6 / 12
異世界とりっぷ
6.魔法
しおりを挟むエドの話を聴き終わったあと、俺はじっとしていることが出来ず、小屋を飛び出した。小屋の周りには森が広がっていて、頭上を鳥のような生き物が飛んでいく。
異世界?地球じゃない?何だそれ、ふざけるなよ。エドの話の途中、何度も「ドッキリでした」の看板を手にした誰かが扉を開けて入って来てくれるのを期待した。そんな展開にはならなかった。一体何なんだ?言いようのない怒りが込み上げてくる。
暫くすると小屋から犀川も出てきて、俺の方へと近づいてくる。
「波多野…大丈夫?」
「…大丈夫な訳あるか。何なんだよここ」
「……ないてるの?」
「泣いてねえよ!」
覗き込まれて、俺は慌てて顔を逸らした。ちょっと心細くて鼻を啜っただけだ。泣いてなんかない。…嘘だ。ちょっと、目尻が濡れてる。
「そっか…。エドが外に出るのはいいけど、あんまり遠くへ行くなって。魔物に出くわすかもしれないから」
「魔物!?」
聞き捨てならない単語に、俺は思わず聞き返した。
「魔物って…ファンタジー映画に出てくるみたいな…?」
いかつくてゴツゴツしてて人に危害を加えてくる、あの魔物…?
「さあ…。俺も出会ったことないから分かんないけど。少なくとも、俺たちじゃ太刀打ちできないのは確かだね」
「……お前、なんでそんな平然としてるんだよ」
「え?俺?」
怖いよ、と犀川は言った。
「怖いよ。怖くないわけないじゃん。でも、こうなったからには泣いてても始まらない。とにかく何とか帰る方法を探さなきゃ。エドも協力してくれるって」
「………帰れるのか」
「調べてみないと分からない。エドも、この世界に取り込まれた異世界人がどう過ごしてるかまでは把握してないみたいだし。でも、部屋が余ってるから調べる間、貸してくれるって。相部屋なんだけど、いいよね?」
エドが良い人で良かったね。事も無げに言う犀川はやっぱり飄々としていて、いまいち感情が掴めない。俺はまだ気持ちの整理がつかなくて、不安で一杯なのに。
「…そんなに落ち込まないで。そうだ、面白いもの見せてあげる」
「面白いもの…?」
犀川が着いてこいと言うので、俺たちは小屋へと引き返した。キッチンにはまだエドがいて、ハーブティーを飲んでいる。
「あ、エド。あれ、波多野に見せていい?」
「…好きにしろ」
案内されたのは、勝手口から出たところにある裏庭だった。小屋の裏手に面しているその場所にはエドが植えたであろう作物があり、自給自足しているというのは本当のようだった。いや、疑っていた訳ではないが。犀川が指したのは、畑に面する小さな池のような場所だ。池と言っても、大きな水溜まりほどのサイズで、藻のせいで表面が濁っている。
「…で?これが何」
「いいから、見てて」
犀川はおもむろに池に近づいたかと思うと、両手を水面に向かって伸ばし始めた。
空気が微かに変わっていくのを感じた。始め、何が起きているのか分からなかった。それまで澱んでいた池を取り巻く空気が、少しずつ清浄されていく感じ。
変わっていく空気と同時に、池の方にも変化が起こっていた。表面を覆いつくしていた藻が、無くなっていく。池が、綺麗になっていく。
俺は、あんぐりと口を開けていた。
「ね。どう?」
こちらを見上げてくる犀川の顔には、満面の笑みが浮かんでいた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています
柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。
酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。
性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。
そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。
離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。
姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。
冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟
今度こそ、本当の恋をしよう。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる