転生したのに女神がもやし栽培キットしかくれなかったので、無職即追放されましたが、育ててたら貴重品でした

ワイケー

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世界初の「もやし学」が創設され、教授陣が全員“知らない”と言っている件

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 始まりは、どこの誰とも分からない学者の一言だった。

「……これは、体系化すべきだ」

 それだけで、世界は一歩踏み外した。



 中立都市ルーメル。

 かつては外交と商業の街だった場所に、
 今日、新しい看板が掲げられた。

《国際白芽総合研究院》
(通称:もやし学会)

 誰が許可したのかは不明。
 だが建物はある。
 予算もある。
 なぜか各国の印も押されている。

 世界はもう、
 「分からないものは学問にする」段階に入っていた。



 記念すべき第一回講義。

 広い講堂に集まったのは――
 神殿系神学者。
 王国魔導士。
 農学者。
 軍事理論家。
 なぜか哲学者。

 全員、真顔。

 壇上に立つのは、初代学長。

 白髪。
 目の下に隈。
 人生に疲れた顔。

「……本日は」

 一拍。

「“もやし学”の基礎概論を行う」

 ざわっ。



 スライドが映し出される。

《第一章:もやしとは何か》

 学長は言った。

「結論から言う」

「……分からない」

 会場、沈黙。

「植物である」
「食用である」
「だが、信仰が発生する」

「なぜか?」

 誰も答えられない。

「よって我々は、仮説を立てる」



《仮説1》
もやしは“神の分身”である説

「却下」

 即断。

「神が多すぎる」



《仮説2》
もやしは“発酵と非発酵の境界存在”説

「やや有力」

「だが説明できない」



《仮説3》
無職であることが神性を生む説

 会場がざわつく。

「職業を持たないことにより、
 既存の権力構造に属さず、
 結果として信仰の投影対象になる」

 神学者が震える声で言った。

「……神殿より、説得力があります」

 学長、頭を抱える。



 次の講義。

《応用白芽学Ⅰ:鍋と信仰の相関》

 別の教授が登壇する。

「調査の結果、
 祈りと鍋の同時存在は不可能である」

「は?」

「祈っている間、鍋は沸かない」
「鍋を見ている間、人は祈らない」

「つまり」

 一拍。

「信仰の代替物としての鍋、である」

 軍事理論家が手を挙げる。

「それは……脅威か?」

教授は即答した。

「いいえ」

「空腹が減るだけです」

 軍事理論家、メモを取る。

《対処不可》



 さらに混乱は加速する。

《白芽倫理学》
「もやしを独占してよいか」

《白芽外交学》
「鍋を送る行為は宣戦布告か」

《白芽経済学》
「満腹が続くとGDPはどうなるか」

結論:
全部、分からない。



 昼休み。

 教授たちが食堂に集まる。

 出てくるのは――
 白い芽の入ったスープ。

 一人が呟く。

「……これ、うまいな」

「腹が……落ち着く」

「午後の講義、眠くならないぞ」

 その瞬間。

 全員、顔を見合わせた。

「……これ、研究対象だよな?」

「そうだ」

「……食っていいのか?」

「……分からない」

 全員、黙って食べ続けた。



 午後。

 特別講義が始まる。

《本人証言の試み》

 壇上に立つのは――
 使者。

 無職もやし神の元に行き、
 話を聞いてきたという人物。

「本人は、こう言っています」

 紙を読む。

「“俺は何も考えてない”」

 会場、ざわつく。

「次」

「“鍋を火にかけただけ”」

 哲学者が立ち上がる。

「深い……」

「深くない」

「いや、これは“無為の思想”だ!」

 学長、机に突っ伏す。



 一方、その頃。

 当の本人。

 俺は、畑で土をいじっていた。

「……なんか最近、知らんやつ増えてない?」

 もやし二号が、無言で札を出す。

《国際白芽総合研究院》
《名誉顧問:無職もやし神(本人未承諾)》

「やめろって言え!!」

 もやし二号は頷くが、
 やめる気配はない。



 その夜。

 研究院から、分厚い報告書が届いた。

《最終暫定結論》

・もやしは危険ではない
・だが説明できない
・本人は無害
・だが影響は世界規模

最後の一文。

「よって今後も研究を継続する」

 俺は、書類を閉じた。

「……勉強するより、食えばいいだろ」

 もやし二号が、深く頷いた。

 その姿を見て、
 どこかで教授が論文を書き始めた。

《第二十七報
 “頷き”における神意表現について》

 世界は今日も、
 理解しようとして失敗している。

 そして俺は、今日も無職だ。

 もやしを育てながら、
 学問が暴走する音を聞いていた。

 ――次はたぶん、
 “必修科目”になる。

 鍋の扱いが。
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