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しおりを挟む「イスラ、手荒な真似をしてすみませんでした。私はタカ、こっちはウォルターです。エレナと同じモンスターテイマーで、エレナとは友達です。私たちとも仲良くしてください。よろしくお願いします。怪我はなさそうですが、念のためこのポーションを飲んでください。」
イスラに声をかけて怪我治療Cポーションを飲ませる。
「我が名はウォルター。あなたと同じく主であるタカ様の従魔です。よろしくお願いします。」
ウォルターも挨拶する。
「殺さないでくれてありがとう。私はイスラ、今日から貴方たちの仲間よ。よろしくね。エレナ、リリー、今日から仲良くしましょうね。」
そう言うとエレナに擦り寄る。エレナは優しくイスラを撫で、リリーはイスラの背中に乗って嬉しそうにしている。
空を見上げると太陽が中天にさしかかっている。昼飯にするか。
「エレナ、お昼にしませんか?街に戻るには時間がかかりそうです。パンとフルーツくらいしかありませんが、ここで食べてしまいましょう。」
そう声をかけ、収納から防水布を出して平らな所に敷き、靴を脱いでさっさと上がる。エレナは遠慮がちに上がってきた。
「リリーとイスラにはニンジンをあげるよ。リリーには1本丸ごとは多いだろうから半分ね。イスラには残りの半分ともう3本あげる。はい、どうぞ。」
収納から取り出したエレナに渡して2匹に食べさせる。俺はウォルターに声をかける。
「ウォルター、何を出す?」
「一角ウサギの肉をお願いします。」
ウォルターの返事にあわせて盥を出し、肉と水を用意してやる。俺たちを待たずに先に食べるように言ってから、木椀を2つ出してパンを4枚ずつ乗せ、蜂蜜の入った壺と木匙もだす。さすがにタッパに入ったジャムは出せないからね。後は木皿にフルーツを適当に乗せる。最後に2つのカップに水を満たして準備完了だ。
「さあエレナ、一緒に食べましょう。いただきます。」
そう声をかけて自らパンを手に取って蜂蜜を塗る。遠慮されたくないからね。
「ありがとうタカ。いただきます。」
エレナも笑顔でパンに蜂蜜を塗る。うん、女の子の笑顔は良いね。
俺の銃の説明をしたり、ウォルターが魔法を使える事などを話しながら食事を進める。エレナはパンを2枚とオレンジを2つ食べた。俺はパンを3枚とリンゴを2つだ。残った物を収納し、話しながら足を伸ばして30分ほど食休みする。
充分食休みを取ったので、出した物を全て収納して街に戻る事にする。
「早速なんだけどイスラ、エレナを背中に乗せてあげてもらえるかな?人間の街は遠くて、俺たちの足では何日もかかってしまうんだ。エレナとリリーを助けてあげて。」
イスラにそう声をかけると俺は収納からロープを取り出し、簡易な轡と手綱と鐙を作ってやった。さすがに鞍は作れない。
「良いわよ。エレナもリリーも乗ってちょうだい。」
脚を折って地面に伏せたイスラの呼びかけに応えてエレナが背中に跨る。
「イスラ、ウォルターについてきてください。エレナ、振り落とされないようにしっかりと手綱を持つんだよ。」
声をかけるとイスラが立ち上がる。
「さあ行きましょう。エレナ、リリー、しっかり掴まっててね。」
そう言うとウォルターと共に走り出した。
行きは1時間ほどで駆け抜けた道程を、帰りは3時間かけて街まで戻った。轡も手綱も鐙も簡易な物だし、肉体強化を使えないエレナにはそのくらいのスピードが限界だろうと思ったのだ。
だが、エレナは意外と余裕があった。手綱の出来が思ったよりも良く握りやすかったらしい。笑顔でイスラに乗っていた。イスラも嬉しそうだ。
「イスラ、すごいねえ!はやいねえ!リリーもはやくおおきくなって、イスラみたいにはやくはしれるようになるんだ!」
リリーも張り切っている。微笑ましいね。
北門に着くと衛兵が驚いていた。そりゃそうだよね。魔獣を引き連れて帰ってきたんだから。
「狼の魔獣でも驚いたのに、今度は鹿の魔獣かよ。モンスターテイマーってのはすげえ職業だな。全く驚いたぜ。」
そう言いながら門を通してくれた。会釈して街に入り、騎乗したままで冒険者ギルドへ向かう。通りすがる人は皆羨望の眼差しでエレナとイスラを見つめていた。
ギルドに到着し、騎乗したまま中に入る。新規受付・相談窓口に向かうと赤髪爆乳お姉さんが俺たちに気づき、すぐに立ち上がり後ろに走って行った。
俺たちはそれぞれ従魔の背から滑り降りて窓口で待つ。
すぐにヨセフさんがやって来た。満面の笑みだ。
「タカさん、エレナさん、お帰りなさい。上手くいったようですね。ギルドマスターに報告をお願いします。」
そう言うと先頭に立って歩き出した。2人と3匹で後を着いて行く。
「ギルドマスター、ヨセフです。タカさんとエレナさんが戻られました。」
ドアをノックしてヨセフさんがそう告げる。
「おう、入ってくれ。」
中から返事があったので皆で部屋へ入る。ギルドマスターは書類仕事中だった。
「おお、一角鹿をテイムしたのか。スゴいな。テイムはどうだった?」
ギルドマスターに尋ねられる。
「はい、私とウォルターで生け捕りにして、エレナが話しかけて従属化の了承を取り、名前を与えることでテイム出来ました。成獣をテイムするならこの方法でしょう。
ただ、冒険者に成り立てのテイマーは戦闘力がありませんから、この方法はかなりキツいと思います。
なので、モンスターテイマーの職業が現れた冒険者は、ギルド権限で強制的に上級冒険者と組ませて、従魔をテイムさせるまで一緒に行動させるのが良いかと思います。
もしくは上級冒険者にギルドからの依頼として、従魔をテイムできるまで狩りの手伝いと護衛をお願いするか、ですね。
出来れば従魔を育てる牧場を作るのが良いかと思います。上級の冒険者に依頼を出し、一角鹿や一角ウサギなどを生け捕りにして山羊などと同じように飼育し、繁殖させて産まれた子供を育てさせてテイムした方が良いと思います。この辺はギルドの裁量でしょう。」
率直に自分の考えを伝える。一角オオカミは捕らえるのも飼い慣らすのも難しいだろうが、一角鹿と一角ウサギくらいなら何とかなるのではないだろうか、と考えたのだ。
「なるほどな。予め従魔を用意しておいてやる、という事か。だが、モンスターテイマーがどれ位の人数現れるか分からんからな。それに、いくら低級魔獣でも力が強いから、柵くらい簡単に壊しちまうだろう。牧場はちと難しいだろうな。やはりギルド依頼で上級冒険者にテイムの手伝いをしてもらうのが一番現実的な方法だな。」
ギルドマスターはそう言った。確かに言う通りだ。
「これから新しく現れるモンスターテイマーの育成方法については、我々が関わる事はできませんのでギルドにお任せします。もし必要なら指名依頼をかけていただければ協力します。」
ボランティアで使い回されるのは嫌だが、仕事として依頼されるのなら文句は無い。ただし、この街にいる間は、だけどね。
「お、自分から売り込むなんてやるじゃねえか。だが確かに、モンスターテイマーであるタカに指名依頼を出して新人の面倒を見てもらう、ってのが一番手っ取り早いし間違いないわな。そうさせてもらうか。
なあタカ、お前、この街に住んじまわねえか?正直、お前たちが森に入るようになってから、不足気味だった肉やハーブ、薬草類が大量納入されてかなり助かってるんだ。住む所もギルドで探してやるから、どうだ?考えてみねえか?」
ギルドマスターがそう言う。そうだな、住む所を探してもらえるなら、この街に住むことを考えても良いか。
「うーん、そうですね。今すぐに返事は出来ませんが、前向きに考えてみます。」
そう答えておく。
「おう、お前とウォルターのために良い家を探しておいてやるぜ。ヨセフ、頼むぞ。」
ギルドマスターにそう声をかけられたヨセフさんは肩を竦めながら苦笑いしている。
「はいはい。任せておいてください。タカさん、もしこの街に住むとしたら、家について何か希望はありますか?」
ヨセフさんが訪ねてくる。家に対する希望か。少し考える。
「そうですね、出来れば風呂がある家が良いです。ウォルターと一緒に入れるくらいの広い風呂があると良いですね。あとは食堂街が近いと助かります。自炊は出来ますが、出来れば楽をしたいので。」
そう言うとヨセフさんが考え込む。
「ふーむ、大きな風呂、ですか。そう言えば以前貴族がお抱え冒険者に作ってやった屋敷が今は空き家になっていたはず・・・・。分かりました。調べておきます。」
うわあ、本気で囲い込みする気だよ。怖いねぇ(笑)。
「まだこの街に住むと決めた訳ではありませんので、そんなに真剣に考え込まないでください。のんびり探していただければ大丈夫ですから。
ところでギルドマスター、これでモンスターテイムとモンスターテイマーについてはある程度解析出来たかと思うのですが、後は何をすればいいですか?」
ヨセフさんに声をかけてからギルドマスターに尋ねる。ある程度モンスターテイマーについての調べもついただろうし、そろそろ解放してもらっても良いのでは?と思ったのだ。
「そうだなぁ、まずはエレナと一角鹿の力を見せてもらいたいな。まだ陽が沈むまでは時間がある。悪いが練兵場に出てもらえるか?」
ギルドマスターが立ち上がる。全員で練兵場へと移動する。
練兵場に着くとギルドマスターから声がかかる。
「エレナ、まずは騎乗してどれ位の速さで移動できるのかを見せて欲しい。その後はジャンプ力や離れての連携だ。頼むぞ。」
そうして次々と能力をチェックしていく。練兵場をすごいスピードで周回したり、高々とジャンプしたりしていく。エレナとイスラによると、一角鹿は馬の数倍の瞬発力と持久力を持つようで、その気になれば時速80km程のスピードを7~8時間キープできるそうだ。
「これは斥候兼伝令として軍も欲しがるかもしれんな。」
ギルドマスターがポツリと呟いた。確かにそうだ。この機動力は大きな武器になる。それに、軍なら予算を組んでモンスターを事前に飼育しておくことも可能だろう。状況によっては、冒険者にならずに軍に徴用される事を望む者も出てくるだろうな。
「そうですね。それに軍に入れば身分も上がりますし、安定した生活を送れます。さらに、軍なら予算を組んで、予めモンスターを飼育しておいて用意しておく事も出来るでしょう。自分で危険を冒してテイムする必要が無くなります。そう言った暮らしを望む者も出るでしょうね。」
正直に感想を言う。冒険者は一攫千金の夢がある代わりに、何をするにも自己責任。それよりも安定した生活を望む者の方が多いだろう。
「まあ、軍で徴用できるだけの人数が現れるかどうかわからんからな。そこは今から心配してもしょうがないか。」
ギルドマスターはそう言って笑顔を見せた。
その後はイスラ単独での戦闘力の確認や、エレナの弓の腕前の確認などもする。エレナの弓の腕前はなかなかのものだった。鞍をつければ騎乗して弓を放つ事も出来そうだね。そうなれば狩りがかなり楽になるだろう。
そうして陽が沈む少し前に解散となった。
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