中島と暮らした10日間

だんご

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 「着いたよぉ~」

 車の窓をコツコツ叩く咲ちゃん。
 しかし自分は気付かなかった。
 どうやら、過去の思い出に少々打ちのめされていたらしい。

 カニ食い放題の宿に泊まった時『全部食べきれなかった……』と不貞寝した咲ちゃん……しばらくご機嫌斜めだったし、かまって貰えなかった事がショックだった……

 自分は本当にカニ未満かも……

 ぐるぐると思考のループに陥り、咲ちゃんの到着までモンモンとしていたらしい。

 「たけさんや。そろそろ開けてくれんかねぇ~」

 コツコツコツコツと窓を連打されて初めて気付きました。ごめん。

 「あっ……ごめんごめん。ちょっと思い出に打ちのめされてた……」

 「なにそれぇ~」

 咲ちゃんがケラケラと笑う。
 荷物を後部座席に放り込み、助手席に座る。
 はぁ……咲ちゃんが隣にいるって素晴らしい。

 「まぁ、まずオレンジのコンビニでおにぎりとお茶が欲しいですよ?」

 「了解です」

 近場というか、ここいらで唯一のオレンジのコンビニで食料調達。
 ドライブのお供は、おにぎりって大体決めてるからね。
 ここのお米、店内でガス炊きしてるんだっけか?
 ご飯が美味しいの。
 他のコンビニよりも美味しく感じてしまうから、選ぶのは仕方ない話。
 落ち着くお味です。

 「お昼頃着くんだっけ?」

 「そうだよ。今回は昼にアレが食べれるから」

 「ようやくっ……今回は美味しく食べれるんだね……」

 毎回満腹に近い状態で、悔し涙を流していたっけ。 
 有名ハンバーガーショップのメニューを堪能出来るんです!
 今回は先輩方が絶賛していたエビフライだって食べれるんです!
 なんて素晴らしいのでしょう!

 「夜は隣の居酒屋?」

 「そうそう。物足りなかったらシメのラーメンもあるし。どうかな?」

 「最高です!イカソーメンとマグロ……幸せだわぁ~」

 「確か、地鶏メニューもあったよ?」

 「ナニソレ?美味しいの?」

 「美味しそうだったよ?」

 「うぅ~……楽しみだぁ~……ヨダレが止まらないよぅ」

 「朝は、朝市で摂ろうかと思うけど、どう?」

 「それ1回やってみたかったのぉ……あっ、イカ釣りはしなくていいよ?動いてるの食べるのは苦手かも……」

 「了解~」

 お互いに仕入れた旅の情報を擦り合わせ、今回の食事プランを立てて行く。
 今回もホテル周辺の食べ処になるが、まぁハズレは無さそう。
 しかも、だいたい狙っていた所は拠点から程近い範囲だ。
 夜景だけがちょっと遠いかな?な感じ。
 それも歩いて行けない範囲じゃないからよしだ。

 「……たけさんや」

 「なんだね、咲さんや」

 「あ~……転勤の事なんだがねぇ……」

 咲ちゃんからブッ込んで来たよ。
 まだ覚悟決まってないよ?
 旅も序盤、まだまだ時間あるけど?
 大丈夫なヤツ?
 いや、自分の覚悟は決まってるけど?
 咲ちゃんが決めた方向に、全力でくっついて行く。
 ただそれだけ。
 ……多分、離れてあげられない。
 ただそれだけ。
 ウザがられても。
 放っとかれても。
 本当に嫌がられたら離れるけど。
 ……いや、離れる努力はするけど……

 「札幌に決まったっぽいのよぉ」

 「えっ……本当に……?」     

 「うん。ゴネたら札幌になったわぁ」

 「ゴネちゃったの?」

 「うん。非常にゴネた」

 「通ったの?」

 「うん。思いのほか、すんなり通ったの」

 「ラッキー?」

 「うん。ラッキーヒット」

 「……非常に嬉しいです」

 「私もです……」

 ……泣きそう。
 運転している手が微かに震えている。
 ホッとしたからか、問題が先延ばしになったからなのか……

 「ただ、5年位したら本社勤務になりそうなんだよねぇ……」

 「てっ……東京だっけ?」

 「うん。その後も定期的にあるらしいんだ……」

 「そっか……」

 「その内、海外も……」

 来ちゃった。
 この話。
 タイミングみて、コソっと聞こうかどうしようか迷って悩んだ話が。
 今のブッ込んで来たタイミングで被せてやって来た。

 「咲ちゃんは、海外行きたい?」

 「……実は、全然考えて無かったんだ。迷ってて」

 「自分は、咲ちゃんが決めた通りにくっついて行くから。いや、今の仕事辞めるのは難しいけど、会いに行くし」

 「……うん」

 「……多分、ウザいとかキモいとか言われるケド。離してあげれなさそうだから、別れるとかは無しがいい……」

 ……言っちゃった。
 あぁ……もう訂正出来ないよ?
 旅行の前に終了のお知らせ?
 うわっ……タイミングぅ……
 もっと読もうよ自分……

 「……うん」

 どうしよう……
 咲ちゃんの表情確認するの、目茶苦茶怖い……
 顔が引きつってたら、どうしようぅ。
 それを見ちゃったら、号泣する自信があるよ?

 「もし……海外に転勤になったら……また、その時に考えよう?」

 「…………うん」

 ……チラリと見た咲ちゃんの顔、メッチャ下唇が突き出てた……
 ……ヘタレでごめん。
 今はタイミング的に違うかなって……ね?
 コンビニおにぎり片手に言うアレじゃないかなってね?
 でも、これは良しって事だよね?ね?
 ならその方向で頑張って行けますよ。
 かかった曲は、あのヒット曲。

 「……このPV撮ったの旭川の方なんだよね?」

 「そうそう。美瑛の方だったよ?」

 「そこにも……行きたいね……」

 「そうだね……絶対一緒に行こうね……?」

 「連れて行ってくれる?」

 「勿論。咲ちゃんが行きたい所には絶対に……ね?」

 「……うん。わかった」

 「きっと真っ白で綺麗な景色だよ」

 「うん……」

 その後は静かに曲を聞き続けた。
 穏やかに流れる景色は、ほとんど変わらない。
 多分、見に行きたい景色も、こことそう変わらない。
 だけど、あの景色を咲ちゃんと一緒に見に行きたい。
 真っ白い景色。
 全てが覆われた、その世界を。
 2人で歩いて行きたい。
 そう思った。


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