羅針盤の向こう

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戸井田が真澄ちゃんを繊細と言ったのは僕自身意外だった。繊細なのかと思う。どこがと言いたくなるのを必死に抑えていた。
「まあ、人のことなんてどうでもいいんだ。彼女にオタグッズを買わないといけない」
「会ってくれるの」
「冬のコミケが近いからクリスマスくらいというのを譲歩してもらった」
「ニュースでやる。あれね」
「スッゴい進歩だからな。言っとくけど」
「はいはい」
「一緒にアニメのミュージカルに行かされそうになった」
「寝るな」
「寝るだろう」
　戸井田は笑っていた。クラスメートがいた。おーいと手を振る。彼女は寒そうな顔をしていた。手に顔を当てていた。長い袖が彼女の顔を隠していた。
「寒いね」
「なあ」
「冷える、冷える」
「教授、まだ来ていないみたい」
「あっそう」
「なにを話していたの」
「予定」
　彼女と僕はへえと面白いと思わない反応だった。
「私はバイトだよ。いいな」
「僕も」
「おっ仲間だ。がんばろう。いつか幸せな奴を見返すのだ。拓磨と私で」
　彼女は笑っていた。そうだなと笑っていると「拓磨、かわいいな。素直で」と彼女はうんうんとうなずいた。
「なでてあげようか」
「いいです」
「いちゃつくな」
　戸井田に言われて彼女はぶーっと言った。彼女みたいな子はかわいらしいと思う。それだけだ。そんな自分を寂しく、異端者のように思えた。
　笑っているのにうまく笑えているか自信がなくなっていた。
「拓磨。大丈夫かな」
「大丈夫だって」
「やめろよ。その暖かい目は」
　そう言って僕は笑っていた。おー復活したと楽しげに二人は笑っていた。授業のテストの話になる。それで朝は苦手なんだよなという話になっていた。教授はどういう問題を出すのか。友達に前学期に授業をうけた子のテストがあるよという話を彼女はした。
　それで僕達は見せてというが「代わりにパーティーに出てよ。どっちか」と言われた。
「俺は無理だ。頼む。拓磨様」
「えっ、えっ、えっ」
「大丈夫だよ。怪しいパーティーじゃないよ。ちょっとした食事会みたいなものだから」
　出会いを求めようではないかと言われた。僕は困惑していた。助けを求めるように戸井田を見つめると、戸井田は僕に拝んでいるだけだった。
「それ、いつ」
「おっ。いいね。じゃあ、今週の」
「バイトが入っている」
「オールだから途中参加でも」
「やっぱやめる」
「えー」
「パン屋の製造だから」
「あっそうなの」
　わかったよと残念そうに言われた。彼女は明らかにしょぼんと肩を落としていた。
「ちぇっ。楽しくなりそうだったのに」
「じゃあ、代わりに」
「あっ」
「三人で飯にしよう」
「いえーい」
　都心のいい店があるからと戸井田が言った。彼女も連れて行くかも。