44 / 53
44 まだ言わない
しおりを挟む
「着いたよぉ~」
車の窓をコツコツ叩く咲ちゃん。
しかし自分は気付かなかった。
どうやら、過去の思い出に少々打ちのめされていたらしい。
カニ食い放題の宿に泊まった時『全部食べきれなかった……』と不貞寝した咲ちゃん……しばらくご機嫌斜めだったし、かまって貰えなかった事がショックだった……
自分は本当にカニ未満かも……
ぐるぐると思考のループに陥り、咲ちゃんの到着までモンモンとしていたらしい。
「たけさんや。そろそろ開けてくれんかねぇ~」
コツコツコツコツと窓を連打されて初めて気付きました。ごめん。
「あっ……ごめんごめん。ちょっと思い出に打ちのめされてた……」
「なにそれぇ~」
咲ちゃんがケラケラと笑う。
荷物を後部座席に放り込み、助手席に座る。
はぁ……咲ちゃんが隣にいるって素晴らしい。
「まぁ、まずオレンジのコンビニでおにぎりとお茶が欲しいですよ?」
「了解です」
近場というか、ここいらで唯一のオレンジのコンビニで食料調達。
ドライブのお供は、おにぎりって大体決めてるからね。
ここのお米、店内でガス炊きしてるんだっけか?
ご飯が美味しいの。
他のコンビニよりも美味しく感じてしまうから、選ぶのは仕方ない話。
落ち着くお味です。
「お昼頃着くんだっけ?」
「そうだよ。今回は昼にアレが食べれるから」
「ようやくっ……今回は美味しく食べれるんだね……」
毎回満腹に近い状態で、悔し涙を流していたっけ。
有名ハンバーガーショップのメニューを堪能出来るんです!
今回は先輩方が絶賛していたエビフライだって食べれるんです!
なんて素晴らしいのでしょう!
「夜は隣の居酒屋?」
「そうそう。物足りなかったらシメのラーメンもあるし。どうかな?」
「最高です!イカソーメンとマグロ……幸せだわぁ~」
「確か、地鶏メニューもあったよ?」
「ナニソレ?美味しいの?」
「美味しそうだったよ?」
「うぅ~……楽しみだぁ~……ヨダレが止まらないよぅ」
「朝は、朝市で摂ろうかと思うけど、どう?」
「それ1回やってみたかったのぉ……あっ、イカ釣りはしなくていいよ?動いてるの食べるのは苦手かも……」
「了解~」
お互いに仕入れた旅の情報を擦り合わせ、今回の食事プランを立てて行く。
今回もホテル周辺の食べ処になるが、まぁハズレは無さそう。
しかも、だいたい狙っていた所は拠点から程近い範囲だ。
夜景だけがちょっと遠いかな?な感じ。
それも歩いて行けない範囲じゃないからよしだ。
「……たけさんや」
「なんだね、咲さんや」
「あ~……転勤の事なんだがねぇ……」
咲ちゃんからブッ込んで来たよ。
まだ覚悟決まってないよ?
旅も序盤、まだまだ時間あるけど?
大丈夫なヤツ?
いや、自分の覚悟は決まってるけど?
咲ちゃんが決めた方向に、全力でくっついて行く。
ただそれだけ。
……多分、離れてあげられない。
ただそれだけ。
ウザがられても。
放っとかれても。
本当に嫌がられたら離れるけど。
……いや、離れる努力はするけど……
「札幌に決まったっぽいのよぉ」
「えっ……本当に……?」
「うん。ゴネたら札幌になったわぁ」
「ゴネちゃったの?」
「うん。非常にゴネた」
「通ったの?」
「うん。思いのほか、すんなり通ったの」
「ラッキー?」
「うん。ラッキーヒット」
「……非常に嬉しいです」
「私もです……」
……泣きそう。
運転している手が微かに震えている。
ホッとしたからか、問題が先延ばしになったからなのか……
「ただ、5年位したら本社勤務になりそうなんだよねぇ……」
「てっ……東京だっけ?」
「うん。その後も定期的にあるらしいんだ……」
「そっか……」
「その内、海外も……」
来ちゃった。
この話。
タイミングみて、コソっと聞こうかどうしようか迷って悩んだ話が。
今のブッ込んで来たタイミングで被せてやって来た。
「咲ちゃんは、海外行きたい?」
「……実は、全然考えて無かったんだ。迷ってて」
「自分は、咲ちゃんが決めた通りにくっついて行くから。いや、今の仕事辞めるのは難しいけど、会いに行くし」
「……うん」
「……多分、ウザいとかキモいとか言われるケド。離してあげれなさそうだから、別れるとかは無しがいい……」
……言っちゃった。
あぁ……もう訂正出来ないよ?
旅行の前に終了のお知らせ?
うわっ……タイミングぅ……
もっと読もうよ自分……
「……うん」
どうしよう……
咲ちゃんの表情確認するの、目茶苦茶怖い……
顔が引きつってたら、どうしようぅ。
それを見ちゃったら、号泣する自信があるよ?
「もし……海外に転勤になったら……また、その時に考えよう?」
「…………うん」
……チラリと見た咲ちゃんの顔、メッチャ下唇が突き出てた……
……ヘタレでごめん。
今はタイミング的に違うかなって……ね?
コンビニおにぎり片手に言うアレじゃないかなってね?
でも、これは良しって事だよね?ね?
ならその方向で頑張って行けますよ。
かかった曲は、あのヒット曲。
「……このPV撮ったの旭川の方なんだよね?」
「そうそう。美瑛の方だったよ?」
「そこにも……行きたいね……」
「そうだね……絶対一緒に行こうね……?」
「連れて行ってくれる?」
「勿論。咲ちゃんが行きたい所には絶対に……ね?」
「……うん。わかった」
「きっと真っ白で綺麗な景色だよ」
「うん……」
その後は静かに曲を聞き続けた。
穏やかに流れる景色は、ほとんど変わらない。
多分、見に行きたい景色も、こことそう変わらない。
だけど、あの景色を咲ちゃんと一緒に見に行きたい。
真っ白い景色。
全てが覆われた、その世界を。
2人で歩いて行きたい。
そう思った。
車の窓をコツコツ叩く咲ちゃん。
しかし自分は気付かなかった。
どうやら、過去の思い出に少々打ちのめされていたらしい。
カニ食い放題の宿に泊まった時『全部食べきれなかった……』と不貞寝した咲ちゃん……しばらくご機嫌斜めだったし、かまって貰えなかった事がショックだった……
自分は本当にカニ未満かも……
ぐるぐると思考のループに陥り、咲ちゃんの到着までモンモンとしていたらしい。
「たけさんや。そろそろ開けてくれんかねぇ~」
コツコツコツコツと窓を連打されて初めて気付きました。ごめん。
「あっ……ごめんごめん。ちょっと思い出に打ちのめされてた……」
「なにそれぇ~」
咲ちゃんがケラケラと笑う。
荷物を後部座席に放り込み、助手席に座る。
はぁ……咲ちゃんが隣にいるって素晴らしい。
「まぁ、まずオレンジのコンビニでおにぎりとお茶が欲しいですよ?」
「了解です」
近場というか、ここいらで唯一のオレンジのコンビニで食料調達。
ドライブのお供は、おにぎりって大体決めてるからね。
ここのお米、店内でガス炊きしてるんだっけか?
ご飯が美味しいの。
他のコンビニよりも美味しく感じてしまうから、選ぶのは仕方ない話。
落ち着くお味です。
「お昼頃着くんだっけ?」
「そうだよ。今回は昼にアレが食べれるから」
「ようやくっ……今回は美味しく食べれるんだね……」
毎回満腹に近い状態で、悔し涙を流していたっけ。
有名ハンバーガーショップのメニューを堪能出来るんです!
今回は先輩方が絶賛していたエビフライだって食べれるんです!
なんて素晴らしいのでしょう!
「夜は隣の居酒屋?」
「そうそう。物足りなかったらシメのラーメンもあるし。どうかな?」
「最高です!イカソーメンとマグロ……幸せだわぁ~」
「確か、地鶏メニューもあったよ?」
「ナニソレ?美味しいの?」
「美味しそうだったよ?」
「うぅ~……楽しみだぁ~……ヨダレが止まらないよぅ」
「朝は、朝市で摂ろうかと思うけど、どう?」
「それ1回やってみたかったのぉ……あっ、イカ釣りはしなくていいよ?動いてるの食べるのは苦手かも……」
「了解~」
お互いに仕入れた旅の情報を擦り合わせ、今回の食事プランを立てて行く。
今回もホテル周辺の食べ処になるが、まぁハズレは無さそう。
しかも、だいたい狙っていた所は拠点から程近い範囲だ。
夜景だけがちょっと遠いかな?な感じ。
それも歩いて行けない範囲じゃないからよしだ。
「……たけさんや」
「なんだね、咲さんや」
「あ~……転勤の事なんだがねぇ……」
咲ちゃんからブッ込んで来たよ。
まだ覚悟決まってないよ?
旅も序盤、まだまだ時間あるけど?
大丈夫なヤツ?
いや、自分の覚悟は決まってるけど?
咲ちゃんが決めた方向に、全力でくっついて行く。
ただそれだけ。
……多分、離れてあげられない。
ただそれだけ。
ウザがられても。
放っとかれても。
本当に嫌がられたら離れるけど。
……いや、離れる努力はするけど……
「札幌に決まったっぽいのよぉ」
「えっ……本当に……?」
「うん。ゴネたら札幌になったわぁ」
「ゴネちゃったの?」
「うん。非常にゴネた」
「通ったの?」
「うん。思いのほか、すんなり通ったの」
「ラッキー?」
「うん。ラッキーヒット」
「……非常に嬉しいです」
「私もです……」
……泣きそう。
運転している手が微かに震えている。
ホッとしたからか、問題が先延ばしになったからなのか……
「ただ、5年位したら本社勤務になりそうなんだよねぇ……」
「てっ……東京だっけ?」
「うん。その後も定期的にあるらしいんだ……」
「そっか……」
「その内、海外も……」
来ちゃった。
この話。
タイミングみて、コソっと聞こうかどうしようか迷って悩んだ話が。
今のブッ込んで来たタイミングで被せてやって来た。
「咲ちゃんは、海外行きたい?」
「……実は、全然考えて無かったんだ。迷ってて」
「自分は、咲ちゃんが決めた通りにくっついて行くから。いや、今の仕事辞めるのは難しいけど、会いに行くし」
「……うん」
「……多分、ウザいとかキモいとか言われるケド。離してあげれなさそうだから、別れるとかは無しがいい……」
……言っちゃった。
あぁ……もう訂正出来ないよ?
旅行の前に終了のお知らせ?
うわっ……タイミングぅ……
もっと読もうよ自分……
「……うん」
どうしよう……
咲ちゃんの表情確認するの、目茶苦茶怖い……
顔が引きつってたら、どうしようぅ。
それを見ちゃったら、号泣する自信があるよ?
「もし……海外に転勤になったら……また、その時に考えよう?」
「…………うん」
……チラリと見た咲ちゃんの顔、メッチャ下唇が突き出てた……
……ヘタレでごめん。
今はタイミング的に違うかなって……ね?
コンビニおにぎり片手に言うアレじゃないかなってね?
でも、これは良しって事だよね?ね?
ならその方向で頑張って行けますよ。
かかった曲は、あのヒット曲。
「……このPV撮ったの旭川の方なんだよね?」
「そうそう。美瑛の方だったよ?」
「そこにも……行きたいね……」
「そうだね……絶対一緒に行こうね……?」
「連れて行ってくれる?」
「勿論。咲ちゃんが行きたい所には絶対に……ね?」
「……うん。わかった」
「きっと真っ白で綺麗な景色だよ」
「うん……」
その後は静かに曲を聞き続けた。
穏やかに流れる景色は、ほとんど変わらない。
多分、見に行きたい景色も、こことそう変わらない。
だけど、あの景色を咲ちゃんと一緒に見に行きたい。
真っ白い景色。
全てが覆われた、その世界を。
2人で歩いて行きたい。
そう思った。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
1 / 3
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる