リスタート 〜嫌いな隣人に構われています〜

黒崎サトウ

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番外編(2)

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 飲み始めてしばらくすると、二人して缶一本を空にした。

「柳瀬さん」

「ん?」

「もうないんですか?終わっちゃいましたよ……」

 千秋の顔はほんのり赤に染まっていた。
 
「もう終わりな。飲みすぎるとよくないだろ」

「でも、まだ飲みたいです」

 服の腕の部分をきゅっと掴まれて、英司はうっと言葉をつまらせた。

 ……これは完全に酔っている。

 これ以上飲ませるわけにはいかないのに、上目遣いでねだられると今すぐ買いに走ってしまいそうになった。

「柳瀬さん」

「……こーら、そんな顔してもだめ」

「んー……」

 駄々をこねるように唸りながら、今度は体ごと寄りかってくる。

 ……いや、まじでやばいかもしれない。酔った千秋は意識はハッキリしているが、いつもより数段甘い。可愛い。

 確かにこういう千秋を見たかったはずなのに、可愛すぎるあまり逆に困った。

「そんなことしてもだめだぞ」

「そんなこと……?……あ、また見返りに何かやらせようってんですね」

 勝手に納得する千秋。なんのことだ、と思った瞬間、ちゅっと頬に何かが触れる感覚。

「ん……」

 千秋にキスされている。頬だけど。

 千秋からキスされることは滅多になく、されたときは毎回驚く。

 しかも長い。頬だけど。

「……これでいい?」

「う…………っ」

 覗き込んでくる千秋にぐっと心臓を抑える。

「柳瀬さん?」

「……だめ。色仕掛けだめ」

「……何言ってるんですか」

 でもとにかく酒は諦めてくれたらしく、安心した。

 しかし不満そうにしながらもぴたりとくっついてきて、そのギャップにぐらぐらする。甘すぎる恋人に英司は内心悶えていた。

 英司は千秋に再会して以来、萌えという感覚を完全理解してしまったのだ。

「千秋、もう眠いなら寝る?」

「全然眠くないです」

 たしかに眠くはなさそうだ。

「柳瀬さん、いつもみたいにして」

 言われると、ドキッとした。いつもみたいにってどれのことだ。

 千秋は英司の腕を掴んだと思ったら、それを自分の腰に回わすようにして動かす。

「ちゃんと力入れてください……」

 うそだろ、と思っていると睨まれてしまった。

 いつも邪魔とでも言わんばかりなのに、こうやって腰を抱かれるの好きだったのか。

「わかった。これで満足?」

「……まあまあですね」

 いつものように抱いてやると、そう言いながらもまた身を預けてくる。訳すならば、大変満足だということだ。

 ……あー、そろそろ本当にまずい。自分で仕掛けたことだけど、萌えを通り越してやばいかもしれない。

「柳瀬さん、今日、楽しかったです」

「ん?」

 英司に寄りかかりながら、改まって千秋が言い出した。

「誕生日、一緒にいれて……祝ってくれたの」

「……千秋が嬉しいなら俺も嬉しい」

「……うん」

 少し微笑んだ千秋を見て、英司も胸がいっぱいになった。腰を抱く腕に力がこもる。

 途端、千秋がぎゅっと服を掴んできた。

「柳瀬さん……」

「どうした?」

 少し息が荒いような気がして、急いで千秋の顔を確認する。酒で具合が悪くなったのかもしれない。

「……たい」

 千秋が何かつぶやいた。

「なに?」

「したい……」

「……え?」

「だから、えっちしたいっ……」

 眉を下げ切って真っ赤な顔で言われたセリフに、英司は一瞬何を言われたのかわからなかった。しかし、理解が追いつくと英司はぎゅーんと血が沸騰するような思いになった。

 ……うそだろ、えっちとか、そんな単語言ったことなかったじゃないか。

 ごくりと喉を鳴らしている間に、千秋が膝の上に乗っかってきて正面から目が合う。

 ……あーもう、俺の好きな可愛い顔してるし。

「今すぐ、して……」

 ほぼ命令形なそれに、英司は興奮せざるを得なくなった。

 これ以上えろくなってどうするんだ。他人に目でもつけられたら本当に困る。

 半ば本気で焦りながらも、千秋の誘惑に英司は手を伸ばした。伸ばすしかなかったのだ。
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