19 / 20
ウィリスの闇
しおりを挟む
ここは国王の執務室。
座り心地の良い椅子に腰掛け、黒い笑みを浮かべる国王ウィリスの前には、一人の覆面の男が跪いている。
彼は、代々の国王の手足となって働く名もなき影一族の現当主だ。
「で、あのマヌケな元婚約者…クリフと言ったか。アイツはどうしてるんだ」
「は。貧乏暮らしに弱音ばかり吐いていますが、妻にしっかりと手綱を握られているようです」
「へえ…。リリーは無事に手に入れたことだし、もう監視はつけなくていいだろう。お前の仕事は完璧だった。ご苦労だったな」
「お褒めに預かり、光栄にございます」
影は音もなく執務室を後にする。
残ったのは国王と宰相、ただ2人だけである。
「お前にも随分世話になったな」
「とんでもございません。アメリアという少女が存外によい働きをしてくれました」
「分かっていると思うが、リリーには決して漏らすなよ」
「御意に」
宰相が慇懃に頭を下げる。
実はクリフの婚約破棄に関しては、ウィリスが密かに手を回した結果でもあった。
愛しいリリーを手に入れるため、影にクリフについて探らせていたのだ。
分かったことはたくさんあった。
実はクリフの女遊びが非常に激しいこと
クリフと現伯爵の浪費癖のせいで、伯爵家の財政は火の車であること
伯爵家は水源の権利だけ手に入れ、リリーを大切にするつもりなどまるでないこと
そして、伯爵家の近くで花売りをしているアメリアが、クリフに想いを募らせていたこと
あとはクリフに結婚を不安に思わせる言葉を吹き込み、同時にアメリアを焚きつけるだけだった。
それだけで簡単に堕落したのだから、やはりクリフには浮気者の素質があったのだろう。
クリフに関する資料を手に取ったウィリスは、勢いよくそれを暖炉に投げ捨てる。
紙の束はすぐに大きな炎に包まれ、あっけなく灰になった。
「陛下、ひとつ伺いたいのですが」
「なんだ」
ウィリスから目で促され、宰相が少しためらってから口を開く。
「魔女の呪いなど、陛下のお力であれば簡単に解けたのではありませんか?」
「…ああ、そんなことか」
革張りの椅子に腰掛けたウィリスは足を組む。
宰相の言う通り、あの程度の呪いであればウィリスの力でどうとでも出来た。
しかし、その時に気付いたのだ。中和魔法を持っているリリーを呼び出す良い口実になると。
思った通り、彼女は震えながらも同じベッドに入ってくれた。
再びやって来た魔女の前にリリーが飛び出したのは予想外だったが、身を呈して庇われるのは存外悪くなかった。
リリーからの深い愛を感じ取れたからである。
ちなみにあの魔女は、リリーを少しでも傷つけた刑として魔力を全て取り上げ、暗い森の奥に捨ててやった。
生き残れるかはあの女次第だ。
宰相も辞去し、執務室で一人きりになったウィリスは、時間停止の術をかけている小さな野花の束を取り出す。
10年前、リリーを助けた際にお礼としてもらったものだ。
「リリー、君は私が一生大切にすると誓うよ」
愛しい人の顔を思い浮かべ、ウィリスは満足げな表情で呟いた。
(了)
座り心地の良い椅子に腰掛け、黒い笑みを浮かべる国王ウィリスの前には、一人の覆面の男が跪いている。
彼は、代々の国王の手足となって働く名もなき影一族の現当主だ。
「で、あのマヌケな元婚約者…クリフと言ったか。アイツはどうしてるんだ」
「は。貧乏暮らしに弱音ばかり吐いていますが、妻にしっかりと手綱を握られているようです」
「へえ…。リリーは無事に手に入れたことだし、もう監視はつけなくていいだろう。お前の仕事は完璧だった。ご苦労だったな」
「お褒めに預かり、光栄にございます」
影は音もなく執務室を後にする。
残ったのは国王と宰相、ただ2人だけである。
「お前にも随分世話になったな」
「とんでもございません。アメリアという少女が存外によい働きをしてくれました」
「分かっていると思うが、リリーには決して漏らすなよ」
「御意に」
宰相が慇懃に頭を下げる。
実はクリフの婚約破棄に関しては、ウィリスが密かに手を回した結果でもあった。
愛しいリリーを手に入れるため、影にクリフについて探らせていたのだ。
分かったことはたくさんあった。
実はクリフの女遊びが非常に激しいこと
クリフと現伯爵の浪費癖のせいで、伯爵家の財政は火の車であること
伯爵家は水源の権利だけ手に入れ、リリーを大切にするつもりなどまるでないこと
そして、伯爵家の近くで花売りをしているアメリアが、クリフに想いを募らせていたこと
あとはクリフに結婚を不安に思わせる言葉を吹き込み、同時にアメリアを焚きつけるだけだった。
それだけで簡単に堕落したのだから、やはりクリフには浮気者の素質があったのだろう。
クリフに関する資料を手に取ったウィリスは、勢いよくそれを暖炉に投げ捨てる。
紙の束はすぐに大きな炎に包まれ、あっけなく灰になった。
「陛下、ひとつ伺いたいのですが」
「なんだ」
ウィリスから目で促され、宰相が少しためらってから口を開く。
「魔女の呪いなど、陛下のお力であれば簡単に解けたのではありませんか?」
「…ああ、そんなことか」
革張りの椅子に腰掛けたウィリスは足を組む。
宰相の言う通り、あの程度の呪いであればウィリスの力でどうとでも出来た。
しかし、その時に気付いたのだ。中和魔法を持っているリリーを呼び出す良い口実になると。
思った通り、彼女は震えながらも同じベッドに入ってくれた。
再びやって来た魔女の前にリリーが飛び出したのは予想外だったが、身を呈して庇われるのは存外悪くなかった。
リリーからの深い愛を感じ取れたからである。
ちなみにあの魔女は、リリーを少しでも傷つけた刑として魔力を全て取り上げ、暗い森の奥に捨ててやった。
生き残れるかはあの女次第だ。
宰相も辞去し、執務室で一人きりになったウィリスは、時間停止の術をかけている小さな野花の束を取り出す。
10年前、リリーを助けた際にお礼としてもらったものだ。
「リリー、君は私が一生大切にすると誓うよ」
愛しい人の顔を思い浮かべ、ウィリスは満足げな表情で呟いた。
(了)
21
あなたにおすすめの小説
【完結】がり勉地味眼鏡はお呼びじゃない!と好きな人が婚約破棄されたので私が貰いますわね!
水月 潮
恋愛
アドリアン・メラールはメラール公爵家の長男で一つ下の王女ユージェニーと婚約している。
アドリアンは学園では”がり勉地味眼鏡”というあだ名で有名である。
しかし、学園のダンスパーティーでアドリアンはユージェニーに「がり勉地味眼鏡なんてお呼びじゃないわ!」と婚約破棄される。
その上彼女はクレメント・グラミリアン男爵家令息という美少年と新たに婚約を結ぶと宣言する。
フローレンス・アンベール侯爵令嬢はその光景の目撃者の一人だ。
フローレンスは密かにアドリアンを慕っており、王女の婚約者だから無理と諦めていた。
フローレンスは諸事情あって今は婚約者はおらず、親からも政略結婚を強いられていない。
王女様、ありがとうございます! 彼は私が貰いますので!
これを好機ととらえたフローレンスはアドリアンを捕まえる。
※設定は緩いです。物語としてお楽しみください
*HOTランキング1位(2021.9.20)
読者の皆様に感謝*.*
【完結】婚約破棄したのに「愛してる」なんて囁かないで
遠野エン
恋愛
薔薇の散る夜宴――それは伯爵令嬢リリーナの輝かしい人生が一転、音を立てて崩れ落ちた始まりだった。共和国の栄華を象徴する夜会で、リリーナは子爵子息の婚約者アランから突然、婚約破棄を告げられる。その理由は「家格の違い」。
穏やかで誠実だった彼が長年の婚約をそんな言葉で反故にするとは到底信じられなかった。打ちひしがれるリリーナにアランは冷たい背を向けた直後、誰にも聞こえぬように「愛してる」と囁いて去っていく。
この日から、リリーナの苦悩の日々が始まった。アランは謎の女性ルネアを伴い、夜会や社交の場に現れては、リリーナを公然と侮辱し嘲笑する。リリーナを徹底的に傷つけた後、彼は必ず去り際に「愛してる」と囁きかけるのだ。愛と憎しみ、嘲りと甘い囁き――その矛盾にリリーナの心は引き裂かれ、混乱は深まるばかり。
社交界の好奇と憐憫の目に晒されながらも、伯爵令嬢としての誇りを胸に彼女は必死に耐え忍ぶ。失意の底であの謎めいた愛の囁きだけがリリーナの胸にかすかな光を灯し、予測不能な運命の歯車が静かに回り始める。
地味で役に立たないと言われて捨てられましたが、王弟殿下のお相手としては最適だったようです
有賀冬馬
恋愛
「君は地味で、将来の役に立たない」
そう言われ、幼なじみの婚約者にあっさり捨てられた侯爵令嬢の私。
社交界でも忘れ去られ、同情だけを向けられる日々の中、私は王宮の文官補佐として働き始める。
そこで出会ったのは、権力争いを嫌う変わり者の王弟殿下。
過去も噂も問わず、ただ仕事だけを見て評価してくれる彼の隣で、私は静かに居場所を見つけていく。
そして暴かれる不正。転落していく元婚約者。
「君が隣にいない宮廷は退屈だ」
これは、選ばれなかった私が、必要とされる私になる物語。
婚約破棄されたら兄のように慕っていた家庭教師に本気で口説かれはじめました
鳥花風星
恋愛
「他に一生涯かけて幸せにしたい人ができた。申し訳ないがローズ、君との婚約を取りやめさせてほしい」
十歳の頃に君のことが気に入ったからと一方的に婚約をせがまれたローズは、学園生活を送っていたとある日その婚約者であるケイロンに突然婚約解消を言い渡される。
悲しみに暮れるローズだったが、幼い頃から魔法の家庭教師をしてくれている兄のような存在のベルギアから猛烈アプローチが始まった!?
「ずっと諦めていたけれど、婚約解消になったならもう遠慮はしないよ。今は俺のことを兄のように思っているかもしれないしケイロンのことで頭がいっぱいかもしれないけれど、そんなこと忘れてしまうくらい君を大切にするし幸せにする」
ローズを一途に思い続けるベルギアの熱い思いが溢れたハッピーエンドな物語。
婚約破棄されたら、多方面から溺愛されていたことを知りました
灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
卒業パーティーの当日、王太子に婚約破棄された公爵令嬢フルール。
それをあっさり受け入れた瞬間から、彼女のモテ期が始まった。
才色兼備で資産家の娘である彼女は、超優良物件にも拘らず、生まれた時から王太子の婚約者ということで今まで男性から敬遠されていたのだ。
思ってもみなかった人達にアプローチされて戸惑うフルールだが……。
※タイトル変更しました。
※カクヨムにも投稿しています。
婚約破棄された公爵令嬢エルカミーノの、神級魔法覚醒と溺愛逆ハーレム生活
ふわふわ
恋愛
公爵令嬢エルカミーノ・ヴァレンティーナは、王太子フィオリーノとの婚約を心から大切にし、完璧な王太子妃候補として日々を過ごしていた。
しかし、学園卒業パーティーの夜、突然の公開婚約破棄。
「転入生の聖女リヴォルタこそが真実の愛だ。お前は冷たい悪役令嬢だ」との言葉とともに、周囲の貴族たちも一斉に彼女を嘲笑う。
傷心と絶望の淵で、エルカミーノは自身の体内に眠っていた「神級の古代魔法」が覚醒するのを悟る。
封印されていた万能の力――治癒、攻撃、予知、魅了耐性すべてが神の領域に達するチート能力が、ついに解放された。
さらに、婚約破棄の余波で明らかになる衝撃の事実。
リヴォルタの「聖女の力」は偽物だった。
エルカミーノの領地は異常な豊作を迎え、王国の経済を支えるまでに。
フィオリーノとリヴォルタは、次々と失脚の淵へ追い込まれていく――。
一方、覚醒したエルカミーノの周りには、運命の攻略対象たちが次々と集結する。
- 幼馴染の冷徹騎士団長キャブオール(ヤンデレ溺愛)
- 金髪強引隣国王子クーガ(ワイルド溺愛)
- 黒髪ミステリアス魔導士グランタ(知性溺愛)
- もふもふ獣人族王子コバルト(忠犬溺愛)
最初は「静かにスローライフを」と願っていたエルカミーノだったが、四人の熱烈な愛と守護に囲まれ、いつしか彼女自身も彼らを深く愛するようになる。
経済的・社会的・魔法的な「ざまぁ」を経て、
エルカミーノは新女王として即位。
異世界ルールで認められた複数婚姻により、四人と結ばれ、
愛に満ちた子宝にも恵まれる。
婚約破棄された悪役令嬢が、最強チート能力と四人の溺愛夫たちを得て、
王国を繁栄させながら永遠の幸せを手に入れる――
爽快ざまぁ&極甘逆ハーレム・ファンタジー、完結!
バレンタインチョコは婚約解消の後で~ 《旧題:最後のバレンタイン》
桧山 紗綺
恋愛
他の女性に惹かれている婚約者。
自分なりのけじめをつけるために最後のバレンタインチョコレートを贈る。
受け取ってもらえても受け取ってもらえなくても、構わない。
これは新しい道を歩いていくためのきっかけなのだから。
*********
婚約破棄×バレンタイン。作中のバレンタインの様式は色々混ぜた創作です。
※「小説を読もう」に投稿していたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる