Second World

松竹梅

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序章 世界創造

神に至る者

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 「落ち着いたかい?」
 「…ええ。お見苦しい姿をお見せしました。」

 青年は号泣してスッキリしたのか、神に向かって笑って見せた。まあ、その笑顔に覇気など一切無いのだが。

 「ごめんね。私も全知全能って訳じゃないからさ。その代わり、にはならないだろうけど私に出来る範囲で君の願いを叶えてみせるよ!」
 「そうですか。そうですね…じゃあ一つだけ。僕の家族が幸せに天寿を全う出来るように見守って下さい。」
 「…無欲だね。いや、漠然とし過ぎて逆に強欲なのかな?いいよ。君の家族の幸せは保証するよ。」

 青年は安心したように微笑むと、真剣な顔付きになって神に尋ねた。それはもちろん、彼をここに連れてきたもう一つの理由である頼み事について聞くためである。

 「それで、頼み事とは何でしょう。僕に出来ることならいいのですが。」
 「あ、うん。切り替え早いね…いやこっちとしてはいいんだけどさ。君へのお願いっていうのはさ、向こうの世界…つまり『Second World』中世編の舞台である『ガイア』の神になって貰いたいんだよね。」
 「かみ?かみって神様ですか?この僕が?何でです?」

 余りにも突拍子のない内容に、青年は狼狽えてしまう。神は断られると思ったのか、そんな青年を不安そうに見ていた。

 「あれ?いやなの?」
 「嫌というか、無理ですよ!大体、どうして僕が?そんな器じゃありませんよ?むしろ普通の生活も送れないような貧弱な…」

 自分で言っていて悲しくなってきた青年はそれ以上を口にすることは無かった。しかし、神の反応は意外なものであった。怒っていたのである。

 「何言ってんの?君は十分な資質があるよ。なんてったってあの魔神を独りで倒したじゃないか。」
 「それはゲームの話でしょう?」
 「おいおい!さっきの事、もう忘れちゃった?『Second World』はゲームじゃ無いってこと。」
 「あ…。」

 『Second World』は異世界の卵。つまり、ゲームだと思っていたことは全て異世界の現実だ。青年はゲームを楽しむ感覚で、異世界を旅し、様々な出会いと別れを経て魔神を討伐したのである。それは神話や英雄譚として語られるべき偉業であった。

 「知っているよ。君が厳しい鍛錬を積んで魔物を狩ったこと。人々を助けて多くの国や部族と縁を結んで信頼を勝ち得たこと。そして彼らの期待を背負って魔神を討ったこと。私は別に君にだけ特別な肉体を用意したわけじゃない。プレイヤーに与えられる肉体は、性差はあっても性能に違いは無いからね。つまり『ガイア』での出来事は全て君が、君の魂が成したことだ。そんな君を差し置いて、他に誰を選べって言うんだい?」

 こうも正面から賞賛された事のない青年は赤面していた。気を使われる事はあっても、誉められるような事とは終ぞ無縁な人生だったからだ。それに、と神は続ける。

 「神だって君一人ってわけじゃない。『ガイア』じゃあ既に幾柱も神が誕生してるのさ。その中に君も加わって欲しいってことだよ。それに当然だけど魔神を倒した君は最上位の神の一柱になるから安心して。どう?これでも受けてくれないかな?」
 「わかりました。神になります。」

 青年はそれまで狼狽えていたのが嘘のような即答であった。うまく話に乗せられてしまったような気もするが、真摯に説明してくれた目の前の白い神を疑うつもりはさらさらない。そもそもあの世に行くだけだった病弱で貧相な自分を見いだしてくれた相手を疑うことなど彼には出来なかったのだ。

 「ありがとう!じゃあ早速だけど向こうに行ってくれるかい?」

 そう言って神は立ち上がって虚空に指を差す。すると空中に突如として何の変哲もないドアが現れた。

 「ここを潜れば、向こうはガイア。その神の世界さ。そして足を踏み入れると同時に君の魂は神に昇華する。…覚悟は出来たかい?」
 「はい!」

 青年は返事と共に立ち上がり、躊躇なく扉の向こうに足を踏み出した。





 扉を潜った先に広がっていたのは何もない真っ暗な空間であった。そのことにも驚いたが、それ以上に青年が看過できない事が起きる。なんと青年の身体が突如として膨らんでいくではないか。それは異世界『ガイア』にあった彼の肉体とこちらに来たばかりの魂が融合している感覚だ。そうして彼の魂は、人間という一個の生物のそれから世界を支える神のそれへと昇華していく。ここに新たな神が生まれたのである。
 肉体が膨張する奇妙な感覚が収まると、青年は生きている間感じたことのない尽きぬ活力が自分に満ちているのを実感すると共に理解した。自分は本当に神になったのだ、と。

 「うんうん。ちゃんと神になれたみたいだね。おお、かっこいい!」
 「うわっ!?」

 突然話しかけてきたのは、金髪碧眼のスーツを着こなした軽薄そうな美男子であった。会ったことも見たこともない相手のはずなのだが、その声と雰囲気には覚えがある。というか、今さっきまで聞いていた声と全く同じではないか。

 「神様!?どうしてここに!」
 「え?ああ!行き来出来ないと思ってたんだね。大丈夫だよ。君や私みたいな上位神は異界の神とも交流出来るんだ。それに、神として右も左もわかんない君をほっとくなんて薄情なマネはしないさ。」

 自分が生きた世界の神はアフターサービスも充実しているらしい。二度と会えないと勝手に勘違いしたことを恥ずかしく思いながらも、青年はの言葉に耳を傾けた。

 「じゃあまず、君の部屋を創ろう。イメージするんだ。君が思い描く過ごしやすい部屋を、ね。」
 「ええと、こう、かな?」

 青年が思い描いたのは、病院で他の入院患者とよく見た時代劇の一室だ。するとそれまで先程までいた暗闇から染み出るように和室が出てくる。瞬く間に二柱の神は和室の中にいた。自分が創造したと頭で理解してはいるものの、こんなに簡単に事が運ぶとは思わなかった青年は唖然としている。対する恩神はうんうんと頷くばかりであった。

 「いいね。こんな感じでここ『神界』ではイメージした物を何でも作れる。まあ、私はこの世界の神じゃないから無理だけど。次は『神器』を出そう。」
 「『神器』、ですか?」
 「うん。『神器』って言うのはその神にしか使えない武器のこと。基本的に天罰を下す時に使うね。悪い奴をやっちゃうぞ!って思ってみて?」
 「悪い奴、ですか。」

 青年は悪い奴と言われて真っ先に思い浮かんだのはあの魔神である。あの化け物と対峙したときの内側からわき上がる恐怖と殺意を思い出す。すると彼の全身から雷光が迸り、気が付くとあの時身に付けていた武具を全身に装着していた。

 「おぉ~。威圧感あるねぇ!」
 「はぁ。ありがとうございます。あれ?何か前と違う箇所が幾つかある…ってうわっ!?何だこの腕!?」

 青年が驚いたのも無理はない。彼の左腕が手の甲に美しい宝石が嵌まった真っ黒な謎の義腕に置き換わっていたのだ。義腕自体は思った通りに動くし、触覚はあるので動きに支障はない。かといって知らない内に腕が生えているのは気分がいいものでも無いのだ。
 魔神との戦いで左腕を失ったことは覚えているし、『ガイア』の肉体と青年の魂が混ざって神となったことは何となく理解している。だからこそ、この腕は意味がわからない。そして更なる問題は、宝石にも義手の素材にも心当たりがあることだった。

 「神秘の欠片、かな?それにしては大きいし…左腕は魔神の角、かな?どうなってるんです?」
 「あちゃー。どうやら現世の住人は君の姿を間違って伝承したみたい。その姿がガイアの住人にとっての君だ。鏡、出してみなよ。」

 青年が念じて出した鏡に映るのは、赤銅の肌に黒い長髪、右目に龍の瞳、先に述べた左腕に長大な大身槍と和弓を背負って重厚な大鎧で武装した精悍な大男である。彼のアバターは中肉中背で肌の色は普通の日本人と同じだったし、顔もこんな男前では無かった。信じられない変化である。

 「こ、怖っ!これが僕?僕って何の神ですか!?」
 「ん?言ってないっけ?魔神を単騎で討伐した君は『闘争の神』。遍く生物の闘争本能を司る戦いの神さ!」

 病弱で心根の優しき青年は、その性分とは正反対の神になっていた。
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