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前編
絵描きの洗礼
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彼の絵を初めて見たのは、ある冬の夜だった。
額の中に広がる、神秘的な月下の世界。
月下の世界、と言いはしても随分抽象的な絵なので、実際、描き手が何を意図したのかはわからない。中央に配された白銀の円は、見る者によっては、曇りを許さない潔癖な鏡とも、闇に穿たれた虚ろとも取れるだろう。
ただ、今の玲一の目には、月と映った。
有象無象がひしめく闇の中で、凛と背を伸ばし、何か無垢なものを秘めて大切に抱いているような月。その柔らかな光に闇を打ち払うほどの力はないけれど、月の存在と月が抱いているものは、何者にも侵すことはできない。
(美しい……)
そう感じた瞬間。
全身の毛が逆立ち、背筋を武者震いに似た震えが走った。
手の指先から、足の爪先から、サーッと熱が引いて胸の奥に集まり、炉になった心臓で温かく作り変えられた血が、今度は逆にじんわりじんわりと全身に行き渡っていくような感覚。
心臓が、ドクンッ、ドクンッ、と強く鼓動を打つ。胸が締め付けられ、息が苦しくなり、じんわりと目頭が熱くなる――眠っていた心が優しく揺さぶられる。
(ああ、そうだ……)
月の光が玲一をも包み、そして玲一の鎧う全てを剥ぎ取る。
ありのままの姿で抱かれているような安堵の中で理解する。
(この在り方は、俺の、理想……)
だが、自分はこんな風に、闇に飲まれずにいられるだろうか。
全てを終えても、美しいままでいられるだろうか。
凍結させた心を、死なせずにいられるだろうか。
「不思議な絵だろう」
かけられた声にギョッとしたのは、絵を見た瞬間に囚われた空想と、空想の中で剥き出しになっていた心を、覗き見られたように感じたからだ。そんなことは、ありえないのに。
声の主を振り返る。
同時に、現実の波が押し寄せる。
華やかなクリスマスパーティーの喧騒。遠巻きに寄せられている好奇の目。自身の、白桜はくおうホールディングスの会長――支倉燿隆の孫という立場。
そして、今夜のパーティーの主催者で、燿隆と古くから付き合いのある広告代理店の社長――蒼城悠司の、楽しそうな微笑み。
「泣いているのかと思ったよ」
そう言いながら、彼は玲一の隣に立って絵を眺める。
「君の目には何に見えた?」
「……月、でしょうか……」
「それは、なんとも、ロマンチックで意味深だね」
現代美術には明るくない。素直に述べた解釈に、しかし蒼城はからかうでもバカにするでもなく、興味深そうに頷いた。
「蒼城さんにはどう見えるんですか?」
「私はタマゴだと思ったんだ」
六十過ぎの男が涼しい顔で述べた、どう考えても自分より可愛げのある答えに、毒気を抜かれる。自分でもわかっているのだろう、蒼城は小さく笑った。
「描き手が可能性の塊だ、という先入観があるからかもしれないね。これを描いたのは、まだ無名の新人なんだ。大学一年生だったかな」
「そういえば、蒼城さんは絵画のコレクターとしても有名でいらっしゃるそうですね。祖父から聞きました」
「何年か前に、気まぐれで買った若いアーティストの二束三文の作品が、最近になって価値を上げていてね。先輩コレクターに先見の明があると煽てられて、調子に乗って買い集めているだけだよ」
「では投資対象として収集されているんですか?」
玲一の問いに、蒼城は僅かに目を見張り、フッと口元を緩めた。
「そう取るか。さすが、支倉の秘蔵っ子だね。お幾つだっけ?」
「先月、二十四になりました」
「その若さでこの場に馴染んでいるなんて、恐ろしいものだね。白桜の後継者育成が順調なようで羨ましいよ」
「私が祖父の後継者などと。おこがましいことです」
父の紘一が、燿隆の後を継ぐことを親族会議で正式に辞退したのは、玲一が高校生のときだった。
どういう理由があってのことなのかは、未だに明らかにされていない。だが、紘一は愛妻家として知られており、妻を事故で亡くした直後というタイミングだったので、周囲は傷心を気遣って深く追求しなかった。
親族は、支倉家から資産が流出するのを阻止するため、白桜ホールディングスの後継者は身内から出すようにと燿隆に迫った。
それに対して、実際のところ、燿隆はイエスともノーとも言わなかったし、今も玲一を後継者にするなどとは明言していない。だが、支倉家唯一の嫡子であった玲一は、まだ物心もつかない頃から、後継者の最有力候補として扱われることになったのだ。
どこに行っても付きまとう『白桜』や『支倉燿隆』の名前。玲一が何を言わなくとも、大抵の人が、いつか燿隆の後を継ぐだろう、継がないにしても燿隆の会社に入るだろうと思っている。
「もしも祖父から打診があれば、喜んで馳せ参じるつもりですけど、私などが祖父に必要とされるかどうか」
「支倉は実業家としては間違いなく天才だ。その彼が、こうやってどこへ行くにも連れて回っているというだけで、君への期待が窺い知れるけどね」
「ありがとうございます。ですが、買いかぶりすぎですよ」
給仕からグラスを受け取り、口付けながら、離れた所にいる祖父を見やる。
燿隆がいる暖炉脇のソファ席は、熱狂的な雰囲気に包まれていた。
大きなローテーブルを囲んで座っているのは、比較的若い世代の実業家を中心とした人々。燿隆は彼らが交わす意見に静かに耳を傾けながら、時折求められて意見を述べていた。燿隆が発言する度にソファ席には緊張が走り、実業家達は皆一様に彼に熱視線を送り、彼の一言一句を聞き漏らすまいと耳をそばだてる。
その合間を縫って、何人もの人間が、入れ替わり立ち替わり燿隆の元に訪れていた。ソファの背もたれ越しに恐縮した様子で声をかけ、名刺を渡し、恭しく挨拶して去っていく。
(滑稽な……)
あの男に対し、数秒会話を交わし紙切れ一枚残したところで、何になるというのか。散歩中に出会った犬が尻尾を振ってきたところで、どうせ擦れ違った瞬間には忘れている。美味くて大きな肉を咥えているか、リードを握る飼い主に価値でもない限りは。
確かに、万に一つの奇跡が起きて燿隆と縁を結ぶことができれば、ビジネスシーンで燿隆の存在を仄めかせるというだけでも、彼らにとっては大きな切り札になるだろう。
だが――よく革新的と持てはやされる燿隆の経営方針のために、彼らのような存在が、彼らの思惑とは逆に、どれほど無碍に利用され消費されてきたことか。
実力や戦略もなく尻尾を振っている限り、犬は犬。
あそこは彼らがチャンスを獲得する場ではない。
燿隆が手駒を獲得する場だ。
そんな男の後継に選ばれるということが、どういうことか。
「お祖父ちゃんっ子、ってわけじゃなさそうだね」
蒼城が困ったように呟く。
「馴れ合いは祖父の嫌うところですし、この場においては『祖父』ではなく『先輩』ですから」
「ずいぶんドライなんだね。孫をかわいく思わない祖父はいないと思うけど……」
そう言われても、玲一の心は揺らがない。
燿隆にとって自分が『孫』ではなく『駒』なのは承知している。
かわいく思うというのが、後継者になり得る駒として大切にしている、という意味なら、その通りなのだろうが。
「そうだ。クリスマスプレゼントに、この絵をあげよう」
空気を一掃するように、蒼城は、玲一が見ていた絵を指した。
「いえ、そんなつもりで拝見していたわけでは……」
「この絵は、今の私には少々眩しくてね。手放すのが惜しくて飾ってはいたが、君にもらってもらえるなら、踏ん切りがつく」
「……本当にいいんですか?」
今は純粋な好意だとしても、受け取れば、いずれどこかで見返りを求められるかもしれない。そんな考えがよぎったものの、喉が鳴った。
「君はずいぶん仕事熱心らしいけど、たまに絵を眺めるくらいの時間は娯楽に割いてもいいだろう? 緒月綺の処女作『α-1』だ」
「……彼女の絵は、他にもあるんですか?」
あるならぜひ見てみたい。
叶うことなら所有したい。
出会って数分で、そこまでの執着が生まれていることに、自分でも少し驚くが。
「彼女の絵、ねぇ……」
なぜか蒼城はクスクスと笑い出す。
「何かおかしなことを言いましたか?」
「いや、失礼」
口の端に笑いを留めたまま、蒼城は悪戯っぽい目で玲一を見つめた。
「緒月綺のこのシリーズはまだ二作しか出ていないはずだよ。扱っているギャラリーと、二作目のオーナーを紹介しよう」
そうして玲一は、蒼城から『α-1』を譲り受け、後日別のコレクターから『α-2』を買い取った。
その後は新作が出る度に入手し――二年たった今、彼の目の前には最新作の『α-5』がある。
都内にあるマンションの一室で、玲一は小さく溜息をついた。
「どうかされましたか?」
「いえ……」
背後に控えていた男――祖父の秘書であり、玲一の世話役であり、監視役として定期的に訪問してくる男――黒崎透の心配そうな視線を受けながら、デスクに置いた『α-4』に目をやる。
静寂の森と、そこに射し込む陽の光。幻想的な緑の世界に、この世のものならざる美しい魚が数匹、円を描いている。その中央には、淡く光る小さな月――今も、それが月を意図して描かれたものかどうかはわからないが、白い球体は、緒月の作品には必ず描かれているモチーフだった。
そして、今壁にある『α-5』。
今朝届いて『α-4』と掛け替えたものだ。
青い世界。天には月。水中から伸びた大きな樹が、悠々と枝を伸ばし、豊かに茂らせた葉に月光を浴びて白く輝いている。そして樹を中心に波紋を描く水面には、赤い月の影。
円が幾重にも重なるような、シンプルだが美しい構図。繊細な筆のタッチも、静かな狂気を思わせる雰囲気も、何も変わらないはずなのに、何かが違う。何がどうと言い表せないが、心に触れてこない。
緒月がタイトルに『α』のつく通称『αシリーズ』を描くのは不定期な上、今のところ年に二枚とかなりのローペースだった。
三日前、緒月の作品を扱っているギャラリーhakuのオーナーから新作完成の連絡を受け、目にするのを心待ちにしていたのに。
(なんだこれ……)
もどかしさを抑えて、スーツのポケットから携帯電話を取り出す。
hakuのオーナーに事情を聞こうと思ったのだが。
「玲一さん、hakuは本日定休日ですよ」
玲一とは彼が高校生の頃からの付き合いである黒崎は、携帯電話の画面を覗き見たわけでもないだろうに、発信ボタンを押すより早く釘を刺してくる。
「この絵の作者は、芹澤芸大の学生でしたっけ?」
描き手の素性を気にしたことはなかったが、緒月の名前と在籍する大学名だけは記憶していた。たまたま同じ大学に、親友の弟が通っていたからだ。
「ええ、芹澤芸術大学の、今は三年生ですね」
時計を見ると、十五時前。
少し遅いかもしれないが。
「出かけてきます」
「えっ、お会いになるんですか?」
黒崎が珍しく驚いた様子で聞いてくる。
彼の気持ちはわかる。何しろ玲一自身驚いている。
アポイントのない不確実な訪問。緒月に会ったところで益はない。
十中八九時間を無駄にするだけなのに、会いに行ってみようと思いついた瞬間には、頭のスイッチがバッチリ切り替わってしまっていた。
「今のところ親族会議には問題なく出席できます。届けていただいたデータにはちゃんと目を通しておきますよ。それと十九時からの小野寺さんの店のレセプションには俺一人で行きますし、迎えの車も要りませんから、黒崎さんは帰ってもらって大丈夫です。何かあれば連絡します」
「承知致しました。タクシーを手配致しましょうか?」
「ありがとうございます。お願いします」
さっきまでのもどかしい気持ちはどこへやら。
心が浮き立つのを感じながら、デスクを片付け、身支度を整える。黒崎と共にマンションのエントランスを出ると、タイミングよくやってきたタクシーに乗り込んだ。
黒崎はしばらく狐につままれたように玲一の様子を見守っていたが、ドアが閉まる音に我に返り、慌てて会釈した。
「行ってらっしゃいませ」
芹澤芸術大学は緑豊かな高台にあった。
タクシーから降り立った玲一は、気持ちのいい風を感じながら、夏の日差しに目を眇めた。
雲一つない紺碧の空の下、ここが芸術の学府だということを知らせるように、美しいロートアイアンの門扉が大きく開かれている。
正門をくぐると、正面には青々とした芝生の広場。その向こうには白く大きな校舎が聳え建っていて、さながら白い鳥が大きく翼を広げてキャンパスを護っているかのようだ。
「玲一さーん!」
芝生の広場をぐるりと囲む並木道を、一人の青年が、少し緊張した面持ちで走ってくる。
柔らかそうな栗色の髪に、目鼻立ちがくっきりとした愛嬌のある顔立ち。
片手を上げて微笑むと、クシャッと人懐っこい笑みで応える。
「悪いな、急に連絡して」
「ほんとですよ、ビックリしました! お久しぶりです!」
「ああ、久しぶり。杏介抜きで会うのは初めてだな」
「はい。静かで何よりです」
いろんな意味で賑やかな男の姿を思い浮かべて、二人して苦笑する。
青年の名前は紺野冬樹。
玲一の親友、紺野杏介の弟だ。
ブラコンで人で無しの兄とは違い、しっかりしていて人当たりがよく、杏介が初めて仲間の集まりに連れてきたときにも、すぐに打ち解けて可愛がられていた。
会った回数はそれほど多くないが、玲一にとっても弟のようなものだ。
「学業は順調か? 確かガラスで何か作っているんだったか……」
「あはは、覚えててくれたんですね。そうなんです。作ること自体は楽しいんですけど、何作っても教授や仲間にガラクタ扱いされて、メンタルばっかり順調に鍛えられてます。そろそろ就活用に作品集ポートフォリオも作らなきゃならないし、他人受けするものを作りたいところなんですけどね」
「杏介は、オレの弟は天才だって自慢しまくってたけど?」
「兄貴は戯言の天才ですから」
深刻に悩んでいるような素振りは一切見せず、明るく笑い飛ばす。
しぶとさや打たれ強さは、兄同様相当のものなのかもしれない。
「今日は、お仕事お休みなんですか? 大学を案内してほしいってことでしたけど」
「いや、仕事はさっき切り上げてきた。実は、会いたい人がいるんだ」
「人探し? 生徒ですか?」
「ああ。緒月綺さんといって、冬樹と同じ学年のはずなんだが……」
「――――!」
冬樹のアーモンド型の目が大きく見開かれ、玲一を凝視する。
「なっ、なんで玲一さんが綺を!?」
「なんだ、知り合いか?」
「知り合いっていうか、高校からの親友なんですよ」
「そうなのか。ならもう見つかったようなものかな」
「えっ!? あ、うーん、まぁ、そうですね。ただちょっとタイミングが……」
「忙しいのか?」
「忙しいっていうか……あー、まぁ、いっか。案内します」
なぜか激しく躊躇しながら「こっちです」と歩き出す。
「でも、なんで玲一さんが綺を探しに? どういう関係なんですか?」
「実は、緒月さんの絵をいくつか所有しているんだが、今日受け取った最新作のことで確認したいことがあってね」
「あああ! わかった。もしかして『αシリーズ』ですか!?」
「なんだ、それも知っているのか。本当ならギャラリーのオーナーか大学の教授を通して、緒月さんにアポを取ってから訪ねるのが礼儀なんだろうが、大事にしたくなかったし、自分が贔屓にしている画家の素顔を見てみたいと思ってね。そういえばここに冬樹がいたなと思い出して、直接来てしまったんだ」
「なるほど! いやー、でも玲一さんが綺のお得意様だったとはねぇ。世間は狭いっていうか……」
「お得意様……」
間違いなく自分のことだろうが、客商売を彷彿とさせる呼び方がなんとなくショックで、すぐには頷けなかった。
玲一が身を置くビジネスの世界と違い、アートの世界は利益や生産性とは無縁なのだと、無意識に神聖視していたのかもしれない。
だがよくよく考えれば、アーティストだって霞や雲を食べて生きていけるわけじゃない。将来彼らが芸術の腕一本で生きていくつもりならなおさら、金勘定は避けて通れないだろうし、作品の買い手はまさしく顧客であり、生きて行く糧なのだろう。
こちらの心境を察したのか、冬樹が苦笑した。
「変な呼び方して気を悪くしたらすみません。でも玲一さんってギャラリーに、『αシリーズ』については新作が出たらとりあえず買うって言ってあるんでしょ? 作品作る前から買うって明言してくれてるなんて、そんな存在、オレからしたら、神様みたいなお客様ですから」
「そうか……買いに行く時間が惜しいだけなんだが……」
「えっ、そんな理由!? いや、まぁ、綺は無頓着だから気にしないと思いますけど……」
「冬樹は本当に緒月さんと親しいんだな。学科は別なんだろう?」
「そうなんですけど、あいつ、なんとなく放っとけないとこあるから、時々アトリエに顔出すことにしてるんです。特に最近は、調子悪いみたいだし……」
「調子が悪い?」
「わかりやすく言うとスランプですかね」
木陰の道をのんびり歩きながら、冬樹は表情を曇らせた。
「それっていつから?」
「春からずっとです」
「長いな……」
そして、それはきっと最新作『α-5』の制作時期に当たる。
ということは、絵に対する違和感はスランプのせいなのだろうか。
「最近は食欲もないし、夜も寝れてないらしいし……だから、もし綺の最新作に対して何か思うことがあったんだとしても、今は責めないでやってくれませんか?」
きゅっと唇を引き結んで、こちらを見つめてくる。
親友相手に少し過保護なようにも感じるが、いつも明るい彼らしからぬ翳りのある表情に、緒月のスランプの深刻さが窺えた。
「安心してくれ。クレームをつけに来たわけじゃない。もし心配なら立ち会ってくれても構わないし、冬樹が今は会わない方がいいって言うならこのまま帰ってもいい。残念だけど」
「いやっ、そこまでは……。すみません。オレがこんなこと言える立場じゃないのはわかってるんですけど……」
「ずいぶん親身になって心配してるけど、冬樹は緒月さんと付き合ってるのか?」
「は?」
「去年杏介に会ったときには、冬樹に彼女ができないって嘆いてたけどな。オレの包容力がすごすぎて、そこらの女に満足できなくなってるなら、責任持って一生面倒見てやらないとって」
「いやいやいやいやいや! 玲一さん何言っちゃってるんですか!? オレ彼女いますし、兄貴は死ねばいいと思います!!」
唐突にプライベートを暴露されていることを知らされて、冬樹が顔を真っ赤にして力説する。思わず笑ってしまった。
「確かに杏介は二、三回死ねばいいと思うけど」
「ですよね! だいたい何が包容力だよ。普段綺ちゃん綺ちゃん言ってるくせに、肝心な時に帰って来ないで……」
「杏介も緒月さんと面識があるのか?」
「ありますよ。高校の頃、綺よくウチに泊まりに来てて、実家に帰ってきたときに鉢合わせして以来、あいつ綺のこと大好きですよ」
玲一も緒月の『αシリーズ』を買い集めていることなど話していないが、杏介からも緒月の話を聞いたことはない。
顔を合わせれば、どこぞの女に惚れただのフラれただのという話はうんざりするほど聞かされるのに、杏介にとって緒月は特別な存在なのだろうか。
「とにかく! オレが綺と付き合うなんてことは絶対にないんで、妙なこと疑うのはやめてください。オレはともかく、綺はその手の冗談、笑って受け取れるような奴でもないし」
やけに強い口調でビシッと言い放つ。
緒月が純粋培養のお嬢様なのか、潔癖な性格なのか。それともただ冬樹が、緒月の親友という立場を気に入っているだけなのか。
断片的に集まってきた情報に、画家への興味が掻き立てられてきたところで、冬樹が校舎の一つに入っていく。
いよいよ『αシリーズ』の制作現場を見られると思うと感慨深い。だが――
「今、綺は写真撮影の手伝いをしてるんです」
冬樹はバッサリと、玲一の期待を切り捨てた。
「……絵を描いているんじゃないのか?」
「やっぱり綺のファンとしては、制作現場を見たかったですよね」
落胆が顔に出てしまっていたのか、冬樹が苦笑する。
「ここは、デザイン学科が使ってる校舎なんです。写真家を目指してる友達が、ずっと前から綺に協力してほしいってラブコール送ってて、綺は断り続けてたんですけど、こないだ急に引き受けることにしたらしくて」
「スランプだから絵を描くのを放棄している、と?」
「やってることはそうなんですけど、意味的には逆で、綺なりの悪足掻きみたいです。少しでも刺激を受けて現状を打開できたらっていう。でも、それが必死すぎて、見ててかわいそうになるくらいで……」
校舎の中は、すっきりとした外観とは逆に雑然としていた。
廊下の窓側には木材やら脚立やらが乱雑に寄せられていて、気をつけないと、うっかり足をぶつけそうだ。冬樹は反対側に並ぶドアの一つを薄く開けて、そっと中を覗き込んだ
「ああ、いるいる……」
遮光のためか、窓の内側には分厚いカーテンがかかっており、中の様子を伺うことはできない。ドアを閉めて振り返った冬樹の顔は、なぜかげっそりして見えた。
「今撮影中なんですけど、適当なところで、カメラマンの女に声かけて中断させちゃってください」
「いいのか?」
「いいんです。これ写真部の部活ですし」
「冬樹は入らないのか?」
「オレが撮影現場に入ると、綺すっごい怒るんですよ。それに、玲一さんは綺に会いにきたんでしょ? 綺に取っても気分転換になると思うし、二人でゆっくり話してみてください。オレは帰ります」
「そうか。案内ありがとう。今度、杏介を交えて食事でも」
「楽しみにしてます。……あの」
冬樹が、まっすぐに見つめてくる。
「綺のこと、よろしくお願いします」
「…………」
何を頼まれているのか、明確にはわからなかった。
責めないでほしい、ということの念押しなのか。緒月のスランプ脱出につながるような出会いにしてやってほしい、ということなのか。お得意様としてこれからも見守ってやってほしい、ということなのか。
だが、冬樹の目がなぜか泣き出しそうに見えて、玲一はあえて何も言わず、彼の栗色の頭をグチャグチャとかき混ぜた。彼の兄がよくするように。
「行ってくる」
冬樹に微笑んで見せ、緒月がいるという教室に踏み込んだ。
薄暗い部屋の突き当たり。
ぼんやりとした光の真ん中に、黒い螺旋階段が浮かび上がっている。
床から天井まで、約六メートルほどの空間を貫くそこに、体に布を巻きつけた女性が、手すりにしなだれかかるように立っていた。
ともすると暗闇に溶け込んでしまいそうな深い緑の布は、よく見ると変わった形に仕立てられたドレス。女性の鎖骨や胸元、背中や腰など、骨格の美しい部分が恐らく意図的に露わにされていて、肌の白さが際立っているが下品な色気は感じさせない。
たっぷり使われた布がドレープを描いて階段を覆い、銀糸の刺繍が入った裾がゆったりと床まで届いている。
とても実用的なドレスとは言えないが、それを纏う女性の姿は、霧深い森にひっそりと住まう精霊のように妖しく美しい。
「右手の先を手すりに掛けて、こっち見て……」
被写体は女性一人だが、部屋には他に十人ほどの生徒が集まっていた。皆一様に彼女のポージングに目を奪われていて、玲一が入ってきたことに気付いた様子もない。
三脚に据えた大きなカメラを覗きながら、カメラマンの女性が囁くように指示を出す。
被写体の女性は、無言のまま淡々と応える。螺旋階段の手すりにむき出しの腕が添えられ、乱れたショートカットの黒髪の向こうから、憂いを帯びた横顔がのぞく。
照明を受け、真珠のように光を帯びる白い頬。薄い薔薇色の唇。伏せられた長い睫毛の向こうから、濡れた黒曜石の瞳がこちらを流し見る。
目が合ったはずもないのに、ゾクッとした。
「女になるなよ? 表情変えよう。目に力。もっと……」
カメラマンの指示が魔法の呪文であるかのように、女性はその視線を強くする。
「そのまま睨んで。生半可な気持ちでやってたら、あんたのくだらない絵を切り裂いて、火にくべて燃やしてやる」
挑発するように言われた瞬間、闇色の双眸が煌めいた。
人形のガラス玉の瞳に命が吹き込まれたかのような、鮮やかな変化。氷のような眼差しの奥に、狂気を帯びた怒りの炎が宿る。
誰かがゴクッと喉を鳴らす。
意識が引きずりこまれる。
目が釘付けになる。
背筋にザッと震えが走り、体の端々から体温が引いて、胸がカッと熱くなる。高鳴る鼓動が耳にうるさく、何かがせり上がってきて息が詰まり、目の奥が熱くなる。
これに似た感覚を、玲一は知っている。
忘れもしない、二年前の冬の夜。
あの絵に出会った、その瞬間。
(ああ、緒月綺だ……)
「あたしを殺すくらいの気持ちでかかってきな。そんなんじゃ何も残んないよ。あんたも、あんたの絵も、あんたの大事なもの全部」
手すりに掛かっていた指先に力が入る。
緒月は、まるでネコ科の肉食獣が獲物に襲いかかろうとする直前のように、グッと背中を反らせる。綺麗な肩甲骨が浮き上がり、肩ごとこちらを向く。
大きな動きは何一つないのに、纏う空気がどんどん変わる。
息をするのも躊躇われるような、凄まじい気迫。
「OK!」
不意に、快活な声が上がった。
「休憩にする。綺が上手すぎて寒気してきた……」
「ほんと。なんかもう呪い殺されそうで怖くなっちゃった」
「でも、またちょっと痩せたんじゃない? 骨の形がくっきり現れるようになったっていうか……写真映えはするけど――」
カメラマンと、その後ろに控えていた数人が、ホッとしたように話し始めるのを聞きながら、けれど玲一はまだ動けなかった。だが――
(危ない!)
螺旋階段から降りようと体を起こした緒月が、布に足を取られて大きくよろめいたのを見て、反射的に飛び出していた。
「きゃっ!」
「何!?」
急に現れた男の姿に、生徒たちが驚きの声を上げる。
ドレスを踏んでしまわないよう螺旋階段の縁を駆け上り、宙に投げ出されそうになっていた緒月の腰を抱き寄せる。
「大丈夫か?」
声をかけた、次の瞬間。
パンッ。
乾いた音が室内に響いた。
頰に裂けるような痛みが走る。
目の前には、狂気を宿したまま玲一を睨む闇色の双眸。
相手はまだ役から抜け出せずにいるのだ、とすぐにわかって、嬉しさのあまり震えそうになった。さっきまで展開していた、あの美しく妖しい世界の残滓が、この螺旋階段にはまだ残っている。
それに、密着している身体の感触。
布を巻きつけているにしたって、あるべき膨らみがない。直接手で触れている剥き出しの腰など、細いばかりで、女性らしい柔らかさは皆無だ。
(そういうことか……)
蒼城が笑った理由。冬樹が口にしていた、緒月と付き合うなんてことは絶対ない、という言葉の意味。そして、妖しさの一端が視覚の違和感から来ていたことを理解して、笑い出しそうになりながら耳元に囁いた。
「大丈夫。君の絵は、俺が守るから」
「えっ……ぁ……」
つぶらな瞳が揺らぐ。
腕の中でこわばっていた身体から、フーッと力が抜けていく。
緒月は、まるで夢から覚めて目の前の現実を確かめるように、玲一の目を覗き込んでくる。
自分は異世界の住人のような出で立ちをしておきながら、僅かに異国の血を引いているだけの男の容貌が珍しいのだろうか。そう考えるとおかしくて、こらえきれずに笑ってしまった。
「ちょっと、あんた誰!?」
パチパチパチパチッと音がして、部屋の明かりが付く。
カメラマンが螺旋階段の下に駆け寄ってきて、可愛らしい顔に不似合いな凶暴な目つきで睨みつけてきた。
「邪魔をしてすまない。彼に会いに来たんだ」
そっと緒月を階段に立たせて、呆然としている彼の手を取る。
「初めまして、支倉玲一です」
恭しく、その甲に口付ける。
「はせくら、れいいち……」
ポツ、と呟いた緒月の顔が、瞬く間に青ざめた。
額の中に広がる、神秘的な月下の世界。
月下の世界、と言いはしても随分抽象的な絵なので、実際、描き手が何を意図したのかはわからない。中央に配された白銀の円は、見る者によっては、曇りを許さない潔癖な鏡とも、闇に穿たれた虚ろとも取れるだろう。
ただ、今の玲一の目には、月と映った。
有象無象がひしめく闇の中で、凛と背を伸ばし、何か無垢なものを秘めて大切に抱いているような月。その柔らかな光に闇を打ち払うほどの力はないけれど、月の存在と月が抱いているものは、何者にも侵すことはできない。
(美しい……)
そう感じた瞬間。
全身の毛が逆立ち、背筋を武者震いに似た震えが走った。
手の指先から、足の爪先から、サーッと熱が引いて胸の奥に集まり、炉になった心臓で温かく作り変えられた血が、今度は逆にじんわりじんわりと全身に行き渡っていくような感覚。
心臓が、ドクンッ、ドクンッ、と強く鼓動を打つ。胸が締め付けられ、息が苦しくなり、じんわりと目頭が熱くなる――眠っていた心が優しく揺さぶられる。
(ああ、そうだ……)
月の光が玲一をも包み、そして玲一の鎧う全てを剥ぎ取る。
ありのままの姿で抱かれているような安堵の中で理解する。
(この在り方は、俺の、理想……)
だが、自分はこんな風に、闇に飲まれずにいられるだろうか。
全てを終えても、美しいままでいられるだろうか。
凍結させた心を、死なせずにいられるだろうか。
「不思議な絵だろう」
かけられた声にギョッとしたのは、絵を見た瞬間に囚われた空想と、空想の中で剥き出しになっていた心を、覗き見られたように感じたからだ。そんなことは、ありえないのに。
声の主を振り返る。
同時に、現実の波が押し寄せる。
華やかなクリスマスパーティーの喧騒。遠巻きに寄せられている好奇の目。自身の、白桜はくおうホールディングスの会長――支倉燿隆の孫という立場。
そして、今夜のパーティーの主催者で、燿隆と古くから付き合いのある広告代理店の社長――蒼城悠司の、楽しそうな微笑み。
「泣いているのかと思ったよ」
そう言いながら、彼は玲一の隣に立って絵を眺める。
「君の目には何に見えた?」
「……月、でしょうか……」
「それは、なんとも、ロマンチックで意味深だね」
現代美術には明るくない。素直に述べた解釈に、しかし蒼城はからかうでもバカにするでもなく、興味深そうに頷いた。
「蒼城さんにはどう見えるんですか?」
「私はタマゴだと思ったんだ」
六十過ぎの男が涼しい顔で述べた、どう考えても自分より可愛げのある答えに、毒気を抜かれる。自分でもわかっているのだろう、蒼城は小さく笑った。
「描き手が可能性の塊だ、という先入観があるからかもしれないね。これを描いたのは、まだ無名の新人なんだ。大学一年生だったかな」
「そういえば、蒼城さんは絵画のコレクターとしても有名でいらっしゃるそうですね。祖父から聞きました」
「何年か前に、気まぐれで買った若いアーティストの二束三文の作品が、最近になって価値を上げていてね。先輩コレクターに先見の明があると煽てられて、調子に乗って買い集めているだけだよ」
「では投資対象として収集されているんですか?」
玲一の問いに、蒼城は僅かに目を見張り、フッと口元を緩めた。
「そう取るか。さすが、支倉の秘蔵っ子だね。お幾つだっけ?」
「先月、二十四になりました」
「その若さでこの場に馴染んでいるなんて、恐ろしいものだね。白桜の後継者育成が順調なようで羨ましいよ」
「私が祖父の後継者などと。おこがましいことです」
父の紘一が、燿隆の後を継ぐことを親族会議で正式に辞退したのは、玲一が高校生のときだった。
どういう理由があってのことなのかは、未だに明らかにされていない。だが、紘一は愛妻家として知られており、妻を事故で亡くした直後というタイミングだったので、周囲は傷心を気遣って深く追求しなかった。
親族は、支倉家から資産が流出するのを阻止するため、白桜ホールディングスの後継者は身内から出すようにと燿隆に迫った。
それに対して、実際のところ、燿隆はイエスともノーとも言わなかったし、今も玲一を後継者にするなどとは明言していない。だが、支倉家唯一の嫡子であった玲一は、まだ物心もつかない頃から、後継者の最有力候補として扱われることになったのだ。
どこに行っても付きまとう『白桜』や『支倉燿隆』の名前。玲一が何を言わなくとも、大抵の人が、いつか燿隆の後を継ぐだろう、継がないにしても燿隆の会社に入るだろうと思っている。
「もしも祖父から打診があれば、喜んで馳せ参じるつもりですけど、私などが祖父に必要とされるかどうか」
「支倉は実業家としては間違いなく天才だ。その彼が、こうやってどこへ行くにも連れて回っているというだけで、君への期待が窺い知れるけどね」
「ありがとうございます。ですが、買いかぶりすぎですよ」
給仕からグラスを受け取り、口付けながら、離れた所にいる祖父を見やる。
燿隆がいる暖炉脇のソファ席は、熱狂的な雰囲気に包まれていた。
大きなローテーブルを囲んで座っているのは、比較的若い世代の実業家を中心とした人々。燿隆は彼らが交わす意見に静かに耳を傾けながら、時折求められて意見を述べていた。燿隆が発言する度にソファ席には緊張が走り、実業家達は皆一様に彼に熱視線を送り、彼の一言一句を聞き漏らすまいと耳をそばだてる。
その合間を縫って、何人もの人間が、入れ替わり立ち替わり燿隆の元に訪れていた。ソファの背もたれ越しに恐縮した様子で声をかけ、名刺を渡し、恭しく挨拶して去っていく。
(滑稽な……)
あの男に対し、数秒会話を交わし紙切れ一枚残したところで、何になるというのか。散歩中に出会った犬が尻尾を振ってきたところで、どうせ擦れ違った瞬間には忘れている。美味くて大きな肉を咥えているか、リードを握る飼い主に価値でもない限りは。
確かに、万に一つの奇跡が起きて燿隆と縁を結ぶことができれば、ビジネスシーンで燿隆の存在を仄めかせるというだけでも、彼らにとっては大きな切り札になるだろう。
だが――よく革新的と持てはやされる燿隆の経営方針のために、彼らのような存在が、彼らの思惑とは逆に、どれほど無碍に利用され消費されてきたことか。
実力や戦略もなく尻尾を振っている限り、犬は犬。
あそこは彼らがチャンスを獲得する場ではない。
燿隆が手駒を獲得する場だ。
そんな男の後継に選ばれるということが、どういうことか。
「お祖父ちゃんっ子、ってわけじゃなさそうだね」
蒼城が困ったように呟く。
「馴れ合いは祖父の嫌うところですし、この場においては『祖父』ではなく『先輩』ですから」
「ずいぶんドライなんだね。孫をかわいく思わない祖父はいないと思うけど……」
そう言われても、玲一の心は揺らがない。
燿隆にとって自分が『孫』ではなく『駒』なのは承知している。
かわいく思うというのが、後継者になり得る駒として大切にしている、という意味なら、その通りなのだろうが。
「そうだ。クリスマスプレゼントに、この絵をあげよう」
空気を一掃するように、蒼城は、玲一が見ていた絵を指した。
「いえ、そんなつもりで拝見していたわけでは……」
「この絵は、今の私には少々眩しくてね。手放すのが惜しくて飾ってはいたが、君にもらってもらえるなら、踏ん切りがつく」
「……本当にいいんですか?」
今は純粋な好意だとしても、受け取れば、いずれどこかで見返りを求められるかもしれない。そんな考えがよぎったものの、喉が鳴った。
「君はずいぶん仕事熱心らしいけど、たまに絵を眺めるくらいの時間は娯楽に割いてもいいだろう? 緒月綺の処女作『α-1』だ」
「……彼女の絵は、他にもあるんですか?」
あるならぜひ見てみたい。
叶うことなら所有したい。
出会って数分で、そこまでの執着が生まれていることに、自分でも少し驚くが。
「彼女の絵、ねぇ……」
なぜか蒼城はクスクスと笑い出す。
「何かおかしなことを言いましたか?」
「いや、失礼」
口の端に笑いを留めたまま、蒼城は悪戯っぽい目で玲一を見つめた。
「緒月綺のこのシリーズはまだ二作しか出ていないはずだよ。扱っているギャラリーと、二作目のオーナーを紹介しよう」
そうして玲一は、蒼城から『α-1』を譲り受け、後日別のコレクターから『α-2』を買い取った。
その後は新作が出る度に入手し――二年たった今、彼の目の前には最新作の『α-5』がある。
都内にあるマンションの一室で、玲一は小さく溜息をついた。
「どうかされましたか?」
「いえ……」
背後に控えていた男――祖父の秘書であり、玲一の世話役であり、監視役として定期的に訪問してくる男――黒崎透の心配そうな視線を受けながら、デスクに置いた『α-4』に目をやる。
静寂の森と、そこに射し込む陽の光。幻想的な緑の世界に、この世のものならざる美しい魚が数匹、円を描いている。その中央には、淡く光る小さな月――今も、それが月を意図して描かれたものかどうかはわからないが、白い球体は、緒月の作品には必ず描かれているモチーフだった。
そして、今壁にある『α-5』。
今朝届いて『α-4』と掛け替えたものだ。
青い世界。天には月。水中から伸びた大きな樹が、悠々と枝を伸ばし、豊かに茂らせた葉に月光を浴びて白く輝いている。そして樹を中心に波紋を描く水面には、赤い月の影。
円が幾重にも重なるような、シンプルだが美しい構図。繊細な筆のタッチも、静かな狂気を思わせる雰囲気も、何も変わらないはずなのに、何かが違う。何がどうと言い表せないが、心に触れてこない。
緒月がタイトルに『α』のつく通称『αシリーズ』を描くのは不定期な上、今のところ年に二枚とかなりのローペースだった。
三日前、緒月の作品を扱っているギャラリーhakuのオーナーから新作完成の連絡を受け、目にするのを心待ちにしていたのに。
(なんだこれ……)
もどかしさを抑えて、スーツのポケットから携帯電話を取り出す。
hakuのオーナーに事情を聞こうと思ったのだが。
「玲一さん、hakuは本日定休日ですよ」
玲一とは彼が高校生の頃からの付き合いである黒崎は、携帯電話の画面を覗き見たわけでもないだろうに、発信ボタンを押すより早く釘を刺してくる。
「この絵の作者は、芹澤芸大の学生でしたっけ?」
描き手の素性を気にしたことはなかったが、緒月の名前と在籍する大学名だけは記憶していた。たまたま同じ大学に、親友の弟が通っていたからだ。
「ええ、芹澤芸術大学の、今は三年生ですね」
時計を見ると、十五時前。
少し遅いかもしれないが。
「出かけてきます」
「えっ、お会いになるんですか?」
黒崎が珍しく驚いた様子で聞いてくる。
彼の気持ちはわかる。何しろ玲一自身驚いている。
アポイントのない不確実な訪問。緒月に会ったところで益はない。
十中八九時間を無駄にするだけなのに、会いに行ってみようと思いついた瞬間には、頭のスイッチがバッチリ切り替わってしまっていた。
「今のところ親族会議には問題なく出席できます。届けていただいたデータにはちゃんと目を通しておきますよ。それと十九時からの小野寺さんの店のレセプションには俺一人で行きますし、迎えの車も要りませんから、黒崎さんは帰ってもらって大丈夫です。何かあれば連絡します」
「承知致しました。タクシーを手配致しましょうか?」
「ありがとうございます。お願いします」
さっきまでのもどかしい気持ちはどこへやら。
心が浮き立つのを感じながら、デスクを片付け、身支度を整える。黒崎と共にマンションのエントランスを出ると、タイミングよくやってきたタクシーに乗り込んだ。
黒崎はしばらく狐につままれたように玲一の様子を見守っていたが、ドアが閉まる音に我に返り、慌てて会釈した。
「行ってらっしゃいませ」
芹澤芸術大学は緑豊かな高台にあった。
タクシーから降り立った玲一は、気持ちのいい風を感じながら、夏の日差しに目を眇めた。
雲一つない紺碧の空の下、ここが芸術の学府だということを知らせるように、美しいロートアイアンの門扉が大きく開かれている。
正門をくぐると、正面には青々とした芝生の広場。その向こうには白く大きな校舎が聳え建っていて、さながら白い鳥が大きく翼を広げてキャンパスを護っているかのようだ。
「玲一さーん!」
芝生の広場をぐるりと囲む並木道を、一人の青年が、少し緊張した面持ちで走ってくる。
柔らかそうな栗色の髪に、目鼻立ちがくっきりとした愛嬌のある顔立ち。
片手を上げて微笑むと、クシャッと人懐っこい笑みで応える。
「悪いな、急に連絡して」
「ほんとですよ、ビックリしました! お久しぶりです!」
「ああ、久しぶり。杏介抜きで会うのは初めてだな」
「はい。静かで何よりです」
いろんな意味で賑やかな男の姿を思い浮かべて、二人して苦笑する。
青年の名前は紺野冬樹。
玲一の親友、紺野杏介の弟だ。
ブラコンで人で無しの兄とは違い、しっかりしていて人当たりがよく、杏介が初めて仲間の集まりに連れてきたときにも、すぐに打ち解けて可愛がられていた。
会った回数はそれほど多くないが、玲一にとっても弟のようなものだ。
「学業は順調か? 確かガラスで何か作っているんだったか……」
「あはは、覚えててくれたんですね。そうなんです。作ること自体は楽しいんですけど、何作っても教授や仲間にガラクタ扱いされて、メンタルばっかり順調に鍛えられてます。そろそろ就活用に作品集ポートフォリオも作らなきゃならないし、他人受けするものを作りたいところなんですけどね」
「杏介は、オレの弟は天才だって自慢しまくってたけど?」
「兄貴は戯言の天才ですから」
深刻に悩んでいるような素振りは一切見せず、明るく笑い飛ばす。
しぶとさや打たれ強さは、兄同様相当のものなのかもしれない。
「今日は、お仕事お休みなんですか? 大学を案内してほしいってことでしたけど」
「いや、仕事はさっき切り上げてきた。実は、会いたい人がいるんだ」
「人探し? 生徒ですか?」
「ああ。緒月綺さんといって、冬樹と同じ学年のはずなんだが……」
「――――!」
冬樹のアーモンド型の目が大きく見開かれ、玲一を凝視する。
「なっ、なんで玲一さんが綺を!?」
「なんだ、知り合いか?」
「知り合いっていうか、高校からの親友なんですよ」
「そうなのか。ならもう見つかったようなものかな」
「えっ!? あ、うーん、まぁ、そうですね。ただちょっとタイミングが……」
「忙しいのか?」
「忙しいっていうか……あー、まぁ、いっか。案内します」
なぜか激しく躊躇しながら「こっちです」と歩き出す。
「でも、なんで玲一さんが綺を探しに? どういう関係なんですか?」
「実は、緒月さんの絵をいくつか所有しているんだが、今日受け取った最新作のことで確認したいことがあってね」
「あああ! わかった。もしかして『αシリーズ』ですか!?」
「なんだ、それも知っているのか。本当ならギャラリーのオーナーか大学の教授を通して、緒月さんにアポを取ってから訪ねるのが礼儀なんだろうが、大事にしたくなかったし、自分が贔屓にしている画家の素顔を見てみたいと思ってね。そういえばここに冬樹がいたなと思い出して、直接来てしまったんだ」
「なるほど! いやー、でも玲一さんが綺のお得意様だったとはねぇ。世間は狭いっていうか……」
「お得意様……」
間違いなく自分のことだろうが、客商売を彷彿とさせる呼び方がなんとなくショックで、すぐには頷けなかった。
玲一が身を置くビジネスの世界と違い、アートの世界は利益や生産性とは無縁なのだと、無意識に神聖視していたのかもしれない。
だがよくよく考えれば、アーティストだって霞や雲を食べて生きていけるわけじゃない。将来彼らが芸術の腕一本で生きていくつもりならなおさら、金勘定は避けて通れないだろうし、作品の買い手はまさしく顧客であり、生きて行く糧なのだろう。
こちらの心境を察したのか、冬樹が苦笑した。
「変な呼び方して気を悪くしたらすみません。でも玲一さんってギャラリーに、『αシリーズ』については新作が出たらとりあえず買うって言ってあるんでしょ? 作品作る前から買うって明言してくれてるなんて、そんな存在、オレからしたら、神様みたいなお客様ですから」
「そうか……買いに行く時間が惜しいだけなんだが……」
「えっ、そんな理由!? いや、まぁ、綺は無頓着だから気にしないと思いますけど……」
「冬樹は本当に緒月さんと親しいんだな。学科は別なんだろう?」
「そうなんですけど、あいつ、なんとなく放っとけないとこあるから、時々アトリエに顔出すことにしてるんです。特に最近は、調子悪いみたいだし……」
「調子が悪い?」
「わかりやすく言うとスランプですかね」
木陰の道をのんびり歩きながら、冬樹は表情を曇らせた。
「それっていつから?」
「春からずっとです」
「長いな……」
そして、それはきっと最新作『α-5』の制作時期に当たる。
ということは、絵に対する違和感はスランプのせいなのだろうか。
「最近は食欲もないし、夜も寝れてないらしいし……だから、もし綺の最新作に対して何か思うことがあったんだとしても、今は責めないでやってくれませんか?」
きゅっと唇を引き結んで、こちらを見つめてくる。
親友相手に少し過保護なようにも感じるが、いつも明るい彼らしからぬ翳りのある表情に、緒月のスランプの深刻さが窺えた。
「安心してくれ。クレームをつけに来たわけじゃない。もし心配なら立ち会ってくれても構わないし、冬樹が今は会わない方がいいって言うならこのまま帰ってもいい。残念だけど」
「いやっ、そこまでは……。すみません。オレがこんなこと言える立場じゃないのはわかってるんですけど……」
「ずいぶん親身になって心配してるけど、冬樹は緒月さんと付き合ってるのか?」
「は?」
「去年杏介に会ったときには、冬樹に彼女ができないって嘆いてたけどな。オレの包容力がすごすぎて、そこらの女に満足できなくなってるなら、責任持って一生面倒見てやらないとって」
「いやいやいやいやいや! 玲一さん何言っちゃってるんですか!? オレ彼女いますし、兄貴は死ねばいいと思います!!」
唐突にプライベートを暴露されていることを知らされて、冬樹が顔を真っ赤にして力説する。思わず笑ってしまった。
「確かに杏介は二、三回死ねばいいと思うけど」
「ですよね! だいたい何が包容力だよ。普段綺ちゃん綺ちゃん言ってるくせに、肝心な時に帰って来ないで……」
「杏介も緒月さんと面識があるのか?」
「ありますよ。高校の頃、綺よくウチに泊まりに来てて、実家に帰ってきたときに鉢合わせして以来、あいつ綺のこと大好きですよ」
玲一も緒月の『αシリーズ』を買い集めていることなど話していないが、杏介からも緒月の話を聞いたことはない。
顔を合わせれば、どこぞの女に惚れただのフラれただのという話はうんざりするほど聞かされるのに、杏介にとって緒月は特別な存在なのだろうか。
「とにかく! オレが綺と付き合うなんてことは絶対にないんで、妙なこと疑うのはやめてください。オレはともかく、綺はその手の冗談、笑って受け取れるような奴でもないし」
やけに強い口調でビシッと言い放つ。
緒月が純粋培養のお嬢様なのか、潔癖な性格なのか。それともただ冬樹が、緒月の親友という立場を気に入っているだけなのか。
断片的に集まってきた情報に、画家への興味が掻き立てられてきたところで、冬樹が校舎の一つに入っていく。
いよいよ『αシリーズ』の制作現場を見られると思うと感慨深い。だが――
「今、綺は写真撮影の手伝いをしてるんです」
冬樹はバッサリと、玲一の期待を切り捨てた。
「……絵を描いているんじゃないのか?」
「やっぱり綺のファンとしては、制作現場を見たかったですよね」
落胆が顔に出てしまっていたのか、冬樹が苦笑する。
「ここは、デザイン学科が使ってる校舎なんです。写真家を目指してる友達が、ずっと前から綺に協力してほしいってラブコール送ってて、綺は断り続けてたんですけど、こないだ急に引き受けることにしたらしくて」
「スランプだから絵を描くのを放棄している、と?」
「やってることはそうなんですけど、意味的には逆で、綺なりの悪足掻きみたいです。少しでも刺激を受けて現状を打開できたらっていう。でも、それが必死すぎて、見ててかわいそうになるくらいで……」
校舎の中は、すっきりとした外観とは逆に雑然としていた。
廊下の窓側には木材やら脚立やらが乱雑に寄せられていて、気をつけないと、うっかり足をぶつけそうだ。冬樹は反対側に並ぶドアの一つを薄く開けて、そっと中を覗き込んだ
「ああ、いるいる……」
遮光のためか、窓の内側には分厚いカーテンがかかっており、中の様子を伺うことはできない。ドアを閉めて振り返った冬樹の顔は、なぜかげっそりして見えた。
「今撮影中なんですけど、適当なところで、カメラマンの女に声かけて中断させちゃってください」
「いいのか?」
「いいんです。これ写真部の部活ですし」
「冬樹は入らないのか?」
「オレが撮影現場に入ると、綺すっごい怒るんですよ。それに、玲一さんは綺に会いにきたんでしょ? 綺に取っても気分転換になると思うし、二人でゆっくり話してみてください。オレは帰ります」
「そうか。案内ありがとう。今度、杏介を交えて食事でも」
「楽しみにしてます。……あの」
冬樹が、まっすぐに見つめてくる。
「綺のこと、よろしくお願いします」
「…………」
何を頼まれているのか、明確にはわからなかった。
責めないでほしい、ということの念押しなのか。緒月のスランプ脱出につながるような出会いにしてやってほしい、ということなのか。お得意様としてこれからも見守ってやってほしい、ということなのか。
だが、冬樹の目がなぜか泣き出しそうに見えて、玲一はあえて何も言わず、彼の栗色の頭をグチャグチャとかき混ぜた。彼の兄がよくするように。
「行ってくる」
冬樹に微笑んで見せ、緒月がいるという教室に踏み込んだ。
薄暗い部屋の突き当たり。
ぼんやりとした光の真ん中に、黒い螺旋階段が浮かび上がっている。
床から天井まで、約六メートルほどの空間を貫くそこに、体に布を巻きつけた女性が、手すりにしなだれかかるように立っていた。
ともすると暗闇に溶け込んでしまいそうな深い緑の布は、よく見ると変わった形に仕立てられたドレス。女性の鎖骨や胸元、背中や腰など、骨格の美しい部分が恐らく意図的に露わにされていて、肌の白さが際立っているが下品な色気は感じさせない。
たっぷり使われた布がドレープを描いて階段を覆い、銀糸の刺繍が入った裾がゆったりと床まで届いている。
とても実用的なドレスとは言えないが、それを纏う女性の姿は、霧深い森にひっそりと住まう精霊のように妖しく美しい。
「右手の先を手すりに掛けて、こっち見て……」
被写体は女性一人だが、部屋には他に十人ほどの生徒が集まっていた。皆一様に彼女のポージングに目を奪われていて、玲一が入ってきたことに気付いた様子もない。
三脚に据えた大きなカメラを覗きながら、カメラマンの女性が囁くように指示を出す。
被写体の女性は、無言のまま淡々と応える。螺旋階段の手すりにむき出しの腕が添えられ、乱れたショートカットの黒髪の向こうから、憂いを帯びた横顔がのぞく。
照明を受け、真珠のように光を帯びる白い頬。薄い薔薇色の唇。伏せられた長い睫毛の向こうから、濡れた黒曜石の瞳がこちらを流し見る。
目が合ったはずもないのに、ゾクッとした。
「女になるなよ? 表情変えよう。目に力。もっと……」
カメラマンの指示が魔法の呪文であるかのように、女性はその視線を強くする。
「そのまま睨んで。生半可な気持ちでやってたら、あんたのくだらない絵を切り裂いて、火にくべて燃やしてやる」
挑発するように言われた瞬間、闇色の双眸が煌めいた。
人形のガラス玉の瞳に命が吹き込まれたかのような、鮮やかな変化。氷のような眼差しの奥に、狂気を帯びた怒りの炎が宿る。
誰かがゴクッと喉を鳴らす。
意識が引きずりこまれる。
目が釘付けになる。
背筋にザッと震えが走り、体の端々から体温が引いて、胸がカッと熱くなる。高鳴る鼓動が耳にうるさく、何かがせり上がってきて息が詰まり、目の奥が熱くなる。
これに似た感覚を、玲一は知っている。
忘れもしない、二年前の冬の夜。
あの絵に出会った、その瞬間。
(ああ、緒月綺だ……)
「あたしを殺すくらいの気持ちでかかってきな。そんなんじゃ何も残んないよ。あんたも、あんたの絵も、あんたの大事なもの全部」
手すりに掛かっていた指先に力が入る。
緒月は、まるでネコ科の肉食獣が獲物に襲いかかろうとする直前のように、グッと背中を反らせる。綺麗な肩甲骨が浮き上がり、肩ごとこちらを向く。
大きな動きは何一つないのに、纏う空気がどんどん変わる。
息をするのも躊躇われるような、凄まじい気迫。
「OK!」
不意に、快活な声が上がった。
「休憩にする。綺が上手すぎて寒気してきた……」
「ほんと。なんかもう呪い殺されそうで怖くなっちゃった」
「でも、またちょっと痩せたんじゃない? 骨の形がくっきり現れるようになったっていうか……写真映えはするけど――」
カメラマンと、その後ろに控えていた数人が、ホッとしたように話し始めるのを聞きながら、けれど玲一はまだ動けなかった。だが――
(危ない!)
螺旋階段から降りようと体を起こした緒月が、布に足を取られて大きくよろめいたのを見て、反射的に飛び出していた。
「きゃっ!」
「何!?」
急に現れた男の姿に、生徒たちが驚きの声を上げる。
ドレスを踏んでしまわないよう螺旋階段の縁を駆け上り、宙に投げ出されそうになっていた緒月の腰を抱き寄せる。
「大丈夫か?」
声をかけた、次の瞬間。
パンッ。
乾いた音が室内に響いた。
頰に裂けるような痛みが走る。
目の前には、狂気を宿したまま玲一を睨む闇色の双眸。
相手はまだ役から抜け出せずにいるのだ、とすぐにわかって、嬉しさのあまり震えそうになった。さっきまで展開していた、あの美しく妖しい世界の残滓が、この螺旋階段にはまだ残っている。
それに、密着している身体の感触。
布を巻きつけているにしたって、あるべき膨らみがない。直接手で触れている剥き出しの腰など、細いばかりで、女性らしい柔らかさは皆無だ。
(そういうことか……)
蒼城が笑った理由。冬樹が口にしていた、緒月と付き合うなんてことは絶対ない、という言葉の意味。そして、妖しさの一端が視覚の違和感から来ていたことを理解して、笑い出しそうになりながら耳元に囁いた。
「大丈夫。君の絵は、俺が守るから」
「えっ……ぁ……」
つぶらな瞳が揺らぐ。
腕の中でこわばっていた身体から、フーッと力が抜けていく。
緒月は、まるで夢から覚めて目の前の現実を確かめるように、玲一の目を覗き込んでくる。
自分は異世界の住人のような出で立ちをしておきながら、僅かに異国の血を引いているだけの男の容貌が珍しいのだろうか。そう考えるとおかしくて、こらえきれずに笑ってしまった。
「ちょっと、あんた誰!?」
パチパチパチパチッと音がして、部屋の明かりが付く。
カメラマンが螺旋階段の下に駆け寄ってきて、可愛らしい顔に不似合いな凶暴な目つきで睨みつけてきた。
「邪魔をしてすまない。彼に会いに来たんだ」
そっと緒月を階段に立たせて、呆然としている彼の手を取る。
「初めまして、支倉玲一です」
恭しく、その甲に口付ける。
「はせくら、れいいち……」
ポツ、と呟いた緒月の顔が、瞬く間に青ざめた。
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