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跪き祈りを捧げる姿勢を取った状態の現世に戻った。立ち上がり膝を払う。

収納から早速iPadを取り出し、某ネットショッピングサイトにアクセスする。

まず欲しいのは胡椒だ。やはり胡椒が有ると無いとでは、味の締まりが全然違う。

後で冒険者ギルドで胡椒の流通量や流通価格について尋ねてみよう。

ネットショッピングではホールタイプのブラックペッパーが1kgで2,500円であるな。これ、ポルカ村限定で安く販売しても良いな。出処は内緒にしてもらって。

あ、でも、定期的に流通できるようにしなきゃならないから、下手にそういう事はしない方が良いか。うん、もう少し考えよう。

まずは自分が使用する分だけ使えるように、木製のペッパーミルと先ほどのブラックペッパー1kgを購入する。ミルは2本セットで2,100円のやつで良いや。

カートに入れて購入ボタンを押すと、ピロン、と音が鳴り、収納を確認したらブラックペッパー(1kg)とペッパーミル(2)の表示が増えていた。お金を確認すると棒銅貨4枚、銅貨6枚が引かれていた。良し良し。どんどん利用していこう。

ついでなのでカイルさんに連絡しよう。異世界ショッピングを開く。

「やあタカさん、ご機嫌は如何ですか?」

カイルさんが笑顔で尋ねてくる。

「今の所は上手いことやれている、と思っています。多分大丈夫です。」

「おやおや、そんな事を言わずに、どんどん我が社を利用してください。なにせ貴方は大事なお客様ですから。それで、今日は何を?」

本題に切り込んでくる。

「マガジンポーチが欲しいんです。H.C.A.R.の30連マガジン用と、クリスヴェクターの、と言うかグロックの30連マガジン用、それとショットシェル用も。全てバンダリアタイプでお願いしたいです。

グロック用とショットシェル用はちゃんとした物があると思うのですが、H.C.A.R.用はAK47用で代用とかになってしまいますかね?サイズがサイズなので難しいかとは思いますが、何とかお願いします。」

カイルさんが眉間に皺を寄せる。

「ふーむ。グロック用とショットシェル用はすぐに用意できます。ショットシェル用はベルトにゴムバンドを縫い付けてあって、ショットシェルを差し込むタイプで宜しいんですよね?」

さすが武器商人、押え所は心得てるな。

「はい。それで結構です。H.C.A.R.の方はやはり難しいですか?」

ズバリと尋ねる。

「そうですね、AK47のマガジンを2本重ねて納めるタイプのポーチなら幅はなんとかなると思うのですが、長さが収まりきらない可能性があります。

汎用タイプでフラップではなくショックコードを使って固定するタイプなら、幅もヴェルクロで調整出来ますから、MOLLEシステムのバンダリアベルトに汎用マガジンポーチの組み合わせ、がベストかと思います。色は何色がよろしいですか?」

もう目星は付けてくれたのか。本当、この人有能だよね。もっと大きな武器も扱ってデカい商売をすれば良かったのに。

いや、それはそれでまた難儀な面もあるのか。まあ、地球での武器商人としての仕事は廃業して、望み通りレストランオーナーになったとしても、俺との取り引きだけは続けてもらおう。

武器商人として働いていた時の繋がりは消えないだろうし、何より取り引きした武器は痕跡を辿ろうにも、全て物理的に地球から消えちゃってるんだからね。多少強引に用意したとしても、証拠になる現物を探し出せないなら追い込み用がない。リスク以上のリターンがあるはずだから、ここは頑張ってもらおう。

「色は全てオリーブドラブかダークグリーンで。H.C.A.R.の方は最低4本、出来れば8本携帯できるように。グロック用は最低10本は携帯できるようにお願いします。

ショットシェル用はとにかく沢山収納できる物を。ストック用のショットシェルポーチも1つお願いします。こちらもゴムバンドタイプで結構です。」

こちらの希望を正確に分かりやすく伝える。

「いやあ、タカさんとの取り引きは分かりやすくて動きやすいのでこちらも楽ですよ。今回の注文分は前回入金頂いた残金で足りますのでご心配なく。1時間以内にお届けします。それでは、御機嫌よう。」

通信が終了する。

正直、ぼったくられてもしょうがないと思っていた。こちらのお金の換算レートや地球での適正価格なんて分からないから。

いや、適正価格だけは俺の場合iPadが有るから調べられない事は無いんだけど、それでも異世界との取り引きに関するリスクが云々と言われれば、相手の言い値で取り引きするしか無いと思っていた。

だが、イギリス紳士は異世界との取り引きでもやはり紳士だった。おそらく足がつかない範囲で真っ当な価格で取り引きしてくれている。

何故なら取り引き現場を押さえられ、奪われたり逮捕されたりするリスクが無いからだ。

彼が言った通り、俺は貴重な取り引き先で大事なお客様なのだろう。ならば期待に応えないとな。お互いの幸せのために。

気を取り直して更に奥へ向かい採取を再開する。逃げた動物たちはまだ戻っては来ないようだ。AR表示された採取対象をただひたすらに黙々と採取し収納する。

チャービル、フェンネル、ディル、チャイブ、セージ、タイムなどの食用ハーブ。

ローズヒップ、ペパーミント、カモミール、レモングラス、ローズマリー、ラベンダーなどのハーブティーに向いたハーブ。

マタタビやセンブリ、リンドウ、ワレモコウ、サンショウ、セリ、ユキノシタなどの和風の薬草。

ウド、イタドリ、タランボ、ツクシ、フキノトウ、ノビル、シソ、ハコベ、ナズナなどの山菜。

マッシュルーム、エノキ、エリンギ、ポルチーニ、ヒラタケ、ムラサキシメジ、タマゴタケ、コガネタケなどの食用キノコ。

イチジク、カキ、キウイフルーツ、コケモモ、ザクロ、ハスカップ、ミカン、リンゴ、ナシなどの果物類。

地球での季節の旬を無視して生えているが、味はちゃんと熟した物だった。この辺は異世界だという事で無理やり納得する。

とにかくこの森は恵みに溢れている。この森が村の人々を生かしているというのが良く分かる。

アイが表示してくれるのはちゃんと成熟している物のみなので、乱獲して繁殖できなくしてしまう事は無い。なので、安心して表示されている物をどんどん採取し収納していく。

なんの前触れもなく突然、ピロン、という電子音が響いた。マガジンポーチが届いたのだろう。宿に戻ってから確認しよう。

表示される名前も内訳も3桁に突入した頃にウォルターがやってきた。

「主、そろそろ時間的に良い頃合いかと。」

「そうだね。じゃあウォルターが獲ってくれた獲物を回収して村に戻ろうか。」

ウォルターの背に跨り回収に向かう。先程と同じ場所に、先程の3倍ほどの山が出来ていた。しかも、2m以上の熊までいる。

「ウォルター、熊までいるけど、怪我とかはしてない?大丈夫?」

俺の所に来た時には熊にやられたっぽい怪我をしていたからね。どうしても心配になる。

「主と初めてお会いした時には熊にやられた後でしたからね。でも、心配はご無用です。主の従魔になった事で私は強くなる事ができました。今なら昼に主が倒した熊と一騎討ちしても負けないでしょう。どうぞご安心ください。」

そりゃすげえや。

「無理と油断は禁物だからね。俺に心配かけないようにね。」

そう言うと嬉しそうに尻尾を振る。

「はい、主に心配をかけたり悲しませたりするような事はいたしません。ご安心ください。」

それを聞いて頭を撫でてやる。

獲物を収納し、収納で地面に穴を開け、先ほど収納した獲物の余分な血液だけを取り出して穴に捨て、血抜き処理をする。

あ、弾丸の処理も忘れてた。俺が狩った獲物の体内に残る弾丸も取り出して穴に捨てる。収納した地面を元に戻す。

「さあウォルター、村へ戻ろうか。よろしく頼むよ。」

ウォルターの背に跨る。

「はい主、お任せください。では参ります。」
ウォルターは飛ぶように走り出した。





森のかなり奥深くまで入っていたにもかかわらず、1時間もかからずに森の入り口に辿り着いた。

途中幾つかのグループの気配はあったが遭遇はしなかった。ここからはスピードを落としてもらい、常歩で歩いてもらう。

南門に辿り着き、冒険者タグを見せる。見張りは擦って記録したタグの写しと照らし合わせて確認し、チェックをつける。

「早上がりだな。大物でも獲れたか?」

気さくな感じで話しかけて来た。

「そんなところです。ここは良い森ですね。森の恵みも、獲物の数も多い。」

そう答える。見張りは嬉しそうだ。

「ああ。この森は最高さ。最近は町に降りるヤツが増えてきたが、俺はこの森が、この村が好きでな。ここでの暮らしが一番だ。」

良い笑顔だ。本当にこの村と森が好きなんだな。

「良い事だと思います。私は昨日この村に辿り着いたばかりですが、本当にこの村の事が好きになりました。2週間ほど滞在したらヴァレンティナに招聘されるのですが、出来る事なら戻って来たいですよ。」

そう言うと気の毒そうな顔をする。

「せっかくこの村に辿り着いたってのに、あんたも大変だな。ま、町には町の楽しみがあるだろうし、そこは割り切って楽しんでくりゃあ良いさ。
もしかしたら、良い出逢いが待ってるかもしれないしな。」

気の毒そうな顔を笑顔に変えて励ましてくれた。うん、良い人だ。

「ありがとうございます。招聘まではこの村での生活を楽しませてもらいます。それでは。」

「ああ、お疲れさん!ゆっくり休みな!」

そう言って迎え入れてくれた。





「ウォルター、冒険者ギルドの解体場へ向かってくれ。今日の収穫をある程度納品したい。」

ウォルターに念話を飛ばす。

「かしこまりました主。では参ります。」

解体場に着くと昨日おやっさんと呼ばれていた男がカウンターにいた。

「おう若ぇの。今日は森に入ったのか?ここの森はどうだった?」

気さくに話しかけてくる。もうウォルターにも慣れたようだ。ウォルターに伏せてもらって背から降り、そのままそこで待たせる。

「良い森でした。採取した物と狩った獲物を納品します。」

そう声をかけて、収納から取り出した物をカウンターの上にどんどん上げていく。

野草と山菜をメインに、昨日確認した納品単位に合わせて5単位ずつ出していく。常設依頼に出ていなかった野草や山菜、果物や木の実などはキリが良いように10枚もしくは10個ずつだ。

「モーリッツ!ジェイコブ!昨日の若えのだ!ザルとカゴありったけ持ってこい!」

慌てて奥に向かって怒鳴る。すぐにザルとカゴを抱えて2人が出てきた。

「おう、兄ちゃん。ここの森はどうだった?って、言うまでもねえか。全く若えのに大したもんだよ本当に。」

「本当だよ。よっぽど厳しく仕込まれたんだろう?こんな綺麗に採取された野草は見た事ないぜ。扱いも丁寧だしな。ありがてえよ。」

口々に言いながらザルとカゴを並べていく。おやっさんはどんどん検品してチェックシートに書き込んでいく。

「お前ぇ、かなり深くまで入ったな?最近デカいクマが出て、納品が滞ってたもんばかりだ。よく無事だったもんだ。」

おやっさんの言葉に合わせてモーリッツとジェイコブも感心して頷いている。

「本当だ。チャービル、フェンネル、ディル、ときたか。ムラサキシメジ、タマゴタケ、コガネタケもだ。食堂の飯が楽しみだぜ。」

「チョウセンニンジン、ウコン、チョウジ、ボウフウ、インヨウカク、ヤクモソウ、ユキノシタか、大したもんだ。クルト爺さんもようやくポーションを作れるな。」

この調子ならあのクマを納品した方が良いな。そうすりゃこの村の冒険者たちが安心して森に入れるだろう。

チェックし終えて空いたカウンターに次の物を出すのを繰り返し、カウンターの端から端まで5往復した。

モーリッツさんとジェイコブさんは忙しそうにカウンターと保管庫を行ったり来たりだ。

収納に収めてある採取物を全品種納品した。在庫は納品した分の5倍以上あるが、ここで全て納品する必要もない。時間停止、容量無限の収納を有効に活用しよう。

「採取物は以上です。続いて獲物の方をお願いしても良いですか?」

おやっさんに声をかける。チェックシートは3枚になっている。

「おう、向こうに行くか。」

そう言って新しいチェックシートを持ったおやっさんは歩き出す。解体担当の職員たちも興味深げに待ち構えている。

まずいきなりあのデカいクマを出した。その場にいる全員が息を飲む。しばし沈黙がその場を支配した。




一番早く立ち直ったのはやはりおやっさんだった。

「お前ぇ、よくこんなデカブツを倒したな。一体どんな手で、いや、どんな手だろうと関係ねぇか。獲物は獲物、手柄は手柄だ。

おいベン、イエルクんとこ行ってヘイゼルとヴァレンティナで出してた討伐依頼、取り下げるように言ってこい。いや、その前にこっちに来いと言え。
それと、テオに言ってラファエルを連れて来させろ。例のヤツで間違いないとは思うが、念のため確認させろ。」

急に慌しくなった。3人のうちの1人が前掛けを外して外に出て行く。あの人がベンさんか。

少しするとイエルクさんが走って来た。目を見開いてクマを見つめる。

「いやはや、何をどうやったらこんな大物を討伐できるのか、私には想像もつきませんよ。マスター級以上推奨で討伐依頼を出していたのに、まさかルーキーが倒してしまうとは・・・。」

イエルクさんの声が少し震えていた。登録したばかりで採取しか出来ないはずのルーキーがこんな獲物を持ち込んだら、誰だって驚くよね。

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