中島と暮らした10日間

だんご

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6 中島1日目。お仕事モード

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 「あそこはまだ、自分の死地ではなかったようだ……」

 自宅に到着した安心感で、思わず呟いてしまったわ。

 『…………ガサッ』

 「っ?! いたのかっ?! 中島っ?!」

 いや、そこにいないとパニックになるから、いてイイんだけど、やっぱりいたのか……中島……

 「……遅くなったけど、葉っぱ取って来ないとな……」

 庭に出て、八重桜に向かう。
 薫の話によると、桜付近で中島を確保したらしいから、多分食べていたのは、その葉っぱだと言う事。
 一応、辺りをチェックして、他の植物に可能性はないかも調べてから来たらしいから……多分大丈夫。
 無理矢理食わされてたらしいから、若干の不安があるが……

 「中島の好みがわからんからなぁ……」

 とりあえず八重桜の葉を種類を変えて回収する。

 ・陽当たり良好、立派な緑のピンピン葉っぱ
 
 ・陽当たり良好、柔らか緑のソフト葉っぱ

 ・多少の陽当たり、立派な緑のピンピン葉っぱ

 ・多少の陽当たり、柔らか緑のソフト葉っぱ

 ・陽当たり謎、柔らか緑のソフト葉っぱ

 「とりあえず、コレで様子見るかな?」


 中島ケースをおそるおそる開け、割り箸で葉っぱを並べ入れていく。
 手では絶対無理だし。
 まかり間違って、ソッと触れる青春タッチなんかしようものなら、泡を吹いて倒れる自信がある。
 マジで。

 昨日の葉っぱの回収は断念した。
 薫にはグチグチ言われるだろうけど、無理だから。
 もう、かなりの勢いで無理して関わってるから。
 そこは、察して?

 「自然界では、枯れ葉の上も歩く事もあるはず……それはきっと日常のはず……納得してくれ、中島」

 青虫相手に何を言っているんだろうか?
 まぁ、納得してくれ。

 『…………』

 「しっかし、見た目は青虫なのにスズメガってんだから蛾になるんだろ?中島は……青虫が蝶になるってのが思い込みなのか?」

 『…………』

 「…………」

 本当に、青虫相手に何言ってんだよ、自分。
 テキーラが効いてるな……
 シャワーで流して、出勤するか……
 とりあえずスポーツドリンクだ。




 家を出て、電車に揺られて、御出勤。

 もぅ帰りたい……
 テキーラよりも、暴露話が身体を蝕んでいるよ。
 なんであんな事まで暴露しちゃったんだろぅ……
 お酒コワイ、お酒コワイ、お酒コワイ……
 ミッツみたいに、記憶が飛べば良かったのにぃ。
 アイツ翌日にはケロッとしてるからなぁ。
 記憶もないから、恥ずかしくもない。
 羨ましい。
 周りも『ミッツだから』で流せるし。
 羨ましい。
 自分もマスターも記憶飛ばないから、今日は心が瀕死の重症だよ。
 本当に……ミッツのバカ野郎……

 さて、とりあえず負の記憶はポイ捨てして、仕事モードで行きますか。
 電車を降りた瞬間から、切り替えてこ。
 突撃じゃぃっ!!

 午前中は課長に資料チェックして貰ったり、デスクワークでバリバリしていたお陰様で残っていた酒精がサラリと消えた気がする。
 酒気帯びで仕事とか、怖いわぁ。
 運転する仕事じゃなくて本当に良かったわぁ。
 マジで。
 気合い入れて挑んでたからミスもなし。
 酒が残っててミスとか、有り得ないからね。
 よしよし。

 午後は営業に出て……まぁ、こっちの感触ボチボチだなぁ……
 手応えが微妙。
 数件の営業所回ったけど、飛び込みの営業は思った通りアウェイだったわぁ。
 なんて言うか、邪魔な人だった。
 そりゃ、関係築けてない所に任せる訳ないもんねぇ……邪魔してすいません、撤退でしたよ。
 ちょくちょく話を聞いてくれる所も、やっぱ高くてもウチより大手が堅いらしい。
 もしくはランク落として、コストカット重視の所か……難しいなぁ。
 大手より若干下で、若干お安めのもの程度だと、そっちだよねぇ……
 つーか、こっちが下げた分だけ大手も下げてくるし。
 原価は割れないようにしても、儲けが僅かじゃぁねぇ……
 難しい。
 機能面を取りつつ、ギリギリのコストカットを検討して貰えれば滑り込めるかもしれないんだけどなぁ。
 スムーズに持っていける関係かぁ。
 難しい。
 まぁグイグイ行き過ぎるのもよくないから、一端引いて来たけども。
 営業って本当に難しいなぁ……

 「はぁ……」

 タメ息しか出ない。
 
 「今日もまだまだ暑いなぁ……」

 もうすぐ10月。
 でも、まだギリ9月。

 「9月がリミットなんだよなぁ……」

 ウチの商品、取扱店を増やす為、売り込まなきゃならないギリギリの時期が来ているのだ。
 落ち葉が舞う時期だと遅すぎるんだよなぁ。

 「……中島も、ギリギリなんだよなぁ」

 まだ暑いと言っても、もうすぐ10月。
 北海道は、いきなり寒くなる。
 9月に暑いと言うのが奇跡だと考えてもイイかもしれない。
 いくら年々気温が上がって来ようとも、秋が来て、冬が来る。
 食料だって、主食が葉っぱだから、そろそろ尽きる。
 成虫になるつもりかどうか……まさか越冬するつもりか……?
 
 どうなるにしても、サナギか繭か。
 どちらかにまで成長しきれなければ、死んでしまうだろう。
 1度預かってしまった命だ。
 できれば無事であって欲しい。

 「青虫相手に……」

 本当に、青虫相手に、何考えてるんだよなぁ、自分。
 

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