中島と暮らした10日間

だんご

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30 中島8日目。押し付け?

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 朝1番。薫へ電話するが、圏外。
 メールで無事か、どこにいるかを聞いておく。

 「心臓に悪過ぎる……」

 山越えって、徒歩だよな……
 まさかな。
 京都から空港って、関空?
 まさか、徒歩で……関空?
 えっ?それって何日かかるの?
 そもそも1人で山越え?
 あっちにも熊いるよね?
 ってかイノシシとかもいるよね?
 えっ?大丈夫なの?
 不安しかない。

 「おはよ……中島……ってぇ?!」

 中島がケースのこちら面に縦に張り付いてる。

 「おっ……脅かすなよ中島……」

 『シュタッ……ガサッガサ……』

 ……まさか中島。
 脱走を試みているのか?
 まさかなぁ……まさかだよね?
 朝の葉っぱを入れて、念入りに蓋を閉じる。
 一応、くまなくチェック。
 簡単には出られない、はず。
 脱走なんて妙な気は起こすなよ?

 「中島、脱走するなよ?たのむから……」

 『シャクシャクシャクシャク』



 納品作業を繰り返しながらも、メールが気になる。
 書類処理しながらも、メールが気になる。
 時折、中島が気になる。
 ……思えば、中島と薫の事件がほぼ同時に起きてるんだよな。
 …………
 不安しかない。

 「田中君。今日の昼、ラーメンに行こう?」

 「あっはい」

 気付いたら昼だった。
 当然メールも来ていない。

 「今日は辛いのがいいねぇ?」

 「じゃっ、あそこですね?」

 「そうそう」

 「あっ俺も行きます!」

 「じゃっ、行こうか。鈴木君、田中君」

 パッと見、どこかの御老公様とお供状態だ。
 今日向かう場所はちょっと遠い為、鈴木さんが車を出してくれた。

 「久々だね。この時間はギリギリ席が空いてそうだ」

 「ですね」

 まだ12時になってないからね。
 ギリギリすべり込めたからね。
 みんなで辛口ラーメンを注文する。

 「田中君。中島君は大丈夫かい?」

 課長。
 地味に気になってたんですね。

 「はい。そろそろ引き取って貰えると思うので……」

 「それは一安心だね」

 「はい。……ただ、引き取り手の連絡がなかなかつかなくて、いつになるかは」

 「そうなのかい?それまで田中君も中島君も大変だねぇ……」

 「田中さんって、お子さん預かってるんですか?」

 「えっ?いいえ?なぜ?」

 「いえ、今の話……えっ?大人の人?」

 「えっ?今の話?中島の?」

 「あ~確かに……中島君って名前がねぇ……確かに」

 「あぁ……確かに。人っぽい名前ですからね……」

 しかも課長が君付けで呼んじゃってるもんなぁ。

 「人じゃないんですか?」

 「はい。青虫です」

 「あお……」

 「私も初めて聞いた時ビックリしたよねぇ」

 「なぜ……中島と名付けちゃったんですか……」

 それ自分も何回も思いましたよ。

 「中島公園で見つけたかららしいですよ……」

 「そっかぁ……」

 「……ネーミングセンスが……」

 2人共に視線が遠い。
 
 「お待たせしましたぁ。辛口3つです」

 「ありがとうございます。さっ、食べましょ?」

 「そうだねぇ……」

 「そうですねぇ……」

 無言で食べるよ。
 これはいつも通り。
 断じて中島のせいではない。
 ないったらない。

 あ~……このなんとも安っぽい味がクセになるんだよなぁ~……
 時たま、むしょ~に食べたくなるお味。
 店のなんちゃってメニューなんだけどね。
 美味しいの。
 なんて言うか、キムチの素を使ってますよね?って感じで。
 試しに出してみた!な感じ。
 それが案外に継続して頼まれるから、終わらせる時期が読めないと言ったメニューっぽい。
 会社の誰かが言ってた。
 しかも、その人が注文した瞬間届くって言ってたな。
  多分、特定の注文をする人間を店側が把握していて、来た瞬間に準備するのでは?とも。
 ……もしかしたら、うちの社員がローテーション組んでいるかの様に注文しているから。
 だからメニューも続くし、ラーメンが来るのも早いのでは?
 とか、考えてしまう。
 
 「「「ごちそうさまでした」」」

 と店員に声をかけて会社へ。
 まだメールは届いてない。
 大丈夫。そのうち届く。
 さて、午後も頑張るか。

 「納品行ってきま~す」

 「気をつけてねぇ」

 「了解で~す」

 午後の納品スタートだな。
 まだ、メールは届いていない。
 はぁ……
 兄ちゃん、不安でたまらないぞ?

 『パタンッ』

 「あぁ~……佐々木さん?」

 「何ですか?課長」

 「田中君の所の中島君なんだけど」

 「あっ青虫の中島」

 「そろそろ引き取って貰えるらしいよ?」

 「良かったですね。あっ、だから携帯チラチラしてたんですね?」

 「多分ねぇ……何か連絡つかないらしいし」

 「それ……押し付けられているんじゃないんですか?」

 「そこは……どうだろうね?」

 「飼いきれないから置き逃げとか」

 「あ~……どうだろうねぇ?」

 「最悪、野に放てば……」

 「確かにねぇ……」

 「田中さん真面目だから、どうなるか心配ですね……」

 「そうだねぇ……成虫になるまで預かっちゃうかもね……」

 「青虫苦手なのに……不憫ですね……」

 「本当にねぇ……」


 その日、仕事が終わるまでメールはなかった。

 ……ただ、今日はやけに視線を感じたが。
 メールちらちらし過ぎたかな?
 一応仕事はしっかりやってたんだけど。
 さて、とりあえず帰るか。

 「お先に失礼します~」

 「おぅ、お疲れ様」

 「お疲れ様です~」

 『パタンッ』

 閉じたドアの向こうで、課長と佐々木さんが不憫な子を見る眼差しであった事には気付かず、家路につくのだった。

 「田中君……」
 「田中さん……」



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