羅針盤の向こう

一条 しいな

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 待合室は静かだった。暖房がついている中マスクをした人達が集まっている。スマホを見ている。SNSやゲームをしているのだ。僕はスマホではなく、プリントを見ていた。課題が近いので勉強をしていた。人が集まっているか、暖房の温度が高いのかわからないが、暑い。上着を脱いでいる。
 待合室には漫画がずらりと並んでいる。そこには有名な漫画や人気の漫画がある。僕はそれを見たくなったがあえて見ないことにした。
 BGMはクラシックである。クラシックは優しい音色、どこかで聞いたことがあるものだ。有名なアニメ映画のインストも流れたことがある。そんなことを考えながらしばらく僕はプリントを眺めていた。
 心理学の授業で脳の働きやらを勉強しなければならなかった。専攻しているわけではないが、たまたま空き時間で単位がもらえそうだから取ったのだ。意外なことに数字や生物学、統計学にも通じているので取らなければよかったという学問である。
 僕はその項目を読んでいた。パブロフの犬を説明できるか、紙に書いていた。確かに難しい。初歩的な問題である。
 名前が呼ばれた。僕は立ち上がった。
 問診をしてから横になり、腰を触られた。
「痛かったでしょう。よく我慢したね。じゃあちょっと温めるから」
 橙色の光を放つ、暖房機のような機械を背中にセットされる。腰が冷えていたせいか、温かいのでほっとした。いつの間にか先生は別のところに行く。カルテになにか書かれていた。
 気がつけば張り詰めたなにかがほぐれるようなそうでもないような。僕はぼんやりとした。
 白いシーツに包まれたベッドは固く、湿布の匂いがするような気がする。お灸もするから、あの独特の燃えた匂いもする。僕はしばらくじっとしている。
「マッサージを担当する」
 何十分かして、マッサージを受けた。終わったら少しは腰が軽くなったような気がした。
「ありがとうございました」
 毎週通ってください。と主治医に言われた。そんなに体が悪かったなんて思いもしなかった。
 喜一さんにお礼のメールを書いた。本当はSNSの方が気楽だけどそういうことではないような気がした。長々としたメールになった。
 僕はそのまま自分の家へと帰ることにした。そうすることで安心できた。

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