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異世界とりっぷ
9.前途多難
しおりを挟むそれから俺たちは、エドの小屋を間借りしつつ大魔法師の元へ旅する計画を立てることになった。
朝ごはんの席で(エドの作る料理は超美味い)女神の夢の話をすると、さすがのエドの顔にも驚きの表情が広がった。日本でこんな話をしたら変な奴認定されそうだが、こっちの世界の人は神様に対する信仰が篤く、現実にいるものとして考えられているようだ。エドは真剣な表情で、俺たちがこの世界へ来てしまった理由を聞いていた。
「驚いたな…大魔法師か。…確かに、あの御方なら帰る方法を知っているに違いない」
「その大魔法師…ってのは一体何なの?」
「大魔法師は、この国の全ての魔法を操る御方だ」
そもそも、この世界には魔法が存在するが、全員が使える訳ではないらしい。魔法はごく稀に魔力を持って生まれてくる人間にのみ許された、特権だ。魔法を使える人間は少ない。
大魔法師は特殊な存在で、何しろこの国の始まりと共に誕生して未だ生き続けているらしい。その話を聞いた俺は、驚いて思わず口を挟んでしまった。
「うぇっ!?じゃあその人何歳な訳?」
「分からない…だがこの国は建国して100年以上経っている」
もしかして大魔法師は人間じゃないのか?魔法使えるから自分の寿命も自在に伸ばせるのだろうか。エドの話は続く。
この世界には全ての魔力の素となる「魔素」があって、それは草木や地中に至るまで万物に宿っているらしいのだが、ふとした拍子にマイナスに転化することがあるのだという。穢れた魔素のことを、この世界の住人は「瘴気」と呼ぶ。瘴気は有害だ。何の対処法もなしに近づくことはできない。
瘴気は近づく人間に害を与えるだけでなく、歪みや魔物などを生み出してしまう。過去には、穢れた魔素を素に魔法を使う、強力な魔物が誕生したこともあるらしい。この魔物は「魔王」と呼ばれ、人々から広く恐れられた。
ここで登場するのが大魔法師だ。街を襲い人々を恐怖に陥れた魔王を討伐し、世界に平和を齎した。
その際に傷を負った大魔法師は、東の森に塔を築き以来そこにひっそりと暮らしている。
「大魔法師のお陰で世界の均衡は保たれている。瘴気が発生するのを抑えているのも、彼の人の力だ。大魔法師がいるから、儂らは魔王に怯えることもなく、平穏な生活を享受することができるのだ」
と、そこでエドの話は区切りがついた。……なんと言うか、壮大すぎてよく分からないぞ。チラリと犀川の方を見ると、神妙に話を聞いていたようだ。…こいつ、真面目な顔してるとホントにイケメンだよな。
「東の森へ行けば大魔法師に会えるんだね?」
「いや…大魔法師は国の重鎮だ。一般人がおいそれと会える方ではない」
それに、とエドは続ける。
「森までどうやって行くつもりだ?魔の森は瘴気が起こりやすく、魔物もゴロゴロいる。非常に危険だ」
これには、俺も犀川も黙るしかなかった。この世界へ来たばかり、金も知識も力もない。エドの言うことは、正しい。
場に沈黙が降りる。
───日本帰還計画は、想像以上に前途多難のようだ。
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