【本篇完結】日乃本 義(ひのもと ただし)に手を出すな ―第二皇子の婚約者選定会―

ういの

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日乃本 義に手を出すな 番外篇

番外篇 弐 長谷川 隆之という男

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 第二皇子の婚約者選定会の翌日、夕方。

「どうしよう、母さん」
 仕事から帰ってきたばかりの柾彦まさひこの兄、桐彦きりひこが母、絹枝きぬえに声を掛けた。
きりちゃん、どうしたのよ。そんなに切羽詰まって」
「ほら、昨日柾彦が僕のスーツを着ていったじゃないか。
 ……あれ、一張羅だったから今日着る正装ふくがない」
「あらま。お父さんのスーツ借りたら?」
「父さんは痩せ型だし僕より背が低いから、サイズが合わないよ。
 今から買いに行く訳にもいかないしなあ」

 頭を抱える桐彦を見て、絹枝は下顎に手を当てて考えるそぶりを見せると、
「そしたら桐ちゃん、あなたが普段病院で着ている白衣はどうかしら?
 病院で仕事してて、遅れちゃいそうだから着替えずに来ました、的な感じでギリギリに登場してみたら?」
「母さん!」
 桐彦が大声を挙げた。
 

「……天才か!」
「でしょう?
 そういえばただしさまは納豆お好きかしら?べつに布留川ふるかわの名産品ではないんだけど、ほら、茨樹いばらきといえば納豆……みたいなところ、あるじゃない?」
「とりあえず出しておけばいいんじゃないかな。ただし様が食べなくても柾彦が食べるだろうし」
「それもそうね!」
 
 柾彦が東喬とうきょうに居る今、ツッコミ役が不在となったひいらぎ男爵家では、日乃本ひのもと帝国第二皇子・日乃本ひのもと ただしを歓待する為の準備が、混沌とした状態で慌ただしく行われていた。

「中に着るのはスクラブでいいかな、それともワイシャツとネクタイにしといた方が…」と、桐彦がぶつぶつ言いながら自室に戻っていくと、玄関のチャイムが鳴った。

「はあい」
 絹枝が玄関の引戸を開けると、目の前には体格の良い爽やかな風貌の青年――長谷川はせがわが、手提げの紙袋を持って立っていた。
 
「こんばんは」

「あら、隆之たかゆきさん、いらっしゃい」
 絹枝の甲高い声が玄関に響くと、二階のほうから荷物が雪崩なだれたような、騒がしい音が聞こえてきた。
 
「あれは木綿ゆうちゃんね」
「はは、木綿子ゆうこちゃん、元気ですね。
 おばさん、まさ、いますか? 借りていた漫画を返しに来ました」
 長谷川はそう言うと、紙袋を胸元に掲げて絹枝に見せた。

「そうだったの。何かのついでがある時で良かったのに、わざわざありがとうね。
 柾ちゃんならもう少ししたら戻ってくると思うんだけど…よかったら上がっていって、うちで一緒に晩ご飯食べていかない?
 今日はご馳走がたくさんあるのよ」
「ええ、そんな。悪いですよ。
 でもご馳走ですか……、柾の誕生日はもう少し先だったと思うのですが、他に何かお祝い事でも?」

 絹枝は口元を手で押さえると、両目を弓形ゆみなりに細めた。
「隆之さん、柾ちゃんから聞いてない?
 昨日木綿ゆうちゃんの代わりに柾ちゃんがお見合いパーティー?みたいなのに行ったら、そこでなんと、日乃本ひのもとただしさまに見初められちゃったみたいでねえ。
 その日のうちに婚約が決まって。で、これから義さまが柾ちゃんと一緒にご挨拶したいと電話でおっしゃっていらしたから準備を」

 絹枝が喋り終わらないうちに、紙袋が地面に落ちる音が玄関に響き、中に入っていた漫画が数冊、袋の外へと散らばった。

「……は? え、婚約って……誰が、誰と、ですか?」

 長谷川の尋常ではない様子に絹枝はハッとして、
「やだ、私ったら。その様子だと柾ちゃん、隆之さんに伝えてなかったのね?
 突然の事で私もどういう経緯なのかよくわかってないんだけど……柾彦ね、この度第二皇子の日乃本ひのもと  ただしさまと婚約する事になったの。
 びっくりさせてしまって、ごめんなさいね」
 と言って頭を下げた。

 長谷川は申し訳なさそうに頭を下げる絹枝、そして地面に散らばった漫画へと視線を落としていき、ようやく失っていた我を取り戻した。

「あ……こちらこそごめんなさい、おばさん。頭を上げてください。
 その、漫画も……」
 長谷川はその場に屈み込むと、自身が落としてしまった漫画を拾い上げていった。
 
「漫画の事ならいいのよ、私が驚かせてしまったのが悪いんだから。
 それで、この後…どうかしら?折角来ていただいたし、柾ちゃんも、隆之さんが居てくださった方が緊張しないと思うのよね」

 長谷川は最後に拾い上げた一冊を紙袋に仕舞い終えると、
「そういう事なら、お言葉に甘えさせて頂きます。俺、おばさんの手料理大好きですし」
 爽やかで優しい面差しを絹枝に向けて、微笑んだ。

「嬉しい事言ってくれるじゃない。
 そうと決まればほら、上がって。柾ちゃんの部屋、使ってもらってていいから」
 絹枝は長谷川にそう声を掛けると、忙しそうに台所へと向かっていった。

 長谷川はゆっくりと靴を脱いで向きを揃えると、青い炎の如く静かで激しい怒りを滲ませながら呟いた。

 
まさ、駄目じゃないか。……勝手に俺のそばを離れたら」







 番外篇 弐 終





 ここまでお読み頂き、ありがとうございます!
 只今別作品を準備中です。
 一旦完結に切り替えますが、こちらにもまた随時番外篇を投稿する予定でおりますので、よろしくお願い致します!


 
 
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