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異世界とりっぷ
8.目覚め
しおりを挟む「そこまで言うことないだろ。女神さん、俺たち帰れるんですよね?ね?」
「は、はいっ。大魔法師は全て知ってますから!魔の森にさえ辿り着けば…帰れるはずですっ」
「はず?はずって何だよ。確実じゃないのか?」
「ひ、ひいい…」
「犀川!コラ!」
俺が叱りつけると、犀川は不服そうな顔でこちらを睨みつけてきた。どうしたんだお前。いつもは他人に敵意を向けるなんてことしないのに。
「波多野!なんでこの女を庇うんだよ!?」
「女って…女神様だろ。いちいちトゲのある言い方するなよ」
「この女のせいで俺たち縁もゆかりも無い土地に飛ばされたんだよ!?波多野は日本に帰りたくないの!?」
日本に、帰る…。まあ、慣れ親しんだ故郷だしそりゃ帰りたいわな。
俺はもう家族とは縁が切れてるし、友達も犀川くらいしかいないし、絶対帰りたい!と意気込むほどではないが。
犀川は確か良いとこのボンボンだし、友達も、犀川を待つ人もたくさんいるだろうから、帰るべきなんだろう。
俺たちは醜い言い争いをしていたから、女神がどんどん薄くなっていっていることに気が付かなかった。比喩表現ではなく、本当に女神は透けていって、煙のように消えかけてるみたいだった。
「……謝っても許してもらえないかもしれませんが…私にできる精一杯のこと…貴方たちに加護を授けます」
気がつけば、女神はほとんど見えなくなっていた。
「できることは多くありませんが…旅の途中も、貴方たちを見守っていますよ……さあ、目覚めの時です」
暫しさようなら…またお会いしましょう
女神の声が遠くなったかと思うと、同時に真っ暗だった視界が白けていく。そして、俺たちは夢から目を覚ました。
*
……よく分からない夢を見た。
ベッドの上で、上体を起こした俺は落ちかける瞼を擦った。実におかしな夢だった。エラく綺麗な女の人が自分のことを女神だと名乗ったかと思うと、浄化だの大魔法師だの不思議なことを聞かされた。一体何だったんだろう。
異世界に転移だなんて、そんなことあるはずないじゃないか。ファンタジー映画の見すぎだって。俺は日本で暮らす平凡な大学三回生で、迫り来る就活の気配に怯えつつもまだ遊びたい、そんなありきたりな生活を送っているんだ。俺の身に異常なことが起こるなんて、有り得ない…。
「波多野~おはよう」
ばっと横を向くと、そこには犀川がいた。俺と同じような体勢で、上体だけを起こしてこちらを見ている。
「犀川!?なんでここに…」
「何言ってるの。俺たちエドに部屋を貸してもらったでしょ。相部屋でもいいって波多野も納得してたよ」
「相部屋…エド…ああああ…」
急速に記憶が戻ってくる。居酒屋、光、森の中、エド、そして犀川の魔法…。じゃあ、ここは異世界?これは、現実なのか?
起きぬけに唸り出した俺を、犀川は哀れむような目で見てきた。口では大丈夫?と言ってるがバカにしてる感丸出しだ。度し難い。全くもって、度し難い。
その時、部屋の扉が開いて中にエドが入ってきた。朝だというのに隙のない身だしなみ、矍鑠とした足取りは、やはり年齢を感じさせない。
「……朝飯だぞ」
俺たちを前にエドは一言。低い声が床へ落ちていった。
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