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イケメン王子キリンオ

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 それは泣く子も黙る海神ポセイドン軍特殊部隊でも正式採用されていると称される、海中使用可能な装着型望遠鏡スコープでした。
 たまたま、ご先祖さまが海底に落ちているところを拾って手に入れた物です。
 えぇ、決して友人から借りていたのをわざと返さなかったとかではありません。

 そしてこれまたたまたまなのですが、キリンエットはおばあさまが持っているのを目にして、その存在と使い方を知っていたのです。
 えぇ、こちらも決して、おばあさまの弱みを握ってやろうと張りこんでいたから知ることができたとかでもありません。
 たまたまと言ったら、たまたまなのです。
 つまりは言ったものがちです。
 その今では王族の盗み見行為のためだけに使われている、宝の持ち腐れとしか言いようのない道具を胸に抱えるとまた海上へと向かって泳ぎ始めました。

 岬近くに着くと額にスコープを付けて、岩陰に隠して置いた海藻を再び被ります。
 これでバッチリです。
 そうそう気が付かれることはないでしょう。
 仮にこれで見抜くような奴がいたならば、そいつは相当の手練れだなと。
 キリンエットは確信しながら暗視スコープ機能に切り替えようとしましたが、まずは目視で確認することにしました。

 暗闇の崖の上ではボォと灯のついた城が浮き上がっています。
 城では王子の無事の帰還と回復を祝ってのパーティが行われているようでした。
 惜しみなく灯された松明の光で橙黄色に輝く石積みの堅固な城には、いくつもの大理石の階段が取り巻いていて。
 そのうちの一つは崖の下の砂地に繋がってました。

(あ、あそこから中に入れるかも…)

 けれどもそれは、もしも人間の足であればの話です。
 魚の下半身のキリンエットには到底無理でした。
 その現実にションモリと打ちひしがれたその時、絹のカーテンが揺れる透き通ったガラスの窓から海に突き出ている広いバルコニーへと誰かが出てきました。

「あっ…」

 生きた彫刻だとも言える、その美しい姿を見間違えることなどありません。
 キリンオです。
 キリンエットは即座に最高クラスの光線透過率を誇るスコープを額から下ろすと、搭載された超クリア光学器械レンズの倍率を最大値の20倍にまでカチリカチリと動かします。
 あたかも推しの舞台を見る熱狂的な信望者ファンのように照準を対象者ターゲットに丁寧に合わせました。
 そして少し近すぎたので16倍に調整し直しました。

(あぁ…キリンオ…)

 月光の下で思索に耽る王子のなんと麗しいことでしょう。
 崖に打ち寄せる荒々しい波飛沫にのって、その場所に行けたらいいのにと恋い焦がれてしまいます。
 キリンエットはフラフラと引き寄せられるように、レンズの倍率をその都度修正しながらバルコニー下まで泳いで行きました。
 すると、

「気が乗らないんだよなぁ」

 海風にのって低い男らしい声が耳に届きました。

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