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それは単純で特別な(7)
しおりを挟む「……で、柳瀬さんはどうお考えですか」
「どうお考えですかって」
「う、うるさい……」
「でもお前マジでかわいいな」
「バカにしてんですか!?」
いっそ涙目で前のめりになって言うと、英司が「ごめんごめん」と頭を撫でた。完全にペースに乗せられている。
でも今度こそ、真剣に答える気になったようだ。謎の余裕を持ってしまって意地悪モードな彼が腹立たしい。
「千秋、知ってると思うけど俺はずっとお前のことが好きだった」
「……」
「お前に色々してやりたいのも、やらしいことしたいのも、全部お前が好きだからだ。急かしたくないからゆっくり進めようと思ってたけど、お前が言ってくれたのがすげえ嬉しい」
そんな何度も言わなくたって、千秋は思ったが、話を中断したくなくてそれは飲み込んだ。ていうか、さらっとやらしいことしたいって言った……。
ふと、英司が千秋の両手を握って持ち上げた。
「俺はお前の特別になりたい。俺の方こそ、お前の正式な恋人にしてくれ」
そう言うと、力強く、鋭い眼差しが千秋を捉えて動けなくする。
そのセリフは俺の真似じゃないかと文句でも言えればいいのに、心臓は途中からずっとドキンドキンとうるさいくらいに鳴っていて、少し痛いくらいだ。
それと同時に、『特別』その言葉がストンと腑に落ちる感覚があった。
英司のために何かしたいだの、そのためには名目がだの、色々考えていたことは変わらない。
しかし、結局、千秋も欲しかったのはそれだったのだと、言われて初めて気づく。
単純に俺は、柳瀬さんの『特別』が欲しかったのだ。
「柳瀬さんを正式な恋人にしてあげます」
わざと上から目線に言ってやると、英司が横からぎゅうと抱き締めてきた。
「千秋」
「ん」
横を向くと、ちゅ、とキスをされた。
どうしよう、なんか現実味はないけど、なんか、どうしよう。俺、柳瀬さんと本当に……
「ああ……まじで嬉しい」
千秋を抱きしめながら、柔らかい表情で言う英司になんだかたまらなくなる。
「や、柳瀬さん……っ」
前に回わされた片腕を気持ち程度にぎゅうと握っていたが、俺はおかしくなってしまったらしい、くいと肩をつかんで、英司の顔に自分の顔を近づけ──……
その瞬間、コンコンと扉をノックする音がして、反射でベッドから跳ね降りた。
「ひゃ、ひゃいっ」
「恵理子だけど」
ノックしたのは恵理子で、すぐには入って来ず外から声をかけてきてくれた。
「ちっ、いいところだったのに」
「柳瀬さんっ!」
舌打ちするな!
恵理子を入れようと、パタパタ慌てて扉の方に行く。
やばい、俺、今なにしようとした?こんな衝動的に、やっぱり今日おかしいかも……。落ち着け俺!
カラっとドアを開けると、腕組みした恵理子が立っていた。
「顔赤いけど」
「へっ」
「まあいいや、とりあえず泊まりは無理だし送るよ」
恵理子は千秋を迎えに来たらしかった。二人きりにしてくれたのも、気を使ってくれたんだろう。
「すみません何から何まで……」
「その様子だとなんとかできたっぽいね」
「なんとかできるかは、これから次第なんですけど」
その会話は聞こえていない英司がベッドから「恵理子」と呼ぶ。彼女は扉のところから動かずに目を向けた。
「ありがとうな、連れてきてくれて」
「……まあ、これで懲りてよね。とりあえずこの子は家に返すよ」
「ああ、頼む」
やっぱり二人は信頼しあった仲間という感じで、それが少しいいなと思えた。
「じゃあ柳瀬さん、俺帰るんで……」
長居するのもあれなので、早々に出て行こうとすると、英司にちょいちょいと手招きされる。恵理子が「外で待ってるから」と扉を閉めた。
なんだ?と再び英司の元に寄ると、「もしかして今日、俺の分もご飯つくってくれてた?」と申し訳なさそうに聞かれた。
たしかに今日はうちに来るとメールをもらっていた。もしかして、つくったものを無駄にしたと気にしているんだろうか。
「あ、はい、でもどうせ俺も食べるんで」
「なにつくったの?」
「えっと……豚の角煮です」
「それ手間かかるやつだよな。あー……俺も食べたかったな」
「あ、えっ、じゃあ、明日退院できるなら、俺持っていきますけど。1日置いても美味しいんで。あっ、でも退院直後に豚の角煮って大丈夫なんですかね」
食べたかったと言われ、嬉しくなってしまうのは仕方ないだろう。それを見て英司がふっと笑う。
「お前、圧倒的に嫁……」
「よ、嫁……?」
なんと、お母さんではなかった。ていうか、よ、嫁って……。
そんなことを考えていると、くいと引き寄せられて、ちゅーっとキスをされた。
ちゅっと音を立てて離れると、英司に頭をするりと撫でられる。
「……じゃあ、明日すぐ帰れるはずだから、そしたら千秋のところに行く。で、それ食わせて」
「は、はい……」
近すぎる距離に英司の顔があって、微笑まれるとバクバクとさらに鼓動が速くなった。
そして、その後すぐ病院を出て恵理子に家まで送ってもらったわけだが、心臓が落ち着くことは一向になかった。
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