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異世界とりっぷ
2.表出ろ
しおりを挟むたまらなくなって、俺は店を出た。酔いを覚ましたかったのもある。
冷たい風が頬を撫でてとおりすぎていくのが心地よい。店からは、賑やかさが外にまで溢れ出て来ていた。何故だか、自分だけ仲間はずれにされている気分で面白くない。それもこれも、全部あいつのせいだ。飲み会の場所が被るって、どんな偶然だよ。俺は脳内ににっくき相手の顔を思い浮かべた。
イケメンで、話が上手くて気遣いができる人気者で───そして俺の元交際相手でもある。
俺が犀川と会いたくなかった理由はそれが全てだ。別れたのはつい先日。別れよう、って言ってあっちは分かった、って応じて、それでお終い。そこで奴との縁は切れたハズだったんだ。なのに…。
俺が店の前の歩道で涼んでいると、おもむろに扉がガラリと開いた。
「波多野…大丈夫?」
店から出てきたのは、俺がたった今思い浮かべていた相手、犀川だった。
「な、なんだよ…抜けてきていいのか」
「うん。それより、大丈夫?体調悪いの?」「別に…平気だよ。…いいからお前は店戻れよ。女の子たちが待ってるぞ」
こいつそんな事聞くために抜けてきたのか…?煩わしそうに手で払っても、犀川は動こうとしなかった。切れ長の目で、こちらをじっと見つめてくる。
「なんだよ…?」
「いや?久しぶりの波多野だなと思って。」
その言葉の含む意味に、かっと頬が熱くなる。
「別れてからもう1ヶ月か~時の流れって早いよね」
触れてほしくない話題に、犀川はバンバン踏み込んでくる。こっちが気まずい思いしてんのがバカみたいだってくらいに。あまりにもアッサリとしすぎている。そういえば、別れを切り出した時もそうだった。もっと反対されるかと思ったから、拍子抜けしたものだ。
「まさかここで会うなんてね~。偶然って面白いね。波多野はお目当ての女の子、見つけられたの?」
ギクッと体が揺れる。バレている。出不精の俺が飲み会に参加する理由なんて一つしかない。新しい出会いが欲しかったんだ。それに、この1ヶ月の間はモヤモヤとする時間が多かったからリフレッシュしたかったのもある。まあ出会いへの期待の方が大きかったのは事実だが、犀川にはしっかりと見抜かれていたようで。
「まだ…女の子たちはみんなお前に夢中だからな」
「ふうん。今晩、気になった子と二人で店抜け出して、って…そんな感じ?」
「っ…別にいいだろ。お前だって、女の子に囲まれてデレデレしてたくせに」
ムキになって言い返すと、犀川は小さく吹き出した。二人きりの路上に笑い声がこだまする。
「俺の事、見てたんだ?」
頬が急激に熱くなっていく。赤い顔を見られたくなくて、俺は店にはいるべく犀川の隣を横切った。すかさず、犀川も後についてくる。
「待ってよ。ごめんって」
「うるさい」
まともに話に付き合っていた俺がバカだった。こいつが現れた瞬間にすかさず店に戻るべきだったんだ。犀川と話していると、調子が狂う。だから、元カレだということを抜きにしてもこいつと話したくなかったんだ。
「まって」
「さわんな」
俺が店の扉に手をかけたその瞬間───。
「え」
ぱあああと辺り一帯が眩い光に包まれた。俺は、反社で目を瞑っていた。
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