華園高校女子硬式野球部

群武

文字の大きさ
4 / 7

4球目

しおりを挟む
「サイン決めよっか」
何故か京極さんと勝負をすることになった私はベンチの裏で一色さんとサインを決めていた
「球種は何があるの?」
「スライダーとカーブがメインでシュートも投げられるよ」
「スライダー、カーブ、シュートと。いっつもどれ主体で投げてるの?」
「いつもはスライダーとカーブかな。シュートは肘の負担が大きいからあんまり投げないし」
「OK、ならそれでいこっか」
サインも完成しみんなが待つグランドに向かう
京極さんはもう右打席に入って待っている
「準備は出来たか?」
「はい」
「コテンパンにしてあげる」
「え!?」
大人しそうな一色さんが必要以上に煽る
「いい度胸じゃねーか」
まんまと煽られる京極さん
「じゃー私が審判してあげるから他の人は軽く守ってあげて」
どうやら球審は照さんらしい
「「「はーい」」」
残りの3人はセカンドに音無さん、ショートに七瀬さん、センターに皇さんが入る
「投球練習は7球くらいあればいいでしょ」
私は言われた通りマウンドから軽く7球投げる
「ルールはどうするの?」
「えーっと」
「1打席あれば十分だ」
自信満々に応える京極さん
「多分1打席だと余裕で抑えられるので3打席で」
こちらも負けじと自信満々に応える一色さん
「あぁん?」
「なんでそんなに煽るの!?」
人は見かけによらないとはこの事だと実感する
「じゃぁ3打席勝負にしよっか。始めるよー、プレイ!」
照さんの掛け声と共に私はさっきまで感じていた雑念を振り払い打席に入っている京極さんに集中する
初球はインハイのストレートをボールに
「(危なくない?)」
少し躊躇ったが私は頷く
当てないように気をつけて投げる

シュッ
構えられたコースに向かってボールが進んでいく

ズバン
一色さんは結構いい音を鳴らして捕球をし、京極さんはウォッと声を漏らし見送る

「ボール」
狙い通りボールの判定
「まぁまぁの球だな」
京極さんは独り言のように呟いてから構え直す
「いいコースだよ」
そう言いながら返球する一色さん
座るとすぐにサインを出してくれる
2球目は外のカーブをストライクに
私はアウトコース目掛けて思いっきり腕を振る
「うぉら!」
京極さんは体勢を崩されながらも外のカーブを打ち返す
しかし打球はセカンドの真正面
音無さんが難なく捌いてワンアウト
「チッ」
舌打ちをする京極さんを背に私はセカンドを守っていた音無さんからボールを貰う
「ナイスセカンド」
「・・・・・・」
音無さんはペコと頭を少し下げ足元を均した
私は再びキャッチャーの一色さんを見直す
京極さんはもう構え直しており見るからに打ち気満々って感じだ
なのになぜか一色さんはサインを出してくれない
それから10秒くらい経つと一色さんはゆっくりとサインを出す
その間も京極さんのフラストレーションは溜まっているのがよく分かる
サインはアウトコースのストレート
私はサインが出るとゆっくりと大きなフォームで振りかぶってから投げる

シュッ

バシッ
京極さんは振らずに見送る

「ストライーク」
予定通りストライクを取る事が出来た
一色さんは返球すると先程とは違いすぐにサインを出す
2球目はインコースのストライクにスライダー
サインを出すとインコースギリギリに構える
私は頷くとすぐに振りかぶる
クロスファイアからのスライダーの肝は思い切って投げること!

シュッ
私の投げたボールは真ん中気味のコースからインコースを抉るように曲がる
それを読んでいたかのように京極さんは外側にステップする
「どっせい!」
そんな掛け声と共に豪快なスイングと共にボールが消える
「(ボールは!?)」

ガシャン!
すると3塁ベンチの中から大きな音が聞こえる
どうやらインコースのスライダーを思いっきり引っ張ったらしい
それにしても
「凄いスイングね」
私は冷や汗を拭う
あのスイングだと甘いコースは持っていかれるかも
「落ち着いて大空さん。どれだけいい打球でもファールじゃ意味ないよ」
一色さんは声をかけながらボールをくれる
これでツーストライク
かなり投手有利なカウントで追い込めた
「(1球インコースのストレートをボールに)」
そうサインを出した一色さんは京極さんの体スレスレの頃で構える
「(え!?)」
もし構えたところより少しでも内に投げてしまうと当たるのでは?
そう思った私は1度首を振る
するともう一度サインが出る
「(インコースのボールにストレート)」
またしてもサインは先程と同じコース
どうやら抑える為に必要な事らしい
しかし、いくらアウトを取るにしてもデットボールギリギリに投げるのは気が引けてしまう
それでも投げないとこの勝負は進まない
そこまで考えてから私は当たらないことを祈りつつ投げる

シュッ
私の投じたボールは一色さんが構えたコースより若干内側、京極さんの体に当たるギリギリの所へ行く
「!!!」

ズバン
京極さんは何とか避ける事に成功する
「チッ」
舌打ちしながら熊をも殺せそうな眼力でこちらを睨みつけてくる
当てそうになって少し焦ったので落ち着くために私は返ってきたボールを見る
判定は勿論ボール
これでカウントは1ボール2ストライク
心も落ち着いてカウントの整理も出来たので改めて一色さんの方を見直す
「(インコース低めにカーブ)」
サインを見た私は少し息を吐いてから大きく振りかぶる
京極さんの膝元に行くようにリリースをする

弧を描くようにボールはゆっくりとミットに向かって曲がっていく
「フン!」
京極さんは少しオープン気味にステップをして思いっきり振り切る
キン!
甲高い音ともに地を這うような打球が三遊間を襲う
「しまった!」
あまりにも打球が強かったため私は思わず声に出てしまう
私は負けを覚悟したがバシッという捕球音が聞こえる。ボールは外野には抜けず、飛び込んだ七瀬さんのグローブに収まっていた
「残念だったねまこっちゃん」
してやったりと言いたげな表情をする七瀬さん
「てめぇ!邪魔しやがったな!」
京極さんはヒット性の当たりを捕られてしまって怒り心頭らしい
それにしてもさっきの打球普通捕れないよね
「これでツーアウトだよ」
そう言って七瀬さんはボールを返してくれる
「ナイスキャッチだよ七瀬さん!」
私はボールの代わりに賞賛を返す
「さっ、勝利まであと一歩だよ」
いつの間にか一色さんが近づいてきていた
「いやーさっきのは焦ったよ」
私は一応グローブで口を隠しながら話す
「七瀬さんは京極さんの特徴を知ってたみたいだね」
「そっか、2人は一緒にプレーしてたんだっけ」
「そうそう。あとアウト1つなんだけどそろそろシュート使ってもいい?」
「そんな多投しなかったら大丈夫だよ。でも大丈夫?自分で言うのもあれだけど、私のシュートって結構曲がるよ?」
「それは大丈夫。だから思いっきり投げてね」
そう言うと一色さんはホームに戻って行った
私のシュートはあの守でも初見で捕ることが出来なかったのに大丈夫なのかな?
少し不安になりながらも一色さんの言葉を信じることにする
「(アウトコースギリギリにカーブ)」
いつの間にか出ていたサインに頷き1球目を投げる

京極さんはピクリとも動かずに見送る
「ストライーク」
照さんのコールの後直ぐにボールが返ってくる
「(真ん中高めに全力のストレート)」
今までは変化球や間を使って打ち取っていたがここは力勝負らしい
私は頷いてから今日1番の力を入れて投げる

ビュッ
リリース音がバッターにも聞こえそうなくらいスピンをかけて投げる
ストレートとわかるや否や京極さんも今日1番のスイングで応える

ガシャン!
ボールはバックネットに突き刺さりそうな勢いで飛んでいく
完璧にタイミングを合わせられてヒヤッとしたが結果的には追い込むことに成功したので良しとしよう
それにしても京極さんのスイングって男性選手並だよね
3打席勝負では短気な所に目が行きがちだけどあのスイングスピードはとても魅力的だと思う
だからこそ全力を出して抑えたいと心から思える
それが通じたのか一色さんから来たサインはインコースギリギリのシュート
私は最高のボールを投げるためにプレートの1番端に立ち大きく振りかぶる
ストレートを投げる時より少しだけ左腕を捻る

ビュン
ストレートとほとんど代わらないスピードのボールが京極さんの体目掛けて進んでいく
「!?」
さっき投げたボールよりさらに内側で避けなければ確実に当たるコースと思った京極さんは両足を同時に引く。しかしボールは京極さんの考えとは逆の方向に曲がる
両足を引いた京極さんはスイングすることすら出来ず見送る

ズバ
少しだけ鈍い捕球音が聞こえる
「ストライーク!バッターアウト!」
照さんは卍ポーズで気合いの入ったコールで応えた
京極さんは一瞬何が起きたのか分からないといった表情をする。その間に守備に着いてくれていた4人がマウンドに集まってくる
「いいボールだったよ」
「最後のボール凄いね~」
「・・・・・・」コクコク
「・・・あの時よりいいボール」
三者三様ならぬ四者四様の反応を示してくれる
「いや~それほどでも」
私が照れていると
「おい!今のボールは何だ!」
我に返った京極さんがヘルメットも外さずにマウンドに駆け寄ってくる
「シュートだよ」
「ただのシュートがあんなに大きくて鋭く曲がるわけねーだろ!」
「確かにツーシームにしては大きく曲がってるもんね」
疑問を持っていたのは京極さんだけじゃなかったみたいで七瀬さんからも疑問の声が聞こえてくる
「シュートって言っても私が使うのはHシュートの中でも変化の大きいカミソリシュートなんだよ」
私はよくされる質問を慣れた口ぶりで応える
「あんなの初見殺しじゃねーか」
京極さんは興奮が収まらないようでテンションが高い
「あんな決め球があるなら最初から投げたら良かったのに」
「そうだせ!あれだけの変化球なら聖宗高校にも通用するじゃねぇか!?」
段々と大きくなる希望に対して私は申し訳なくなってくる
「でも肘にかかる負担が大きくて1試合10球っていう球数制限があるんだよね」
今ではもう少し投げれるかもしれないけどと付け足す
すると京極さんのテンションが少し落ちる
「そらそうか。制限なく投げれるなら最初から使ってるよな」
「そういうこと」
「でもそんな球よく捕れたよな」
私のボールに納得が行くと次はそれを捕球した一色さんに興味が行く
「初めてじゃないから」
「「???」」
一色さんの回答にみんなの頭の上にハテナが浮かぶ
だって私一色さんと組んだのは今日が初めてだし
「2球、2球、3球、6球の計13球」
私は一瞬何を言われたのか分からなかったけど直ぐに思いつく
「中学最後の大会でシュートを投げた球数!」
コクリと頷く
私が最後の大会でシュートを投げたのはピッタリ13球だけど
「最後の大会でライオンズとは逆ブロックだったよね?」
私の所属していたホークスと一色さんが所属していたライオンズは対戦しなかったはず
「私趣味で捕ってみたい投手の映像を片っ端から集めてイメージトレーニングするの」
初日から一色さんの意外な趣味が暴露される
皇さん以外はみんな何を言ってるの分からないっていう表情になる
「・・・わかる」
「わかっちゃうんだ」
「所でその捕ってみたい投手って大空さん以外に誰かいるの?」
確かにそれは私も気になるな
どんなレベルの投手と比べられてるのか
「えーっと、大空さん以外だと高月さん、久遠さん、涼風さん、蓬莱さんかな」
指を折りながら名前を上げていく一色さん
前者2人は知らないけど後者2人の名前くらいは知ってる
聖宗高校の二枚看板である涼風さんと蓬莱さんだ
「でも1番受けてみたいのは・・・」
そこまで言うとホームの方で何か考え事をしている照さんをチラっとみる
「あー!」
そこで私は重要なことを思い出す
「いきなり大きな声出してどうした!?」
隣にいた京極さんが驚いたように反応する
「どうしたじゃないよ。結局なんで私と勝負したの?」
この対決の発端となったのは京極さんが原因だし、勝負には勝ったので教えてもらわないと
「あー、その事か。あれはお前がエースに相応しいかどうか確かめるためだよ」
そう言うと京極さんは振り返り照さんの方をむく
「俺はこの賭けに乗るぜ!」
「私も~」
京極さんに続き七瀬さんも便乗する
「???」
私はなんの話しをしてるのか分からず困惑する
「一体なんの話し?」
「何だ?何も知らないのに打倒聖宗って言ってたのか?」
「うっそれは」
私が打倒聖宗と言ったのは照さんの口封じの為だもん
素直に言う訳にはいかないので何かいい言い訳がないか考えていると
「勝負も着いたからそろそろ片付けして今日は解散しよっか」
ホームから歩いて来ていた照さんがパンと手を叩いて言う
その言葉に各々反応しながら円陣は解かれる
その後はみんなで談笑をしながらグランド整備をしたりボールの回収を済ませる。片付けが終わると自然と照さんの周りに集まっていた
「ちなみに春休み中のグランドの使用許可は今日だけだから次会うのは入学式だよ。間違って来ないように」
集まったのは良いものの特に言うことがなかったのか最後に照さんはそう言い残し鍵を返しに行ってしまった
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

不思議な夏休み

廣瀬純七
青春
夏休みの初日に体が入れ替わった四人の高校生の男女が経験した不思議な話

野球部の女の子

S.H.L
青春
中学に入り野球部に入ることを決意した美咲、それと同時に坊主になった。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

処理中です...