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異世界とりっぷ
7.うっかり女神
しおりを挟むその晩、俺は夢を見た。
どこかで、誰かが言い争う声が聞こえる。
「…れは…って…」
「んで…」
…うるさいって。目を開けると、真っ暗な空間。四方に広がる闇をおかしいと思うことはない。夢だからな。俺は、声がする方向へと足を踏み出した。
暫く闇の中を歩いていると、誰かの姿が微かに見えた。女の人と……あれは犀川?
「犀川…?」
そうだ。あの背丈とミルクティー色の髪は犀川に違いない。犀川は俺に気がつくと、ぱっと顔を明るくした。
「波多野!」
犀川の正面にいる女性もこちらを向く。その美しさに、俺は息を呑んだ。真っ白な肌と緩く波打つ金色の髪、大きな瞳は青く輝いている。見たことがないほどの美人だ。犀川も並大抵ではない美形だが、こちらの美人も負けず劣らずだ。俺は思わず見蕩れて惚けてしまった。
「…初めまして。波多野優也さん」
「へっ、俺っ?」
美人が小さな口を開いたかと思ったら飛び出してきたのは俺の名前。何故俺の名前を知っている!?
「急に呼び出してごめんなさい。貴方たち二人に、謝らないといけないことがあるんです」
「えっ、えっ?」
助けを求めて犀川を見るも、完全無視だ。というか、珍しく怒ってる?俺が来る前に二人は言い争いをしてたみたいだが…。
「自己紹介が遅れましたね。私は、イザベラと申します。貴方たちが異世界に飛ばされてしまったのは…私のせいなのです」
*
自称女神は、とんでもない事を語り始めた。話の内容を要約すると、こうだ。
女神は多数の世界を掛け持ちで管理しており、朝から晩まで多忙だった。彼女は激務のあまり疲れきっていたらしい。そこで、うっかりしたところのあるこの女神は、何の手違いか他の者に授けるはずだった能力を、犀川に与えてしまった。
いやいやいや、とこの部分でツッコミを入れたくなる。何で間違えんだよ。犀川がとばっちりで授けられた能力?は今日俺も目の当たりにした、池を綺麗にしたアレだろう。女神曰く、浄化、というらしい。何でもいいが。
それで、最近不安定で歪みが多発していたこの世界に、たまたま俺たちが吸い寄せられた。
「能力持ちの方は比較的吸い寄せられやすいんです。この世界と親和性が高くなるから」
平然とそんなこと仰いますけど、それ、アンタのせいなんですよね!?憤る俺の気持ちを、犀川が横から口にしてくれた。
「何だそれ…じゃあ、俺たちを元の世界へ戻してもらってもいい?」
「それが…大変申し訳ないんですけど、出来ないんです」
「はあ?何でだよ」
「私は下っ端の女神なので、世界に干渉する権限はないんです!規定でも決まってるんですよっ!」
問い詰められて、女神がとうとう逆ギレした。
「えぇ…じゃあどうすればいいんだ?このままこの世界で死ねって?」
「私が直接手助けしてしまうと規定違反になってしまいますが…帰る方法が無いわけではありません」
「へえ。どうやるの?」
「この世界の東端の魔の森に、莫大な魔力を持つ大魔法師がいます。大魔法師なら、お二人が元の世界へ帰る方法を知っているでしょう」
大魔法師。聞き慣れない単語に、俺は首を傾げた。
「つまり、俺たちはアンタの手違いで魔物が出るような危険な世界に転移させられた挙句、その大魔法師に会うために東へ行かなきゃいけないってことか」
棘のある犀川の口調に、女神がしゅんと肩を落とした。おお…美人が落ち込む姿を見るとこちらの胸も締め付けられるな。
「そもそも、幾ら疲れてたからって勝手に人に変な能力与えるなんて。アンタほんとに女神なのか?」
「うっ…」
「俺たちが魔物に襲われたらどうするつもり?アンタまた疲れてたからって自分に言い訳するのか?」
「ううっ…」
「管理してる世界に手出しすらできないなんて、役に立たない女神だな」
「コラコラコラコラ、犀川くん!?」
チクチク言葉を連続して浴びせかける犀川を、俺は横から止めにかかった。普段の温厚さはどこへいったんだ。見ろ、女神が落ち込みすぎて泣き出しそうな顔してるぞ。
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