あの頃のあなたに

そら

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わたしの家族

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 志織と十字路で分かれて家への道をひとり歩く。久しぶりにたくさん歩いても、わたしの四年生の頃の身体は悲鳴をあげなかった。さすが毎日往復一時間を歩いているだけある。
わたしの家族は四人だ。父、母、弟。弟とは三つ年が離れているので、小学校一年生だ。
―あれ、そういえば今日は歩いていったのかな。
7時に起きてなかったから、お母さんに車で送ってもらったのかもしれない。名前は和希。いつもわたしの後ろをついてくる、丸坊主のかわいい弟だった。その見た目から、みんなから『まるこめくん』と呼ばれ可愛がられていた。
家に着き、冷蔵庫を漁ってアイスを食べる。
「今日はどうだった。」
台所で夕飯の準備をしている母に聞かれる。
「もう、最高に楽しい日だったよ!」
いつも静かなわたしが珍しくはしゃいでいたので、母は少し驚いていた。
「そう。よかったじゃん。何があったの。」
「純平と一緒の班になれた。志織ちゃんも一緒の班だったし、これで山の学校も楽しみ。」
昔からわたしはうれしいことがあると、母に逐一話していた。誰かに話さずにはいられなかったのだ。
「おねえちゃーん、宿題わからん。」
和希が呼ぶので、はいはい、と台所を後にしてリビングに向かった。後ろでよかったね、という母の声が小さく聞こえた。
「ここわからん。」
自分が一年生の時は難しく感じたのだろう問題も、大人になればちょちょいのちょいだった。こうやって大人になっていくのだろう。あの頃もっと勉強していれば、今よりできたかもしれない、あの頃の問題が簡単に感じるから、今ならもっと頭がいいはずだ。そんな感情をうっすらと抱いていたころもあった。勉強がすべてではないけれど、知識があることは大切だ。その後の人生の幅が変わる。自分の興味のあることが見つかるまでは、学校で習う基礎知識は必要なものだ。
「ことちゃん、ありがとう。」
問題を教えてやり、素直にお礼を言う弟もかわいい。この子には、広い知識を身に着けて、視野を広げた豊かな人生を送ってほしい。一度大人になって、感じたことを伝えなければと思った。
「今のうちにしっかり勉強しておくんよ。」
小さいころ、先生が言っていた意味が、思いが、なんとなく理解できた気がした。
「そうそう。今度のゴールデンウィークにどこか遊びに行こうって、お父さんが言ってたから、どこか行くかも。」
母が台所からこちらに顔を出し、声を張り上げて言う。どこ行きたいか決めといてね、と言い残して台所に戻っていった。
「和希はどこ行きたい?」
宿題を中断してやったーとはしゃぐ弟に聞く。
「えっとね、遊園地行きたい!」
興奮気味に伝えてくる。素直でかわいい小学生だ。
「そっか、遊園地も良いね。」
ゴールデンウイークだから、泊りで遊びに行くのだろうか。わたしは絶対神社が良い。この世界では特に切実に縁結びを祈っておかなければならない。元の世界に戻れたとして、あるいはこの世界で生きていくとしても、純平と夫婦でいられる未来がきてほしい。
家族会議の結果、ゴールデンウィークは二泊三日の京都・大阪旅行に決まった。
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