Second World

松竹梅

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第一章 ヒノモト珍道中

最終試練

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 コンゴウは私室兼執務室である『神界』の部屋に戻ると、すぐにPCを立ち上げて『最終試練』の行われる拝殿を覗く。拝殿の内部はは見た目よりも広く見えるのは錯覚ではなく、コンゴウが実際に戦った時の状況を再現するために空間を拡張しているからであった。
 PCの画面に広がるのは一面の闇だ。目を凝らせば奥に冒涜的な化け物の彫像が並ぶ崩れかけの神殿が見える。桜姫もそれに気が付いたようで、異様で歪なそれに眉根を寄せている。
 すると、神殿の奥からなにやら巨大な影が這いずり出てきた。それと同時に広がる腐敗臭に、桜姫は思わず顔をしかめる。現れたのは所々が炭化し、数多くの大穴が空いた、全身の肉が腐った化け物だった。
 『最終試練』の相手とは『魔神之骸』。コンゴウが討伐し、この世界が一つの世界へと成長するための鍵だったモノのゾンビだ。コンゴウによって完膚なきまでに破壊された魔神の死体をツギハギしたモノなのでひどく不格好で見窄らしい姿である。六本の腕が持つ武器は刃こぼれだらけ、眼球は全て潰れて三本あった角は半ばから折られた一本が残るのみ。血で赤黒く汚れた白い髪はほとんど毟られて無惨なものだし、鱗も残っているものは全て傷だらけ。縦に裂けた口の奥に並んでいた無数の牙は数える程しか残っていない。
 そんな姿でも『ガイア』に現存するあらゆる魔物よりも強い、というのだから笑えない話だ。肉体面はともかく、無尽蔵の魔力から繰り出す四属性魔法は強力で、当時は謎だった闇属性魔法と無属性魔法は危険の一言に尽きる。また、コンゴウに色々と身体を破壊されて出来なくなった攻撃は多いものの、ゾンビとなったことで可能となった技も幾つかある。弱くなったとはいえ、最後の敵としてこれ以上に相応しい相手はそうはいまい。
 『闘争の神』の『最終試練』としてこれは固定だった。恐らく、弱体化した魔神を倒せないようでは『闘争の神』に仕える『亜神』に相応しくないという『ガイア』の意志なのだろう。

 「オオオオオオオオオオオオ!!」

 『魔神之骸』による咆哮と共に戦端が開かれた。コンゴウは少々暴走気味の美しき信徒が戦う様を最後まで見届けるために眼を凝らして見るのだった。





 『ヤマト鬼王国』が鬼王・天葉の娘である私、桜は『闘争の神』様の与えし『最終試練』を果たしに参りました。『闘争の神』様の『第四の試練』を突破して三年、血の滲む鍛錬と魔物退治による実践を経てここまで辿り着いたのです。それ故に、でしょうか。我ながら気負い過ぎていることを実感しております。何と言っても鬼の姫として生を受けた私が、『亜神』として昇神出来るかもしれないのです。それも物心ついた時からずっと敬愛している『闘争の神』様に仕える『亜神』として、ですよ?浮足立たない方がおかしいというものです。ちなみに姫である私が一人なのは、『最終試練』は危険過ぎると反対する父上の目を盗んで来たからです。お忍びなのです。
 そんな私が『闘争の神』様の『本神殿』に参りましたところ、一人の男性がいらっしゃいました。恐らくは冒険者でしょう。百年ぶりに現れた異界からの旅人。彼らが現れたことは王国でも話題になっています。彼らが良き隣人として付き合える方々であることを切に願いますわ。
 あら?どうやら神殿から眺める景色に夢中で私のことに気づいておられないようですね。無理もありません。私も初めて参った時はこの天道火山の頂上からの景色に心奪われたのですから。どうやら彼とは感性が合うのかもしれません。ああ、私の心は『闘争の神』様に捧げておりますから関係には決してなりませんよ?それは絶対です。
 そこで、私は冒険者の男性に話しかけてみました。彼は声を掛けられたこと自体に驚いたのかしばし呆然としておられましたわ。そこで私は『加護』を得る『試練』を受けに来られたのですか、問うてみます。すると彼はなんと言ったと思います?『観光に来た』と仰ったのです。そこで私は確信しました。彼は私の同類だ、と!
 ここ、天道火山は登るだけでも一苦労です。普通の神殿は『神』様方のお力で魔物の近くに類はおりません。ですが、この地におわす『闘争の神』様の強大過ぎるお力は同じく強力な魔物を魅了します。なので他の地方で森や山の主として恐れられる魔物がうじゃうじゃと住んでおるのです。彼は見たところ余り質がよろしくない武器と防具しか持っておられないのにそんな危険な山を踏破しているということは、深い信仰心が無ければできないことです。『加護』受けておられないのは少々気になりますが、私の同類ならば黙ってはいられません。『本神殿』の魅力を少しでもお伝えするべく案内して差し上げなければ!
 それからしばらく二人で『闘争の神』様に祈りを捧げたり、護符について自慢したりとそれはもう『闘争の神』様の『本神殿』の魅力を余すところなく伝えました。多少お恥ずかしいところを見せてしまいましたが、彼は笑って許して下さいましたわ。細かいことを気にされない度量の大きな方のようです。説教ばかりのお兄様も見習っていただきたいものですね。
 それから彼と道場で立ち会うことになりました。彼の『強くなりたい』という言葉に便乗した形です。確かに、半分は彼が強くなるための稽古をつけて差し上げるためでした。ですが残りの半分はこの方の実力を試してみたい、という私の欲求を満たすためです。それに私はこれから『最終試練』に挑むのです。少しでも様々な戦い方を学びたいと思うのは自然なことではないでしょうか。
 ですが、蓋を開けてみれば驚きの連続でございました。いざ立ち会った時の私の気持ちがお判りになりますか?『加護』を持たず道場に備え付けてあるありふれた木槍を構えた彼から滲み出る威圧感。どこにどう打ち込んでも意味がないと悟らされる隙の無さ。『第四の試練』だった『妖狐九尾』と対峙した時から久しく無かった背筋が痺れるような感覚。むしろ稽古をつけていただいたのは私であったのかもしれません。
 決着がついた時、客観的に見れば確かに私が勝ったのでしょう。しかし、私からすればただただ学ぶことだらけでした。受け流す時の絶妙な力加減と角度、足運びと全身の力を余すことなく武器に乗せる技術。『加護』によってもたらされる恩恵に頼っていては何も出来ずに敗北していたことは疑いようがありません。だからこそ、彼は脅威なのです。好敵手なのです!
 私の夢は『闘争の神』様のお傍で誠心誠意お仕えし、そのご寵愛を誰よりも多く受けること。強欲な女とお思いならそれで結構。物心ついた時に初めて『共奉神殿』にて凛々しい御姿を拝見した時から、私の魂に刻まれたと言っても過言ではない想いなのです!重たい女と思われても仕方ありませんが、私の一途さの証と思って下さいませ。
 彼と別れた後、私は早速『最終試練』の間へと足を踏み入れました。『試練』の神殿は『神々』のお力によって内部が拡張されるだけでなく、環境まで弄られております。これまでの『試練』もそうでした。『鵺』ならばその巨体を隠す巨木が鬱蒼と茂る森でしたし、『雪夜叉姫』ならば吹雪が吹き荒れる雪原でした。『妖狐九尾』なんて常に周囲の環境を変えてくるので苦労しましたよ。ですので大した事では動じない心構えが出来ていたのです。
 ですけど、正直拍子抜けでした。中は真っ暗で夜目が利かないと辛いでしょうが、鬼族であり、『闘争の神』様の護符の効果もあって暗闇でも私は昼と変わらず視界ははっきりしています。遠くに謎の神殿らしき廃墟が見えますがそれだけでは…って!別に『闘争の神』様を批判しているわけではありませんよ!?ただもっと最初から厳しい状況に置かれるだろうと勝手に予想していただけで、期待外れだったとか、そんなことは思っていませんから!
 ごほん。冗談はこれくらいにしましょう。私が廃墟に近づくと、その奥から何か巨大なものが近づいてくる気配を感じました。きっと『最終試練』の敵なのでしょう。これまで感じたことのないくらいに私の本能が叫んでいます。アレは強敵だ、と。
 『試練』に登場する妖怪変化は『闘争の神』様が実際に討ち果たした者達から厳選したと聞き及んでおりますので強く、気高く、美しい敵でした。ですが、今回ばかりは違いました。現れた敵をその眼で見た瞬間、余りの腐敗臭に私は思わず顔をしかめてしまったのです。しかも出てきた時からすでにボロボロで、恐らく化け物の死体を『闘争の神』様のお力で無理矢理動かしているのでしょう。
 雄々しき『闘争の神』様に相応しくないとすら思ってしまう敵ですが、数ある護符の中で敵の情報を読み取る効果のある一つを使った時、私の思いは逆転しました。この敵こそ、あらゆる神々の『試練』よりも難しいと言われる『闘争の神』様の『最終試練』に相応しい、と。なぜなら私の頭に入って来た情報によれば、その名は『魔神之骸』。つまり、『闘争の神』様が神ならぬ身でありながら倒したと言われる怪物にして私のお爺様を狂わせた仇敵の成れの果てなのです。神々の中で唯一、冒険者から昇神した『闘争の神』様に仕える人材の選別において、これほど相応しい敵はいないでしょう。
 否が応でも気合が入る私でしたが、それと同時に圧倒的で根源的な恐怖が全身を包んでいました。腐っても相手は魔神。『ガイア』における上位種といっても鬼族よりも生物としての格が違うのです。それこそ虫と人間ほどに。やる気に満ちると同時に震えも止まらないという不思議な感覚は、もう二度と味わえないのではないでしょうか。
 そんな暢気なことを考えていると、『魔神之骸』は呆れるほどの魔力を乗せた咆哮を放ってきました。鼓膜が破れてしまいそうな大音量が響きます!うるさい!護符のおかげで軽減されてコレですよ!?おかしくないですか?しかも声に闇属性魔法と無属性魔法を乗せているようで、咆哮が物理的な破壊をもたらしています!
 音によって怪我をすることはありませんでしたが、圧力によって身動きもとれません。咆哮が途切れると同時に、『魔神之骸』は棒立ちの私目掛けて罅の入った戦斧を振り下ろしました。その時です。思わず体が動いた、と言うべきでしょうか。私は腰に差した刀を抜刀するとその切っ先を柔らかに使って戦斧を逸らし、そのまま転がすことに成功しました。そして『魔神之骸』の伸びきった腕を一刀両断します!私の刀はお爺様である先代鬼王様の角をヒヒイロカネに混ぜて造り出された名刀『鬼角地裂』。畏れ多くも『闘争の神』様が用いた大身槍『鬼角天斬』と同じ刃。『魔神之骸』とはいえ、容易くその腕を切り落としました。
 それにしても、咄嗟の事でしたが先ほどの私の動きはあの冒険者の青年の動きの模倣でしたね。彼のおかげで私はまた一つ、強くなれたようです。私が『亜神』となった暁には、特別に無償で『加護』を差し上げてもいいでしょう。っと、勝った気になるのはまだ早いですよ。起き上がった『魔神之骸』は怒り狂っています。今のはほんの小手調べ、ここからが本番ということでしょうか。いいでしょう。かかってきなさい!そして私の愛の糧となるのです!
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