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「いいのか」
「いい感じの店だからな」
いい服を着ろよ、ジャージ禁止と言われた。行く行くと彼女は言った。スマホで店を見せてもらった。安いと言ってもほどほどでおしゃれなレストランだった。
「あたしも参加していい?」
「えっーと真澄ちゃん? だっけ」
「私もテストみたいから」
「うん。いいよ」
真澄ちゃんは店を見た。いい店よねと言った。真澄ちゃんがなにを考えているのか、僕にはさっぱりだった。秋の風が窓ガラスに吹き付けて、ふわふわと葉を散らしていた。それを僕は他人ごとのように見つめていた。
真澄ちゃんに聞きたかった。なんで急に参加したかったのか。真澄ちゃんには関係ないだろう。机に向かって僕は紙に板書しながら思った。みな話していた。意見交換するのが目的だから。赤や黒、ピンクがちらちらと目の端にちらつく。
「意見がまとまったね」
知らない人がいう。同じ組み合わせになった人だ。三年だった。よしと周りはうなずいた。僕はあくびをした。
とがめる人はいなかった。
「じゃあ、私は」
それぞれ役割があるから仕方なしに僕はいろいろと意見をいう。ディスカッション形式である。ただ、なんとなく苦手なんだ。この空気が。
ディスカッションの空気というのが。日本人は意見をいうのが苦手という情報が脳からひらめいていた。ああそうか、僕は日本人だからかと安心とヤバいという気持ちになる。苦手を克服するためにこの授業をうけたのに、今更気がつくなんてと思う。
プリントに自分の意見や他の意見がまとめられた紙がある。それを読みながら僕はちらりと真澄ちゃんを見た。真澄ちゃんは真剣な顔して話している。僕は授業に集中した。それくらいしかできないからだ。
「真澄ちゃん」
授業が終わり真澄ちゃんを呼ぶ。真澄ちゃんはペンケースを持っていた。
「なによ。拓磨ちゃん」
「なんで一緒に来たの」
「ああ?」
「ご飯」
「あんたが心配だから、よ」
ふらふらしているからよと真澄ちゃんは困ったように笑っていた。まるで小さい子に言い聞かせているようだったから、僕はうんとかああとかを言い難い気持ちになった。
「ふらふらしているかな」
「している」
まあ、だからあきらめたと言った。僕は意味がわからず真澄ちゃんを見た。そうしてちょっとだけ苦い笑いを浮かべた。周りの生徒達は次の授業へと友達と向かう。真澄ちゃんの様子に僕はすっかりなにもいえなくなった。
「じゃあ、次の授業があるから」
「逃げるんじゃないわよ」
「拓磨。次の授業に行こうぜ。あれ、真澄ちゃん」
「また今度」
手を振った僕に真澄ちゃんはカラカラと笑っていた。戸井田が神妙に僕と真澄ちゃんに視線を送った。
「お二人は意味深な関係?」
「違うよ」
外に出るともう寒い。昼寝できるような陽気ではないことを知る。寒くて季節は冬へと移り変わる。それがわかるように僕達の服は厚着になっていた。
「手袋がほしいな」
僕がいうと戸井田はおかしそうに「彼女を作れ」と言われた。
「ほれ、定番じゃん。プレゼントの」
「そうなのか。彼女持ちは違う」
ニヤニヤしながら戸井田は笑う。
「亜麻(あま)さ。おまえにホレているんじゃないか」
「それはないよ」
振り返ると亜麻さんこと、朝の彼女がいた。
「やめてくれる。私には好きな子がいるの。かわいい子なんだから」
「猫とか」
「洒落にならんよ。そういうことは」
「洒落じゃないけど」
かわいいということは年下と考えていた。秋風が吹いていた。寒い、寒いと彼女は言っていた。
「ほら、あそこにいる子」
「えっ」
「かわいいな」
女の子だった。ちょっと驚いた僕に対して戸井田はあっそうという態度だった。
「かわいいでしょう。間違っても拓磨じゃないからね」
「おう。わかっているって」
「拓磨は驚いているね。そうさ、私でパニックになっているんだね。まあ当たり前か」
亜麻は強いなと思った。
「戸井田には話したっけ」
「うん。こいつ、付き合いが浅いからな」
「まあ。気にしないよ。だから大丈夫」
変じゃないかと思った。戸井田。男、真澄ちゃんはだめなのに、レズはいいのかと僕は問いかけたくなった。難しい顔をしたのだろう。亜麻は「真剣に考えてしまったね」と苦笑した。
「うん。ごめん」
いいよ、いいよといわれた。自分のことばかり考えていた。頭の中は空っぽにしたかった。
「次の授業、休む」
「どこにいるんだよ」
「図書館」
えーと戸井田がいうのを僕は聞いていた。亜麻がちょこまかとついてきた。
「拓磨、拓磨」と話しかけてきた。
「なに、怒っているんだよ」
「怒っていない。混乱しているだけ」
「ふうん、じゃあ。私は別れた方がいいみたいね」
「なんで」
「どっちずかずだな」
亜麻はそう言って苦笑いをした。寒いから襟を立てたジャケットには風が入らない。しかし、こんな薄ら寒い気持ちになるのはなんで。
多分、嫉妬だ。僕がゲイであり、そうして亜麻がレズである。同じように思えてしまう。しかし、まったく違う生き方だ。どちらも同性愛者だ。でも女子ならば友達同士に見える。男だとあやしい。ずるいという気持ちがあった。
「どうして怒っているの」
「いいよ。別に」
「気にしているの」
「亜麻のせいじゃないよ。本当に混乱しているんだ」
そうと亜麻は言っていた。傷つけたと思う。そんな自分がいた。しかし、考えてみれば同じ立場の人間なのにこんな醜い感情を抱くなんて僕はひどく小さな人間だと気がついた。
「あのさ。お茶しない」
「誘っているの」
「うん」
「いい感じの店だからな」
いい服を着ろよ、ジャージ禁止と言われた。行く行くと彼女は言った。スマホで店を見せてもらった。安いと言ってもほどほどでおしゃれなレストランだった。
「あたしも参加していい?」
「えっーと真澄ちゃん? だっけ」
「私もテストみたいから」
「うん。いいよ」
真澄ちゃんは店を見た。いい店よねと言った。真澄ちゃんがなにを考えているのか、僕にはさっぱりだった。秋の風が窓ガラスに吹き付けて、ふわふわと葉を散らしていた。それを僕は他人ごとのように見つめていた。
真澄ちゃんに聞きたかった。なんで急に参加したかったのか。真澄ちゃんには関係ないだろう。机に向かって僕は紙に板書しながら思った。みな話していた。意見交換するのが目的だから。赤や黒、ピンクがちらちらと目の端にちらつく。
「意見がまとまったね」
知らない人がいう。同じ組み合わせになった人だ。三年だった。よしと周りはうなずいた。僕はあくびをした。
とがめる人はいなかった。
「じゃあ、私は」
それぞれ役割があるから仕方なしに僕はいろいろと意見をいう。ディスカッション形式である。ただ、なんとなく苦手なんだ。この空気が。
ディスカッションの空気というのが。日本人は意見をいうのが苦手という情報が脳からひらめいていた。ああそうか、僕は日本人だからかと安心とヤバいという気持ちになる。苦手を克服するためにこの授業をうけたのに、今更気がつくなんてと思う。
プリントに自分の意見や他の意見がまとめられた紙がある。それを読みながら僕はちらりと真澄ちゃんを見た。真澄ちゃんは真剣な顔して話している。僕は授業に集中した。それくらいしかできないからだ。
「真澄ちゃん」
授業が終わり真澄ちゃんを呼ぶ。真澄ちゃんはペンケースを持っていた。
「なによ。拓磨ちゃん」
「なんで一緒に来たの」
「ああ?」
「ご飯」
「あんたが心配だから、よ」
ふらふらしているからよと真澄ちゃんは困ったように笑っていた。まるで小さい子に言い聞かせているようだったから、僕はうんとかああとかを言い難い気持ちになった。
「ふらふらしているかな」
「している」
まあ、だからあきらめたと言った。僕は意味がわからず真澄ちゃんを見た。そうしてちょっとだけ苦い笑いを浮かべた。周りの生徒達は次の授業へと友達と向かう。真澄ちゃんの様子に僕はすっかりなにもいえなくなった。
「じゃあ、次の授業があるから」
「逃げるんじゃないわよ」
「拓磨。次の授業に行こうぜ。あれ、真澄ちゃん」
「また今度」
手を振った僕に真澄ちゃんはカラカラと笑っていた。戸井田が神妙に僕と真澄ちゃんに視線を送った。
「お二人は意味深な関係?」
「違うよ」
外に出るともう寒い。昼寝できるような陽気ではないことを知る。寒くて季節は冬へと移り変わる。それがわかるように僕達の服は厚着になっていた。
「手袋がほしいな」
僕がいうと戸井田はおかしそうに「彼女を作れ」と言われた。
「ほれ、定番じゃん。プレゼントの」
「そうなのか。彼女持ちは違う」
ニヤニヤしながら戸井田は笑う。
「亜麻(あま)さ。おまえにホレているんじゃないか」
「それはないよ」
振り返ると亜麻さんこと、朝の彼女がいた。
「やめてくれる。私には好きな子がいるの。かわいい子なんだから」
「猫とか」
「洒落にならんよ。そういうことは」
「洒落じゃないけど」
かわいいということは年下と考えていた。秋風が吹いていた。寒い、寒いと彼女は言っていた。
「ほら、あそこにいる子」
「えっ」
「かわいいな」
女の子だった。ちょっと驚いた僕に対して戸井田はあっそうという態度だった。
「かわいいでしょう。間違っても拓磨じゃないからね」
「おう。わかっているって」
「拓磨は驚いているね。そうさ、私でパニックになっているんだね。まあ当たり前か」
亜麻は強いなと思った。
「戸井田には話したっけ」
「うん。こいつ、付き合いが浅いからな」
「まあ。気にしないよ。だから大丈夫」
変じゃないかと思った。戸井田。男、真澄ちゃんはだめなのに、レズはいいのかと僕は問いかけたくなった。難しい顔をしたのだろう。亜麻は「真剣に考えてしまったね」と苦笑した。
「うん。ごめん」
いいよ、いいよといわれた。自分のことばかり考えていた。頭の中は空っぽにしたかった。
「次の授業、休む」
「どこにいるんだよ」
「図書館」
えーと戸井田がいうのを僕は聞いていた。亜麻がちょこまかとついてきた。
「拓磨、拓磨」と話しかけてきた。
「なに、怒っているんだよ」
「怒っていない。混乱しているだけ」
「ふうん、じゃあ。私は別れた方がいいみたいね」
「なんで」
「どっちずかずだな」
亜麻はそう言って苦笑いをした。寒いから襟を立てたジャケットには風が入らない。しかし、こんな薄ら寒い気持ちになるのはなんで。
多分、嫉妬だ。僕がゲイであり、そうして亜麻がレズである。同じように思えてしまう。しかし、まったく違う生き方だ。どちらも同性愛者だ。でも女子ならば友達同士に見える。男だとあやしい。ずるいという気持ちがあった。
「どうして怒っているの」
「いいよ。別に」
「気にしているの」
「亜麻のせいじゃないよ。本当に混乱しているんだ」
そうと亜麻は言っていた。傷つけたと思う。そんな自分がいた。しかし、考えてみれば同じ立場の人間なのにこんな醜い感情を抱くなんて僕はひどく小さな人間だと気がついた。
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「うん」
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