羅針盤の向こう

一条 しいな

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 家に帰った僕は後悔している。あーとかバカとかが口に漏れていた。なんであんなことをしたんだろうと僕は考えていた。だって夜が一番言われたくないことを言ったからだ。
 頭を冷やしたい。不安で右往左往をしてしまう。わかっていた。ただ、傷ついている自分がいたからだ。人の顔色ばかりうかがっていた。その通りだからいらだったのだ。
 どんなに好きでも言われたくなかった。自分は確かに人の顔をうかがって生きている。いやな奴だ。
 自己嫌悪で頭の中がぐるぐるしている。
 謝ったら許してくれるかな。
 動画を見ようとしたが、なかなか集中できなかった。
『先生はこれから』
 という言葉がなかなか頭に入らなかった。こんなことで勉学が身に入らないなんてバカみたいだと僕は思った。
 人間が機械になればいいんだと恐ろしいことを考えていた。
「はあ」と何度もため息が出た。もっと違う言い方があるだろうが。壊れたレコードのように、針が飛ぶように戻って考えていた。
「あら、拓磨。悲惨な顔」と鏡に映る自分に言ってしまった。ふらふらしているという意味は主体性のなさだったのかとよく意味を知る。自分ってなんだよ。自分がわからない奴なんてよくあることだ。
 わかっているなんて顔をしているのは僕だったかと顔を見て気がついた。まるで水の中で溺れているようで、答えがほしいのにだめなようで、結局求めているのは自分が出した答えなんだ。
「よくわからないや」
 お湯を顔に浴びせたい気分だった。顔を洗う。なにか手に取る。顔を洗って好きな音楽を聞く。でもこれじゃないと思う。これでは埋められない。スマホのプレリストはたくさんあるのに、なぜか頭の中でじんわりとした穏やかな気持ちにさせてくれない。
 情けない気分が引きずる。
「絶交か」
 小学校以来の言葉だ。ガキかよと思う。でもそれに対して夜はどう思っているのか、僕にはわからない。
 自分があるってどういう状態か、自分に正直なことか。気を遣うのは当たり前だ。じゃあ、自分の意志ってなんだろう。
 夜とキスしたい、やりたいなどがある。それだけだ。じゃあ、僕が言えば夜は振り向いてくれるのだろうか。
 奪いに来い。
 夜にメッセージを送る。
 好きです。それは嘘じゃないと書こうとしてやめた。
「ごめんなさい」
「……」
 未読らしい。彼女と熱い夜を過ごしているようだ。涙がこぼれそうになった。会いたい、会いたいと強く思うよりもメッセージが来たら言いたかった。画面越しなんていやだった。ちゃんと言葉で伝えたい。
『なんでおまえが謝るんだよ』
『いや、悪いと思ったから』
『気弱』
『うるさいな。喧嘩したくない』
 わかっていると思う。
『また彼女と喧嘩、もしかして』と僕が書いた。
『うるせえ』
 図星か。と考えている。
『おまえにわかるか』
『はいはい』
『絶交再開』
 僕はぷっと笑った。なんだか夜がかわいく見えたからだ。
『都合のいい絶交だな』
 そう僕は書いた。
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