乗せられている。

 でも今度こそ、真剣に答える気になったようだ。謎の余裕を持ってしまって意地悪モードな彼が腹立たしい。

「千秋、知ってると思うけど俺はずっとお前のことが好きだった」

「……」

「お前に色々してやりたいのも、やらしいことしたいのも、全部お前が好きだからだ。急かしたくないからゆっくり進めようと思ってたけど、お前が言ってくれたのがすげえ嬉しい」

 そんな何度も言わなくたって、千秋は思ったが、話を中断したくなくてそれは飲み込んだ。ていうか、さらっとやらしいことしたいって言った……。

 ふと、英司が千秋の両手を握って持ち上げた。

「俺はお前の特別になりたい。俺の方こそ、お前の正式な恋人にしてくれ」

 そう言うと、力強く、鋭い眼差しが千秋を捉えて動けなくする。

 そのセリフは俺の真似じゃないかと文句でも言えればいいのに、心臓は途中からずっとドキンドキンとうるさいくらいに鳴っていて、少し痛いくらいだ。

 それと同時に、『特別』その言葉がストンと腑に落ちる感覚があった。

 英司のために何かしたいだの、そのためには名目がだの、色々考えていたことは変わらない。

 しかし、結局、千秋も欲しかったのはそれだったのだと、言われて初めて気づく。

 単純に俺は、柳瀬さんの『特別』が欲しかったのだ。

「柳瀬さんを正式な恋人にしてあげます」

 わざと上から目線に言ってやると、英司が横からぎゅうと抱き締めてきた。

「千秋」

「ん」

 横を向くと、ちゅ、とキスをされた。

 どうしよう、なんか現実味はないけど、なんか、どうしよう。俺、柳瀬さんと本当に……

「ああ……まじで嬉しい」

 千秋を抱きしめながら、柔らかい表情で言う英司になんだかたまらなくなる。

「や、柳瀬さん……っ」

 前に回わされた片腕を気持ち程度にぎゅうと握っていたが、俺はおかしくなってしまったらしい、くいと肩をつかんで、英司の顔に自分の顔を近づけ──……

 その瞬間、コンコンと扉をノックする音がして、反射でベッドから跳ね降りた。

「ひゃ、ひゃいっ」

「恵理子だけど」

 ノックしたのは恵理子で、すぐには入って来ず外から声をかけてきてくれた。

「ちっ、いいところだったのに」

「柳瀬さんっ!」

 舌打ちするな!

 恵理子を入れようと、パタパタ慌てて扉の方に行く。

 やばい、俺、今なにしようとした?こんな衝動的に、やっぱり今日おかしいかも……。落ち着け俺!

 カラっとドアを開けると、腕組みした恵理子が立っていた。

「顔赤いけど」

「へっ」

「まあいいや、とりあえず泊まりは無理だし送るよ」

 恵理子は千秋を迎えに来たらしかった。二人きりにしてくれたのも、気を使ってくれたんだろう。

「すみません何から何まで……」

「その様子だとなんとかできたっぽいね」

「なんとかできるかは、これから次第なんですけど」

 その会話は聞こえていない英司がベッドから「恵理子」と呼ぶ。彼女は扉のところから動かずに目を向けた。

「ありがとうな、連れてきてくれて」

「……まあ、これで懲りてよね。とりあえずこの子は家に返すよ」

「ああ、頼む」

 やっぱり二人は信頼しあった仲間という感じで、それが少しいいなと思えた。

「じゃあ柳瀬さん、俺帰るんで……」

 長居するのもあれなので、早々に出て行こうとすると、英司にちょいちょいと手招きされる。恵理子が「外で待ってるから」と扉を閉めた。

 なんだ?と再び英司の元に寄ると、「もしかして今日、俺の分もご飯つくってくれてた?」と申し訳なさそうに聞かれた。

 たしかに今日はうちに来るとメールをもらっていた。もしかして、つくったものを無駄にしたと気にしているんだろうか。

「あ、はい、でもどうせ俺も食べるんで」

「なにつくったの?」

「えっと……豚の角煮です」

「それ手間かかるやつだよな。あー……俺も食べたかったな」

「あ、えっ、じゃあ、明日退院できるなら、俺持っていきますけど。1日置いても美味しいんで。あっ、でも退院直後に豚の角煮って大丈夫なんですかね」

 食べたかったと言われ、嬉しくなってしまうのは仕方ないだろう。それを見て英司がふっと笑う。

「お前、圧倒的に嫁……」

「よ、嫁……?」

 なんと、お母さんではなかった。ていうか、よ、嫁って……。

 そんなことを考えていると、くいと引き寄せられて、ちゅーっとキスをされた。

 ちゅっと音を立てて離れると、英司に頭をするりと撫でられる。

「……じゃあ、明日すぐ帰れるはずだから、そしたら千秋のところに行く。で、それ食わせて」

「は、はい……」

 近すぎる距離に英司の顔があって、微笑まれるとバクバクとさらに鼓動が速くなった。

 そして、その後すぐ病院を出て恵理子に家まで送ってもらったわけだが、心臓が落ち着くことは一向になかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...